複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- きみと。 ー第1章ー
- 日時: 2019/03/29 14:17
- 名前: SuN (ID: QEDC6Aof)
目を開ける。
見慣れた天井。
部屋中に鳴り響く目覚まし時計の音。
「....。」
ぼーっとした頭を覚ますべく、俺は身体を起こして頬をぱちんと叩く。
だんだん頭が冴えてきた。
今日が平日だったことを思い出し、ため息をつきながら自室を後にする。
階段を下りながら寝癖を直し、大きな欠伸をする。
「大翔。早くしなさい。」
階段の下から母が顔を覗かせた。
「わかってる。」
そっけなく返事をすると、速足で階段を降り、リビングへと足を向ける。
「あ、大翔。今日は早いじゃない。」
姉の美春が物珍しそうな顔でこっちを見ている。
いちいちうるさいな。
「大翔。最近勉強はどうなんだ。」
父が新聞に目を落としながら口を開いた。
「まあまあだよ。母さん、俺トーストな。」
椅子に腰を下ろしながらまた一つ欠伸をした。
昨日は早く寝たんだけどな。
「ちょっと、あんたのんびりしてていいの?」
母に聞かれて時計に目をやる。
「余裕だよ。まだ7時前だぜ。」
母はふーん、と言うとトーストをオーブントースターに入れた。
先に出てきたヨーグルトとリンゴに手を伸ばしながら、テレビに目をやる。
『今日は全国各地で桜の開花がみられる日となるでしょう。』
桜ね。もうそんな時期か。
窓の外を見ると、確かに暖かそうな感じだ。
もう高1も終わりか。
なんだか変な気分だな。
そんなことを考えているとあっという間に7時25分だ。
「やべ。」
トーストを口にくわえたまま制服に着替える。
教科書と弁当をかばんに突っ込んで家を飛び出す。
「いってきます。」
靴をつっかけて、ドアを押し開く。
春風がふわっと家に吹き込む。
「もう春だな。」
ぼそっと呟いて、速足に学校へ向かう。
「全く。あの子ったら、毎朝こんな感じじゃない。」
「電車使えばいいのにね〜。」
「なんか、さくら通りを歩くのが好きなんですって。」
「ふうん。電車だったらもっとゆっくりできるのに。変な子。」
- Re: きみと。 ー第1章ー ( No.1 )
- 日時: 2019/03/29 14:58
- 名前: SuN (ID: QEDC6Aof)
【さくら通り】
標識を横目に、俺は通りへと足を向けた。
ニュースキャスターの言葉の通り、たくさんの桜の木が開花を迎えていた。
「うわ。すっげ。」
思わず立ち止まってあたりを見渡す。
見渡す限りの桜。桜。桜。
毎日ここを通っていたのは、この風景の為だ。
そんな気までした。
本当は、《彼女》に会う為なのだが。
ちょうど一年前の朝。
俺は新しい環境への期待と不安を胸に、高校への道を歩いていた。
その時はこの通りの名前すら知らなかった。
「きれいな桜だな。」
独り言を言いながら、俺は歩く。
その時。
「君、高校生?」
前から歩いてきた一人の少女に話しかけられた。
黒髪ロング。色白。セーラー服。
見覚えのない姿にあっけにとられる。
「へ?」
思わず気の抜けた声が漏れた。
彼女は微笑んで俺の方へ歩み寄る。
「今日、入学式か。入学おめでとう。」
そういうと彼女は立ち止まって手を差し出した。
握手..?
俺は動揺しながらも手を差し出す。
二人の手が触れる、ちょうどその瞬間。
ぶわっと風が吹いた。
俺の視界は一瞬桜の花びらでいっぱいになる。
思わず目をつぶった。
次に俺が目を開けたとき、彼女はもういなかった。
その日から俺は彼女のことが忘れられない。
恋とか、そういうものではなく。
この通りを歩いていればいつか彼女に再び会える、そんな気がするのだ。
- Re: きみと。 ー第1章ー ( No.2 )
- 日時: 2019/03/29 22:20
- 名前: SuN (ID: QEDC6Aof)
そんなことあるわけない。
分かってはいるのだが、どうしても望みを捨てられなかった。
「ったく、どこにいんだよ。」
ため息をつきながら歩く。
その時。
風がぶわっと吹いた。
視界が桜の花びらで埋め尽くされる。
もしかして。
俺は早まる鼓動を押さえつけて、目をつぶる。
大きく深呼吸。
目を開く。
「すごい風だ。」
一人の少女が桜吹雪の中に立っていた。
「あの時の..!」
思わず大声が出た。
気持ちを落ち着け、彼女に問いかけた。
「一年前、ここで、会いませんでしたか?」
彼女は俺をじーっと見たまま動かない。
予想とは違う反応に動揺しながら、今一度彼女の姿を見つめた。
白いワンピースに、黒髪ショート。
色白というところしか共通点がない。
顔ははっきり思い出せないので何とも言えない。
別人、なのか。
一気に落ち込んだテンションを隠すべく、笑顔で彼女に話しかけた。
「ごめんなさい。人違いでした。」
彼女はきょとんとしながら僕を見つめている。
「君、私に話しかけてるの?」
「え、はい。」
一瞬の沈黙の後、彼女は微笑んだ。
「そっか。」
変な人だな。
それにしても、笑った顔はあの人そっくりだ。
「あ、じゃあ失礼します。」
「あ、うん。さようなら。」
俺たちはぎこちなく別れ、すれ違った。
「やばい、遅刻する。」
俺はさくら通りを早足で駆け抜ける。
- Re: きみと。 ー第1章ー ( No.3 )
- 日時: 2019/03/29 23:59
- 名前: SuN (ID: QEDC6Aof)
なんだ、違うのか。
学校へ向かう途中、俺は何度もため息をついた。
女々しいことなんて、自分でも分かっている。
でも何故か会いたい。必ずもう一度会える気がする。
「大翔、おはよう。」
後ろから肩を叩かれて思わずびくっとする。
「なんだ、祐也か。おはよ。」
幼なじみの祐也はいつの間にか身長が伸び、今では180近くあるらしい。
入学式の頃は同じくらいだったのにな。
「大翔、まさかまだ例のセーラー服の人のこと探してんの?」
祐也は、俺が彼女を探している事を知っている唯一の存在だ。
笑いながら聞いてくる祐也にちょっと腹がたった。
「別に探してねーし。お前には関係ないだろ。」
祐也は、怒んなよーっと言って笑った。
にしても、祐也がさくら通りを通るなんて、珍しい。
家は俺と反対側のはずだ。
「てかなんでお前、ここにいんの?」
俺の急な質問に祐也は一緒固まって、小声で話しはじめた。
「...お前、ぜってー言うなよ?」
「うん。」
「俺さ、付き合ってんの。」
「ええ、誰とだよ。」
「...坂本だよ。4組の。」
「...まじかよ。」
坂本雪菜と言えば、学年で1位2位を争う美人だ。
まあ、祐也もイケメンの部類なんだろうけど。
「んで、あいつの家泊まってた。」
祐也は照れを隠す為か、顔を背けながら話す。
「泊まってたってお前...。」
気まずい沈黙が続く。
まさか祐也に先を越されるとは。
その後は他愛もない話をしながら、二人で学校へ向かった。
Page:1 2