複雑・ファジー小説
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- 欠片集め
- 日時: 2019/05/08 14:29
- 名前: 星拾い (ID: KG6j5ysh)
初めまして、星拾いというものです。
趣味で文章を書いているものです、絵も描いてます。どちらかと言えば絵を描くほうが多い、文字書き初心者です。
そんな初心者の私が、自分の創作をしていく上でぽつぽつと考えた「物語の出だし」を書いていこうと思います。
出だしだけ、続けば本編も書くかもしれないけども。そんなスタンスで。
もしかしたら、続きを応募ー……
なんてこともするかもしれません。そういう時は応募用紙書きます。
それでは、よろしくお願いします。
◆出だし集
まだないよ
◆設立日2019/05/08
- Re: 欠片集め ( No.1 )
- 日時: 2019/05/08 15:31
- 名前: 星拾い (ID: KG6j5ysh)
◆1
汽車の中は混雑していた。
先に座席を占領している多くの人たちは、自分の荷物を抱えて俯いている。
外はどんよりと曇っていて、鈍い灰色の光が人々の顔の影をより一層暗く淀ませていた。ここにいる人達は笑ったりするのだろうか、そんな疑問が思い浮かぶほど、沈んだ表情だ。
私は大きな旅行かばんを両手で持ち直し、座る席を探すことに神経を集中させた。ここから先は長い旅になる、出来ればーーいや、必ずここで休憩を取らなければなるまい。既に荷物を持った腕はちぎれそうな痛みを発している。
「あの、良かったらここに」
所狭しと座り込んだ乗客を睨みつけていた私にふと、声がかかった。驚いて振り返れば、見知らぬ赤毛の男性が自分の前の空席を指さしている。私は後からやってきた乗客にその席を取られまいと、ろくに返事も返さずに慌てて滑り込んだ。
「っはぁー! 助かりました、まさかこんなにもすんなり座れるとは思ってなかったものでーー」
どすん、と派手な音を立てて荷物を床に下ろした時、私はこの男性に連れがいることを知った。
淡いブロンドの髪の青年は眠っているようで、俯き気味に座り込んで男性にもたれかかって目を閉じている。私が思わず口に手をやると、男性は人の良さそうな笑顔を浮かべて首を振った。
「何をしたって明日ぐらいにしか起きないから大丈夫ですよ。それよりも、暇だったんです。良かったら俺の話し相手になってくれませんか」
男性はサイモンと名乗った。
「エマです、えっと、よろしくサイモンさん」
私も慌てて名乗ることにした。実際、これから長い時間をどうやって暇潰しするか、思案中だったから好都合だ。
「サイモンさんはどちらまで?」
「終点まで乗ってますよ、それからまた一日かけての移動です」
サイモンさんは疲れ果てたとでも言いたげにため息をついてそう言った。私は期待通りの返事に顔を輝かせないよう気をつけながら頷く。
「私も終点まで行く予定なんです」
「ああ、そうなんですね……ええっと、仕事……?」
「はい、故郷で職に就くんです、両親のやってた診療所を引き継いで」
声を大きくしてしまったことに私はやっと気づいた。周囲の俯いていた人たちも少しだけ顔を上げてこちらを見ている。またやってしまった、なんだか騒音を振りまいてしまっているようで、私は思わず小さくなる。
サイモンさんはそんな私を見て小さく笑い、「気にしなくていいですよ」と言う。
「凄いな、医者なんですね。ではここには勉強に来ていたんですか」
「ええ、学院で治癒魔法を中心に学んでいました。やっと勉強も終わって、これからが本番です」
「この前卒業の祭典があってましたもんね、お疲れ様でした」
また膨らみ始めた自尊心をなんとか押さえつけながら、今度は私が質問をする。
「サイモンさんは学院の祭典を見にいらしたんですか? 確かに年々お祭りみたいに派手になってきてますが」
学院の卒業祭典は外部の人々を招いて催されるものだ。一種のお祭りのようなもので、町は賑やかになり、観光客も増える。しかし、サイモンさんは首を振った。
「いえ、こっちには仕事で来ました。祭典も見たかったんですが、まぁこんな感じで」
そっと眠っている青年を指さし、ため息をつくサイモンさん。
「本当は出張ついでに休みも取ってあの祭典を見に行くはずだったんですが、疲れ果てて昨日は一日中寝てた上に問題も起きて早々に切り上げることになったんです……ほんと、勿体ないことをしました」
「そう、だったんですか……大変でしたね」
あはは、と笑った彼の顔にはしっかりと疲労の色が見て取れた。
今こそ医者の端くれとしてなにかするべきではないのか、私が短い思案の後に口を開けた時、不意に大きな汽笛の音が鳴った。やっと汽車が動き出すらしい。外に目をやると、黒い煙が窓を覆い、ゆっくりと景色が滑り始めていた。
力の抜けた青年の体が汽車の振動で滑り落ちるのをサイモンさんは肩を掴んで引き寄せている。サイモンさんの体格がいいせいなのか、もたれ掛かる青年が妙に痩せていて小さく見えた。先程の汽笛の音でも起きないということは、余程深い眠りに落ちているのだろう。
「……お連れの方、具合でも悪いんですか」
思わず聞かずにはいられなかった。私の問いに、サイモンさんは少し寂しそうに笑った。
「いえ、本当に……本当に明日まで起きないだけです。だから、気にしないでください」
私は、それ以上サイモンさんに深く聞くことが出来なかった。
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