複雑・ファジー小説
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- 正義のこんぷれっくす
- 日時: 2019/05/27 23:02
- 名前: 7744 (ID: RO./bkAh)
ブラコン姉貴は強いのよ〜
- Re: 正義のこんぷれっくす ( No.1 )
- 日時: 2019/06/21 23:10
- 名前: 7744 (ID: RO./bkAh)
思いもよらない事故は、当然のように人の命を奪う。それが誰かの子どもだったり友人であったり、当然誰かの両親ということもある。
南木あい子は当時小学校4年生だった。なにかがおかしかった、夜中でしかも真冬なのに体が焼けるように熱くて起きた。しかも空気が気持ち悪い、どんよりしていて、あい子は無意識に口を塞いだ。とりあえず隣の部屋で寝ている弟の蒼を起こして一緒に両親の部屋に行こうとした。
「あーおーい!なんか暑くない?ねー、起きてお母さんとお父さんのとこ行こ!」
「お、お姉ちゃんっ…苦しいっ…」
は?あんた何言ってんのよ!と言わんばかりに蒼の体を揺すりたたき起こした。階段から何か焦げ臭い匂いがして、どんどん視界が明るくなってきた。
火事だ。
蒼がやっと身を起こしたとき、炎が階段の1番上まで来ているのが見えた。
「はやく!火事だよ!」
「お姉ちゃん〜…喉がかゆいよ…」
とりあえずベランダに出ると、外の空気を吸った。しかしもう火の手が上がり始め、窓までやってくるのも時間の問題である。当たりがどんどん騒がしくなってきた、救急車と消防車が何台かやってきて、近所の人もぞろぞろと南木家を眺めているか、こちらを心配そうに見ている。
「こ、子どもがベランダにいるぞー!」
誰かご近所さんが叫ぶと、ベランダからやっと顔を出したあい子と蒼を目掛けて、救助隊員がハシゴを掛けて登ってきた。
「あ、蒼がぜえぜえしてるから!助けてくれる!?」
「もちろん」
救助隊員はあい子を抱きかかえながら返事をした。命綱のようなものにつながれ、それぞれ2人は救助された。家の外に2人は引っ張りだされ、蒼はぐったりとしている。すぐ救急車に運ばれてしまった。あい子は蒼と離れ離れになってしまうとき、蒼が「ママ、パパ…は?」と呟いた。
「ママ!パパ!」
1階が焼け落ちそうになっているのが、小学生の目にハッキリ映った。玄関へ駆け出したあい子を消防隊が阻止し、あい子も別の救急車に乗せた。近所の人たちは泣き叫ぶあい子の姿を見ていることが出来なかった。
「あれはもうダメだな」
「あい子ちゃんは可愛そうだけど…」
野次馬がヒソヒソ囁く通り、焼け跡からは2人の男女の遺体が見つかった。跡形もなく強いて言うなら真っ黒だった。遺体の惨状が激しいため、葬式には棺がなかった。あい子は父方の祖母が用意してくれた黒いワンピースを着て、一酸化炭素中毒と軽い肺のやけどを負った蒼は病院で眠っていた。
「あい子ちゃん、えらいわね」
「あい子、えらくない」
祖母と手を繋いで、参列者の1番前の席に座っていた。両親共に何人かの兄弟のほとんど末子で、すでに祖父母が両方とも老人ホームに入っていた。唯一歩くことのできる父親の祖母と一緒に過ごしていた。
「うちはもう、きついな」
「確かに気の毒だとは思うけど…」
葬式が終わったあと、親戚同士ではあい子と蒼の引き取り手で揉め始めた。父方は4男、2女だが、いずれも結婚して子どもがいるか、海外移住をしていた。母方は3男4女、独身の男兄弟もおらず、女兄弟もほとんど家庭を持っている。どんどん場の空気が濁ってきた。この空気を敏感に察知してしまうのが子どもの不思議な特徴で、あい子は俯いたまま祖母の脇に強く抱きついていた。
「あ、あの…私でよければ、あい子ちゃんと蒼くん引き取ります」
手を挙げたのは、隅に座って皆のお酒を注ぐのに回っていた母親の妹、4女の沙弥である。
「育てていけるのか?」
父方の長男から言われ、一瞬怯んでしまったが恐る恐る口を開いた。
「私…独身ですし、お金はちょっと厳しいかもしれないですけど、ちょっとあい子ちゃんがいる前でこういう話はしたくないし…」
アラサーにしては意思弱めだが、あい子の背中を優しくぽんぽんとしていた祖母が
「うちからお金は援助します。うちは地方だから…わざわざ転校までさせて、孤独な思いをこれ以上させたくないので、せめて金銭的な援助はさせて頂戴?」
「…はい…申し訳ないです。お願い致します…」
「さやちゃんと一緒に暮らすの?」
「そうだよ、よかったね」
あい子は頷いた。さやはよくあい子の家に来て、蒼とあい子の遊び相手をしていた。あい子はさやが大好きで、いつも女子会をしていた。蒼も同様、蒼はさやにふざけてキックやパンチをして常々母親である自分姉に怒られていた。そんな活発で笑顔に溢れていた子たちだった両親はどこにもいない。そのことを考えると、今すぐにでもさやは涙を流してしまいそうだった。しかし、1番つらいのはあい子と蒼であり、その彼らと暮らしていくことになった。
- Re: 正義のこんぷれっくす ( No.2 )
- 日時: 2019/06/23 10:56
- 名前: 7744 (ID: RO./bkAh)
「南木〜、だせぇ動きばっかしてんじゃねぇぞ〜」
蒼はさっきから何回もカットをさせられている。センターに戻る、また左バックにノックをされる、シャトルを斬るようにフォアにストンっと落とす。体育館の床とシューズの底がキュッキュッとなり、規則のいい音を奏でている。
「南木、代われ」
「は、はい!」
ノックが終わると先輩にすぐさま呼ばれ、シャトルを渡すように命じられる。蒼は水を1滴も飲まずに、ノッカーへのシャトル渡しを後退した。
「南木にドリンク」
「は、はい!」
顧問からの指示でマネージャーの香川佑奈は南木にドリンクを手渡した。
「ったくよぉ、なんであいつだけそんな扱いなわけ」
「いやぁ、強いからでしょ。聞いた?赤沢以来の元県選抜だってよ」
3年生はノックが行われているコートで、飛んできたシャトルを適当にかき集めて蒼の元に寄せている。ただそれだけ、あとは何もせずにただ声を出しながらノックの数を数えているだけ。私立静南城高校のバドミントン部は男子だけでも52名の部員がいる、女子は30名。県内では古豪と言われていて、現在は県内ベスト8である。ここ数年は国体やインターハイへの道は絶たれている。
「南木!シャトルちゃんと渡せ」
「すみません」
すでに蒼は周りより苦しそうな姿が伺える。小さい頃に肺を火傷したせいで、呼吸器があまり強くないし、そのせいで体力もつかない。こんなんじゃダメだ!
「ファイトーーーー!」
蒼は声を出した。
「次、ダブルスやるからー」
「ハイッ」
部長の赤沢漣の呼びかけに部員らは返事をした。
「南木、今日もドン勝じゃん」
「でも部長には勝てないし」
同じ部員で同い年の高田彪馬に後ろから脇腹をラケットでつつかれた。高田ぐらいだ、俺と部活で話をしようなんて思うのは。蒼は十分に分かっていて、顧問からの依怙贔屓がないと言われれば、間違いなくある。試合用の筒に入ったシャトルを、買い物に詰めた。それを2つ持って部室に入ろうとすると、目の前でドアがピシャリと閉まった。日常生活茶飯事だ。慣れたも同然で買い物を片方床に置き空いている手でドアを開けた。おつかれさまですと一応呟くが誰も返さない。むしろ一瞬空気が歪んだように感じた。
「よう、お疲れ」
「ありがとうございます」
部長だけは返してくれる、毎日。赤沢は無口な故、最近気合いを入れて坊主にしたため体格の良さとごつさが相俟って怖い。その点、蒼は色白でどちらかと言うと目がクリクリしていて女子っぽい顔立ちである。
「部長やさしーー」
他の3年はふざけて赤沢をからかったり、部室の外で着替える蒼を「露出魔」呼ばわりしている。
「蒼ー、おつかれ」
「おつかれさまです」
きゃーっ、蒼と挨拶しちゃった。と同じ体育館で練習していたバレー部の先輩たちに挨拶をされた。蒼はどこか落ち着きがある。
「あ、」
時計を見ると8時を過ぎている。今日は餃子だから早く帰らねば。
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