複雑・ファジー小説

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何回目かのサヨウナラ。
日時: 2019/07/31 17:11
名前: 白刃 さとり (ID: r3UXBQ7u)

 きっと、神様のちょっとした出来心だったのかもしれない。
 私たちの呪いも。私たちの出会いも。私たちの愛も。
 だから、私たちの神様は意地悪で残酷なんだ。

 それを理由にしても、私の想いは届きませんか?。


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 >>6 >>7 >>8



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 こんにちは。白刃さとりです。

 この話は轆轤さんと叶の恋愛事情もかきたいという作者の勝手な一存により作られたものです。


 [何度目かの初めまして。]も見てください。

Re: 何回目かのサヨウナラ。 ( No.1 )
日時: 2019/06/01 14:46
名前: 白刃 さとり (ID: bb2N.JWt)

 少女が刀を抜いた。乱れた着物からはみ出る白い肌を、屋敷からでる炎が赤く染めている。

 「おのれ……………この、人殺しぃー!!。」

 少女の怒号と共に、隠せぬほど未熟な殺気が青年に降りかかった。青年は少女の振りかざした忍者用の小振りの刀を避けようとするが、刻一刻と迫ってくる刃は、まるで避けるなと言わんばかりに鋭く光っていた。
 青年は、避けることを躊躇った。彼女に殺されても良いとさえ思っていた。
 しかし、少女の腕は止まった。青年の諦めた様子を見て、何か苛立ちを覚えているようだった。


 二人は、決して甘い関係などではない


 青年は、少女の家族を殺した。

 時代は江戸から明治に変わる頃。詰まりはニ百幾年の平和を誇っていたこの日本が再び戦禍の渦に巻き込まれた頃である。そんな時代に、青年もまた、戦に出ている兵士だった。その中でも剣術に優れた青年は、通り名[人斬り、寺楽]と呼ばれる人斬りの一人であった。その法衣を着た見た目から、剣も持てぬ僧侶のように見えるが、青年は髪を切り落としてなどいないし、何より青年の腰には寺楽の使うという普通より大きな刀[雪宝]がさしてあった。


 少女は、青年に家族を殺された。

 この時代、少女の家系は珍しく高い技術の忍の一家であった。ある一族は御庭番として徳川に遣えたというが、少女の一族はそんな事とは無関係に、忍の術のみが受け継がれた誇りだけの一族であった。少女の一族は忍の家系だった事が政府にバレ、寺楽一人に殺されたのだ。そう"たった一人"に。それを知った時、少女は馬鹿にされた気分になった。

 そして、今も自分は馬鹿にされた。
 この男は自分に殺されようとしているのだ。


 「どうせ殺すんだったら嫌がってほしいなぁ。」

 少女はそう言ってゆっくりと刀を下ろす。青年は微笑んだ。

 「今くらいしか、殺せる機会は無いですよ。」

 少女は年相応に見えない言葉を聞いて、呆れた笑みを見せた。

 「あんた。馬鹿じゃないのかい。誰が嬉しくて因縁の相手が死にたい時に殺そうってんだ。」

 「それでは、私を殺したい時に殺せばいい。」

 少女は目を見開いた。青年の顔に始めて歪んだ感情が現れていたからだ。その顔は人斬りというには弱々しく、ただの年頃の青年に見えた。

 「私は、殺されるなら貴女がいい。」








 こうして始まった、奇妙な関係。

Re: 何回目かのサヨウナラ。 ( No.2 )
日時: 2019/06/01 15:21
名前: 白刃 さとり (ID: bb2N.JWt)


 人通りの多い道にある甘味処に、二人の男女がいた。一見、恋仲に見えるが、漂う空気がそれを否定していた。無言で団子を食べている二人は何処と無く互いを意識しないようにしているようで、目を合わせる事も無かったし距離もずっと一定の距離だった。
 男が口を開いた。
 「おいしいですね。」
と。女は頷くだけで何も答えない。男も微笑んだままで、何も言わない。
 「はい、大福だよ。すまないねぇ、遅くなっちまって。」
 店の中年の女がそう言って、大福の入った皿を置いた。男が有難い、と微笑んだまま言った。女は軽く頭を下げると直ぐに定位置に戻って黙々と食べ始める。
 「ちょいとお客さん、喧嘩でもしてんのかい?。」
 店の女が男にそう言った。男は微笑むと、
 「いえ。彼女とはいつもこうなので。」
と言った。女はその会話が聞こえていても、此方を気にするような素振りは見せないし、興味がないようだ。

 店の女がいなくなると、女が口を開いた。
 「また、人を殺すのか?。」
 女の言った意味を男は理解していた。だが気づかぬふりして男は頷いた。
 「それでないと生きれないので。」
 男はそう言うと、笠を目深に被った。もう、顔からは作った笑みは消えており、笠の下で男は目を光らせた。
 「そ。」
 女はもう、それ以上言わなかった。伝わらないことを知っていたから。

Re: 何回目かのサヨウナラ。 ( No.3 )
日時: 2019/06/13 19:11
名前: Nahonn (ID: bb2N.JWt)


 [叶目線]


 私は、地べたに崩れるように倒れこんだ。そのまま、大きな体の男が持つ刀が降り下ろされるのを、呆然と見上げていた。





 あの男は、私の家族を殺した憎い男、の筈だった。



 あの日から数年が経った。それは驚くほど短く、嗤えるほど長く感じた。それもこれも全ては、この胸の高鳴りのせいだ。………私は男に淡い恋心を抱いているのだ。それを今まで認めずに、無視をし続けていた。そう、今までは。

 この気持ちに決着をつけたい。そんな思いで、私は戦場に駆け出した。
 彼が人を殺している姿を見れば、きっと嫌いになるだろう。絶望し、拒絶し、彼を責め、そして私の胸の奥に潜んでいた暗い思い出があの日の憎しみを呼び覚まし、彼を殺そうとするだろう。だから。

 だから………?。



 光を反射して白銀に輝く、刀を見て思った。



 私は大馬鹿者だ、と。

 好いている男を好きになりたくない為だけに命を投げ出した。でも、案外これでよかったのだ。
 私は死ぬのが一番良かった。彼を普通に愛したかった。それが出来ないから、心を病めて苦しんでいるのだ。もうこれで、私は解放される。



 そう思った矢先、目に飛び込んで来たのは、血飛沫をあげて倒れる大男と、酷く動揺している男……轆轤であった。


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