複雑・ファジー小説

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刹那に咲く雪の華
日時: 2019/06/09 18:28
名前: ユン (ID: Ih1KNt1L)

「刹那に咲く雪の華」

登場人物

セツナ
14歳


シン
14歳



はぁ…
これで溜め息をつくのは何回目だろう?
涙を流すのは何回目だろう?


毎朝のように消息を絶つ上履き、使ってもないのに奪われていくお小遣い。

今日はトイレの個室の上から水がかけられてびしょびしょだ。

でも、この時間がおわれば──。

きっと、誰も知らない木の茂った小道を駆け抜けてゆく。


体力のない私では、木が茂った小道を走るのはかなりきついことだった。



──あと少し!

私の視界には、荒れ果てた小屋が映った。


これで、やっと───。

小屋のドアノブに手を伸ばした。
しっかりとドアノブをつかみ、押し込むと、ギーというさびた音がした。

そして、そこにはシンがいた。

「シン!お待たせ!」

うつむいていたシンは、顔を上げてニッコリと笑った。
そんなシンの腕には、アザが沢山あり、服は上履きで踏まれたような後が沢山あった。。

「………………シン。大丈夫?」
シンの痛々しい姿にびしょびしょの私は思わず心配した。

「うん。僕は大丈夫。それよりセツナはびしょびしょだよ?何かされたの?」
シンが心配そうな顔でそう言ってきた。
──私としてはアザだらけのシンの方が心配なのだが……。

「私も大丈夫。でもなんか寒いや。」
季節は冬。濡れたまま外へ出るのは自殺行為とも言える。

「そうだよ!どうしてそのまま外へ出たの…」
いよいよ本気で心配そうな目をして、シンは私に自分が着ていた上着を私にかけてくれた。
シンの上着は、まだシンの体温が残っていて暖かかった。
「シンは上着着なくて寒くないの?」
私はシンの上着にすっぽりくるまりながら率直な疑問を述べた。

「それよりセツナは自分のことを心配しなさい。」

私が聞いたこととは少し違う答えが返ってきた。

今は誰も使っていない小屋でこうして毎日お昼休みに二人で話をしていた。

その時間はあまりにも短くて、いつもあっという間に過ぎていってしまった。

そうして今日も終わりの時間。


「…もうこんな時間だね。」

私はそう言いながらシンに上着を返した。

「…大丈夫?寒くない?」
シンはさっきからそればかり心配している。

「私は大丈夫。シンも頑張ってね。」

───シンと私はお互いがお互いのものだった。離れることは決してない。どこにも居場所私たちの唯一の居場所は荒れ果てた小屋だった。


戻るといつものように机に落書きがされている。

………地獄だ。

ぽたりと涙が零れる。

この後、あんなコトが起こるなんて知らなかった。


私は、放課後に呼び出された。
どうせまたお金を取られるんだろうと思っていた。

「……えっと、なんですか?」
私は恐る恐る口を開いた。

--------------------------------------

いじめ軍団のリーダーの手に握られているスマホには小屋で楽しそうに話す私たちが映っていた。

「あんたさぁこんなとこで男とあってたんだね。」
声が出なかった。

「コイツの情報はもう既に収集済みだよ。確か〜三組のシンだっけ?」

ぞくっとした。鼓動が速くなる。
息が苦しい。怖い。

「面白いこと知っちゃったからちょっと遊ぼうか。」
思わず声を張り上げた。
「や、やめて下さい!」
「まだなんも言ってないのにぃ。」
私は何も言えず、ただハラハラしていた。

「あんたがこの男のことがホントに好きなのか確かめてやるよ。」
次に出てきた言葉に、目を見開いた。

「あんたが明日までに、死んでなかったらあの男に手を出す。あいつに手を出されたくなければ明日までに、死ね。」
──私が明日までに死ななければシンが……。

ならば、私が死ねば良いのではないだろうか。
そっか…。

「………………………………分かった。」


------------------------------------- 夜、歩道橋の上に立った。

シン、さようなら。

そして、足に力を入れて、柵を跳び越えた。
風に揺られる。
雪が降っている。
町のネオンで煌びやかに光っている。

飛び降りようとしたそのとき、

「セツナ!」
驚いてバランスを崩した。
でも、落ちなかった。
身体はシンに支えらていた。

「──っ」
強くつむった目をゆっくりゆっくり開ける。
目の前には、シンの顔があった。

「セツナ!大丈夫!?」
シンの顔をみると、安心して涙が出てきてしまった。

「シン…」
シンは優しく私を下ろし、私の肩を掴んだ。

「どうして!どうして!死のうとなんてしたの…!」
初めて聞くシンの大きな声。
「シン…ごめんなさい。でも、アイツらは、私が明日までに死なないとシンに手を出すって言ったから…。」
声が消え入る。

さむい。

シンは、何も言わずに私を抱きしめた。
シンの身体は大きくて、暖かかった。

涙が零れた。
「もう、大丈夫だから…。」
「ありがとう。」
………………………………

「でも、僕は罪を犯した。いじめ軍団のリーダーを脅してセツナの居場所を聞き出した。家庭科室にあったナイフで。」
こう言って一呼吸おくと、シンは自分の手を見せた。
その手には、血がついていた。
「まさか………。」
「うん。刺したんだ。この手で。」
──それでも不思議とシンのことは怖くなかった。
「……ごめん。僕から離れて。」
サイレントと赤い光が歩道橋の下には見えた。
きっと今の事件を嗅ぎつけて来たんだろう。 

私はシンの手を引いた。
「逃げよ。」

私とシンは運命共同体だから。
私はずっとシンと生きていくんだ。
たとえ辛くても。
いじめられるよりずっと良いから。

雪はやがて、散りゆく花のように、儚げに落ちていった。

Re: 刹那に咲く雪の華 ( No.1 )
日時: 2019/07/20 18:23
名前: ユン (ID: Xr//JkA7)

「セツナ…その通りよ…セツナ…セツナ…」


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