複雑・ファジー小説

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「旧現代人」
日時: 2019/07/15 00:24
名前: ふじみや (ID: B240tmf4)

「旧現代人」

それじゃあ今日は皆さんに佳い話をしましょう。ええ、佳い話です。話とは云っても私の所謂体験記なのですが。興味が無いと云うのなら寝ていても構いません。然しこの話は貴方がたにとってきっと佳い話に違いありませんでしょうから。
丁度今日のように日が高く昇り、ジリリジリリと蝉時雨の降る日に私は或る男を想い出すのです。その男とはそこまでの仲でもございませんでしたから、今更になって馴れ馴れしく名を呼ぶのも忍びありませんので、男のことはこれ以降‘彼’と呼ぶことに致しましょう。



元来私は新しい事物に目の無い性分でございました。小さな頃は其れも特に顕著で、新しい玩具を買って貰ってはまた次、また次と親を困らせたそうであります。高校生ともなればその性分も落ち着くかと思われたのですがそうも行かず。当時はまさに様々な技術が花開いた時分でございましたから目新しい物が次々と世に出てまいりましたので、やれ新しいゲエムが欲しいだのやれスマアトフオンを持たせて欲しいだの我儘は尽きませんでした。また当時は若者が所謂“アイデンテテイ”を見失った時代などと謳われた時分でもございました。私も例外なくその時代を生きる若者でありましたから、手に入れた新たな物をインスタグラムなどと云ったアプリケエションに投稿し所謂いいねを乞ったものでありました。そんな娯楽に囲まれながら何と無く過ごしている内に高校三年生、受験の時期になるわけでございます。当時私は特に励んで学びたい学問もありませんでしたが、とある理由で史学部に進むことに決めました。その理由というのも実に安直なもので、古きに触れれば私のあの悪癖も治るのでは無いかと思ったのであります。此の選択が後の物語にも続いていきますので結果論から云えば佳かったのかと思います。私は大学では平安時代を主に専攻しておりました。其の甲斐あってか所謂古文には幾分か詳しく、また平安当時の情緒などにも長けていったのでございます。新しい物好きとは云っても、平安の情緒などと云った風流なものには興味がありましたし、元々真面目な性分もありましたので大学で勉強もせずにふらつき歩くと云ったことは一度も無かったと記憶しております。
そうこうしているうちに私は大学四年生となります。本当は此処に至るまでに或る女生徒の大失恋物語やまた或る先生の自決事件など此処ではお話し切れないほどの数々の出来事があるのですが、それはまたの機会と致しましょう。さて、大学を卒業すれば今度は就職、という具合が世間一般様の常識なのでしょうが、当時私は卒業後の身の振り方を全くと云って佳い程決めていなかったのです。然し私が幸運だったのは在学中に先生として働くノウハウを学んでいたことです。いざとなれば先生をすることが出来る、という安心が其の頃の怠慢を呼び寄せていたのかもしれません。とはいえ其の怠慢期間も長く続くことはありませんでした。或る友人の母親が新潟で小さな塾を経営しておりまして、其処の先生をして呉れないかというお声が掛かったのです。住処は其の塾の二階の一部屋を下宿という形で貸して頂けるということでございました。私は是非お願いしますという返事をして、そそくさと準備を始めました。先生として来て欲しいという話が出た一ヶ月後には私は家を出ました。電車に揺られている間に様々なことを考えました。どんな風に教えれば生徒の学力が伸びるのだろうか、果たして私にそれが務まるのか、なんて初めのうちは大層なことを考えていましたが時が経つにつれて、新潟のお米は本当に美味しいのだろうか、部屋は綺麗なのだろうか、と下らないことばかりが頭に浮かびました。待ち合わせの駅に着くと予め写真で拝見していた友人の母親(玉世さん)が和かにお出迎えをしてくれました。その後玉世さんの車に乗り込み、塾に向かう途中に自己紹介を踏まえた様々な話をしました。そうして塾に到着しました。外見は、かなり年季が入っているが然しおんぼろという訳ではない、これぞ日本家屋と云った外見でございました。また内装も或る意味では想像した通りの、畳に三人がけの長机にそれぞれ座布団が置いてあるというような風でございます。此処が私の新天地であり、また此処から物語が進んで往くのです。
さあ、眠っている人は起きるなら今ですよ。ここまではあくまで話の入りに過ぎないのですからね。それでは続きをお話ししましょう。


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