複雑・ファジー小説
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- こちらは幸福研究部です
- 日時: 2019/09/28 20:54
- 名前: リヒト (ID: iykFqmai)
「俺らの『幸せ』ってなんだろうな?」
誰もが何らかの力をもち生まれてくる世界。
だが、どんな世界となっても、年頃の高校生にはみずみずしいアオハルと、複雑な思春期のお悩みがついてくる…
そこで立ち上がったのが、「幸福研究部」である。
この世界における、人生における、「幸福」とはなんなのか。それを究めつつ、「幸福」を得られない高校生たちのお悩みを聞き、それを解決していく。
果たして、彼らは「幸福」を知ることができるのか。みんなを「幸福」にすることはできるのか。
笑いあり涙ありの能力学園ストーリー、開幕。
- Re: こちらは幸福研究部です ( No.1 )
- 日時: 2019/09/28 21:13
- 名前: リヒト (ID: iykFqmai)
1幸福目「離れ離れの親友」
昔は、誰もが劣等だった。
誰も、何ももっていなかった。重力にあらがうことも、時空にあらがうことも、なにもできなかった。ただ、全員が同じ身体をもって、息をしていた。
よく生きていけたなと思う。何の力ももたないで、身一つでは何もできないで。
それでも、不思議なことはあるもので。
その頃の方が、国民の幸福度は高かったそうだ。
みんな、笑顔で、幸福だったそうだ。
どうしてだろう。こうして、みんながみんな特別な世界になったというのに。どうしてだろう。
僕には、どうしても判らなかった。
「それを研究する為に私らがいるんでしょ」
「えっ……あっ、すみません、口に出してました?」
「ない。けど、私だもん」
「あっ、そうか……」
「そうそう。いい加減覚えなよね、新入部員」
眼前でふん、と息を吐き出したのは、部長である心美先輩だった。
はじめまして。
つい先週、この「幸福研究部」の部員となりました、1年B組、興津光汰です。
- Re: こちらは幸福研究部です ( No.2 )
- 日時: 2019/09/28 21:37
- 名前: リヒト (ID: iykFqmai)
「でも、気持ちは分かりますよ。心美さんの能力ってちょっと気味が悪いですものね。心を読まれる、なんて」
「!!」
心美先輩は長い茶髪(地毛)のポニーテールを勢いよく振って振り向き、ショックに大きな瞳を小刻みに揺らしながら、淑やかに抹茶を飲んでいる、千歳先輩を凝視した。
「ち、千歳ちゃん、私のことそんな風に思っていたの……!?」
「ふふふ。ごめんなさいね」
「っ……!!」
心美先輩は瞳をうるませた。
心美先輩は人の心が判っちゃうけれど、それと同じくらい感情を表に出す。僕でも分かるくらいだ。
きっと、それがフェアだと思っているからだろう。自分は相手のことが分かっているのに相手は自分のことが分からないなんて不公平だから。だから、心美先輩は喜怒哀楽全てを表に出す。
心美先輩は、そんな人だった。
「千歳ちゃ……」
「ふふふふ。分かっているくせにね。気味が悪いなんて思っていませんよ。心美さんのその能力と優しさでこの部は成り立っているんですもの。いつもありがとうございます」
「!! 千歳ちゃああああああん!!」
心美先輩は嬉しそうに千歳先輩に抱きついた。
僕もそう思う。この部に入ってから1週間もたっていないけれど、心美先輩は部長として素晴らしい人だ。
千歳先輩が、心美先輩の頭を撫でながら、ちらっとこっちを見た。艶やかな、肩で切り揃えた黒髪に、今は春だから桜の髪飾りのついた、綺麗な人。どんなに遠くにいても、何でも見透かしてしまう、切れ長の瞳が細められて、「ね?」と笑いかけてきた。
僕は、「はい」と頷いた。
僕は、この部が大好きだ。
何ももたない僕にでも、こうして居場所をくれたこの部が。
少しだけ、切なくなるときはあるけれど。それでも、好きなんだ。
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