複雑・ファジー小説

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手紙
日時: 2019/12/06 23:15
名前: 栢 haku (ID: tCSGKURS)


「死んだんだって。」


「え?」


凛は片手で携帯をいじりながら突拍子も無いことを言った。

マイペースで自由人の彼女にはよくあることだ。

凛のこの性格は小学校から変わっていない。たまに本気で心配になる。


「また主語がない。」


もう何度目かもわからない指摘に、凜はため息をついた。つきたいのはこっちの方だっつの。


「何回も言わせないでよ。倒置法なの。」


倒置法っていうのはね、と思わず反論しそうになるのを寸前で止める。

毎回おんなじ問答を繰り返すのは、さすがに不毛だ。


「はいはいごめんね。で、何が死んだって?金魚?」


凜は、「馬鹿じゃないの?」と眉を顰めた。


「死んだって言ったら、人に決まってんじゃん。」


ああ、凜の親戚か。


「なに?葬式行かなきゃなの?」


「はあ?なんであたしが見知らぬ同級生の葬式に行くの?」


凜の言葉に耳を疑う。

凜に従妹はいなかったはず。


「まって。誰が死んだの?」


「えーっと、ほら、三組の、あの子だよ」


「ど忘れした」と悔しそうな凜を見て、私はふと思い出す。


「、、、、楓?」


凛が、勢いよく立ち上がった。


「それだ!」


佐伯楓。彼女は私の、所謂幼なじみだった。

小学生のころは、家が近かったこともあって毎日のように遊んでいたが

中学校に上がる頃に彼女は引っ越し、それをきっかけになんとなく二人の関係も遠退いた。


「え、死んだの?」


私は隠しきれない動揺をなんとか抑えようと、机の上のグミに手を伸ばす。

手が震えている。


「らしいよ。なんか、いじめられてたんだっけ?」


そんなの、聞いてない。


幼なじみの突然の死に、私は言いようもない焦りと恐怖を感じた。

最近は関わってない、と言われればそうなのだろうけど、そういう事じゃない。

必死に気持ちを落ち着かせている私の前で、凛は冷静だ。


「凛あんた、なんとも思わないの?」


思わず尖った声がでてしまった。

同級生が死んだというのに、なぜそんな冷静でいられるのか私には分からなかった。


凛は一瞬虚を突かれたような表情で私を見つめたあと、携帯に視線を戻した。


「ささきかえでさん、だっけ?」

「さえき、ね。」

「あー、そうそう。あたし別に、友達じゃないし。」


信じられなかった。

、、、、いや、もしかするとそういうものなのか?

友達じゃなければ、死のうが生きようが関係ない、と。

もしかすると人は自分の認識以上に薄情なのかもしれないな。


私は、彼女の死を頭から消し去ろうと、必死でそんなことを考えていた。

だが、あの優しい微笑みと、「とーかちゃん。」と呼ぶ少し高めの声が頭から離れない。

それだけ、楓の事を大切に思っていたのか。



"いなくなってから、気づくこともある。"



何かの本で読んだそんなセリフが、頭の中を駆け巡る。

Re: 手紙 ( No.1 )
日時: 2019/12/07 15:11
名前: 栢 haku (ID: tCSGKURS)


私は、重い体を引きずりながら家に帰った。



「あら、遥華。また凜ちゃんの家に寄ってきたの?ちゃんとお礼は言った?」



母の声を聞き流しながら、自室へ向かう。

階段を上がる足がやけに重かった。



もう自分でも、よくわからない。

ショックを受けているのか、悲しいのか、怖いのか。




その日はそのまま寝てしまった。


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「お母さん、楓って覚えてる?」



楓のことをお母さんに話そうと思い立ったのは次の日の朝だった。



「あー、、佐伯さんのとこの?」


「覚えてるわよ」と母はどこか他人事だ。

どうやら、知らないらしい。


言うべきか。


私は悩んだが、黙っておくことにした。



「じゃあ、学校行ってくる。」



「あら、ご飯もういいの?」



「うん。」



この件はもう、忘れよう。考えちゃだめだ。


自分では制御できない感情から逃れるため、私はそう決心した。



凜は本当に何とも思っていなかったらしく、いたっていつも通りだった。

それが今の私にはこの上なくありがたかった。



私は凜のことも相まって、楓のことを完璧に忘れて日々を送った。




「柏木、ちょっといいか。」


一カ月ほどたったある日、私は先生に呼び出された。


全く心当たりのなかった私は、特に怖気ずく事もなく会議室へ向かった。


会議室には、私が座るのであろう椅子とずらっと縦に並んだ長机を挟んで三人の先生が座っていた。

校長、教頭、学年主任という錚々たる面子に、一瞬固まる。


「えっとー、私、何かしました?」


椅子に座った私は、先手必勝とでも言わんばかりに核心に触れた。

三人は顔を見合わせた後、一枚の白い封筒をすっと私の前に差し出してきた。


「えと、これは、、?」


見覚えのない封筒に首をかしげていると、学年主任が口を開いた。


「佐伯楓の、遺書だ。」


私は硬直した。


「い、、しょ?」


忘れかけていたことを、私はその時思い出した。


楓は、死んだんだった。


「自殺、したんですか。」


カラカラに乾いた喉から声を絞り出した。

頷く三人を見て、私は再び目の前の封筒に目を戻した。


「なんで、私に、これを、?」


いじめられていたのか。首を吊ったのか。いつ、どこで死んだのか。

聞きたいことは腐るほどあったが、私の口から出てきたのはその言葉だった。


「中を、見てみて。」


私は震える手で封筒を開けた。



柄もないもない真っ白な紙。


その真ん中に彼女の綺麗な字で一言だけ。


[とーかちゃんのせい。]


「、、、、え?」


私は目の前の文字を見つめたまま、動けなくなった。








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