複雑・ファジー小説

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ドラスレ
日時: 2019/12/06 16:43
名前: ぐれりゅー (ID: xEKpdEI2)

気が向いた時に続き書きます。飽きたらやめます。許してね。

1 >>1

Re: ドラスレ ( No.1 )
日時: 2019/12/06 19:15
名前: ぐれりゅー (ID: EUHPG/g9)



 竜の肉は美味い。
 竜の血は滋養に効く。
 竜の骨は堅牢である。
 竜の鱗は槍鉄砲を通さない。
 竜の爪は鋼さえも引き裂く。
 竜の牙は金剛石に穴を穿つ。
 竜の眼球は宝玉と呼ばれ、魔力を宿す。

 竜はまだ家畜化に至っていない。だからこそ需要は高い。
 例えるなら捕鯨に似ている。無論リスクもリターンも、鯨では竜に及ばないが。

 そして竜の解体に勤しむ業者たちの傍ら、新鮮な肉を頂けるのは竜狩りの醍醐味だ。
 新鮮な内は臭みも無い。余計な味付けはかえって邪魔になる。
 塩を軽く振って火を通すくらいで丁度いい。
 自前で切り分けたばかりのモモ肉に鉄串を刺して直火で焼く。
 しばらくして香ばしい匂いと肉汁が垂れて来る。
 飛竜のモモ肉は脂がよく乗っているのだ。
 石と大きめの枝で拵えた即席の肉焼き機を、焼き目に気を使いながら回す。
 そろそろ好い頃合だ。私は銀皿とナイフを取り出しながら、今から一口目を待望した。

 大抵の竜狩りは、これを丸ごと噛み付く。
 けれどそれは好きでない(口周りが汚れる)ため、適当な大きさに端からナイフで切り取る。
 鮮やかな褐色を帯びた肉に、ほんのりと朱が色づいている。
 我ながら上出来。銀皿に取り分けた肉を口へ含む。
 濃厚な旨味と淡い塩気が口の中で満ちる。
 肉が柔らかくて大変よろしい。なのに噛めば噛むほど肉汁が溢れ出す。
 有体に言えば、おにくがとってもうまい。

「フェンリルさん」

 何切れ目かを口に放り込んだ頃、商人に声をかけられた。
 頭にターバンを巻いたひげ面の彼は、何度か顔を合わせたことがある。

「ここでお会いするとは思っていませんでした。ベイドンさんでしたよね?」
「ええ、ええ。本当に奇遇です。たまたま大きな商談があったので滞在していたら、近くで大物捕りがあったと人伝いに聞いて」
「向こうではもう肉やら鱗やら競りが始まってますよ」
「そちらはウチの若い衆に任せております。女性の竜狩りといえば、貴女しか思い当たらなかったので。挨拶だけでもと思いまして」
「お会いできて嬉しいです。ちょうど焼き上がったところなので、いかがですか」
「いえいえ。お気遣い痛み入りますが、それは竜狩りの特権ですから」
「それが困った事に、女の胃袋には少し余る量で。どうですか、一口だけでも」

 私たち竜狩りと、彼ら卸売りの業者は切っても切れない間柄。
 特に私みたいな流れ者は個人との繋がりを保たねばならない。とりわけベイドン商会は大手だ。
 しかしそれを差し引いても、このベイドンは物腰が柔らかく丁寧である。
 無骨な私であるが、できる限りのもてなしをしたかった。
 私が銀皿を差し出すと、ベイドンは遠慮がちに苦笑しながら近くの岩場へ腰掛ける。

「何だかこれを目当てにしたみたいで、気が引けてしまいますが……では厚かましくも、ご相伴に預からせていただきます」
「また冗談を。このくらいの竜なら、あなたの商会でも扱っているでしょう」
「いえいえ、あれは大物ですよ。ところで恐縮ですが、厚顔ついでにもう幾らか貰っても宜しいですか」
「もちろん構いませんよ。いっぱい食べてください」
「ああ、いえ、私がではなく。後でウチの若い衆にも食べさせようと思って」

 ベイドンは横目でちらと、今もなお解体が続く竜の方を見る。
 近くは人だかりで賑わい、小さな市場が出来上がっていた。
 声高に値段を叫ぶ声が絶え間なく聞こえる。
 竜を倒せばいつもの光景である。私の出番が終われば、次は彼ら商人と解体屋の戦場だ。
 大きな竜は丸ごと運べないので、解体も卸しも討伐した現場でやり取りされる。
 お祭りや人混みは好きだけれど、あの活気へ混じるには、今日の私はいささか疲れていた。

「なんだ、そういうことでしたらもう幾らか焼きますよ。今回は余分に切り分けてありますから」
「それは嬉しい。きっと彼らも喜びます。もちろんお金は払いますよ」
「とんでもない、要りませんよ。その分は皆さんのボーナスにでも回して下さい」

 あれだけ賑わっていれば、ベイドン商会の若い衆も、こっちへ顔を出す頃にはヘトヘトだろうから。
 ベイドンは白い歯を見せて笑い、焼き立ての竜モモ肉を口に放る。
 彼はうんうんと唸りながら、目を細め、幸福そうに肉を噛み締める。

「そうだ、貰ってばかりでは私の面子も立たない。ちょうど良いエールが入ったところですから、フェンリルさん、お酒は飲めますか?」
「良いですね。好きですよ、エール。じゃあ私もお言葉に甘えましょう」

 今日は久々の大仕事だった。
 きっと疲れた体に、竜の肉をぐいっとエールで流し込んだらたまらないだろう。
 ベイドン商会が仕入れたエールとやらが楽しみで、私は思わず生唾を飲み込んだ。

 ——そして私という竜狩りの日常が、今日も一幕、夕暮れと共に落ちていく。
 ——ここは剣と魔法がある世界。そして人と竜が互いを狩り、営む世界。



【ドラスレ】筆:ぐれりゅー




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