複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- :etude
- 日時: 2020/01/30 07:49
- 名前: おまさ (ID: mXej9PvR)
『鳥は、籠によって守られている。
鳥は、籠によって縛られている』
(So,freedom has faults.)
******
こんにちは、おまさです。
ジルクをお読み頂いている皆さん、いつもありがとうございます。
さて、今回はジルクの参照数1000回突破記念(←遅い)も兼ねて、新作を書きました。いつもとは少し趣向を変えて、一話完結型の短編を連載しようかなと!
ただ、更新速度は遅くなる可能性・・・いや、確実に遅くなるな。
・・・ともかく!頑張ります。
あっあともうひとつ。
この作品(:シリーズ)の設定等は全話繋がっています。
また、この設定や世界観をそのままに、違う視点から描いた長編『:folia』も同掲示板に投稿予定です。お楽しみに!
尚、この作品はフィクションです。現実の団体、人物、地名、『ジルク(小説カキコ、複雑ファジー)』とはリアルガチで関係ありません。
もくじ
(最新;>>02)
1.In the birdcage, >>01
2.Memento mori >>02
- In the birdcage, ( No.1 )
- 日時: 2020/01/19 11:42
- 名前: おまさ (ID: MlM6Ff9w)
白磁の建造物が建ち並ぶなか、唯一青々とした芝が萌える中庭で、子供が遊んでいる。
四人くらいだろうか、小さな少年少女が、子供らしい他愛もない遊戯を満喫していた。
追いかけっこで、中庭の端に追い詰められた少女は、中庭の端にある白い柵を背に追っ手と対峙していた。
追っ手の少年は、悪戯っぽくその純真無垢の双眸を輝かせ、じりじりと少女との距離を詰めてくる。遂に、互いの距離は三歩ほどまで近付いた。
追い詰められた少女は、追っ手の追撃から逃れるべく、全力で視界のなかに活路を探した。追っ手の脇、左斜め方向に全速力で突っ込めば、この窮地から逃れられるだろうか。少女は、足の速さに自信があり、また同時に負けず嫌いでもあった。韋駄天たる自分が、足の遅い友人に追いかけっこで大敗を喫すのは、少女の幼い矜持を傷付けると同義だったのだ。
「ーーーーん、」
ふと、物音がし振り返ると、どうやら鳥が飛び立ったらしい。急にバサバサと近くで羽音がしたので驚いてしまったが。
たった今飛び立ったその白い鳥は、蒼穹と、その下に広がる虚空に向かって飛翔する。西向きの暖かい風をつかまえて、高く高く碧落に昇っていく。
空。
それこそが少女が真に憧れ、そして焦がれたものだ。風を受けて、高く、自由に。それこそあの鳥のように飛ぶことが出来たなら。
少女が住むこの街は、どうやら空中に浮いているらしい。生まれたときからずっとこの街に暮らしている少女にはあまり実感は湧かなかったが、以前読んだ本には、人間は地に家を建て大地と共に暮らしてきたと書いてあった。
そういう観点では、なるほど自分は最も空に触れられるわけであろう。ただ同時に、地に住む人たちに疑問を感じないと言えば嘘になった。
正直、あり得ないと心底思った。別に本を鵜呑みにするわけではないが、こんな高い所から、鳥や大地をーーー美しい世界を望めるのだ。それなのになぜ、地に住むというひとたちは、自分達の世界を空から俯瞰しようとしないのだろう。
「ーーー、」
不意に地響きと、それに伴う轟音が聞こえてくる。音が聞こえた方角ーーー先程の鳥が飛んでいった方角を見据える。
そこには、鳥のように翼を広げた巨大な金属塊が、紅玉の光を浴びて煌めいていた。鴉のようなフォルムは轟音と共に加速していく。大きい鷲が目の前で飛び立つような迫力があった。
加速、加速。およそ動物では到達できない速度に達してもなお、軽く軽蔑するかの如く猛然とそれは加速する。巨大なぎんいろの翼を使って、此方にも吹き付ける強い東向の風を以てその巨躯を浮き上がらせんとしていた。
話は戻るが、少女の住むこの都市ーーー空中都市国家ニーヴ市国には、空中都市建造を可能とする高い技術力があった。そこで培われた学術や理論、時には魔術を実践し、都市の人々は他民族よりも遥かに早くから空に進出した。鳥を模して空を飛び回れる乗り物を作ったのだ。
それこそが、たった今少女の視界に入った金属製の鳥である。
十秒にも満たないだろう、僅かな時間ーーーぎんいろの鴉が宙にふわりと浮き上がり、飛び立った時間。それが少女の瞳にはスローモーで映り、ひどく長い時間に感じられた。
「ーーーーー、」
ーーー数秒の停滞と自失、しかしそれは追っ手にとっては十分すぎる時間だった。
「捕まえたーーーー!!」
「わ、っ!?」
いつの間にか追い付いた追っ手が、少女の両肩に両手を重ねた。追っ手交代だ。
思わず少女は、油断した自分に歯噛みしてしまう。
ーー捕まってしまった以上、逆に全員を捕まえてやる。
ここに来てもなお、負けん気を最大限発揮してしまう少女は、心のなかでそう宣言するのだった。
「十秒たったら、始めるよ!」
前置きし、少女は十秒の猶予をターゲットに与え、カウントダウンを始める。その時、ちらと少女は柵の向こうーー蒼い空を見た。
(そういえば、さっきの鳥、どこにいっちゃったんだろう?)
「おーい、もう十秒経ってるよ!」
その一言で我に返り、少女は駆け出す。
ーーーー飛行場には、「朱」に彩られた白い羽毛が落ちている。
*空港では、飛行機のエンジンに鳥が吸い込まれて重大な事故になること(バードストライク)を防ぐため、鳥撃ちの専門職の方がいるそうです。
さて。
生きているだけで迷惑なことって、あるんでしょうか。
- Memento mori ( No.2 )
- 日時: 2020/01/30 07:46
- 名前: おまさ (ID: mXej9PvR)
「・・・何とか守り通した、ってとこだな。・・・ったくよぉ、国のお偉いさんどもは一体何を考えておいでなのか知らねぇが、このまま公国勢力が強まればいつか陥ちるぜ、この国境。魔導士の後方支援がありゃあ、ちょっとばかし楽にはなりそうだが・・・・。・・・ん?あれはーー、」
「ーーー隊長、少年が一人、戦場に・・・」
「わーってるよ。ちょいと、話を聞いてみるかね」
「隊長!?間者の可能性も・・・あー、もう。自由過ぎるでしょあの人」
*
「ーーーーーよっ、ボウズ。どうしたんだよこんなとこで」
「ーーー。あ、あの・・・おか、おかあさんを、その・・・さがしに」
「・・・お前さんと母ちゃんは、この辺に住んでたのか?」
「う、ん・・・きょう、はたけのやさいをとりに、ここに・・・で、でも、もどってこなくて・・・すっごく、こころ、がいたくなって」
「ーーー、そうか。・・・・・ごめんな、ボウズ。畑荒らさせちまって。多分、あそこにあんのがボウズの畑だろ。公国の奴らに侵入られちまった」
「そうだけど・・・なんでおじさん、あやまるの・・・?あやまるのは、わるいひとだけだよ・・・?」
「まあ、そうとも限らんさ。ボウズの言い分には一理どころか百理ーー、確かに間違っちゃいないけどな」
「そう、かな?」
「おうよ。ただーー、」
「ーーーただ、何事にも必ず意味はある、って話だ」
「そう、なの?」
「ああ。周りはともかく、俺はそう思う」
「・・・。」
「例えば・・・随分と物騒な話になっちまうが、誰か人が殺されたとする」
「ころされちゃうの?」
「そうだ。でも、何かしら意味があると思う。もしかしたらそいつは、悪事に手を染めた奴かもしれない。もしくは、誰かを殺めた奴かもしれない。だったら、そいつは、少なくとも復讐の為には役に立った・・・なんて言い換えることもできる」
「うん」
「虐殺で、命を弄ばれ蹂躙される奴は、少なくともそいつを殺した奴のちっぽけな自尊心を満たす位には役に立つーーーなんて言い換えることもできる」
「うん」
「要は、どんなことでも意味を見失うな、っつーことだ」
*
「悪かったな。少し難しい話だったかもしれねーが、ともかく。独り言に付き合ってくれて、礼を言うよ」
「・・・おじさん、このあとどうするの・・・?」
「俺?まあ、なるようになるさ。ーーーそれより、ホレ」
「?」
「百合の花だ。折角だし母ちゃんに持ってってやれ」
「いい匂い・・・ありがとう」
「ああそれと、もし母ちゃんに会ったら、謝っておいてくれ」
「どうして?おじさん、いいひとだよ?」
「理由はいいよ。ーー頼む」
「うん・・・」
*
「おう。すまん、ちょっと話してた」
「・・・隊長、あの少年は?」
「あのボウズが間者?ーーそりゃねぇな。あの歳で、あんな器用に腹芸できる奴なんていねぇ」
「そうですか」
「でもまぁ、」
「ーーーー意味を見出ださなければ、きっと誰も生きられなかったのかもな」
隊長と呼ばれた男は、傍らに寝かせてある女性ーーその顔に被さっている白い布を捲った。
そして。
「本当にそっくりだなーーボウズ」
Page:1