複雑・ファジー小説
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- 銀の贖罪【完結】
- 日時: 2020/03/11 21:10
- 名前: 甘いモルヒネ (ID: FWNZhYRN)
追想に導かれる罪と罰、苦痛で描かれる絶望の贖罪・・・・・・
満月が浮かぶ深夜、『高月 真尋(たかつき まひろ)』は残業を終え、人気のない夜道を歩いていた。
空腹だった彼は遅くなった夕食を求め道沿いにあるレストランに足を踏み入れる。
レストランにいたのはシェフとして働く1人の少女『門永 零(かどなが れい)』。
彼女は閉店直前にも関わらず、真尋を飲食店に招き入れる。
天使のような笑顔に真尋は零に一目惚れの感情を抱きながら、席に腰かけ、料理を注文する。
誰にも邪魔されず、異性と2人きりの心躍る空間。
豪華な晩餐を味わう最中、ふと零は月を見上げて言った。
誰でも共感を抱くただの一言・・・・・・しかし、真尋は知る由もなかった。
それがこれから起ころう悪夢の始まりだった事に・・・・・・
- Re: 銀の贖罪 ( No.1 )
- 日時: 2020/02/05 19:41
- 名前: 甘いモルヒネ (ID: FWNZhYRN)
俺の名は『高月 真尋(たかつき まひろ)』、だらしないながらも平凡に暮らす27歳の男性だ。
高校卒業後、故郷である富山を離れ今は東京のアパートで1人暮らし。
コンピューター関連の仕事をしており、決して得意ではないが同僚と助け合いながら何とか働いてる。
職務に就いてから早4年、ようやく職務に慣れてきたところだ。
俺の子供の頃の家庭環境は最悪だった。
親父の暴力にお袋が去り、俺も家を飛び出した。
しばらくは、隣の県に住んでる不良仲間の『哲治(てつじ)』って奴の元で暮らし、無秩序な生活を繰り返した。
そしてある日、絶対に許されない最悪な過ちを犯してしまった。
嫌でも忘れられない。それは満月が浮かぶ深夜、俺が哲治と快楽を求め街をぶらついていた時・・・・・・いや、これだけは俺とあいつだけの秘密にしておこう。
犯罪を繰り返してるうちに、遂に俺は警察に捕まってしまう。
今まで犯してきた前科がバレず、運よく釈放されたがそれ以来、恐くて犯罪を犯せなくなった。
だが、親父のいる実家にはどうしても帰りたくなかった。
それで仕方なく哲司に礼と謝罪をして別れると、故郷へ戻り親戚の婆ちゃんのいる家へと身を移したというわけだ。
婆ちゃんは家庭の不幸で苦しんでいた俺に、涙を流し心から同情してくれた。
その日から俺は、これまで犯してきた罪の悔い改め、真面目な人間として生きる事を誓った。
それから1年後・・・・・・俺は就職試験に合格し、晴れて社会人という大人に仲間入りを果たしたのだ。
俺は婆ちゃんにいつか、今よりも立派になってまたここに戻って来ると約束し東京へ旅立った。
これが俺の最低とも最高とも呼べる人生。しかしその直後、事件が起きる・・・・・・
就職してから数年後、アパートで寛いでいた最中に俺のスマホが鳴る。
スマホを耳に当て、もしもしと返答を待ったが相手は哲治ではなく、彼の母親だった。
彼女は泣いていたのか、鼻を啜り涙声で"真尋くんだよね?"と聞いてきたのだ。
"真尋くんの家に哲治はいるのか?"と聞かれたので、迷わず"いいえ"と答える。
正直驚いたが、俺はとりあえず冷静になり哲治の母を落ち着かせると、何があったのかと問いかけた。
返って来た台詞に、俺は言葉を失う事となる。
数年前に同居していた哲司が行方をくらましたのだ。
哲治はまともとはお世辞にも言えない性格で、欲を満たすためなら手段を選ばなかった。
考えたくもない推測だが、哲司はヤバい女に手を出して暴力団に連れて行かれてしまったのか?
想像すればするほど恐ろしくなって、体の震えが治まらなくなった。
哲治の事は気の毒に思ったが、俺に詮索する気にはなれなかった。
警察に関われば俺の素性だって今度こそ公になってしまうかも知れないし、そんな危険なリスクは犯せない。
自分を正してくれた婆ちゃんを悲しませたくなかったし、せっかく手に入れた幸せな人生を失いたくなかったのだ。
俺がしてやれる事と言えば、またあいつが俺や家族の前に無事に帰って来てくれる事を祈るだけだ。
- Re: 銀の贖罪 ( No.2 )
- 日時: 2020/02/12 20:42
- 名前: 甘いモルヒネ (ID: FWNZhYRN)
「それにしても、腹減ったな・・・・・・」
今思えば、俺はまだ夕食を口にしていなかった。
さっきから腹の中から聞こえる、間の抜けた音が鳴り止まない。
お昼を済ませてからというもの、あれからずっと飲まず食わずのまま、仕事に明け暮れていた。
集中し過ぎていたあまり、空腹すら感じなかったのだ。
「コンビニで買うのもめんどくさいし、家に帰ってもカップヌードルや缶詰しかないしな・・・・・・仕方ない・・・・・・今夜もそれでで我慢するか・・・・・・」
だが、虚しさを感じていたその時、俺はあるものに関心を寄せられる。
そう遠くない正面の左側、曲がり角の通路沿いにある建物が1軒、灯かりが点いていて目立っていた。
近くで窺うと、それは民家ではなかった。
内側を覗くと、テーブルや椅子が無数に並べられ、花の蕾を模った照明が部屋を紅茶色の明かりで照らしている。
扉の横に飾られたフランス国旗が風に揺れ、上には『ボナペティ』と店名が刻まれていた。
すなわち、これは小さなレストランだ。
「そう言えば、いつも気にかけずに素通りしていたが、ここにレストランがあるんだったな・・・・・・」
俺は独り言を零し、しばらくそのレストランの前で立ち尽くす。
このレストランは俺の残業と競い合うように夜遅くまで営業していた。
横を通るとたまに洋風料理の香ばしい香りが漂ってくる。
有名なのかは定かではないが、スマホにこの店の広告通知が来たのを薄々覚えていた。
ちなみにその内容とは、新メニューであるロースステーキの紹介だった。
「たまにはレストランでステーキを注文するのも悪くないかもな。ちょっと値段は高いだろうが、今日ぐらい贅沢しても罰は当たらんだろう」
普段は眼中にもなかったが、心の片隅ではいつか行ってみたいという気持ちもなくはなかった。
俺は好都合なタイミングと、念願の豪華な食事にありつける嬉しさに胸を躍らせ、レストランの玄関へ一直線に向かう。
掴んだ取っ手を回しドアの鐘を鳴らすと、店内へ足を踏み入れた。
時間も時間で店内の客は俺1人だけで、恐らく自分が最後の来客だろう。
どこを見回しても無人で、空席ばかりの椅子とテーブルがきちんと並んでいた。
店内は音楽もなく美しい音色の代わりに、天井であるシーリングファンが風の音を立てて回り続ける。
しかし、肝心の店員の姿も見当たらず、本当にオープンしているのか疑いたくなるほど、人の気配が感じられない。
「・・・・・・本当にまだやってるのか?」
訝し気になってもう一度、店内を見渡し念のため後ろも確認する。
さっきまで膨らませていた期待が、だんだんと深い失望に染まっていく。
ほとんど諦めかけた気持ちで"すみませーん"と呼びかけようとした時・・・・・・
「・・・・・・うわっ!?」
急に何かが飛び出してきたかと思うと、それは俺の前で立ち止まった。
現れたのは、俺よりも背の低い1人の若い女だった。
頭に白いコック帽を被り、同色のコックコート、首に赤いスカーフを巻いている。
このレストランのシェフだろう。
彼女も俺の驚愕の声にビクッと身体を震わせ、同じ表情でこちらを凝視した。
よく見るとそのシェフはとても可愛かった。
俺に比べ少し年下のようだが、大人らしさがある。
整えられ艶やかさのある白い髪、青くぱっちりとしたつぶらな瞳、顔立ちも美しい。
着ている衣装もとても似合っていて女性の魅力を引き出していた。
「・・・・・・」
俺はかける言葉を忘れ、顔をちょっとばかり赤くする。
認めるのは恥ずかしいが、彼女に見惚れしてしまい視線を逸らせなかった。
「あの・・・・・・」
驚いた眼差しを崩し、シェフが静かに口を開く。
「すみません。ここ、10時までなんですけど・・・・・・?」
「え?・・・・・・あ、ああ・・・・・・!す、すみません!」
静かな声に俺はようやく我に返り、あたふたと何とか頭に浮かんだ言葉を返す。
子供に対して敬語を使い、慌てふためくとは情けない。
「そうとは知らずに・・・・・・ま、また来ます・・・・・・!」
逃げるようにその場から立ち去ろうとすると
「待って下さい。帰らなくても大丈夫ですよ」
どうしてか、シェフは俺を呼び止め背中を振り返らせた。
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