複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

【リレー企画】世界紀行 ~troubadour’s~
日時: 2020/03/09 11:06
名前: おまさ (ID: 2nMcmtOU)

 

『世界を呪う輩は、
 世界を知らない』

(You are foolish.look at the our world.)




 
 これは、一介の吟遊詩人である少女と、それが紡ぐ運命の螺旋の立会人の青年の物語。



 曰く、彼らは西の地の果てを目指している。
 曰く、彼らの宿願は彼の地の翠巒に達することで成就する。
 曰く、彼らは己の価値を、愛を捧ぐためと嘯き、定めんとする。






















































※ギャグファンタジーになる予定です。



***
 そんなわけで、リレー企画です。宜しくお願いします。



リレーメンバー

 おまさ
 マッシュりゅーむ

Re: 【リレー企画】世界紀行 ~troubadour’s~ ( No.1 )
日時: 2020/03/10 18:39
名前: おまさ (ID: evK4EJEz)

1



「ーーーー」

 ーーポロン。ポロロン。

 馬車の上でうとうと微睡んでいたところに聴こえてきたのは、柔らかな弦楽器の音色だ。
 アコースティックな撥弦楽器の心地いい声音は、昼下がりの陽光と相俟って快い眠気を誘う。この眠気は長旅の疲れと楽器の旋律によるものだろうが、多分、それだけではない。
 ーー弦楽器の奏者の音の響かせ方、聴かせ方が非常に堂に入っているのだ。

「ーーー」
 指の運び、呼吸、旋律の奔流。全てが心地よくできている、鍛練の賜物。
 それら全ての要因が、睡魔を誘う。いよいよ瞼が本格的に重くなってきた。

「ーーー、」
 交睫し、眠りにつこうとしているのを奏者は一瞥し、演奏を止める。そしてふっ、と微笑むと、








「ーーーーおきろ」
「ーーーぷろぱがんだっ!?」

 楽器の胴を掴み、そのまま腹を目掛けてジャーマンスープレックス。左腑に突き刺さった楽器のヘッド部分と、それに伴う鋭い痛みに奇声をあげながら覚醒した。
 
 転た寝を中断されたことへの不満と、今もなお悶絶している脇腹の痛みへの正当な抗議をぶつけようとして、件の奏者に涙目で詰め寄る。


「いきなり何すんのメレ!? それに何度も言ってるけど、吟遊詩人ならもう少し楽器を丁重に扱え!」

 メレ、と呼ばれた少女ーーと呼ぶにはやや語弊のある幼さの、紅顔可憐を具現化したようなその幼女は、その嫋やかな白髪を揺らして無表情に答える。

「これは、がっきではない」
「…楽器は武器屋で売ってるくだりは飽きたぞそろそろ。つーかさっき普通に弾いてたじゃん」
「……..これは、がっきではない。でも、ときどきがっき」
「さいですか。ああ、さいですか」

 不羈奔放ぶりにそれ以上の追及を諦め、後回しにしていた疑問をぶつける。



「それで?何であんな激しい起こし方したんだよ。護衛の俺はともかく、普通の人にやったら多分吐いてるぞ」
「…あれ」

 メレが指す方角を上体を起こして望む。思わず「おぉ」と感嘆符が出る程度には、今の自分達には確かに価値のある光景だった。
 隣の相棒に問いかける。
「馬車で一ヶ月移動した甲斐はあったな?」


 幼女は答えない。ただ、その白い瞳は確かに興奮に満ちている。……相変わらずの無表情だが。
 その様子に頬が緩むのを感じながら。









「ーーーアルベロに、到着だ」


 先頭で馬車を引いている馬が、小さく嘶いた気がした。




2

 吟遊詩人とは、根なし草のようなものだーーーとは、吟遊詩人という職を見事に客観視した言葉だとダインは思う。

 事実、多くの吟遊詩人は定住地を見出だすどころか探そうともしない。
 否、むしろ彼らはそういう生き物なのだ。各地を点々とし、民衆に歌が飽きられれば再び旅に出る。そして行き着いた先で再び旋律を奏でる。そういう生き方を選択した者たちなのだ。

 メレと自分のなりそめについては、実はあまり覚えていない。
 ただ確かなのは、自分達はそうして生きることを良しとしたことだ。
 形あるものを残すことなく、歴史に呑まれて消える。ーーー歌という形のない楔を打ち込むことしかできないけれど。
 
 それでも、吟遊詩人は栄えある矜持を以て今日を逞しく生き抜くのであるーーーー。










































ーーーのだが。


「….なん、で」
 自分の声は戦慄に震えていたーーーいや、むしろこの光景を見て戦かない方がおかしいだろう。

 それなのに、この状況に陥っても平然としているメレは、異質。思わず胡乱げな視線を向けると、呆け声が返ってくる。


「…..?」
「….おい」
「……..ふご?」
「まず口のなかに物入れて喋んなよ…っていうか、」




































ーーーー目の前にいる、フィヨルド並にアゴが隆起しているおっちゃんが、すっっっっっごい怖い顔をしてガンをつけてくる。





(….いったい何やらかしたのかな、コイツ)

 あまりの眼光に愛想笑いをひきつらせている俺の横でメレが、盗ったであろうナツメをもきゅもきゅ貪っていた。

 
 





 

Re: 【リレー企画】世界紀行 ~troubadour’s~ ( No.2 )
日時: 2020/03/16 10:08
名前: マッシュりゅーむ (ID: .pwG6i3H)

「おいィ、嬢ちゃん」
 アゴが遂に痺れを切らし、その強面を横にしながらメレの顔のすぐ横に近づける。近い。
 俺はこいつの護衛として助ける立場なのだが、一応まだ話しかけてきただけなので様子を見る。
「おい……おいっ!」
「……」(もぐもぐ)
 が、当の彼女は素知らぬ顔でその小さな口を動かしている。すごい胆力だ!
「おい、今すぐ吐け、こいつの——」
「……」(ゴクン)
 そして飲み込んだああぁぁぁ!!
 盗んだ物食べちゃったよ、あぁあやっちゃったよメレどうすんのこれから、と俺は他人事みたく傍観していた。

 実はそれは間違いだった。

「もういいだろ、早く吐け!」
 アゴはせかすように彼女にまた話しかける。もしかしてメレがもう飲み込んでしまったのを見ていなかったのだろうか。
 すると、今度はメレが口を動かす。
「コイツの名は、ダイン」
 俺に指差し、なぜか俺の名前を言い出した。
「独身、童貞。好物は揚げパン」
 次々に羅列されていく俺の情報。そしてアゴはふむふむ、と熱心にその話を聞いている。
 何が何だか分からない。
「あ〜〜、メレ?今そちらのアゴ——ゲフンッ!おじさんと何話してるの?」
 疑問を言ってみる。と、——
「よしっ!分かった。ありがとう嬢ちゃん」
「……ん」
「これが報酬だ」
「……んっ!」
 俺の問いは空回り、二人は何かを終えたように頷き、握手する。 
 俺だけ完全に蚊帳の外で最後まで話についてけなかった………。
 まぁ、いいか。二人とも楽しそうだし。

「じゃあ…………だ、ダインくぅん?」
 と、今度はアゴが俺の方に向いてきた。

———その顔を、淡く赤に染め、上目遣いで。

「………」
 楽しそうに話していた二人に乗せられ緩んでいた表情筋が動かなくなる。主に、急に背筋を這った悪寒で。
「は、話で聞いたんだけどぉ……」
 うん?喋り方が……。
「揚げパン……好きなんだってェ?私、良い店知ってるから紹介するわよぉ?」
 そのキャピキャピした猫撫で声と、己を獲物のように見定めるその眼ですべて察した。

 こいつは俗に言う———オネェだ。

 俺みたいな若男を喰らう———怪物だ。

「……」
 もちろん世の中には善良なオネェさんもいる。しかし今目の前にいるこいつは駄目だ。邪悪な奴だ。

 そしてもう一つ分かったことがある。

「……メレ…お前ェ……売ったな………?」
「……?」(もぐもぐ)
 何食わぬ顔で——実際は先程貰った『情報料』を食っているメレ。そう、つまり最初のナツメは盗んだのではない。前金だ。
 そしてその情報とは———

「——さぁ。………一緒に行きましょ?」
「———」
 そして俺は味方が一人もいないことを確認し——駆け出す。

———疾く、速くッ!!!

 俺の世紀の大脱走は、しかしドチャクソ速いアゴネェによって阻まれるのであった。





 その日、一人の善良な青年の悲鳴が、街中に響いたそうな。

Re: 【リレー企画】世界紀行 ~troubadour’s~ ( No.3 )
日時: 2020/04/02 17:36
名前: おまさ (ID: iv9jnC9n)

 ーーーーどうしてこうなった。





「………そっかぁー。メレちゃんとダインきゅんは、旅をしているのねえ」
 
 ……。

「だったらさあだったらさあ!アタシ一緒についていってもいい!? ねェ、きぃぃぃぃっと、役にたつわよお?」

 ……。…………。

「そうだっ!出発の前に、例の揚げパンを買いにいかなぁーい??? ここからそう遠くないしー、ね?」

 ………。……………。




…………………………。………………………………………。




















「ね、ーーーーーダーリン?」


「…………………..っっっほわぁぁぁぁぁあああ!?」




2


 奇声をあげてしまったが、逆にあげない胆力のある奴の方がおかしい。嗚呼、神よ俺が何をした。
 
 今現在、俺とメレは馬車を降りてアルベロの街をのんびり散策していた。
 いや。
「……もう一人いたんだった…」

 そう、大変不本意ながら、運命の神様はもう一人の指名をご所望であった。そのもう一人こそ、先程遭遇してしまったホm……..ゲフンゲフン、オネェさんである。
 この人こそ、先程からやたらくっついてくるわ腕を胸の前で抱きいれているわ、挙げ句俺の事を『ダーリン』とか呼んじゃう脳内ぱっぱらぱーなお人だ。

 ケツアゴの、顔面玄武岩のおっさんに上目遣いで見られるのは少々ーーーいやだいぶ、精神的磨耗が凄まじい。絵面も喜劇どころかパニックホラーである。

 絡みのシチュエーションとしてはなかなかに贅沢な構図だが、それは俺の腕を抱き締めている相手が女の子であるという前提条件が成立していないと、何ら意味を持たない。相手がやけにガタイのいいおっさんだと、俺の肘が相手の胸に当たったとき、その感触を噛みしめて『Oh…..パイパニック…///』ーーーーとはならない。

 そんなわけで俺は、この事態を作り上げた張本人の女の子を、じと目で睨む。




「……。」

「ーーーーーー?」





 クッソこいつ人の事を『心外だ』みたいな目で見返してきやがったっ!!

 俺は内圧を下げるように息を吐いた。

 
「お前俺に何をさせたいんだよ…」
「ーーーーナニを、ですってっ!?」
「ちょっと黙っててくれる!?」



 ああやだもうこの人面倒臭い。
 半分諦めの境地で改めてメレと向き合う。メレは、可愛らしい頬を不服そうに膨らませた。

「これも全部、ダインのため。わたしのため」
「マジかよ。じゃあ俺のさっきの悲鳴は何だったんだ?」
「あれは日常」
「俺の感情の行き場がねぇ!」

 多分、メレは特に理由もなくオネェさんを紹介してきたのだろう。事実、メレは理屈より直感で動く類いの人間だし、「俺<ナツメ」であることは間違いないと思う。非常に厄介だ。

「ダーリン、そういうときはぁ、全部アタシにぶつけて貰っていいのよ…? ーーー嬢ちゃん、ありがとな。旬のナツメは沢山あるから、後で幾つか持ってっていいぜ。俺からのお礼だ」
「ありがと」
「おうよ」

 そしてもうひとつ厄介なのがこのオネェさん。なんとこのお方、話す相手によって器用にスイッチを入れたり切ったりされているのだ。メレが「自分は正しい事をした」と勘違いするのも、これが原因である。










 ーーー何で俺はこんな奴と旅をしてきたのだろう。

 時折不思議に思うのだ。何処に行っても、メレと一緒にいる限り俺は彼女に振り回され続ける。今回もそうだし、以前訪れた土地でもそれは同じだった。
 ーー傷付きたくない。嫌な思いはしたくない。
 それは誰でも持っている、本能的な感情。俺も同じだ。以前同じようにメレに遊ばれ、本気で怒ったことも、いっそこのまま居なくなってやろうかと思ったことも幾度となくあった。
 でも。
 それでも、俺を引き留めている何かがあることは自覚している。俺が護衛という肩書きを背負っているのも、同じような「何か」によるものだ。

 今はもう、記憶の片隅にしかないけれど。ーーあの炎の夜、何もかもを踏み躙られて。同じく己の命以外を全て蹂躙された彼女と俺は、その時からずっと。

























『xxxxxxx』

 ーーーー何かを誓って、何かを謳って、何かを見失って。その何かをずっと、探している。

Re: 【リレー企画】世界紀行 ~troubadour’s~ ( No.4 )
日時: 2020/04/08 13:49
名前: マッシュりゅーむ (ID: YuPjYlyf)

「あ〜〜〜、めっつぁ疲れたぁああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!」
「……うるさい」
「おい、誰のせいだと思ってんだ」
「そうだぜぇ、嬢ちゃん。分かっててしらばっくれるのはよくねぇぜ。———ねェ、ダーリン?」

 テメェもだよ。

 そう、心の中で呟きながら睨む。その視線をどうとったのか、「アぁ、痺れるはぁ〜〜っ!」と両肩を抱き叫ぶアゴネェ。

 今現在俺たちは、この街を散策——という名のアゴネェとのデート——をし終えて、夕日の綺麗な中央のメインストリートの脇、人の邪魔にならないとある一角にたどり着いていた。
                     ・・・・・
 なぜこんな場所に来たかというと、これからとある準備を行うためである。

 ネェさんと俺が眺める中、メレは地べたに胡坐をかき、その慣れ親しんだ行動をとり始める。その小さな両腕に包んだ弦楽器。その調整を黙々と行っていく。

「……」
「……」
「……」
 その間、俺たちは一言も喋らない。メレは精神を集中の渦に埋めて、ネェさんはこの空気の何かを察して。

 俺は、これから始まる彼女の『物語』に期待しながら。



「……………」
 楽器を構える。始まりは、彼女次第。
 細めていた瞳をゆっくりと開く。上を仰ぎ、再び目を閉じた。

 ここから先は、彼女の独壇場。

「………ふぅ」
 小さく息を吐き———果たしてその唄は幕を開けた。

「…——〜〜♪」
 ポロン、ポロン、と、彼女の指が動く、その小さな口が開く、音が震える。そのたびに、それが美しい音色となって空気に溶け込んでいく。

 今回彼女が紡ぐのは、とある小さな村にひっそりと伝わる御伽噺。ほとんどの人が知らない、しかしその村では語り継がれ、大事にされている『物語』。
 吟遊詩人は、そういった『埋もれた宝石』を見つけ出し、届けることが使命だ。

 その噺を選んだのは、何か理由があるのだろうか。はたまた、ただの気まぐれだろうか。

「〜〜♪」
 その、暖かいような、冷たいような。悲しいような、嬉しいような音が響くたび、俺の——否、俺達の心は揺さぶられ、自然と聞き入ってしまう。
 街の人は、体が勝手に動いてしまったかのように、自然と引き寄せられてくる。

 そんな人々が、この唄に魅せられ、集まってきていた。

「〜〜♪」
 誰も何も話さない、しかし多分、いやきっと俺達の心は、この『物語』という名の糸でこの瞬間は、確かに繋がった。
 頭の中に広がる情景、進んでいく話、登場人物達の表情。一つ一つがコマ送りのように脳裏に流れていく。

 これが、吟遊詩人の本質。その魔性で、人々を簡単に落としてしまう。

 俺も、ネェも、他の人達も、静かに彼女の『物語』に身を委ねていた。



「〜〜———」
 どれだけ聞き入っていただろうか。気づけばそれは終わっていて、俺はまるで一冊の本を読み終えた時のように達成感と高揚感に浸っていた。

「———」
 辺りの集まっていた街人は我に返るように、はっとして———一瞬置いて一人が拍手をし始める。
 それを聞き、他の人も遅れて拍手を始め、すぐに波紋のように音は広がっていた。


「お疲れ、メレ」
「……ん」
 声をかけると語り手は——メレは、疲労感を滲ませながら満足そうに答えた。



Re: 【リレー企画】世界紀行 ~troubadour’s~ ( No.5 )
日時: 2020/05/01 14:23
名前: おまさ (ID: r1bsVuJn)







Stand by me. but I'll never go back.












***









 歌の余韻がいまだ空気に混じる夕暮れの中、演奏を終えたメレの隣になんとなく俺は腰を下ろした。メレはいつもの無表情で、楽器のペグをいじって弦の張りを調節している。
 そうして調弦しながら、優しく楽器の腹を抱いていた。

 ーーその無表情さの中に、僅かに滲む慈母のような感情は。




「…付き合い長いけど、未だにお前の楽器の扱いわっかんねぇわ」
「…フッ」
「何故笑ったし」
 鼻で笑うメレを反射的にじと目で睨む。





 するとーー、

「だ、あ、り、ん?」
「あーハイハイ、ダーリンですが何か?」


 面倒なので適当にあしらおうと棒読みになった俺に、ネェは頬を膨らませーーーていない。震えている。何か傷付けてしまっただろうか。
 こんな奴に謝るのは業腹だと思う自分もいるが、それはそうと礼を損ねた行いは謝らなければ。


 そう思い、口を開きかけた次の瞬間、









「ーー言質、獲ったどぉぉぉおおお!!」
「うぉっ!?」


「今、今、今言ったよねっ!私のダーリンだって、言ったよね!?」
「はっ!? あ、いや、違くて!」
「んならば! アタシの大勝利確定っ! 今日は赤飯じゃうしゃしゃしゃしゃーいっ!!」
「話を聞け! 誤解だ、冗談じゃねぇ…!」


 狂喜乱舞するネェ。ーーキモい。……いや、そんなことよりも本気で本当に、冗談じゃない。抗議するように視線をメレに向ける。とーー、


「…ダイン」
「…何だよその胡乱げな目は」
「ーー。ーーーー。やっぱり男がす、」
「言わせねぇよ!?」





 疲れた。

2


 さて、そんなこんなで、いよいよ西陽が傾いてきた。茜色の夕暮れの帳が、暗くなりつつある。ここアルベロの街灯の下にも点灯夫の姿があり、ガス灯に火を灯してまわっていた。
 それを横目に、俺達三人は夕刻の街路をのんびりと歩いていた。


「どうだメレ、疲れたか?」
「……。別に」


 問い掛けると、少々むすっとした声が返る。なるほど、姫は徒労のようだ。

「…いやでも、お前そこまで今日動いてなくない?」
「…うるさい。あと、揺れる」
「背負われてんのに何て身分だよ…」

 出発の時にぐだるので、仕方なく背負ってやるとこの始末である。振り返って背中の上の相棒を見れば、凄まじく瞼が重そうだ。できるだけ早く、今日の宿に着きたい。
 
 そんなことを思っていると、メレの楽器をやけに大事そうに運んでいるネェが話しかけてきた。

「それで、ダーリンは5日間この街に滞在するの?」
「ああ。メレの講演と旅支度を見越して3日、後の1日は観光で、5日目に発つ予定」
「…そっか。じゃああと2日、メレちゃんの歌が聞けるわけね」
 気丈に笑うネェ。何だか気まずい空気になるのを恐れ、俺は咄嗟に声を出した。




「ところでさーーー揚げパンの店って、どこにあるか教えてもらっていいか?」

 ネェは、一瞬呆気に取られたが、すぐに破顔した。


3




 件の店には、五分とかからなかった。

『アタシは、ちょっと店を片付けてこなくっちゃ。またね、ダーリン』

 店の場所を教え、投げキッスを残して途中で別れたネェの言葉を思い出して嘆息する。
 正直、「またね」という言葉にガチな気配しか感じない。怖い。

「…あんな巨体に夜這いされるとか、ゾッとしねぇ…」
 ええい、こんな感慨は、揚げパンに癒してもらおう。
 もうすっかり夢の中のメレを背負い直し、件の店の看板を見上げる。


ーーーパン屋『銀の麦』。小さな木製の看板にはそう書かれている。


 アンティーク調の装飾が映える、小さな街角パン屋。ネェ曰く普段はかなりの賑わいだそうだが、幸いなことに今日は空いていた。
 先程から鼻腔をくすぐるのは、どうやらパン生地の匂いだ。食欲を刺激する優しい香り。

 「よし、とりあえず入ろう」

 ドアノブに手を掛けた。











 



「ーーーーいらっしゃいませ!」

 












**********


引きを作ったところで、謝辞および祝辞をば。






マッシュ様、マルくん様。
セイテンノカゲボウシ閲覧数5000、ならびにセイカゲEX閲覧数500突破おめでとうございます!!


加えてマッシュ様は、『商人』閲覧数1000突破ですね。おめでとうござんす!破竹with勢い……イヤ、with じゃないな…。
前置詞のことは置いておいて、『商人』の更新速度は自分も見習わないと。



また、こちらのスレも早くも閲覧数100に到達ですね。まだまだ物語は続きますので、皆様どうかお付き合い下さい。






…よっしゃ、字数は稼いだ。


続きはマッシュ様に、












































丸 投 げ 製 麺 (^^)/






Page:1 2



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。