複雑・ファジー小説

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モテない男子と完璧女子【完結!】
日時: 2020/04/19 18:04
名前: モンブラン博士 (ID: daUscfqD)

お久しぶりです!モンブラン博士です!何年ぶりかで複雑ファジーで短期連載を開始します!
これまでの作風とはちょっと違う恋愛ものなので、楽しく読んでいただけると嬉しいです!

Re: モテない男子と完璧女子 ( No.2 )
日時: 2020/04/19 11:48
名前: モンブラン博士 (ID: daUscfqD)

私、栗原は女子が好きだった。昔から女の子といると安心したし、暴力的な男子よりは女子の方が穏やかで話を聞いてくれるというのも理由の一つだった。小学生の頃、休み時間の私の過ごし方は女子と何気ない会話をするか読書をしているかの二択だった。特に恋愛関係など当時は考えたこともなく、毎日学校に来て当たり前の日常を過ごす。そんな平凡な日々が何より幸せだった。
永遠に続けばいいのにと思っていたが、運命は残酷だった。時は過ぎていき、あっという間に六年生、そして小学を卒業し中学生になってしまった。中学での私の生活は——ええい、思い出したくもないのだが、赤裸々に書き綴るとしようか。私はいじめられっ子だった。
知っての通り中学は他の小学校に通っていた子達も多く集まる。クラスで一番小柄で運動神経も鈍かった私は入学してからすぐにいじめられっ子に目を付けられてしまったのだ。
鉛筆や消しゴムを奪われるという窃盗紛いのことをされたり、チョークスリーパーなどのプロレス技の実験台にされることもしばしばあった。これが教室での出来事なら誰かが気付いて阻止してくれるかもしれない。だが、奴らは狡猾だった。決まって人気の少ないトイレで私をいじめるのだ。男子トイレだから女子は入れないし、教室よりは人通りは少ない。短い時間でいじめ、すぐにいじめを止める。何とも卑怯な奴らだ。しかも、私がトイレに行くと決まって中でたむろしていて絡んでくる。だから私はトイレに行くのが苦痛だった。しかし生理現象なのでいかないと大変なことになる。そこで私が取った苦肉の策が、授業中にトイレに行くことだ。これなら一人で思い切り安心してトイレができる……と思ったら大間違い。私は過去に悪ふざけで小便をしているところを後ろから覗かれたことがあった。何でも巷ではよく行われているいたずらだという。
だが、やった側はほんのおふざけでもされた側はたまったものではない。
それ以来、私は洋式トイレの中に籠ってでしか小便を足せなくなってしまった。
こういう苛めは後々まで影響する。ダメ、絶対。
中学時代はまさに地獄だった。人とちょっと変わっているだけで簡単にいじめをするとは、人類がいかに愚かかを身に染みて感じた。
その後、私はどうにか地獄を乗り切り(学校に行かなければという強迫概念と意地から、不登校などは絶対にしなかった)高校に入学した。
が、そこでもまた苛めを受けた。さすがに高校生にもなっていじめはないだろ?
と思ったそこのあなた、あるんだよ、いじめは。
私は高校でも相変わらず運動音痴で勉強も劣等生で小柄だった。まさに某タヌキ型ロボットに甘えてばかりいる男子小学生状態だ。こので世間を渡っていくのは地獄以外の何者でもない。しかも私は彼よりより酷い。彼は標準体型かつ標準身長なのだが、私は小柄で小太り、眼鏡で不細工だったのだ。おまけに変人と着ている。これではモテるはずがない。スクールカーストの最底辺に存在するのが私だった。誰もが私を見て安堵した。こいつよりはマシだから大丈夫だと。父に以前言われたことがある。
「お前の取り柄は人に自分より劣っている奴がいると励ましを与えることだ」と。
なるほど、一理ある。悔しかったが何の反撃もできなかったのが辛かった。
他の人は言う。
「誰かを見返したかったら努力しろ」と。
だが、私から言わせれば違う。
努力は環境があって初めて実るものだ。
クラスメイトや家族から永遠と劣等生の烙印を押され続けた私は努力することを放棄した。
努力は報われて初めて努力の良さを実感できるのだ。
何度も努力して立ち向かってもその度に敗北し続けたら、大抵の人は心が折れる。
私もその一人だ。
例えばどんなに野球の才能が優れていたとしても家族が野球をするのを認めなかったら?
当然、その才能はやがては消失してしまう。本人も野球が好きで才能があっても環境に恵まれなければ折角の才能も花開くことはない。
世の大半の人は実に無責任だ。
他人の挑戦を表面上では「頑張れ」「できるよ」「応援している」と口にするが、その挑戦が失敗したら「あいつは馬鹿だ」と罵る。成功すれば褒めるが、その難易度が極めて難しい。
だから人は挑戦することに億劫になる。これは当然の話なのだ。
少々脱線してしまったので話を戻そう。私の高校生活は無味乾燥なものだと思っていた。
いじめは一年の頃で病んだが、二年生に進級してから無味乾燥な日々が続いていた。
何の刺激もない日々、漫画のような青春とは全く縁のない生活に、自分の人生はどこで間違えたのだろうかと自問自答していた。あの日はいつものように高校の中庭を散歩していた。
朝早くに来て、散歩しながら考えを巡らせるのが私の小さな楽しみだったからだ。
日課のように歩いていると、ふと、見慣れない女子生徒がいた。
髪を金髪に染め、指にはネイルアートを施し、耳にはピアスをしている。
顔立ちは鼻筋も通って美人の部類に入るのだろうが、スカートを膝上まで短くしているのは感心しない。知らない女子だし無視しても良いだろうと、無言で通り過ぎようとした時だった。

「あのっ!」

突然、女子が声を発した。どうせ他の男に声を変えたんだろうと無視を決め込もうとする。

「ちょっと待ってくれない?」
「残念だが、君の意中の人は私は知らないよ。他の人を当たってくれ」
「他の人じゃなくて君に用があるんだよ。少しでいいから話聞いてくれない?」
「わかった。話してみたまえ」
「私と付き合ってくれないかな? その、彼氏として、さ」
「?」

彼女が何を言ったのか理解できない。なので、反復してみる。

「君は今、私に彼氏になってほしい、そう言ったんだね」
「うん」

ほんの少し顔を赤らめ、視線を逸らす。この女子は私より背が高いので顔を見る度に頭を少し上に上げる必要があるので首が痛くなりそうだ。私はできる限り笑顔で答えた。

「冗談はよしてくれ。告白の練習なら別の人を相手にした方がいい」
「違うんだってば。あたしは本気で君のことが好きなんだよ!」

その場を去ろうとする私の腕を掴み、じっと見つめる。それも、真剣な瞳で。
正直この目が演技だったなら彼女は今すぐ女優になれるだろう。それぐらい、真剣さが込められていた。試しに私は彼女に簡単な質問をしてみた。

「私の名前は何というか知ってるかね」
「栗原くんでしょ」
「名前を知っているということは少なくとも無関心ではないらしい」
「当たり前だよ。一年の頃からずっと好きだったんだから!」

数秒の間の後、私は彼女に問うた。

「本当に私でいいんだな」
「うん」
「後悔しても知らんぞ。私はこの学校で最も劣等生なんだ。他に優れた男だっていっぱいいる。
彼らと恋愛をした方がマシだと思うのだが、それでも私なのか」
「君じゃなきゃダメなんだ。君がいいんだよ……」

少し腰を曲げて視線を私に合わせ、弱々しい声で頼む少女。
私は嘆息し。

「君、名前は?」
「あっ、そうだよね。あたしと栗原くん、あんまり会話したことないからわからないよね。
あたしは宮本恵! よろしく!」
「宮本ちゃんね、よろしく」

私達は握手を交わし、こうして全く面識がない(私はそう思う)恵ちゃんとの奇妙な交際がスタートした。

Re: モテない男子と完璧女子 ( No.3 )
日時: 2020/04/19 17:52
名前: モンブラン博士 (ID: daUscfqD)

翌日の休み時間、私は壁一面に中間テストの成績上位者が張り出されているのを見た。
思わず口からため息が吐き出される。毎回、これを見ると憂鬱な気分になる。自分の名前が貼り出されていないからだ。これに載って証拠写真でも残しておけば家族は私を認めてくれるだろうか。そんなことを考えながら軽く成績上位者の名前をチェックしていく。すると、国語の欄の第五位に宮本恵という名前があった。よく見ると、数学、化学、英語、社会……全ての科目の中で五位以内にランクインされている実力者だと判明した。
どこかで聞いたような名前だが、私は思い出せない。
宮本恵、ウチのクラスにそんな名前の子がいただろうか。
気になった私はクラスメイトの男子に訊ねてみることにした。

「えっと、ほら、うーんと、何だっけ?」
「何じゃそりゃ」
「ああ、思い出した。ちょっと中間テストの上位者で女の子の名前があったはずなんだけど、誰だったか覚えてる?」
「そんなの自分で確認しに行けばいいじゃん」
「それはそうなのだがね。確認してもすぐ忘れちゃうんだよね」
「ああ、そうだったな。未だに俺の名前も覚えていないもんな。クラスメイトなのに」
「ごめん」

彼はクラスでも割とよく話す仲の良い男子だ。ただ、名前は知らないが。
彼は私の癖を知っているのか苦笑いした後、少女の名を告げた。

「女でランクインしてるって言ったら宮本恵だろ。あいつ全教科でベスト五だぜ? 凄いよな」
「へぇ、凄い子なんだね」
「おいおい。お前、宮本を知らねぇのか。って知らねぇよな。本ばっか読んでいるし、交友関係狭いし」
「一理ある」
「いいや百理はあるぞ。宮本は完璧超人ってあだ名されるくらい何でもできるんだよ。手先は器用だし運動神経抜群だし、弁当も手作りしてるし。学校じゃかなり有名だぜ。友達多いしさ」
「ふーん……」
「反応薄いなー。まあ、お前だから仕方がないけどさ」
「教えてくれてありがと」
「おうよ」

宮本恵か。そんなに優秀な子なら劣等生の私の苦労など知らないんだろうな。
彼女に出会ったら出来ることなら蹴飛ばしてやりたい。
ブツブツ口の中で愚痴を零していると。

「何喋ってんの?」

ニカッとした笑顔で昨日の少女が顔を出してきた。相変わらず不良にしか見えない。
突然のことに心臓をバクバクさせながらも、平静を装う。

「ああ、君か」
「昨日に続いてまた会ったね〜。これって運命の出会い、的な? それで栗原君に相談なんだけど、土曜日とか暇だったりする?」
「まあ、予定は無いね」

すると彼女はガッツポーズをして私の両肩を掴み。

「今週の土曜日、あたしとカラオケデート行こうよ!」
「カラオケか。悪くないね」
「よっしゃ決まり! ってあたし、栗原君の家とか電話番号知らないんだった……教えてくれない?」
「断る」
「……っていうと思ったから安心して! 個人情報の流失を心配してるんでしょ。あたし、こう見えても口とかめっちゃ堅いんだよね。約束は守るし、友達とかが不利になること絶対しないし」
「信用できないんだが」
「大丈夫! 電話番号はダメでも家の場所だけ教えて貰えればオッケーだからさ」
「集団で家を包囲しそうだな」
「アハハ、あたしってそんなにイメージ悪い? めっちゃ傷ついた。なんちゃって。嘘嘘、あたしはこれくらい平気だよ。ってことで教えてくださいっ」
「仕方ない」

私は彼女に家の場所だけ教えた。すると彼女は大喜びし。

「マジ嬉しい。ありがとう! じゃ、土曜日をお楽しみに〜!」


ケラケラと笑って去っていく彼女に、私は腕組をして考えた。彼女に教えても良かったのだろうか。

Re: モテない男子と完璧女子 ( No.4 )
日時: 2020/04/19 17:57
名前: モンブラン博士 (ID: daUscfqD)

「栗原くーん!」

大きな声で誰かが私を呼ぶ声がする。こんな朝早くに誰だろうか。
疑問に思いながらカーテンを開け、外を見ると金髪の少女が私に手を振っている。
私は基本的に早起きで5時30分には起床しているが、どうやら彼女も同じくらい早起きのようだ。身支度を整え、外に出る。

「ごめん、起こしちゃった?」
「いいや。起きていたから問題はないよ」
「そっか。じゃあ、カラオケにレッツゴー!」
「こんな朝早くに開いているものかね」
「もち。休みの日こそ早くから歌ってたっぷり楽しみたいじゃん?」

シャツにジーンズというラフな格好の彼女は首元に白いタオルを巻いていた。

「急いできちゃったから汗かいちゃって。臭かったらごめんね」
「生憎、匂いには敏感でね」
「酷いなあ」

そんなやりとりを続けながらカラオケ店に入り、飲み物を取って席に腰掛ける。
ここで私はいつまでも隠すのも相手に失礼だと考え、訊ねた。

「訊いてもいいかね」
「うん、何?」
「君、何て名前だっけ」
「あ〜、それ聞いちゃう? 覚えていると思ってた、ごめんね。
あたしは宮本恵。みやもとめぐみ、だよ」
「うん、ありがとう恵ちゃん」
「アハハ、どうしたしまして〜」

はて、宮本恵。どこかで聞いたことがあるような気がするが、どこだったかな。
記憶を遡り、思い出す。

「あっ!!」

突然の大声に歌っていた彼女の両肩がビクッと震えた。

「君が恵ちゃんか。確か、中間テストに載っていたよね」
「見てくれたんだ、嬉しいなー」
「全然嬉しそうに見えないんだけど」
「気のせい気のせい」

そう言って私に順番を進める恵ちゃんだったが、先ほどの表情、少し気になる。
もしかすると彼女は何かを隠しているのではないだろうか。
だがそんな疑問も好きな歌を熱唱する内に忘れてしまっていた。美味しいピザやチキンに舌鼓を打ち、女の子と2人きりの夢の時間はあっという間に過ぎてしまった。
時刻は14時になったので頃合いということで帰り支度をはじめる。
金髪にピアス、ネイルアートも変わらない。彼女の顔を覚えておこう。
多少お金はかかったが、楽しい時間に比べれば出費など問題ではない。
それよりも問題なのは、彼女の名前が思い出せないということだ。

「栗原君、どったの?」
「いや、何でもない。大丈夫だ」

慌てて誤魔化し、この日のデートはこれで終了となった。


Re: モテない男子と完璧女子 ( No.5 )
日時: 2020/04/19 18:00
名前: モンブラン博士 (ID: daUscfqD)

カラオケデートをしてから次の週、私たちは映画館に出かけた。
彼女が観たい映画があるらしい。だが、映画というのは互いの好みが違っていた場合は悲劇に繋がることもある。なので、念の為に彼女にジャンルの好みを聞こうとした。

「栗原君、アニメとか好き?」
「好きだがね。あまり人には言いにくい。この年でアニメを観ていると偏見を持たれるからね」
「そんなことないって。あたしもアニメ好き! ジャンルはお揃いだね!」
「好みの方向性があって良かったよ」
「映画券あたしが買ってくるよ」
「いや、私は自分で買うよ。君は先に買って待っていたまえ」
「いいっていいって、遠慮しないで。好きな男の子には奢ってあげたいんだ」
「そうかね。じゃあ、お言葉に甘えて」

彼女はニコニコ顔で買ってきたチケットを手渡す。彼女はついでにとホットドッグ二本とポップコーンを二袋、タッパー付きの飲み物を持ってきた。両手に抱えているので、私は奢ってもらった礼に荷物持ちを手伝い、上映場所へ向かう。途中、下をよく見ていなかったので躓き、転びそうになった。

「大丈夫!?」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして!」

空いた手で私を支えた彼女は一瞬不安そうな顔をしたが、すぐに明るくなった。
ひじ掛け椅子に腰かけると、彼女が私の手に手を添えてきた。

「やめなさい。恋人同士だと思われたら困る」
「いいじゃん、これくらい。誰も気づいてないし」
「しかし」
「大丈夫だって」

名前を知らない少女は私の肩に寄り掛かると静かに瞼を閉じた。
髪から漂うリンスの香りが私の鼻に入る。あまり好きではない匂いだ。
上映がはじまる頃に彼女は起きだし、その後は静かに鑑賞していたが。
ムシャムシャ、パクパク。
彼女の口が開け閉めし、物を食べる音がやたらに耳につく。
気になって映画に集中できない。少し苛立った私は告げた。

「もう少し、静かに食べてもらえないかね。映画に集中できん」
「あ……ごめん」

暗いので彼女の表情はわからないのだが、声には申し訳なさが伝わってきた。
上映が終わり、映画館を出る。映画館はショッピングモールの中にあるので、そのまま帰るのも芸がないということで残された時間を満喫するためにも、本屋に行こうということになった。本屋に行き、夢中になって立ち読みして、時間が経過する。
彼女は漫画本、私は小説を購入しそろそろ本当に帰ろうかというところで、私は違和感を覚えた。いつも、ズボンのポケットに入っているものの感覚がないのだ。一気に自分の顔が青くなるのがわかる。

「ヤバい!」
「どうかしたの!?」
「いや、ちょっと落とし物をしてしまってね」
「大変だ! あたしも探すよ!」
「いや、君はいい。ここで待っていてくれ」
「でも」
「いいんだッ!!」

突然の強い口調に彼女は動きを止めた。そして少し暗い声で。

「そう……だよね。栗原君は一人で探しに行きたいもんね。あたしってバカだなあ。
好きな人の気持ちも知らないで勝手に慌てて。いいよ、わかった。ここで待ってる」
「助かるよ」

私はインフォメーションへと歩き出し、目的の落とし物を訊ねる。
幸いなことに手帳はそこに落ちており、私のもとへ戻ることができた。
そして本屋に戻ると目の下を少し赤くした彼女が待っていてくれた。
私が見つかったと伝えると彼女は小さな声で「良かった」と言った。
その日の夜、私は気づいた。どうして彼女の目が赤く腫れていたのかを。
彼女は泣いていたのだ。理由はわからないが泣いていたのだ。映画のシーンを思い出し、泣いていたのだろうか。だとしたら彼女は意外と涙もろいのかもしれない。

Re: モテない男子と完璧女子 ( No.6 )
日時: 2020/04/19 18:03
名前: モンブラン博士 (ID: daUscfqD)

何度も交流を重ねるうちに名前を覚えるのが苦手な私も、少しずつではあるが彼女の名前を覚えるようになってきた。そして今では完全に覚えている。宮本恵ちゃん。私と同じ高校二年生で外見は不良にしか見えないが、成績優秀の才女である。なんで学年でもトップクラスの生徒で友達も多い彼女が私を好きになったのか。当初はお遊び感覚なのだろうと思っていたが、彼女の愛は本物だった。私が粗相をしたらすかさずフォローしてくれ、メンタルが弱く落ち込みやすい私をいつも励ましてくれる。どうして、なんの取り柄もない私にここまで尽くしてくれるのか疑問だった。落ちこぼれに対する同情なのだろうかと考えた時期もあったが、自分の中で結論を勝手に出しても仕方がないので訪ねてみたことがある。すると、彼女からの返事は。

「入学式の時に栗原君のこと見かけてさ、一瞬で好きになったんだよね。うまくは説明できないけど、感覚って言うのかな。栗原君は気づいてなかったかもしれないけど、あたし達、隣のクラス同士だったから体育とか芸術とか会う機会は多かったし、すれ違ううちにいつの間にか好きになって、付き合ってみたらもっと好きになってた」

ということらしい。正直、私には女子の気持ちはあまり理解できない。クラスにだってイケメンはいるし、勉強ができる男子もいる。そうでなくとも芸能人とかもいるはずなのに、どうして私に惚れたんだろう。どうやら彼女は恋愛観において相当に変わっているのかもしれない。でも、それならそれで変人同士、気が合うのも理解できる。
現在、彼女とは別々の大学に通っているが、土日や大学の講義がない日はデートを重ねている。いつの間にか、私も彼女を好きになってしまった。こんななんの取り柄もない男を好きになってくれた恵ちゃんの為にも、少しは男というか人間を磨かなければと思っている今日この頃である。

おわり。


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