複雑・ファジー小説
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- 失恋後、異世界召喚され魔女と呼ばれています
- 日時: 2020/05/27 17:27
- 名前: 結縁 ◆aOxlQEeWR2 (ID: 57ZTMspT)
【あらすじ】
古本屋で働く24歳、黒峰雪には5歳年上で遠距離恋愛中の彼氏がいた。
付き合って7年になる記念日に、数ヶ月ぶりに会えることになり浮かれる雪。
そろそろ結婚や同棲の話が出てもおかしくないと考え、楽しみに当日を待つが……。
実際に告げられたのは別れ。
突然すぎることに気持ちが追いつかない雪。
そんな消沈の彼女が眠りに付くと、助けを求める声が聞こえてくる。
切実な声を無視することが出来ずに、答えてしまう雪。
そうして眠りから目を覚ました時、雪は自室のベットではなく見知らぬ世界へと召喚されていた。
*
初めましての方は初めまして。
なんか見たことがある名前だなという方はお久しぶりです。
結縁です。
久しぶりに小説を書きたくなったので戻ってきました。
初の異世界恋愛ものです、まぁ和風な世界観は相変わらずですが……。
少しでも誰かに楽しんで頂ける作品になったらなぁと思いつつ、ゆっくりと書いていこうと思いますので、よろしくお願いします。
*
【目次】
プロローグ>>1
第1話・異世界召喚>>2
- Re: 失恋後、異世界召喚され魔女と呼ばれています ( No.1 )
- 日時: 2020/05/26 18:04
- 名前: 結縁 ◆aOxlQEeWR2 (ID: 57ZTMspT)
付き合って7年になる彼氏がいた。初恋は実らない、そんな言葉を覆してまるで夢か何かのように彼の方から告白してくれた。
嬉しかったし幸せだった、5つ年上の大人な彼のことが大好きで幸せだったし、遠距離で中々会えない環境であっても私の気持ちが変わることはなかった。
初めてデートした日のことも、一緒にお祭りに行ったことも、彼の家で手料理を振舞ったことも、全部鮮明に覚えている。
何度も、何度も繰り返される春夏秋冬の中で刻まれていく思い出たち。
お互いのことを知りすぎて、話せないことは無かったし、ドキドキの気持ちは安心感へと変わっていったけど、それでも歳を重ねるごとに、いつかは一緒に暮らして、結婚して家族になるんだろうと……そう思っていたのに。
久しぶりにお互いの仕事が落ち着いて、会えることが決まった。
数ヶ月ぶりのデートに胸も躍っていたし、約束したその日は彼との記念日で、付き合ってから7年目となる大切な日だった。
その日はいつもよりお洒落をして、古本屋の仕事中もなんだか浮かれてしまっていて、ソワソワとしていたのが店主にもバレバレなほどだった。
そして、午前中で済ませた仕事の後、待ち合わせ場所である喫茶店に行き、席を取る。
まだかな、なんて落ち着かない様子でスマホを操作していると、店内に来客を告げるベルが鳴り、彼がこちらへと歩いてくる。
その姿に何故か照れを覚えながら、向かいの席に彼が座るのを待つ。
と、先に口を開いたのは彼の方だった。
「久しぶり、待たせたかな?」
「全然! まだ来たばかりだったから」
何となく気持ちが落ち着いてくれなくて、手元のアイスティーの方に視線を落としながらそう答える。
「そうか、ならいいんだけどさ。あのさ、今日は大切な話があって」
切り出した彼の言葉に心臓がドクンと早まっていく。大切な話、もしかしてプロポーズされる? そんな期待が脳裏をよぎる。
顔をあげて、彼の方を見つめるのと、彼が言いにくそうに言葉の続きを話したのは同時だった。
「俺、今彼女と同棲していて、その、結婚も考えてるんだ。だから、別れよう」
「え……?」
何を、言われてるのか理解できなかった。
彼女? 同棲? 結婚? それって私達まだできてないよね。これから、2人で話し合って決めて、それからずっと一緒にいられる、そうじゃないの?
きっと私は酷い顔をしていたんだろう、全身の血の気が引いていく感覚だけが自分でも分る。
「雪には悪いと思ったし、好きじゃない訳じゃなかった。だけど年月が経つにつれて恋愛感情じゃなくて、雪は妹みたいな存在だなって思い始めて。それで、勝手だとは思うけど、今日で終わりにしよう」
「…………」
妹みたい? いつから? 急にどうして。私は今までの全部を貴方に捧げてたっていうのに。
思考がぐちゃぐちゃする、気持ちが追いつかないしまとまらない。
言いたい事、言わないといけない事は沢山あるはずなのに。思い出すのは彼との楽しかった思い出ばかりで、怒りすら塗り潰されていく。
黙ったままの私に、困った様子の彼。それを見て、ああ本当にこの人はもう私を女としては見ていないんだなと、どこか冷静な私が脳裏で呟いた。
「……分った、さようなら」
どのくらいの時間黙ったままでいたのか、自分ではよく分らない。
ただ重たい空気が漂う中、自分でも聞いたことの無いような低い声で最後の別れを告げた。
そうして会うまでの浮かれた気持ちが嘘みたいに、重く暗い気持ちを抱えたまま喫茶店を出る。
悲しいとかそういう気持ちよりも、虚無感の方が強くて、どうやってそこから家まで帰ったのか記憶が無い。
自宅のベットにダイブして、虚ろな視線でスマホを見る。
もう彼から連絡がくることはないし、私からすることもない。
私は、1人になったんだ、瞼を閉じ、そう痛感するとさっきまで少しも悲しくなかったのに、ポロポロと涙が溢れてくる。
「寂しい、辛い、なんで、どうして」
誰もいない一室で子供みたいに泣きじゃくる。
何がいけなかったんだろう、私が子供っぽいから? 中々会えなかったから? 歳が離れていたから?
考えても考えても返事が返ってくるわけではない。
分ってるけど、一度考え出したら止まらなくて、24にもなってバカみたいに嗚咽を零しながら泣き続けた。
しばらく泣くと、慣れない事が続いて体が疲れていたのか睡魔が訪れる。
普段ならばお風呂に入ってからだとか、晩御飯食べなくちゃなんて思考が生まれて無理にでも体を起こすのだが、今はとてもそんな気にはなれなくて、睡魔に抗うことなく眠りに落ちる。
夢くらい、幸せなものが見たい。そんな風に考えながら眠りに落ちていく、その時に聞こえた声。
——助けて、どうかこの世界を……聖女達と共に
悲痛なその声は、やけにはっきりと聞こえ、無意識に答えてしまっていたのだ。
「助けるよ、だから、待っていて」
これが私の異世界への旅へと続く最初の出来事。
知らない世界で出会う大切な人達とその世界を救う物語のプロローグだ。
- Re: 失恋後、異世界召喚され魔女と呼ばれています ( No.2 )
- 日時: 2020/05/27 17:22
- 名前: 結縁 ◆aOxlQEeWR2 (ID: 57ZTMspT)
第1話・異世界召喚
眠りに落ちてからどのくらいの時間が経ったのか。数分なのか数十分か。それとももっと長い時間か、どうにも感覚がなくて、変な気分だ。
私、今寝てるはずなんだよね……? ずしりと心は重たい感じがするのに反して体は信じられないくらい軽い。まるで宙に浮いているかのような、現実では体験できないような感覚が全身を覆っていた。
何もない真っ暗な空間。手を伸ばしてみても触れられる物はないし、浮いているような足場の無い感覚が慣れなくて上下すら分らなくなりそうな夢だった。
「夢でも1人なんだな……」
思わず漏れた本音、誰かに聞いて欲しかったわけでもないし、返事も期待してなかったつい口から漏れてしまった言葉。
だけどそんな思いに反して、途切れ途切れながら私を案じてくれる声が確かに聞こえた。
「りじゃないよ……あなたは……1人じゃない」
「えっ……?」
自分しかいないと思ってただけに驚いて、声が聞こえた方へと振り返る。
と、そこには碧く煌めく綺麗な瞳をした黒い龍がいた。
「今の声は……あなたの?」
夢だと分っているからだろうか。驚きも龍に対する恐怖心も自分でも嘘みたいに感じていなかった。
「そうだ、私があなたを呼び寄せた」
「呼び寄せる? あなたは一体……」
聞き覚えのあるその声、この声はまるであの時の——
「説明する時間は残されて、ない。後は常守が……どうか、世界を救って」
悲しそうな視線と言葉を最後に、まるで最初からそこにはいなかったかのように龍は消えてしまった。
「常守? 世界を救う? どういうこと……?」
分らない事だらけで頭が混乱する。今日はなんだか非日常な出来事ばかりだ。
理解が追いつかず佇む私の前に、唐突に白い光が現れる。
眩しさに目を反射的に閉じると、体が光に包まれて……地に足が着く感覚が戻ってきた。
「ふう、どうやら成功したようですね」
人の声? 光が収まると静かだった音が戻ってくる。
それがなんだか朝起きたときの感覚に似ていて、ゆっくりと瞼を上げ目を開ける。
「大丈夫ですか、魔女様」
魔女? そう呼ばれたのが自分であることに驚きを隠せない。それに何より、目の前にいるこの少年は誰なんだろう。まだ夢を見ているんだろうか。
「返事もできないんですか? それとも言っている事が分らないんですか?」
呆れたような困ったような態度でため息混じりに問いかけてくる少年。何か答えなければと思うけれど、さっきまで軽いと感じていた体が今は鉛でも付いてるみたいに重く、上手く声が出せない。
「口をパクパク動かしてどうしたんです? 言いたいことがあるなら……」
辛辣な言葉を投げかけたと思ったら、少年は急に私の額に左手を伸ばしてきた。
「酷い熱だ……これも召喚の影響? それとも刻龍の……。と、このままにはしておけないですね」
言うなり私の反応を待つこともなく、少年は軽々と私の体を持ち上げる。
「!?」
「ちょっと、動かないで下さい。暴れるなら縛って連れて行きますよ!」
「……」
そんなことを言われても、初対面の明らかに年下の男の子にお姫様抱っこなんてされたら、羞恥心から暴れてしまうのも分ってほしいと、そう思ってしまうのは私だけだろうか。
それに、仮にも病人? を縛るって酷いと思うんですが……。
「そんな目で見たって降ろしませんよ。文句があるなら体調を治してから言って下さい。全てはそれからです」
何も言っていないのに、言いたいことを察せられてぐうの音も出ない。
これ以上見透かされるのも悔しかったので、大人しく少年の首元へと腕を回した。
すると一瞬、少年の肩がビクッと跳ねた気がしたけど、体のダルさに支配された思考ではそれも特別気になることは無かった。
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