複雑・ファジー小説
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- 噛マレアト
- 日時: 2020/05/31 16:15
- 名前: オルグチ (ID: bqceJtpc)
噛まれても感染しない“アンチゾンビ”の男子高校生流川と、頭のネジの外れた“養護狂諭”の早乙女による《混沌タッグ》が、日常崩壊サバイバルを掻き乱す___。
表紙イラスト↓↓↓
https://dotup.org/uploda/dotup.org2161374.jpg
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ゾンビものです。拙い文章ですが、お暇だったらぜひ。ゆるく更新していきます。
感想やアドバイス等、気軽にしてもらえると励みになります。
※キーイベント以外は構想なしで衝動的に書く粗削りスタイルなので、文章表現の修正から後のストーリーに関わる伏線の追記まで、修正しまくりまくると思います。ごめんちゃい。
5/28〜連載中
5/30 しっくり来なかったのでタイトル変えました
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全て>>1-
目次
1.眠りは深い。>>1-3
2.ほっぺが落ちる。>>4-5
3.時を待つ。>>6-7
4.痛みがある。>>8
- Re: 噛マレアト ( No.4 )
- 日時: 2020/05/30 23:26
- 名前: オルグチ (ID: bqceJtpc)
2.ほっぺが落ちる。
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恐怖で体は動かなかったが、ポケットからスマホを取り出して警察に通報するくらいの最適解の動きはできた。
…あいにく今日に限ってスマホを家に置いてきたらしく、ポケットに突っ込んだ手は虚無しか掴めなかったが。
「おぇ…っ」
また吐きそうになり、喉まで来たそれを反射的に飲み込む。舌に味が残って、めちゃくちゃに気持ちが悪い。いっそ吐いてしまえばよかった。
連絡手段がないのなら、やはりここを出て生身で助けを求める他ない。夜8時過ぎ…教員の職務事情は知らないが、何人かは職員室に残ってる人がいるはずだ。
見るに堪えない死体のすぐ脇を通らなくてはいけないせいで、しばらく動く気がしなかったが、この空間に身を留める方が断然気持ちが悪い。恐る恐る、血が中履きの裏に付かないように細心の注意を払い、保健室から出る。
「嘘だろ…」
…ずーっと長くのびる廊下に出るなり、壁一面に血の飛沫が付着していた。あろうことか、凄惨な光景は保健室内だけに留まらず、闇に紛れて見えなくなる限りのずっと先まで、壁や床そこかしこに血がべっとりとついている。耐え難い匂いが鼻をつく。またまた更に吐きそうになった。
「笹田…?」
…廊下の奥の暗闇のその奥に、クラスメイトらしいシルエットが見える。学年一の愛されデブで、いつも学ランがパツパツな奴だから、遠くからでも何となくわかった。
「笹田なのか? 俺だよ、流川…!」
いろいろと状況がわからなすぎて情報に飢えていた俺は、らしくもなく高いトーンで興奮気味に笹田に声をかける。…良かった。俺以外にも人がいた。
友達ってほどでもないが、お互い何となく話し込むことも多い仲ではあった。
笹田も気付いたようで、こっちをゆっくり振り返り、歩き出した。
一歩、二歩、三歩…。
…ずいぶんとトロいな。体型通り、徒競走も毎回ビリな奴ではあったが、そんなこと関係なく動きそのものがトロく、歩き方がぎこちない。
まあいいか、俺から向かえばいいだけだし。
- Re: 噛マレアト ( No.5 )
- 日時: 2020/05/31 10:28
- 名前: オルグチ (ID: bqceJtpc)
………。
…なぜ、よく考えて踏みとどまらなかったのだろう。おそろしい程の、“違和感”に。
きっと俺は、この状況を打開する何かに縋りたくて、無意識のうちに違和感を抑え込んでいたのだ。
動きがおかしい上に、返事もよこさない笹田。そもそも大前提として、ここは夜8時過ぎの学校だ。しかも現実とは思えないグロテスク仕様の。
目の前にいる“それ”が、普通なはずなかった。
「笹、田…?」
笹田だと思っていたそれは、触れられるくらいの近さになって初めて、窓から差した月明かりに照らされて正体を顕にした。
…首元から右肩にかけて肉が抉れていて、学ランの半分以上が血で染めあがっている。どう考えても生きていられる怪我ではない。
その目に光はなく、白く濁っていた。
ぎこちなく歩みより、俺の肩に両手をかける。
「……へ?」
ねちょねちょした唾液が顔にかかる。両肩を掴む手は尋常じゃなく強く、指が食い込んで激痛が走る。いくらデブだからって、人間として考えられないレベルの怪力だ。
「痛い痛い痛い痛い…っ!」
次には、さらに上回る激痛が頬を襲った。
「あ゛あぁ゛ああぁ゛あっ!!!!」
笹田だった何かの腹部を何度も何度も死にものぐるいで本気で蹴る。何とかして両肩から手が外れ、ケツから思い切り床に落ちた。
「お、おま…何、してんだよ? おい…」
頬からドクドクと血が迸り、首を伝ってインナーにまで染み込むのを感じる
目の前の怪物が俺の顔面から噛みちぎった肉を咀嚼するのを眺め、尻もちをついたマヌケな格好のまま、俺は後ずさりし続ける他なかった。
ああ、終わりだ。
まさか平凡な日常の崩壊を願ったりしたが、結局平凡な日常が俺には一番だった。こんなB級映画みたいな展開、聞いてない。これは夢なのか…?
いいや、現実だ。
___ほっぺをつねっても起きないどころか、喰われても現実に引き戻されないのだから。
「ははは…笑える…」
こういう展開は、一度噛まれたら最期なのがお決まりだ。そのうち俺も“感染”して、理性が壊れ、生ける死体となるのだろう。
笹田…ゾンビとなった笹田は、顔面を齧るだけでは飽き足らず、再び俺に視線を戻して歩み寄る。
喰われようが喰われまいが、詰みだ。
好きなだけ喰えよ。いつも昼休みにドカ食いしてたみたいに。
「……?」
覚悟を決めた矢先、笹田の頭が音もなく吹っ飛んだ。口を押さえていたホースから水が勢いよく出るみたいに、首から血が天井にまで噴き上がり、その巨体はドスン、と前から崩れ落ちる。
「あ、あ…やった! また倒せた……」
巨体の背後に隠れていた華奢な体が、姿を現す。茶髪に丸眼鏡の若い女性。右手には血の滴る手斧を持ち、白を基調とした服は全身血で濡れている。
この人が、今のをやったのか…?
こんな細身で、手斧で、巨漢を、一撃で…?
「えと…起きたんだね、ルカワ君」
あの時の陰鬱で生気の薄いオーラとは打って変わって別人だった。
俺の存在に気づき、しっかりと俺の目を見据える。その目はキラキラと宝石のように輝き、高揚した表情で、口角が上がるのを抑えられないといったように、口元はピクピクさせていた。相変わらず声は小さいが、嬉々とした毛色を含んでいるのがよくわかる。
何がそんなに愉快なんだろうか。気味が悪かった。
「でももう、噛まれちゃってるね…」
同情するような言葉を発しながら、歪んだ笑顔で軽快にこちらに詰め寄る。…さっきから、状況と言動にズレがある。
まるで、この最悪な現実を楽しんでいるかのようで___。
イカれた保健室の先生は、俺の頭のてっぺん目掛けて手斧を大きく振りかぶった。
…ああ、そうか。
死ぬ間際に、俺は理解する。
___俺なんかと比べ物にならないくらい、この人は退屈な日常の刺激に飢えていたんだ。
- Re: 噛マレアト ( No.6 )
- 日時: 2020/05/31 10:27
- 名前: オルグチ (ID: bqceJtpc)
3.時を待つ。
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手斧が振り下ろされ、俺の脳天がかち割れて中身が弾ける___そのすんでのところで、彼女はピタリと動きを止めた。
「……中、戻ろっか。ね?」
「……は?」
何を思い直したのか、血塗れた斧を持つ右腕を脱力させると、俺の手を引っ張って立ち上がらせ、俺を一緒に保健室内に連れ戻す。
ここから逃げ出したかったはずなのに、結局また惨殺死体とご対面することになった。俺が顔を顰めたのに気付いたのか、「ちょ、ちょっと待っててね…!」と、慌てたようにその両足を掴み、中腰になりながら死体を引き摺って室外へと出し、引き戸を閉める。
「あ、はは……血の跡凄いね、ルカワ君」
巨大ナメクジが歩いた跡みたいに、引き摺った軌跡に従って血の跡が薄ーく伸びて、余計吐き気を催した。
「…これ、誰ですか?」
「えっとね…タヤマ先生、だよ。あ、でも、もうか、感染してたから、殺人じゃな…」
「あなたはなんなんですか?」
「…えぇ? え……養護教諭の、早乙女、です」
「俺も田山先生みたいにされるんですか?」
「……は、早ければ数分後には」
「ああ、ったく…!!」
わかりきっていた絶望的な事実を改めて突きつけられ、項垂れて崩れるようにその場で座り込む他なかった。
「い、一応…ごめんね」
早乙女はコンセントから適当な配線コードを引っこ抜くと、俺の手を背中の後ろに回し、キツく縛り上げた。ゾンビになった時に暴れないようにするためだろう。
抵抗する気も起きず、ただその時を待ってぼーっと向こうを見る他なかった。視線の先には、部屋の角に立ててある立ち鏡がある。
「これが……俺?」
……もう既に、人間じゃないみたいな面がそこには映っていた。左の頬はしっかり噛み跡らしく引き裂かれ、格子状に穴が開いて、口内まで丸見えの状態である。頬から首にかけて真っ赤に濡れていて。あとは目が白く濁れば、紛れもなく模範的なゾンビの出来上がりだ。
「なんでさっき、殺さなかったんですか?」
自分のこんな醜い顔面を見ることなく、ひと思いに斧で頭を真っ二つにされた方がずっとマシだったのに。
「だ、だって…“転化”する前に、殺すのは、可哀想かなって……」
「転化…? ああ」
……ゾンビになることを、そう言ってんのか。
「先生。スマホ、持ってますか…?」
「……? 持ってないけど」
「……はは。家族に言葉を遺すのすら叶わねーか」
……笹田は人から怪物に成り代わるこの時間を、何を思ってどう過ごしたのだろうか。こうやって、静かに“変わる時”を待つ猶予はあったのだろうか。
……何か、最後にしておくべきこと、あるっけな…。
___そんなことを考えてるうちにも、確かに時計の針は一秒、一秒を刻んでいた。
「あの…こ、事の始まり、聞きたい……?」
沈黙を破ったのは、早乙女だった。俺の顔色を伺い、精一杯考えた結果発した言葉らしい。
死ぬ間際に世界がクソになった経緯と解説を聞いて喜ぶ奴があるものか、とこの人の神経を疑うが……。
「……ぜひ」
___世界のことをよく知らないで、世界を恨み続けて死んでいくのも癪だ。
- Re: 噛マレアト ( No.7 )
- 日時: 2020/05/31 10:22
- 名前: オルグチ (ID: bqceJtpc)
事の始まりから今に至るまで、その一連を知り、ますます早乙女という人間の異常さを知った。
……はじまりは、俺がここに来てから1時間後。保健室に田山先生が来たところからだ。あまりにも激しいノックの音に驚き、早乙女が引き戸の窓を見ると、そこには、腹から腸が飛び出て、白濁した目で戸をぶっ叩きまくる田山がいたらしい。
……ここで、「田山先生はゾンビになっている」と察した早乙女。私物の手斧を手に取ると、引き戸を素早く開けて、田山の頭をかち割った。俺の眠りを妨げることなく、手早く。
「ちょっと待ってください…」
ツッコミどころが多すぎる。早乙女の話を遮り、思わず再確認する。
「早乙女先生は、田山先生の様子を見て、何の疑いもなく、ゲームや映画からの知識だけでゾンビと断定して……そこから逃げたり助けを呼ぶならまだしも、何の躊躇もなく私物の手斧で、頭をかち割った、ということで……?」
「……へ? あ、頭を破壊しないと死なないのが、ゾンビものの、お約束……でしょ?」
……現実を何だと思ってるんだ、この人。ていうか、私物の手斧ってなんだよ。
「ああ、なるほど、どうぞ続けてください」
……真面目に付き合ってると頭がおかしくなりそうなので、そのまま好きに喋らせることにした。
田山先生を処理した後、異常を察した早乙女は保健室を出て校舎内を軽く回ったそうだ。既にゾンビパニックは盛況を迎えていたらしい。
「こ、ここの保健室、体育で怪我した生徒が校庭からすぐ、来れるように、他の教室と少し離、れてる作りになってるでしょ…?」と、補足する早乙女。田山先生(ゾンビver.)が保健室に辿り着くずっと前に、事は始まっていたようだ。
早乙女はそんな地獄と化した学校から逃げるでもなく、ひたすらひたすらゾンビ化した生徒と職員の頭を叩き切りながら、全校舎を何周も何周もしたらしい。
「…………っ」
またもやツッコミどころが多すぎて口を開きかけたが、理由は何となく理解したので黙って聞くことにした。
話しっぷりが、良いことあった時の女子のそれだ。この人、ただただ刺激的な非日常にずっと身を置きたくて学校から出なかっただけだ。
夜まで何周もしてたので、さすがにいろんな生存者も見掛けたらしい。襲われそうな生徒もついでに助けたり、でも次の周にはさっき助けた生徒が噛まれてたり、次の周には立派にゾンビ化していたり。……無事に学校から脱出したのも少なからずいるようだ。何人か俺の友人のことを聞いてみたが、保健室に来た生徒以外の名前や顔はよく覚えていないようで、はっきりした答えは返ってこなかった。
それと本人は気付いてないようだが、話から察するに、手当り次第ゾンビを処理していく早乙女の姿に恐れをなして逃げ惑った生徒もいたらしい。
……そりゃそうだ。ゾンビ作品で序章から何の躊躇もなく殺りまくる生存者がいてたまるものか。
「……それから、あの……太った子を、倒して…」
そして笹田の頭を吹っ飛ばしたところにまで繋がり、話が終結する。
話しながら早乙女は血塗れた服からラフな白Tに着替え終え、今は脱いだ服で田山の血の跡を拭いていた。
シンプルな服装が、より線の細さを強調する。こんな枝みたいな腕で、本当に田山先生や笹田、それに数多くのゾンビを仕留めたというのか……?
「ははは……」
何で死ぬ間際にイカれ女の武勇伝なんか聞いてるんだ、俺は。
「……普通じゃ、ないね」
急に力なく笑ったからか、ポツリと早乙女が呟く。お前に言われてたまるか、と思ったが、早乙女の目線は壁掛け時計に向けられていた。
「いや、こ、ここまで転化、遅い人……いなかったからさ」
数分で終わる話の内容のはずが、早乙女の所々でつまずく話し方で冗長になり、気付けば時計の短針がもうすぐ9を指す頃合いだった。
「……どうせいつかは」
……遅いから何だ。変わる時が来るのを、今か今かと怯えながら、ただ時計を見つめる他ないってのに。
- Re: 噛マレアト ( No.8 )
- 日時: 2020/05/31 16:14
- 名前: オルグチ (ID: bqceJtpc)
4.痛みがある。
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痛みというものは、実に生を実感する。窓から差し込む朝日に、目を細める。そんな僅かな表情筋の動きでも、風通しの良い格子状の噛み跡に続く皮膚が引っ張られ、頬はひどく痛んだ。……さすがにアドレナリンが切れたかな。
___午前4時30分。俺はまだ、人として生きていた。
転化したら俺を殺すつもりだった早乙女も途中で飽きて、0時を過ぎた頃には俺から一番離れたベッドに潜り込んでいて。当然眠ることなんてできる訳もない俺は震えながら時計を眺め続けていたわけだが、今この時まで、体に何ら異変はない。
……いや、十分異変ではあるけど。部屋の隅の立ち鏡に映るおぞましい顔面の自分からは、できるだけ目を逸らした。
何で転化しないのかは知らない。俺に運良く抗体でもあったのか、ただ個人差で、怪物に成り代わる時は刻一刻と迫っているのかもしれない。……だが、ここまで変化がないと、とりあえずは大丈夫という自負はあった。自分の体のことだ。そういう予感を信じたっていい。
「……帰ろう」
転化もせず、外も明るくなり……となれば、家に帰らなければという焦燥にさえ駆られる。母さんの安否を確認しなければいけない。スマホも家に置いてある。生きてる友人がいれば連絡を寄越してるに違いない。
「……おらっ!!」
両手をキツく締め付ける配線コードをどうにか解こうと奮闘する。力を入れる度に昨夜笹田にがっちり掴まれた肩が痛んだが、実際本気で解こうとすると大した拘束力でもなく、10分もしないで自由の身になった。
昨夜のイカれエピソードもしかり、拘束も甘いし、危機管理能力がまるでないなこの人……。
奥のベッドですやすや眠っている早乙女を脇目に、今度は保健室内の棚の引き出しを手当り次第に漁る。
……あった。
ガーゼとそれ専用のハサミ、そして固定テープを取り出して立ち鏡に向き合いながら、見るに堪えない抉れた頬を覆う。
何とかそれっぽく隠せそうだ。笹田が大食漢のくせして一口が小さい奴で助かった。ガーゼを正方形に切り、十字にテープを貼る。
ガーゼをあてがう度に頬が痛んで顔を顰め、それによってまたさらに痛むという地獄の悪循環と格闘しながらも、まあ……見れる顔にはなった。
さて、と。
最後に早乙女の様子を見つつ、彼女の寝ているベッド付近の床に転がっている手斧を手にして、俺は保健室から___。
「……いや」
再びベッドまで戻って床に手斧を置き、俺は保健室を後にした。
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