複雑・ファジー小説
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- THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー
- 日時: 2020/06/19 23:54
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
こんにちは!
複雑・ファジー系ということで、
宜しくお願いします!
今日中に完結させます!
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その講演に、全世界が注目をしていた。
「皆さん本日は、大変ご多忙かつ困難な状況の中、お越しいただき誠にありがとうございます。私は仮想空間創造所リベラル社で教授を務めております、●●●●●といいます。今回の講演中では、JBとおよび下さい」
自己紹介が終わり、男が本題に入る。
「さて、地球は今現在、危機的状況に瀕しています。近年、JAXAが計画していた火星移住計画は、残念ながら失敗に終わりました。急速に進む高齢化問題・食料不足、そして米中露で起こった大規模な大核戦争を読んだ第三次世界大戦により、世界は荒廃し、大気は汚れ切りました。我々がこの世で生きる手段はもはやありません。酸素濃度は低下し、放射線濃度は日に日に増加の一途をたどっています。」
白衣を着た30代の研究員が、世界各国の首脳や、外務大臣に向かって講演をしていた。公園の内容は日本語ではあるが、翻訳アプリケーションが働いていて、自動でその国の言語に変わる。
白衣を着たその男は、名札を付けて、JBという名前であった。
「そこで、我々JAXAと業務提携を結んだ仮想空間創造所リベラル社が、ご提案するのが、新たなる移住化計画です。それがこちらです。この機械を使えば、長きにわたって人間をコールドスリープ状態にしながら、脳だけは別世界に転送することができます。その期間は、100年以上。この機械で100年もの間、国民を閉じ込め、大気と放射線が通常の濃度に戻った際に、活動を再開するのです。我々はこの計画を、異世界移住化計画と名付けました」
各国の首脳から、拍手喝采が巻き起こる。
みんな口々に、amazing, wonderful,coolとか何やら単語を発している。
「国民一人一人に、仮想ゲーム空間サーバーを用意し、一人だけの仮想空間を提供します。これで、何人もが一斉にサーバーにログインして生じるバグを回避することができ、未来永劫、誰もメンテナンスをする必要がない、完璧な居住空間としての仮想ゲーム空間ができあがったのです!」
しかし、これでいいのか。
こんなもので、人間を閉じ込めて、それでこの世界を、地球を放棄して、
お前たちは、それで生きているといえるのか。
100年間も仮想空間ということは、100年間分現実世界では年を取るということだ。
もし、100年たって現実世界に戻っても、そんなヨボヨボの人類には何もできない。何も遂げられない。全員がヨボヨボになって、死に行く地球をただ茫然と見ているだけ。そんな未来が待っているはずだ。だから、
この仮想空間は、理想郷ではない。
私は納得しない。断じてそうではない。この地球を立て直すために、尽力すべきだ。
決して、火星に移住ができないから、異世界に移住をしようという甘い話ではない、断じて。
私が変えてやる。
私がこの世界を、地球を救ってやる。
逃げるだけなんてダメだ。
救う。必ず。
そう一人の女性は、心に決めて、講演会場を出た。
🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊
場面は変わり、99層迷宮、第七層。
少女たちは、第六層でのボスエネミー、最初の人類アダムとのバトルに何とか競り勝ち、多くの犠牲者を出しながら、この第七層までやってきた。しかし、
その少女は、第七層の入り口にようやく降り立った時、
そこに広がっていたのは、一面に広がる小麦畑と、「第八層へ」という立て札のついたおんぼろのどこでもドアのような扉だけだった。
「ふう、よしみんなここで休憩しよう!エネミーはいなそうだ。手当が必要なものには、至急手当を!」
クランのメンバーにそう告げると、彼女はその小麦畑に座り込み、一息ついた。今までの七層までの歴史を振り返っていた。一層は、陽だまりの怪物である動くヒマワリ、二層は空を司るオオタカ、三層からは強敵になり植物型のモンスターである大樹モンスター、四層は太陽と月を司る人工衛星型モンスター、五層はバハムートと呼ばれる魚に羽が生えたモンスターで、六層が最初の人類アダム。
そして、七層のエネミーは、存在せず。一面の小麦畑と、八層があることを知らせる扉のみ。
「やはり、そうなのかもしれんな」
彼女は何かに勘付き、小麦畑を覆う人口の太陽の方に目を向ける。
「プレイヤーを、探さねば」
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- Re: THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー ( No.1 )
- 日時: 2020/06/19 23:57
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
何気ない昼下がりのことだった。
「ポップメニューに、メッセージが送信されました。」
≪to:ユウキ よー、へたっぴ。お前、てっとりばやくポーション買ってきてぇー、にんずうぶんねぇー。制限時間は5分。遅刻したら置いてきぼりの刑だから≫
スライム狩りをして、レベル上げをしようと思っていたが、あまりにスライムが怖すぎて、退散し、トボトボ帰っていた。
そんな時、自分の視界のポップアップに、クランメンバーからの伝言がピコンっ!という音を立てながら、アナウンスのボイスが聞こえた。これが出てきたらパシリの合図だ。
「≪to:タクム わかった。≫タッタッッ(空中のキーボードを打つ音)」
たまたま町中にいたから、ポーションは早く買えそうだ。早く買ってみんなのところにもっていかなくちゃ。また仲間外れにされちゃう。
町と言っても、ごく簡単な“まち”。村に近い。昔ながらのかやぶきの建物が乱立し、二階建ての建物なんてものは、この村にはない。だから、ぼくみたいな弱い人間には居心地がいいのかもしれない。ほかのクランメンバーはもう少し立地が良くて、レンガだったり、石でできた西洋風の建物に住んでいるクラメンもいる。
僕はポップアップに返信をすると、急いで薬品ショップに向かった。
「ごめんくださーい、あの、ポーションをまた、20本くらいほしいんですけど」
「あら、ゆうきくん。また来たのね。またエネミー狩りにでかけるの?」
「あ、そうなんです。クラメンと。えへへへ」
「気をつけなさいよ。あなたのクラメンの子たち、そんなに強くないから、そんなにポーション買うんでしょ?」
「へ?あ、ああ。いえ、みんなは強いんですけど。主にこれは僕のためですよ、えへへへ」
「あら、そうなの?それならいいんだけど。ちゃんとレベル相応の所行かなきゃだめよ。自分のレベルよりも5以上下の森周辺よ。わかった?」
「わかってます。おばさん」
この薬局ショップのおばさんは、昔からの知り合いだ。
僕がパシリにされているのはもちろん知らない。おばさんは、僕以外のクランメンバーが弱いから、僕が代わりにポーションをみんな分買ってあげているって思っている。でも、実際には逆で、僕が弱いから、ポーションを貢いでいるだけってのは、口が裂けても言えないんだ。なにせ。
この薬局ショップの隣が、僕の家だから。
もしこのおばさんに、僕がクランでのけ者にされているって知ったら、おばさんがお母さんにチクるかもしれない。そしたら、ぼくはあのクランにいられなくなるかもしれない。唯一の居場所だったあのクランに。そうなることだけは、いやだった。
すると、薬局のおばさんから血の気が引く発言が飛び込んできた。
「あらやだ。今ポーション10本しかないわ。この前入荷したはずなんだけど、おかしいわねえ」
「え、10本しかないんですか?」
「そうみたい。10本しか売れないけど、みんな大丈夫かしら?」
「へ?あ、み、みんなは、ぼ、ぼくが守るので大丈夫ですよ!あははは」
「あらそう?ならごめんなさいね。10本ってことで、じゃあ1000円ね。まいどあり」
「じゃあ僕、急がないと。時間もないし」
「そうなの?もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「そういうわけにもいかなくて、それじゃあおばさん、またきます」
「そう。気を付けてね」
薬局のおばさんに、ありがとうございました。と言って、となりの建物へ足早に向かった。
「お母さんに、みんなと狩りに行くって言わないと」
すると、家の玄関近くで、これから買い出しに行こうとサンダルを結ぶお母さんの姿があった。
「お母さん。今日、みんなと狩りに行くから、遅くなる。」
「あらそうなの。いってらっしゃい。本当に、気を付けてね。別にお父さんみたいに稼ごうとしなくていいんだから。夜までには帰ってきなさい」
「わかった。父さんは?」
「父さんなら、今クエストに出ているみたいよ。なんでも、超高額なクエストらしいから、今日は何かごちそうにしようかしら。だから、ユウキ。今日は友達と遊んでいないで早く帰ってくるのよ」
「わかった。別に遊んではいないけど」
「遊んでいるでしょう。そんな友達とクエストに行ったって、ろくなお金にならないんだから。そろそろユウキも、お手伝いクエストでもやってほしいわ」
「・・・・いってきます」
「あっ!タクムくんにいつも誘ってくれてありがとうって伝えるのよ!」
「・・・・」
僕はその場にいるのが、いやになって、玄関を飛び出した。
・・そう。この世界では、クエストで得れるお金がすべてだ。
僕の父さんも、お母さんも、他のこの世界に住んでいる人は全員が、クエストでお金を得ている。エネミーを倒したり、貴重なエネミーを捕まえたり、採集やお手伝いなんてものもある。すべてがクエストだ。
そのお金で僕らは衣食住を満たす。それがこの世界だ。僕が物心ついた時から、ぼくの世界は、この世界だった。意識が芽生えた時から、といった方が正しいかも。
狩りのクエストを将来やりたい人は、幼いころからレベル上げを積極的にやって、一人前の戦士になる。エネミー狩りとかは、危険と隣り合わせの分、収入が良い。王様が住む帝都に住む住民は、ほぼすべてがエネミー狩りで成り上がった戦士たちだ。
そんな中で、お母さんが僕に勧めるのが、危険度がないお手伝いクエスト。
おばあちゃんのマッサージや、農家に行って野菜を収穫したり、田植えをするクエストが主になっている。この世界で人口の大半を占める高齢者へのサポートが、お手伝いクエストの大半だ。給料は良い。毎日なにかしらのお手伝いクエストをやれば、家計を支えられる。
でも、ぼくはお父さんみたいなクエストがやりたい。
僕のお父さんは、地下にある99層迷宮での、エネミー討伐クエストによく行く。
危険と隣り合わせのこのクエストは、給料もめちゃくちゃいい。敵が強ければ強いほど、給料は跳ね上がる。
僕のお父さんはだいたい、99層の中での2層のボスを倒すクエストを毎週2回ほどやっている。週2回で2層のボスを倒すと、ぼくら3人家族の食費と水道代と居住費を賄うことができるらしい。詳しいことは知らないけど。
でも、同時にエネミー狩りは危険と隣り合わせのクエストでもある。
99層迷宮は、死人が良く出る。
そうこの世界では、死ぬんだ。
僕のクランのメンバーの中にも、お父さんを99層迷宮のクエストで失った子がいる。
自分の右上に出てくるHPがゼロになると、この世界から消えてしまう。
だから住民は、自分のレベル相応のダンジョンや迷宮・森にしか行かない。
お手伝いクエストは危険がない分、収入はそんなに良くない。
一方で、エネミー討伐クエストは危険と隣り合わせになるぶん、収入もいいんだ。
だから僕はお父さんみたいな一家の大黒柱になりたい。いつか、お父さんや、ぼくのクランメンバーをあって驚かせるような大偉業を打ち立てるんだ。
「いつになることやら、だけどさ」
僕の職業は、【戦士】。基本ステータスが平均以下で、何のとりえもないジョブ。
ここから進化すれば、かっこいいジョブになるんだけど、敵を倒しに行くのも怖すぎて、レベル上げもできずにいた。
「もっと僕が強かったら、みんなを驚かせることができるんだけどなあ」
現時点で僕のレベルは、まだ7。クランの他のメンバーは、30以上がゴロゴロいる。リーダーのタクムに至っては、もう40に到達するくらい強プレイヤーだ。この世界では、強いものがレベルを上げ、弱いものは取り残されていく。いや、勇気あるものはエネミーに立ち向かい、レベルを上げて経験値を蓄えていき、臆病者はいつまでたっても経験値が上がらいままだ。
僕はまだスライムすらろくに倒せない。レベル2のスライムですら、剣で切れないのだ。おびえてしまう。極度のビビりな僕にとっては、スライムでさえ、名前を言ってはいけないあの人なみの強さがあるのだ。
「はやく、強くなりたい」
ここ最近の、僕の些細な願いで、しかし叶わない願いだ。
そんな愚痴をたれながら、ぼくは村の中心にある転移ポートに向かった。
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- Re: THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー ( No.2 )
- 日時: 2020/06/20 00:00
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「おせぇよ。お前。ふざけてんの?ポーション10個しかねーじゃねぇか」
そういって、タクムは僕のほほを思いっきり殴ってきた。
転移ポートから転移して、タクムの住む石畳の町の広場に僕とクランメンバーはいた。
薬局のおばさんとお母さんと話をしてたら、2分だけ遅刻した。でも、この怒りようだ。理不尽。このクランのリーダーであるタクムは、僕以外のメンツが遅れても何とも言わない。でも、ぼくだけにはめっぽう厳しい。タクムのクランメンバーは、リーダーであるイケメンだけど性悪なタクム。副リーダーであるアモンとコウタ、そして僕の4人チームだ。なぜ僕がここにいるのかは、想像してほしい。
僕はお父さんみたいに家族を支えられるくらいに強くなりたくて、クエストをやっている同年代のクランに片っ端から応募した。結果的には弱すぎてどこからも、いい返事がもらえず、結果的にこのクランで貢ぐ係をやりながら、経験値のおこぼれをもらっている。
「売り切れで・・」
そんななか僕をいじるメンツの一人、アモンが口を開く。彼は、タラコ唇。
「おいおい。お前おつかいすら、できないの?」
毎回心の中で、このタラコ唇が、って心で幾千回も唱えている。
続いて、コウタ。特徴のない顔。だけど、どこかむかつく。
「いいかい、へたっぴ。明日も狩りに行くから、明日はポーション30個。忘れたらマジでモンスターの中に置いてきぼりの刑だからな」
「気を付ける・・」
「んな、びくびくすんなよ。俺ら“トモダチ”だろ?」
「・・・・・」
実際かれらには逆らえない。
僕はまだ一次職の職業である戦士。
一方で、タクムとアモンとコウタは、戦士などといった一次職の1個上の二次職である、盾戦士だ。
実力差は歴然。逆らえるなんて思っていない。
そして、お母さんやお父さん、そしてこのクランメンバーしか居場所がない僕にとっては、このクランも居場所のひとつなんだ。
このクランを出ても、他のクランで僕を欲しがってくれる人がいるとは限らない。多少このクランがブラックでもやっていくしかない。経験値のおこぼれをもらいながら、いつかお父さんみたいに、99層迷宮にチャレンジして金持ちになって、お父さんとお母さんを楽させたり、可愛い女の子と一緒にいたり、そんな生活をいつかしたい。というかそれ以外に、生きる意味がないんだ。
なんてったってこの世界の“成功”は、自分自らの強さをどれだけ高められるかだから。
だから、このクランで泥水すすって、生きていくしかない。我慢して雀の涙の経験値を吸い取って、いつか大きくなってやる。そして、タクムやアモンや、コウタを見返してやる。
叱られ終わって、ようやく森に向かおうと転移ポートに入るさなか。
「・・・なにが、置いてきぼりの刑だ、バーカ。いつかお前らを置いてきぼりにしてやる・・・」
自分にだけ聞こえる声で、そうつぶやいた。
そんなこといつか言えたらなあって、思いながら。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おい、タクム。なんかこの森のモンスター、少し強くないか?」
「そうか?そうはおもわないけど」
「って言ってもさあ、俺もまだレベル30になったばっかで、アモンも31だし。タクムだけだぜ40にレベルいってるの」
「そうだよ。この森の推奨レベル35だし、俺らにはまだ荷が重いって」
僕はまだレベル7なんですけどね。
「大丈夫だって、いざとなったら・・、お前らこっちこい」
「なになに?ふんふんふん、ふんふんふん。ああなるほどね。その手があったか」
「タクムやるぅ。すごいね」
「だろっ。ヒヒ」
どうせ僕をおとりに置いていくとか、よからぬことを企んでいるんだろう。見え透いているんだよ、バーカ。もう少しましなひそひそ話をしろ。バーカ。バーカ。
そんなこんなで、森に入ってから、エネミーを前衛の3人がばったばったと倒していく。
エネミーは、ぼくでは絶対に倒せない、虫だとかイノシシだとか鹿のエネミーばかり。スライムでさえ手を焼く僕には、到底太刀打ちできない。
一方僕は、HPが少なくなったクランメンバーの3人を僕がポーションで回復していく。
そこで得た経験値を微量ながらもらい受けつつ、旅を進めていた。
残りのポーションは全部で5つ。そろそろ旅も終盤で、小ボスが出てくるころ合いだろう。
タクムもHPがゼロになりたくないからか、推奨レベル40スタートの99層迷宮には行きたがらない。あそこのボスは、中ボス、大ボスばかり。一方で、森にでてくるのは小ボスばかりで比較的倒しやすいのが特徴だ。
そうこう話していると、アモンが口を開く。
「あ、あれ、小ボスじゃないかな?」
確かに森の奥の開けた場所になにやら、大きめな影が見える。
タクムが大きな声で剣を上にかざしながら、声高らかに向かっていく。
「よしいくぞ二人とも!」
僕もいるけどね。
ようやく森が開けた。そこにいたのは、あきらかに小ボス。
ではなく。
「gururururururururuhaahahhaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaァぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁあああああああ!!!!!!!!!!」
明らかに中ボスサイズの敵だった。
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- Re: THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー ( No.3 )
- 日時: 2020/06/20 00:02
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「なんでこんな森にケルベロスが・・。99層迷宮に住むエネミーのはずじゃ・・」
「gururururururururuaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」
「ヒィィ!な、なんかの間違いだよな。な。俺らここで死なないよな?な?」
コウタとアモンが口々にうろたえる。
ケルベロスはアモンが言った通り、99層迷宮の5層ボスに位置するエネミーだ。なんでそんな化け物がこんな森にいるんだよ!
僕のステータスは、まだレベル7。先の戦闘でポーションはすでに5個しか残っていない。
仲間の戦力も、アモンとコウタはレベル30。タクムはレベル40だけど。
ケルベロスの推奨レベルは、40と出ている。
前衛3人のレベルの平均をとっても、たった33レベル。推奨レベルには到底及ばない。
「怯むな!推奨レベルが40だからって、別に40レベルないとだめってわけじゃねーだろ!」
タクムが全員を奮起させるために声を上げる。一方、アモンとコウタは足がすくんで動けないらしい。ところで、ぼくの方は言うと。
(死ぬのかな。僕)
死期を感じていた。
さっき3人がしていたひそひそ話。もし、3人がピンチになったら僕がおとりになるとか、そんな話をしていたんだと予想する。ということは、
ぼくを置いて、逃げるつもりなんだろうか。
ぼくより素早さのステータスが3倍も4倍も高い彼らには、絶対足の速さでは追いつかない。もし置いてきぼりにされたら、確実に僕だけ逃げられない。
いやだ死にたくない。
「gるるるahahhhhhuruuruuuuuuuuuuuuuuu!!!!!!!!!!!!!!」
っ!
ケルベロスの咆哮が森中に響いたと同時に、森中の小型の鳥エネミーが飛散する。と同時に、ケルベロス特有の3つの口から、それぞれどす黒い色の魔炎弾を吐いてきた。
「🔥🔥🔥」
3つの口からそれぞれ、タクム、アモン、コウタに向けられる。全員が戦士職の二次職である盾戦士である彼らは、各々の盾でその魔炎弾を防ぐために、盾を構える。
「来るぞ!」
というタクムの号令と同時に、魔炎弾が3人の盾に爆音をあげながらぶつかる。
3人の盾さえ砕けなかったが、タクムを含めて3人のHPがごそっと、半分近く減っていった。この時3人は同時に気が付いた。強敵の攻撃を一度食らっただけで分かる、あの現象。
絶対にコイツには勝てない、とわかったのだ。
全員がおびえながらケルベロスをみるなか、アモンが震えたタラコ唇を開く。
「たた、タクム。や、ややばい。っつつ、強すぎる、おおおおぉ俺ら負けちゃう。に、逃げよう。さっき言ったみたいに、おおおおお置いてこう、ぁぁああいつ」
次に、足をがくがくに震わせたコウタが口を開く。
「そ、そ、そうだよ、アモンの言うとおりだ。むムムム、無理だって、今の俺らじゃ、っぁかか、勝ててない・・」
二人から逃げる指示をするように仰がれたタクムは、二人よりも切羽詰まっていた。
タクムが切羽詰まっている中でも、ケルベロスはグルルルルという声を立てながら、次の魔弾を吐き出すMPをためているのが、ケルベロスのHP・MPゲージを確認して分かる。
このままじゃ、さっき陰で話してたみたいに、僕は置いてかれるのか。でも、タクムは意外と強いし、頼りがいも少しはあるし、戦力的にも互角なんじゃ・・。
「ぃひぃひいいいいいいいい、にに、逃げろ!!!!!!!へたっぴ置いて、逃げろォォぉぉおおおおお!」
そんな悲痛な声が、森中に響き渡った。
こんなタクム、僕がこのクランに入ってから初めて見た。
いやでも、そんなこと言っている場合ではない。僕を置いて逃げる?あんまりだ。
いくらなんでもそれはない。この状況なら、盾で防ぎながら4人で逃げかえることだってできるのに。なんで。
「そ、そんな!僕、ポーションでみんなを回復して戦うのに!!」
ぼくからの悲痛な叫びをするも、それは残念ながら他の3人には届かない。
「おまえ!!ポーションあるんだから、逃げながら回復できるだろ!!俺らが逃げる方角に連れてくるなよ!絶対だぞ、絶対だからな!!!」
そういってタクムたち3人は、僕の3倍以上はある足の速さで森の奥に消えていこうとする。
「そんな、待って!ぼくたち、クランの仲間じゃ!」
「お前みたいなへたっぴ、仲間にした覚えねぇよ!はなっから、ポーション役だお前は!」
「そ、そんな・・。ま、待って!僕も、連れて行って・・・!」
僕がクランメンバーをめがけて走りだそうとした次の瞬間、非情にもケルベロスは逃げ遅れた僕を待ってはくれなかった。
「GURURURUURaduqadaedadqfaefsrmkvkewr-svfw-e-raaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」
ものすごい轟音を挙げて、今まさに、3つの口から魔炎弾が放たれようとしていた。
まずい。逃げなきゃ。
とっさにそう判断して、開けた場所から森の奥に逃げようとする。もちろんタクムたちと同じ方角に。タクムたちと逃げれれば、生き残るチャンスはある。
しかし、そんな甘い考えをかき消すかごとく、
「GYAAAAAAAAayayyaaaaaaaaaaaamaennnnnnnnnnnnnnnnnnnnneaaaaaaaaaaaaaaaam」
魔炎弾が僕とケルベロスの周囲を取り囲むようにして放たれた。
「っ!」
魔炎弾の残り火が、僕を逃げられないよう包囲している。
そんな四面楚歌状態の僕を、魔炎弾の残り火から見つめる3人の姿があった。
3人はおびえた顔でこちらを見ている。しかし、そのおびえた顔には少なからず安堵感がにじみ出ているようにすら感じられた。
「い、今のうちだ。にげるぞ!」
そういって、ついにタクムたちは森の奥に消えていった。
しかし、今の僕にはこの魔炎弾の残り火を乗り超えて、3人を追いかける手段はない。
魔炎弾の残り火に近づけば近づくほど、僕のHPは削られていく。
万が一、炎を超えられたとしても、やけど状態になるのは必至だ。
その状態で僕一人で森の中の敵を倒しながら、村に帰るのは不可能に近い。
やけど薬も持っていない。ポーションもあと5つしかない。そんな中、レベル7の僕がこの森を一人で抜けることは、不可能なことだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
僕は今の状況を分析して、途方に暮れてた。もう打つ手はない。
この炎を渡って森に行っても生き残る手段はない。
推奨レベル40のケルベロスに、レベル7の僕が勝てる手段もない。
ましてや、この残り火をかき消す水系の呪文も使えない。
もう、何も打つ手がなかった。
「・・・・っくそ」
分かっていたことだった。タクムたちに仲間だと思われていないことは。
でも、タクムなら、と心のどこかで思っていた。
クランリーダーなら、もっとなにか手を尽くしてくれるかと思っていた。
でも、僕が馬鹿だった。
クソ。クソ、クソ。僕が馬鹿だった。
クソ。クソ。クソ、クソ、クソ!僕が甘かった。
クランだからって安心してた自分が馬鹿だった!
クランなら万が一の時があっても守ってくれるって
どこかで甘いこと考えてた。
クソ!なんだ、全然僕らは仲間同士じゃないっ。
始めっから、ポーション要因として利用されていただけだった。
これじゃあ、希望を持っていた自分が馬鹿みたいだ。
これなら、誰も信じない方がましだったのに。
「クソ!クソ!クソ!ぅうううううううううう、う、うう」
いたたまれない声が森中に響き渡る。
しかし、そんな僕の泣き声を、ケルベロスの咆哮がかき消した。
「GYAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」
待ちくたびれたぞ、と言わんばかりに僕のことを見つめる、ケルベロス。
僕の周りを取り囲んだ、魔炎弾の残り火によって、僕の体力はじりじり減っていく。
対してケルベロスの体力は、魔弾の残り火によっては減る様子もなく、依然としてHPゲージは満タン。
5個のポーションと自分の力でコイツを倒す、それができれば帰れるかもしれない。
しかし、勝てるわけがない。レベル差は歴然。魔炎弾の威力は、レベル30以上のタクムたちをHPゲージを半分まで削るほどの威力。
どうみたって勝ち目はなかった。
だから、僕に唯一残されている選択肢は、
たった5個のポーションで、可能な限り長く延命することだけだった。
「ふふふふふっ、ハハハハハははははは」
笑えてきた。一周回って。
家の出も貧しく、あんなにへたっぴと蔑まれて、金を貢がせられ、ポーションを買わされ、終いにはこれだ。笑うしかない。
僕が信じていた友情とかは全くなかった。
あったのはいじめられていた事実と、パシリにされていたことだけだった。
全く散々だ。散々な人生だ。
散々な人生だから、
あいつらに復讐してやる。
あいつらに、一生の罪を抱えさせてやる。
「こいっ!!!僕を、殺せ!!」
僕があげた怒鳴り声とともに、ケルベロスの3つの首が同時に雄たけびをあげた。
ハハ・・。
お前らが散々蔑んだ僕が、ここで死んでやる。
しかもありったけの時間をかけて。
僕がお前らを助けてやる。
ポーション5個使って、ケルベロスの攻撃を避けて避けて避けまくって。
お前らが村に戻れるくらいの時間を稼いでやる。
そうして、伝えろ、僕の存在を。僕がいた過去を。僕がいた証明をしろ。
そうして、そうして、お前らは・・。
「見捨てた人間に、生かされた記憶を抱えて、この先、未来永劫、生き続けろ!」
僕の独白と同時に、ケルベロスが僕に向かって3つの魔炎弾を放つ。
「ッ!」
間一髪で3つとも避けるが、熱すぎる魔炎弾の残り火が、自分の元居た場所に広がる。その熱気でHPを削られ、もうHPは半分になってしまった。
「くそ、一本目のポーション」
一本目のポーションを飲み干すと、次の魔炎弾の攻撃に備えて、身構える。どうやらこのケルベロスは魔炎弾しか放ってこないらしく、攻撃パターンは予測しやすい。ダメージも避けられるかは、別の話だが。このままだと、魔炎弾の熱気のダメージも換算すると、避けても僕のHPは底をつくことは間違いなかった。
「へへへへ、・・・・・望む、ところだ。」
いいさ死んでやる。このまま死んであの世にでもなんでも行ってやる。
そしてあの世から、生き残ったあいつらを笑ってやる。
見捨てた人間に助けられた記憶を抱えて、未来永劫無様に生きろ。
そして、その姿を見て、あの世から僕はお前らを呪ってやる。
だからここで、僕は、
「しんでやる!!!!」
僕はケルベロスの方を向きながら、そう叫んだ。
もうそれを伝えるべき人間はもうここにはいない。
対するケルベロスの方も、3つの首をそろえて、魔炎弾を僕に向かって撃ち込もうとしてくる。
ここから、多分もって2・3分だろう。それくらいあればあいつらは逃げて帰れる。
そうして、あいつらは俺の残像を感じながら、この先一生生き続けるんだ。
ははは、ざまあみろ。
ケルベロスの魔炎弾が僕に向かって放たれる。
もう、今死んでしまってもいいか。
多少の誤差は、大丈夫だろう。あいつらも村に逃げれる分の時間稼ぎはできたはずだ。
もう疲れた。
魔炎弾を受け入れ、焼け焦げて死のう。
そう思って、両膝を地につけた。
そうして魔炎弾が、僕に向かって降り注ぎ、僕の体を焼失させ・・・・・・、れなかった。
今思えば、今から起きる出来事は、僕にとっては大きな人生のターニングポイントだったのかもしれない。
「よく耐えたな。少年」
見知らぬ声が、僕の耳に届く。同時に、バゴーーーン!!という衝撃音が僕の前方で鳴り響く。3つの魔炎弾をかき消された音だとわかるまで、コンマ1秒程度かかった。
何事かと思い前を向く。
その先には、
2本の黒い長刀を手に持った、一人の少女がいた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
このわずか、10秒前。
「赤いコンソール・・・・・・・・・・。」
ついに、見つけた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
- Re: THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー ( No.4 )
- 日時: 2020/06/20 00:04
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
彼女は黒髪をたなびかせ、黒色の鎧を身にまとった少女だった。
刀の色も、黒色。どんな黒よりも黒い、漆黒の二輪刀だ。
そのいかにも熱を通しやすそうな2つの刀がいとも簡単に、ケルベロスの魔炎弾をかき消したのだ。
「・・・・きれいだ・・」
僕は言葉が出なかった。綺麗と言うしかない。彼女の立ち姿は、細いその身に似合わず、勇ましかった。僕よりも少し身長の高い彼女は、僕の目の前で盾としてケルベロスに立ち向かっていた。“綺麗”という言葉が最も似合う、そんな立ち姿だった。
「さて、私はコイツを倒してくるから、君は少し後ろに下がっていろ。魔炎弾の残り火には近づかないようにな」
そういわれて、僕は「ハイ」と言う以外なく、おとなしく後方に下がった。
僕が後ろに下がったのを、横目で確認した後彼女は、
ものすごいスピードでケルベロスに切りかかっていった。
「・・・ッ」
今まで見た誰よりも速いスピードで、彼女はケルベロスに切りかかっていく。彼女は高くジャンプし、ケルベロスの首をかっきるために、黒色の二輪刀を構える。ジャンプの高度は優にケルベロスの首の高さを越し、ケルベロスが見上げる形になった。
「GYASaw3&%$E%#%%#&$&$&$%$#%$#%’&〜aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」
ケルベロスは今までで一番不気味な声をあげて、6つの目が彼女をにらむ。まるで“やっと骨のある敵が来た”と言わんばかりに、どう猛な唸り声をあげて、彼女を焼き尽すために、その三つ首から魔炎弾を放とうとしていた。しかし、それは叶わず。
「睡蓮華」
ケルベロスがどす黒い魔炎弾を放つ前に、綺麗な漆黒の斬撃がケルベロスの3つの首を同時に掻き切った。
「gayae・・・・・・・ぁ」
三つ首を切られたケルベロスは、声にならない声を最後に出して、青色のポリゴンになって虚空に消えていった。
「す、すごい・・」
シュタッっと地上に降り立った少女は、まるで黒ずくめの天使だった。強くて、可憐で、そして何よりも綺麗だった。
少女は地上に降り立つと、あぜんとしている僕の方に向き返り、こう言った。
「君、名前は?」
「え・・・?あ・・・、ゆ、ユウキ、です」
「そうか、ユウキ君。君の勇気を買おう。私とともに来てくれないか」
そう言うと少女は僕に近づいてきた。近づかれるとわかる、少女は僕よりも全然背が高い、少女というには似つかない背丈だった。ちょうど僕よりも5〜7センチ高いその姿は、やはり勇ましくて、可憐で、綺麗だった。
「私のクラン、レジスタンスへ」
突然のクランへの誘いに戸惑いを隠せない。
「って、あなた誰ですか」
「ン?ああ、スマン、申し遅れたな。私はレジスタンスというクランで、リーダーをしているアイだ。宜しく頼む」
アイさんと名乗る少女は、僕に向かって手を差し出し、握手を求める。その手は先ほどの攻撃とは打って変わって、繊細で真っ白な手だった。剣を握っていたとは思えないその華奢な体は、オーラを身にまとい、人を惹きつける魅力があった。
ただ、そんな彼女に「はいそうですか。宜しくお願いします」と言えるほど、僕の危険度センサーはぶっ壊れてはいない。なにやら怪しい匂いはぷんぷんするのだ。タクムのパーティーにいた時だって騙されてきたんだ。そう簡単に騙されてなるものか。
「で、そんなアイさんがなんで僕を助けてくれたんですか」
「たまたま森に用があったんだ。そうしたら、逃げ帰って来る連中がいたもんだから、どんな敵がいるのかと見に行ってみたら、君がいたんだ」
タクムたちのことだろう。逃げ帰った連中というのは。そんなところに居合わせるなんて、幸運だな僕も。ただ、今の答えは僕を助けた理由にはなっていない。僕を見殺しにもできたはずなのに。
「でも、なんで助けてくれたんですか、見殺しにもできたでしょう」
「ンー。そうだな。自分より強い敵に対して、一歩もひるむことなく、立ち向かった。その姿勢を買った。というのではダメだろうか?」
なんだそれ。どっかの熱血教師かなんかか。美化しすぎだ。ただ僕はあいつらに思い知らせてやりたかっただけなのに。そんな大それたことじゃなかったんだ。ただ、生き残ったやつらに、見捨てた人間の記憶を抱えて、生きてほしかっただけだった。
それなのに。
「美化しすぎです。僕はそんな人間じゃない。のろまで、クズで、最低な人間です」
「君がいくらそう感じようとも、君の闘う姿勢は素晴らしかった。勇気に満ち溢れていたよ」
あれは別に勇気なんかじゃない。ただの復讐心なんだ、わかっていない。僕はそんな高尚な人間なんかじゃないんだ。僕はあなたと喋れるような人間じゃない。あなたのように強さもない。可憐さもない。綺麗でもない。弱くて、どす黒くて、汚い。そんな人間なんだ。
「だから、そんな君をだな、ぜひ私たちのクランに招待したい。つまり勧誘だな」
そんな高尚な人間じゃない。
じゃないけど。
このクランに入っても、また裏切られるかもしれないけど。
それでも。
僕はこの人の慈悲に報いたい。
弱い僕を、惨めな僕を助けてくれたこの人のために働きたい。だって、今までの人生で、僕のことを助けてくれた唯一の人だったから。
だからこの人のために、できることならやりたい。と、この時の僕はそう思っていた。
「僕はあの時、あなたが助けてくれなかったら、ケルベロスに焼き殺されて死んでいました。だから、助けられた分、あなたに報いたい!だから僕、なんでもします!」
それは僕の本心だった。助けてくれた恩義を返す。それが僕にできる唯一のことだった。
しかし、僕の独白の一方で、彼女の反応は芳しいものではなかった。
「報いる、か。それは違うよ、ユウキ君。君のように絶体絶命の場面で自分の心を奮い立たすことができる人間は少ない。その力は何にも代えがたい力だ。そんな君の力を、私に課してほしい。私にないその力を持つ君なら、ついにやってくれるかもしれないから。だから君の力を、私に預けてほしい」
「・・・・?それって、どういう?」
「いや、こちらの話だ。気にしないでくれ。それよりも、なんでもするということは、レジスタンスに入ってくれるという認識で構わないか?」
「・・ハイ。できることなら、なんでもします!」
ポーション運びだってかまわない。剣を研ぐことだってかまわない。タンクになって盾になってもいい。なにかこの人に、唯一僕を助けてくれたこの人のためになることがしたい。
「そうか。断られるのを覚悟だったが、訊いてみるもんだな」
コホンと咳払いすると、アイさんは続けてクランへの招待メッセージを僕に送信した。
続いて、≪to:ユウキさん 見知らぬプレイヤーからのメッセージです。 クランへの招待のご連絡です≫のメールが、ポップアップに表示される。
ここにサインすれば、僕はアイさんのクラン、レジスタンスに参画することになる。聞いたこともないクランだが、アイさんがクランリーダーをしているということは恐ろしく強いクランなのだろう。
一抹の不安を抱えながら、僕は送られてきたメッセージに≪ユウキ≫とサインをする。
いいんだ。僕の役目は、別に仲間を作ることじゃない。この人のために、動くことだから。
サインして、アイさんに返信をすると、アイさんは満面の笑みで僕の方を見つめた。
「これで登録完了だ。ようこそ、私たちのクラン、レジスタンスへ。これからよろしく頼む、ユウキ君」
その言葉に赤面しそうになりながら、小声で照れ臭そうに「はい・・」という僕がいた。
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- Re: THE SECOND TAKE ーAIでも英雄にー ( No.5 )
- 日時: 2020/06/20 00:07
- 名前: 多寡ユウ (ID: mVHy..WT)
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レジスタンスの本拠地が帝都にあるということで、僕とアイさんは帝都に来ていた。
移動の中、アイさんに今までのクランでの実情や身の上を話していた。今まで散々、ポーションを配ったり、お金を貢いだりしてきたこと。僕が貧しい村の出身であること。お金を稼ぐために、強くなりたいこと。直近の話題だと、ケルベロスを前にして3人とも逃げてしまったこと。
「そうか、そんなことが」
レジスタンスに参画した時点で、タクムのクランからは自動的に退会することとなった。だから、タクムたちの愚痴を言っても、もう大丈夫になったわけだ。
「ユウキくん。今ならまだ戻れる。君を搾取する人間はもういない。君のご両親と穏やかに暮らすことだってできるんだ。」
「そう・・ですね」
僕の身の上話を聞いて、アイさん的に心配してくれているんだろう。僕の親の話とか、いじめられていた話。それら全部を含めて、僕を心配してくれているのがわかる。
「さて、どうする?レジスタンスは危険な任務が多い。君はそれでも私とともに戦ってくれるのか」
それでも、僕はこの人のために戦いたい。親のために強くなりたいとか、収入を沢山稼いで大黒柱になりたいとか、そういう気持ちも確かにある。でも根幹には、僕はこの人のために強くなって、この人を守りたい。そのためなら、この人の下でクランメンバーの一員として働いて、強くなりたい。
「僕を地獄から救ってくれたのは、あなたなんです。だから、今度はあなたを守れるくらい、強くなりたいんです。地獄から助けてくれたあなたを守れるくらい、強く。」
もし、あなたが地獄に行ったら、僕が助けてあげられるくらい、強く。強くありたいんです。
「そうか。なら、改めて歓迎しよう。頼りにしているぞ、ユウキ君」
彼女から信頼されている。それだけで僕がここにいる意味になる。
「はいっ!」
力強く返事をすると、アイさんが僕を見てニコリと笑った。
(どくん、どくん)
彼女のそんな表情を見て、少しにやけてしまう僕がいた。血管の中の血液が全身に駆け巡り、心なしか悪寒さえ感じる。心の中からマグマのような熱が沸き上がり、胸だけが熱くなっていくのが肌感覚で分かる。
なんだろう。この感覚。
僕はこの時はまだ、この感覚に答えを出せずにいた。
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「うちのクランリーダーは口下手なんだ!どわははははは!気にするなよ、少年!」
帝都にあるレジスタンスの本拠地に行くと、早速めちゃくちゃチャラいお兄ちゃんに絡まれた。アイさんと帝都にあるレジスタンスに到着すると、総勢100人はいるであろうメンツが僕らを迎えてくれた。
レジスタンスの本拠地は、酒場のような雰囲気で、丸机が30個ほどはある少し大きな場所だった。その丸机に人々が座っている。みんなレジスタンスの隊員なのだろうか、面構えが違う。強者という感じがぷんぷんしてくる。
そして、その後、全体に自己紹介を兼ねて、僕がアイさんにレジスタンスに招待された経緯を説明したら、突然このちゃらいお兄さんが絡んできたわけだ。
「アイは、別にお前に入ってほしくないわけじゃねーよー。お前のことを心配しているんだぞ、少ォ—年!」
「こら、リュウ!うるさい!お前は静かにしとくことができんのか!」
「おーおーおー。怖いねぇ、今日もリーダーは!」
アイさんに怒られたチャラいお兄さん、改めリュウ。彼はチャラさ通りの短い茶色の髪で、身長も僕よりずっと高い。
役職は飛び道具を専門に扱う、ローグ。身に纏う防具も、軽さを意識した茶色の皮装備が主の様子だ。主な武器は後ろにある、どでかい・・手裏剣?
これがリュウの武器なのだろうか。まあステータスも確認した所、全く僕の及ぶ所ではない。さっきアイさんのステータスもチラ見させて頂いたが、リュウのステータスは、アイさんに負けず劣らずのステータスだった。会心率に特化したステータスぶりがなされていて、火力職担当ということなんだろう。
(僕が足手まといになるのは、確定っぽいな・・)
そんなこんなで話をしていると、奥から人をかき分け、なにやら2mはありそうな巨漢の男性がのっしのっしとやってきた。僕が見上げるサイズ感のその人は、荘厳な白銀の鎧に身を包み、右手には白銀の大楯を持っていた。
僕がその迫力にあぜんとしている中、リュウの近くに着くと、おもむろに口を開く。
「リュウ、アイを茶化すな。お前の悪い癖だ。新入りが来た時にはしゃぐのは」
彼の声はもろ、彼の特徴を反映した低い声の持ち主だった。
「ん?ああ、わかってるよ、んなの。お前はお前で堅いなぁ、もっと場を盛り上げるとかできねーのか?ゴウ」
「それは私の守備範囲ではない」
「はいはいはい、さいですか。わかりましたーよ、私が悪ぅーござんした!」
むっとした顔を見せてゴウと呼ばれた男がリュウをにらむ。しかし、そんなことをリュウは警戒も何もせず、お構いもなしに見てみぬふりをして、またべらべらと僕に「どこからきたのとか」「週末何しているか」とかそんなくだらない話を始めた。
ゴウと呼ばれる彼のステータスを見ると、騎士職。彼のステータスもアイさんに負けず劣らずのようだ。ただ守備力に関しては、アイさんよりも一つ頭を抜けている。タンクで、チームを守る立ち位置ということだろう。
そんなことで僕が関心をしていると、また奥から「あーーーーらーーーーーー!!!」というオバ様チックな声を出して、人をかき分けてくる人影がもう一つあった。
背丈はリュウと同じくらい、さっきのオバサマチックという言葉を反省するくらい端正な顔立ちとスタイリッシュな紫色の装備を身に纏う少女?女性が近づいてきた。
「新入りちゃん?めずらしいわねー、何この子!かわいいぃぃ!!!私の婿にもらっていいかしらぁ!!」
そういいながら、意外と巨乳だったその人は僕に思いっきり抱きついてきた。そのたわわな胸に窒息死しそうになりながら、頭の中で幸せを感じていると、今度はアイさんがその女性にツッコミを入れる。
「こら!サユリ!ユウキ君は私が連れてきた子だ!イチャイチャするな!」
そういわれると、「ちぇっ」という言葉を渋々その抱擁を解く。
「アイちゃんも、そんなことでメンヘラになってると、お嫁にいけないわよぉ」
「ばっ!よ、余計なお世話だ!」
アイさんを茶化すと何故かサユリと呼ばれたその女性は上機嫌になったのか、もう一度僕を強く抱擁した。
(この人、絶対Sだ・・。)
僕の中のセンサーが感じている、いじめて高揚感を得るタイプの人だ。サユリさんって人は。
この人のステータスもチラ見すると、やはりアイさんに負けず劣らずのステータス。ジョブは、魔術師らしい。その証拠に特殊攻撃力は、リュウやゴウ、そしてアイさんまでを抜いて一番高いステータスだ。
(強者ぞろいというか、強い人限定なのかな)
再びここでやっていけるのか不安になっていると、アイさんが「よし全員そろったな」と言って、おもむろに説明をしだす。
「コホン、ユウキ君。紹介が遅れたな。この3人、ここにいる毎度のことうるさいリュウ、そこにいる真面目なゴウ、で、君の今目の前にいるサユリ。この3人が私たちレジスタンスの副リーダーだ」
「よろしくなっ、少年!」
「よろしく頼む、ユウキ君?だったか」
「お願いねぇ、ユウキ君」
三人からの暖かい迎え入れのメッセージを頂いたあと、アイさんがレジスタンスの構成について、説明をしてくれた。
「彼ら3人は、私たちレジスタンスの副リーダー、つまり各隊の隊長として活躍してくれている。全員非常に優秀な仲間たちだ。彼らが30名ほどの隊員をそれぞれまとめあげている。ローグ隊、騎士隊、魔術師隊。この3隊が、それぞれお互いに相乗効果を出し合い、レジスタンスは高め合っているというわけだ」
「すごい・・・」
正直すごいとしか言いようがない。僕がいたクランは立った4人のクランだった。クランとは名ばかりの少年グループのようなものかもしれないが。それがレジスタンスでは100名ほどの隊員がいて、それぞれに隊長がいる。30名ほどの隊が3隊あって、それを全体で統括しているのがアイさんってことか。
どんだけすごい所に来てしまったんだ僕は・・。やっていけるのかと不安な気持ちになっていると、サユリさんが僕に向かって口を開いた。
「さあて、ユウキ君。私たちレジスタンスの、役割・・・。じゃなかった、目標が何かは知っている?」
「?お、お互いを高め合う事、じゃないんですか?」
僕がそう答えると、サユリさんは僕の方から、アイさんの方に向き直りながら答えた。
「うーん、それも合っているけど。・・もしかして、まだアイちゃん、伝えていないの?」
「ん?あ、ああ。まだ伝えていないな。すまない、急だったものでな」
「目標?」
目標ってなんだろう?クラン全体でお金を10億くらい稼ぐとか、この国を統治できるクランになるとか、そういったどでかい目標でもあるんだろうか。
そんなことをどでかいと思っていた僕にとっては、そこからサユリさんとアイさんが言う言葉のスケールがいまいちピンとこなかった。
「私たちはね、この世界に反旗を翻しているの」
「??????????・・・・・アイさん、それって、どういう?」
「説明をしておらず、すまなかったな、ユウキ君」
アイさんが一拍深く深呼吸をして、僕のことをじっと見つめてくる。その様子は今思えば、僕にとっては大きな人生のターニングポイントだったのかもしれない。
「私たち、レジスタンス(反旗を翻す者たち)は、この世界から脱出することを目標にしている」