複雑・ファジー小説
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- AM12:00、死に花は咲かない
- 日時: 2021/01/22 15:34
- 名前: むう (ID: mkn9uRs/)
死にたい。人生に終止符を打ちたい。生きるのが嫌だ。
誰もがそのような悩みを抱えて、この混沌とした世界を生きている。
「死にたくないなら生きろ」とか「未来が待ってる」とか言うのは果たして正解かな?
――死にたいなら死なせてあげれるよ。君が心から望むなら。
****
◆◇ごあいさつ◇◆
こんばんにちは、むうです。二次創作(紙他)やコメライで活動してます。
入院中なんですが何しろ暇でして、こちらの方でぼちぼち書いていこうかなと思っております。
気分の落ち込みが激しく、時々気分が文章に乗っちゃうこともあるかもしれません。
その時は、温かく見守ってくださると嬉しいです。
◆◇キャラクター◆◇
ぼちぼち追加していきます。
◆◇目次◆◇
一気読み>>01-
第〇夜>>01
□第1章 黒瀬灯
第1夜「水溜まりに呑まれて」>>02
第2夜
第3夜
第4夜
- Re: 死にたいなら命を下さい。 ( No.1 )
- 日時: 2021/01/22 08:59
- 名前: むう (ID: mkn9uRs/)
【Prologue 第〇夜】
窓の外で蛙が飛び跳ね、水たまりの飛沫が上がった。
屋上へと続く階段の踊り場に腰かけ、僕は小脇に抱えていた文庫本を開く。
図書館の返却期限が明後日に迫っていた。
ポツ、ポツ、と一定のリズムで落ちる雨のしずく。
放課後の校舎は静寂に包まれて、まるで昼間の喧騒が夢のようだ。
僕はただ黙々とページをめくる。内容などはとうに無視している。
なぜかって、さっきからずっとこの場所で待っているのに、自分を呼び出した相手がなかなか現れないからだ。
「……おい、いるんだったら責めて話してよ、先生」
(この私を暇つぶしに使うとは。大体お前が決めたことだろう、碧)
頭の中に、男性とも女性とも区別のつかない声が響く。
諭すように言われ、僕はプイと顔を背ける。
その態度に、声の主は呆れてため息をついた。
(全く……。ところで次の贄はどんな奴なんだ? そろそろ来るのだろう?)
「来ない可能性が高い。実際、一時間待っているけど足音すらしないし」
彼女に声をかけたのが間違いだったかもしれない。
あの時、アイツは話半分に説明を聞き、そのまま家に帰った。多分そのあたりだろう。
一瞬やる気になったように見えたのは僕のきのせいかもしれない。だって……。
と、階段の下の方から、上履きのゴム底が床をこする音がした。カンカンと段を上っていく。
そしてそいつは、相変わらず本に目を通している僕をギロリと睨むと、スクールバックを胸に抱えて横に座った。
肩にかかる長さの黒髪はしっとりと濡れており、片足だけ上履きではなくスリッパを履いていた。
その理由を、あえて先生も僕も聞かなかった。
「……それで、あの話、本当なの? 水野」
「本当だよ。僕は死神だ。君が望むなら、僕は君を向こうに送るよ」
女の子は唖然と口を開いた。
死神というものが存在することにまだ驚いているようだ。
そもそもの話、僕と言う存在がいて、その僕が死神を名乗っているのだ。
それに彼女は僕の噂を信じてこの場所にやってきた。
なら、疑うだけ無駄だ。さっさと話を進めてしまおう。
「大事なことだからもう一回言っておくね。僕の名前は水野碧。
またの名を、――【死神】。
その名の通り、不平等に人の命を奪うのが仕事だよ」
――死にたいなら死なせてあげる。 僕は死神だ。
- Re: 死にたいなら命を下さい。 ( No.2 )
- 日時: 2021/01/22 09:03
- 名前: むう (ID: mkn9uRs/)
【第1夜:水溜まりに呑まれて 001】
きっかけは二日前の放課後。
帰り支度をしていた僕に、ある少女が話しかけて来たのが全ての始まりだった。
「……水野、ちょっといい?」
「黒瀬」
僕は声の主に対し、わずかに高いトーンで彼女の名字を呟いた。
いきなり話しかけられて少しばかり動揺もしていたが、元々表情が顔に出にくい性質なので、自分がどれほど驚いたかということはあまり傍からは分からないはずだ。
黒瀬灯。彼女はクラスの中で悪い意味で目立っていた。
減らない暴言、消えないいじめ。
まだ15歳である少女の手足は、重たい鎖でつながっていた。
何がクラスメートの癪に障るのかは分からない。
そのせいでいつも黒瀬は片足だけスリッパを履き、むっつりしながら、誰とも会話を交わすことなく僕の隣の席に座るのだった。
いじめというカテゴリーに対して、僕は少しは嫌悪感を抱くことはある。
しかしいじめっ子に向かって怒鳴りつけたり、いじめられている子に優しい言葉をかけたいとは思わない。
嫌、本音を言えば僕でいいなら力になりたいと思っている。
だが自分の職業柄、暗くて重いテーマには慣れっこになっているのだ。
本来ならば慣れてはいけないし、決して許される事ではないのだけれど、僕は何の関心も抱かない。所詮自分はこの手の件で一番厄介な、「傍観者」だった。
「……何の用? 黒瀬から声をかけてくるなんて初めてだね」
「あんただって、いつもは誰とも話さないじゃん」
「……まあ、そうだね」
その日も今日のように小雨が降っていて、普段校庭で部活をする運動部の部員の退屈そうな声がどの教室にも響いていた。僕は机の引き出しから教科書を取り出しながら、黒瀬に話の続きを促す。
「それで、何の用」
「………死神」
ピクリと僕の眉が動いたこと、黒瀬は分かっただろうか。
肝を冷やしながら、教科書をカバンに入れ終え、いかにも終わった終わったという雰囲気をつくりながら、何てことないような調子で聞き返す。
「死神?」
「風の噂で聞いたんだけど、水野が『死神』なんでしょ?」
なるほど。
彼女がどこでその噂を聞いたのかは知らないが、簡単な話、新しいお客様というわけだ。
黒瀬は半信半疑と言った様子で、上目遣いで僕を睨む。微かに両手足を震わせて。
「そうだよ、僕は死神だ」
「…………死にたい人をあの世に送ってくれるって言う、まるで人殺しの職業……」
「………否定はしないよ」
死にたい理由は人それぞれだ。職場関係、いじめ、家族関係、病気、心理状態など。
そして自ら死を選ぶのも人それぞれだ。僕は誰もかもを殺そうとしているのではない。
あくまでも契約から三日間の猶予を与えたうえで、心変わりがない場合そいつを殺す。
「じゃあさ。私を死なせることって出来る?」
「……ちょっと落ち着こうよ。よく考えて。君が死んだら悲しむ人がいるんじゃないの」
そう言うと黒瀬は目を吊り上げて、叱られた後の子供のように口を尖らせた。
「あんた、この状況でそれ言う? 皆が私を虐めてんのに、今更死んだところで何ともないわよ」
「親御さんは」
「……パパとママも喧嘩に夢中で娘のことなんか眼中にないよ」
二人で渡り廊下を歩きながら、そんな言葉を交わした。
したいことがあるんじゃないの? ――したいことなんてない。
心残りがあって、未練が残るかもしれないよ。――いい。別に。
もし君を殺したら僕は殺人犯になるよ。――そうだね。
どの応えにおいても、彼女は無気力で、現実のことなど頭にないというふうだった。
瞳の輝きがなく、一向に笑わず、僕が手を差し出しても首を振るばかりだ。
こういう子供を、自分はあと何回見ることになるのだろうか。
「……仕方ない。それが君の願いならどうこう言うつもりはないよ。はい、これ契約書ね。
指名書いて、下の所にサインしたら契約完了。
三日までは取り消せるけど、その後は強制的にチェックメイト」
「いいよ別に。元から生きようなんて思ってないし」
通学カバンから白いファイルを取り出し、挟まっていた契約書を渡すと、何の躊躇もなく少女は使命を書き始める。僕はなぜか、そんな彼女の行動に足を止めてしまった。昔も今も、僕はただ淡々と役割をこなしていった。死神という仕事に感情は必要ない。
でも。
なぜか初めて、僕は目の前の彼女を死の運命から救いたいと、そう思ったのだ。
理由なんてない。何故かはわからない。他人の死など、どうでもよかったはずなのに。
「………ねえ黒瀬」
「なに?」
契約書をこちらに向け、黒瀬は目を伏せて水たまりの水を足で蹴飛ばした。目の前を、同じ学校の生徒が数人群がって走って行く。ひどく楽しそうで、死への関心がない純粋な表情をして。
「三日間あるよ。その三日間は、僕と一緒に過ごさない?」
「……あんた、死神でしょ」
「確かに僕は死神だけど、なにも全ての人を殺してしまおうとは思っていない。
あくまでその人の意思を尊重してるんだよ。だからさ」
三日間、三日間で片がつく可能性はかなり低い。
それでも君の生きようとする意志を手助けしたいんだ。
もちろん、それが無駄だったって、生きても何の意味もなかったって言うならまた僕を呼べばいい。どちらにしよ三日後には全てが決まっている。じっくり考えてくれればいいよ。
「…………まぁ、いいけど。水野も友達いないもんね」
「……作らないんだよ。その友達が死神と契約したらまずいだろ」
「そりゃそうだね」
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