複雑・ファジー小説

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監禁学校
日時: 2021/07/03 22:54
名前: せいな (ID: wxZ0SJGK)

監禁学校


・山本日向 やまもとひなた
・明石優斗 あかしゆうと
・市村華乃 いちむらはなの
・福井晴 ふくいはる
・宮美結衣 みやびゆい



一章

「はい!集合!」
隣で無邪気にさーん、にーい、いーちと数えるのは親友の優斗。
その隣にいるのはもう一人の親友、晴。
今、優斗が呼んでるのは結衣と華乃だろう。
俺たち5人はいつも行動を共にしているいわゆ『仲良しグループ』だ。
「どしたのー?」
と不思議そうに華乃が聞く。
途端に優斗が先生に聞こえないよう、声を潜めて言う。
「今日、夜に学校探索しようぜ。」
「え。怖いからやめようよ。」
「なにそれ!?楽しそう!」
怖がっている結衣と嬉しそうな華乃。
このふたりは仲良しだけど、性格は正反対だ。
「夜に学校に行って、ひとり行動しちゃダメなんだって。ひとり行動すると、その人は死んじゃうらしいよ?」
優斗がさらに怖いことを言って、みんなを怖がらせる。
「よーし。賛成の人は手あげて!」
俺たちのグループは奇数だからだいたいのことは多数決だ。
結局、賛成は優斗と華乃と俺。
反対は結衣と晴だった。
晴も怖がりで、昔お化け屋敷に連れてったら大泣きしてた。
「じゃあ決まりな。今日の夜10時に俺ん家集合。」
結衣と晴は少し嫌そうだったけど、納得したように頷いた。
その日、授業は軽く受け流して、約束の10時を迎えた。
俺が最後だったようで、優斗の家につくとみんなはもういた。
「じゃあ行くぞ!」
隣で結衣と晴は「私、怖い。」「うん。本当にやめて欲しい。ったく優斗は…」と話している。
少し歩くと学校についた。
優斗は柵を飛び越えると、結衣や華乃を引っ張り上げた。
俺たちも後に続く。
「ねぇ、来たは良いもののどうすんだよ。」
とまだ怖そうな顔をして晴が聞く。
「まずは教室行こうぜ。」
すると運の良いことに、一つだけ空いている窓があった。
俺は「警備ダメダメじゃん。」と軽く笑った。
下駄箱につくと、ガラガラという物音が聞こえた。
「誰?」と心底怖そうに結衣が聞く。
しかし誰も答えない。
さすがの優斗も怖いのか、怯えた顔をしている。
「見てよ!あそこ。」
と華乃がさっき入ってきた窓を指差す。
すると、そこには鍵がかかっていた。
内側からも開けられないように。
優斗が窓を壊そうと何度も殴っていたが、ビクともしなかった。

「もしかして俺たち、学校に監禁された?」

その俺の一言で、全体が凍りついた。


二章

「ねぇ、どうすんのよ。」
震えた声色で華乃が聞く。
もちろん優斗にだろう。言い出しっぺは優斗だ。
結衣と晴は角で泣きながら震えている。
「とりあえず脱出するしかないだろ。俺、鍵探して来る。」
「ひとりで」優斗は職員室に向かう。
俺たちは忘れていた。

『ひとり行動をしてはいけない』という噂を。

俺たちは廊下で待っていた。
それから5分くらいだったとき。
「ねえ。流石におかしくない?鍵取り行っただけでしょ?」
華乃は泣きながらみんなに問いかける。
「行って…見る?」
みんなが黙っていると、晴が口を開く。
「晴…」
「俺さ、優斗に救われたんだよ。小学生のとき、俺はいじめられっ子だった。そのとき、優斗が助けてくれたんだよ。その頃俺はもう自殺しようとしててさ。多分、優斗と会わなかったら俺、今生きてないよ…。そんな大切な友達、見捨てられない。」
震えながらもはっきりと言い切った晴に、誰も異論を唱えなかった。
優斗はみんなにとってのリーダーだ。
行動力があって、いつも先を引っ張ってくれて…。

「行こっか。」
4人で職員室に向かう。
すると俺たちは衝撃の現場を見つけた。
優斗が倒れていたんだ。
優斗の下は、赤かった。真っ赤だった。
「優斗っ!」
真っ先に華乃が駆け出す。
優斗は目を開いたまま…死んでいた。
それを見て華乃は涙を流す。
晴は大泣きだ。
華乃は泣き叫ぶ。
「そんな!私、優斗のこと好きだったのに!」
こんなときでも、驚いてしまった。
そうだったのか。華乃は、優斗のことが。
もしも好きな人が死んでしまったら俺はどう思うだろう。
生まれてから、一度も好きな人が出来たことがないからわからない。
泣きながら優斗に話しかける華乃。
ひとりで大声で泣いている晴。
放心状態で座り込んでいる結衣。

そうして俺たちは、『仲良しグループ』のひとり、優斗を亡くした。


三章

優斗がいなくなって俺たちはしばらく座り込んでいた。
「どうすれば良いの。私たちどうすれば良いの。」
結衣が突然ひとりごとのように呟く。
「結衣。もう、嫌だよ…」
それに対して華乃も返事をする。
「なにが…?」
「結衣は、わからないよね。私の気持ちとか、私の辛さとか。」
「どういうこと…」
「私のこと、わかったつもりでいた訳っ!?」
そう言うと華乃は話し始めた。
「私、いじめられてたんだよ…。そんな中、優斗だけが私の生きがいだった。結衣は…正直友達とは思えない。私のこと、何にも分かってないから。
ずっと暴言吐かれて、殴られて蹴られて。もちろん結衣がいないときだったよ。でもさ、友達なら分かるじゃん!自分の友達がどういう状況かって。だから、晴の気持ちはすごい分かる。優斗は私を救ってくれた。だから、もう優斗がいないなんて考えられない。」
「華乃……」
俺も分からなかった。気づかなかった。
華乃がいじめられてた?
でもそれ以上にびっくりしたのは、ふたりの中には、隙間があったことだ。
俺は形だけでも存在していたふたりの友情が崩れ落ちる瞬間を見てしまった。
「だから、もう死ぬっ!」
「華乃っ!!」
足が速い華乃はあっという間に走り去ってしまった。結衣は慌てて追いかける。
俺と晴も追いかける。
華乃は泣きながら屋上に駆け上がると、フェンスの外側に姿を消した。
「華乃…。」
結衣は腰が抜けたようにへたり込んでしまった。
結衣もショックだろう。
親友だと思っていた華乃に友達とは思えないと言われて。
「どうする?俺たち。」

そうして俺たちは、『仲良しグループ』のひとり、華乃を亡くした。


四章

「もう、誰も死んでほしくないんだよ…」
この一晩で、俺は友達をふたりもなくした。
「ひとり行動は禁止だよ。絶対に。優斗はひとりで行動したら死んだ。だから、俺たちは絶対に離れちゃだめだ。」
「もちろん。」
「わかってる。」
結衣は泣きながらも即答し、晴は疲れにため息をつきながら答えた。
「今、何時かな。」
時間が分かんないのは困る。
俺たちは時計を見に、とりあえず教室に行くことにした。
「それにしても、お腹すいた。」
結衣がひとりごとのように呟く。
ここに来てから最低1時間は経ったはずだ。
すぐに帰る予定だったんだけどな。
「腹減ったな。なんか学校にないっけ。」
晴も結衣に同調する。
「その前に時間見ないとだろ。」
教室に着くと、時計は止まっていた。
「スマホみれば良いじゃん。」
みんな持ってきたカバンからスマホを出す。
「書いてない!」
結衣の叫び声が聞こえる。
「時計が書いてないの。」
俺のスマホにも、ロック画面には時間が表示されなかった。
「どうする?」
ここでは時間が止まっているんだ。
「俺、ちょっとトイレ行ってくる。
「待てよ。ひとり行動は禁止だろ。」
俺の言葉をスルーして晴はトイレに向かう。
俺と結衣はおいかけようとしたが、手遅れだった。
晴は、トイレから帰ってこなかった。
現実世界にも、戻ってこなかった。
「結衣。どうしよう。」
どうしよう。その言葉しか浮かんでこなかった。
1日で3人はおかしい。

そうして俺たちは、『仲良しグループ』のひとり、晴を亡くした。


五章

俺たちは離れないようにずっと一緒にいた。
多分、1日くらいたったと思う。
正直限界だった。
でも結衣にそんなとこを見せるわけにはいかない。
怖がってるのは結衣だ。
反対していたのは結衣だ。
俺は、先のことを考えずに賛成してしまった。
「結衣?」
「日向。」
「どうした?」
「お願いがあるの。」
「なに?」
「私、今すっごい怖い。華乃に友達もして見られてなかったのも、友達が3人も死んじゃったのも。」
俺のせいだ。
あの時俺が反対していればこんなことにはならなかった。
「あのね。私、日向のことが好きなの。」
「え?」
「正直もう限界。私、病気なの。ただでさえ栄養失調で倒れやすいのに。もう無理なの、私。言ってなかったけど、だいぶ病気は進行してる。多分、もう死ぬと思う。」
だからか。結衣は俺たちと出会った時からよく体を壊して休んでいた。
「それでね。最後に、日向と付き合いたい。お願い。私が死ぬまで…今だけで良いから。もう私、涙も出なくなっちゃった。ただただ孤独感が襲ってきて、すごい怖いの。早く、楽になりたい。」
そんなことを苦しそうな顔で言われたら、聞かないわけにいかないじゃないか。
「分かった。」
「本当?嬉しい。」
微かに微笑んで結衣は言う。
「私、幸せだよ。最後に、日向と一緒に入れて。」
その言葉を最後に、結衣はこの世から別れを告げた。

そうして俺は、『仲良しグループ』のひとり、結衣を亡くした。


エピローグ

結衣が亡くなった後、俺は意識が遠くなった。
次に目を開けたときは病院にいた。
医師に話を聞くと、俺たちは五人で下校している最中に交通事故にあったらしい。
俺以外の四人は死んだと伝えられた。
本当にそうなのだろうか。
あれは、夢だったのだろうか。
そのとき、みんなの声が聞こえた。

『こっちおいでよ。私たち、仲良しグループだよね?』

その言葉が聞こえた瞬間、俺は再び意識をなくした。


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