複雑・ファジー小説
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- 口
- 日時: 2021/10/03 00:22
- 名前: 茫 (ID: pyK84o2R)
私は言葉を話せない。
正確に言うと喉元までは言葉が来るのに、そこで消えてしまう。
私が誰かと言葉を交わせたことは数えるくらいしかない。当然だろう、私も私みたいな人と積極的に話す気にはならない。
- Re: 口 ( No.1 )
- 日時: 2021/10/03 00:20
- 名前: 茫 (ID: pyK84o2R)
「では深川さん、どうぞ」
手足どころか全身が震えてる。なんで?あ、お母さんが震えるのはきんちょうするから、って言ってた。緊張、緊張…
深川さやかです。今年から、この学校に来ました。みんなと仲良くしたいです。よろしくお願いします。
よし、シミュレーションは完ぺき。いける、さやかならいける。
「ふ、………か、っ、はっ、」
喉が痛い。やっぱりダメなのかな、私。
「深川さん?!大丈夫なの?」
先生が駆け寄ってくる。私は悪目立ちしたくないのと迷惑をかけたくないのとで、ひたすらこくこくうなずいてた。ほんとはしたくなかったけど…こうなったら。
私は最後列の席から黒板へ走り、チョークで名前を書いた。大きく書いたつもりの名前は見えるかどうか怪しいほど小さくて、激しくなった体の震えが表れてしまってる。
「深川さんって、もしかしてお話するのが苦手?」
あっ、やっぱり、
「大丈夫!深川さんは鉛筆とノートを使って、みんなとお話しましょうね。みんなもいいかなー?」
まだ私は頷いてもないのに…はーい、とだるそうな声。今年もきっと、おんなじ感じになっちゃうんだ。
- Re: 口 ( No.2 )
- 日時: 2021/10/03 00:29
- 名前: 茫 (ID: pyK84o2R)
「新しい学校はどうだったの」
「……………」
「どうだった?」
「…」
「どうだったかって聞いてんの!どうだつたのよ!!」
お母さんはこわい。
「楽しかった…し、話せる子も、できました。自己紹介も、上手くできました。」
「ったくどこまでホントなのか…いい、そのふざけたどもり方とか、人前ではだんまり決め込むとか、それだからお前はダメなのよ」
「ごめんなさい」
「はいはい、わかったから自分の水筒は洗っといてね」
私にお父さんはいない。
お父さんは最初からいない、ってお母さんに聞かされている。お父さんとお母さんがどうこうして私が生まれた、ってことぐらい私でも分かる。でもそれについてなにか聞こうとは思わない。
母は私の喋り方、というか、私が話せないことを認めなかった。いつもふざけないで、って言われる。私はいつも全力で生きて全力で言葉を考えてる。全力で言葉を吐き出そうとしてる。
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