複雑・ファジー小説
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- 17歳の機能不全 第二話
- 日時: 2021/12/01 23:52
- 名前: 櫻井瑞稀 (ID: XNOmBe71)
ガチャ
家のドアを開ける。両親はもう帰ってきているようだ。兄弟はまだ学校だろう。
「ただいま」なんて言わない。どうせ誰も聞いてないし、この家では「ただいま」も「おかえり」も「おはよう」も誰も言う奴はいない。無意味だと思っているからだ。でも、幼稚園に通い出した時
皆んなが先生に「おはようございまーす!」と言っているのを見て、言った方がいいのだとわかった。其れから俺は挨拶をする事で好感度が上がることを知り、毎日毎日好きでもない奴にも「おはよう」なんて言っていた。ぼんやりと昔の事を思い出していると、リビングから母親が出てきた。
「あら、帰ってたの。」
「……うん。ただいま。」
「私ちょっと出かけてくるから、夜ご飯勝手に食べといて。」
「分かった。」
俺の返事を聞くよりも前に、母親は家を出て行った。ほらな、「ただいま」なんて言ったって「おかえり」なんて言われねぇんだよ。でも俺は会ったら挨拶をする。癖みたいに俺の体に染み付いてる。好感度を上げるためだけの道具でしかねぇってのに。はっ、莫迦みてぇ。軽く鼻で笑って、俺は自室に行く。階段を駆け上がって、父親に会わないようにリビングの前は極力静かに歩いた。
俺の父親は学歴コンプレックスを持っていて、俺にも完璧を求めてくる。自分が一番正しいと思っているから、説教だって理不尽だ。
そんな俺の父親は母親が不倫している事を知らない。相手は二十代の若い男。茶色がかったマッシュの髪型で、まぁまぁのイケメン。今出かけているのだって、不倫相手に会いに行っている。加奈に遊びに誘われて、カフェに行き、コーヒーを待っている最中に母親の不倫現場を見てしまった。ラブホに入っていったのだ。流石に俺も笑いを堪えるのが大変だった。ニヤニヤしていたら不審がられてしまうからいつも通りの貼り付けた笑顔でなんとかその場を凌いだけど、ほんっと危なかった。思い出すだけで笑えてくる。
自室に戻り、ベッドに横たわる。何もせず、気楽でいられる。俺は、この帰って来てから親に見つかるか見つからないかのスリルを楽しみ、見つからなかった時のご褒美としてこうしてベッドに寝転ぶ。ベッドに寝転ぶことなんて、他所から見たら当たり前くらいの事なのだろう。でも、俺は違う。毎日毎日勉強を強いられる。その苦悩はきっと他の奴には分からないだろう。疲れた俺の体と表情筋を癒してくれるのはこのベッドだけだ。突然スマホが鳴った。ブブブ、ブブブ、と振動を続ける。相手はデブス、宮島だった。
「もしもし、宮島さん?どうしたの?」
「あ、えっと、特に用事はなかったんだけど、成瀬くんが、暇な時LINEしてって言ってくれたから………あ、でもこれLINEじゃなくて電話だよね!ごめんね!私なんかが成瀬くんに電話とかしちゃって……」
ほんとだよ。俺がせっかく心置きなく休んでたっていうのに。
「ははっ、宮島さん謙遜しすぎじゃない?私なんかって言って自分を下げない方がいいよ。宮島さんの良いところ俺知ってるし。例えば、頑張り屋さんなところとか、先生に頼まれごととかされたら率先してやってるところとか。」
まぁ、偶然見かけただけで普段からしてんのかは知らねぇけど。
「ありがとう、成瀬くん!私、成瀬くんと電話できて良かった!また明日学校でね!」
「うん、また明日ね。」
そこまで言って電話を切る。不必要な筈の繕った言動に疲れてしまって、俺は気付かないうちに寝てしまった。