複雑・ファジー小説
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- 魔術学校と天空の記憶
- 日時: 2021/12/10 18:59
- 名前: 幽霊林檎 (ID: fpEl6qfM)
不定期更新、長くなる予定。
それでも良ければ、どうぞ。
- Re: 魔術学校と天空の記憶 ( No.1 )
- 日時: 2021/12/10 19:06
- 名前: 幽霊林檎 (ID: fpEl6qfM)
「魔術学校と、天空の記憶」
「夢だなんて、絶対に言わせない。」
私。否、「私たち」は、眩しいくらいに美しく輝く大空を見て、そう決意する。
それは決意であり、宣言であり。
「さあ、旅立ちの時だ!」
手をつないだ少年と少女は、雲の流れる天空へ、その身を放り投げていった。
―――――――――――――――――――
ここは、我々人類の住む遥か上空。静かな大気の一角に、騒々しい音の鳴り響く浮き島があった。
その島は、大きな岩をくりぬいて作られた建物の集合体で、見えるそのほとんどが赤い木造建築で埋め尽くされている。ともすると、一種の集合住宅にも見えた。
そんな宙に浮く巨岩を取り巻くように、周囲に小さな島々が存在している。それらはあるいは桟橋、あるいは駐在所などの役割を果たしていて、巨岩の付属物となっていた。
この浮遊都市の名は、「ティエンコン」。
太古に繫栄していたという、天空人の最後の生きた街である。彼らはかつて世界を制するほどの文明と勢いを持ち、その圧倒的武力で自由奔放に暴れまわっていた。その興味はいつしか地上にまで広がり、彼らは下界を攻め落とそうと魔の手を伸ばしたものの、それはあっけなく失敗し、逆に天空人どもが空の果てに追いやられる結果となった。
ここまでは、誰だって知っている史実だ。
さて、この都市の中央で、1人の少女が歌っていた。その歌声は透き通るようで、街全体に涼風をもたらす。
彼女は、岩に寄生するように生える巨木に登り、より一層その歌声を響かせる。
眼下には、都市の中でも区分化された彼女の住む町、「アーカーシュ区」の眺めが広がっていた。
「シィースエン ユグラオネ リェンフォン♪」
ティエンコンの伝統音楽、「カエルム」。
その歌詞には、限られた人物しか発音がかなわないという、古代ルフトゥ語が用いられている。
彼女はそれを軽やかに歌い上げ、この区に平穏をもたらしていた。
「おや、今日も元気に歌ってるねえ。」
「本当。綺麗だわあ。」
区画のあちこちで、そんな声が広がる。
彼女はそんな人々からの歓声を、爽やかな風と共に、驚くほど発達している耳で受け取った。
「うふふ、みんな喜んでくれてる……」
彼女は、静かに微笑みの声を漏らした。
彼女の名は、シエル。
天空という意味を持つ、古代ルフトゥ語を由来としている。
そんな彼女は、天空人にしても人間にしても珍しい、不思議な能力を持っていた。
能力、「大空の使者」。
千人に一人、千年に一度と言われたその力が、彼女にはあった。空気を操り、天候を味方につけ、果ては天空神からの寵愛をも受けると言うその能力。あまりにも強大であった。
故に、彼女はその存在を世界から秘匿され、大空の最果てで生きている。
「さあ、もう一曲歌おうっと。」
彼女は意気揚々と、その大気を操る力で、もう一度町に歌声を届け始めた。
―――――――――――――――――――
さて、こちらは地上。何万高度も下の大地に、一つの国があった。
大国と言われ、もう何万年の月日が経つが、その繁栄が衰えることは無い。「栄枯盛衰」……などという言葉とは、驚くほど無縁な国だった。
周囲は頑丈な城壁で囲まれ、何人もの国兵がその上でたえず見張りを行っている。
内側は平穏が保たれ、ありとあらゆる市場が存在し、常に賑やかな雰囲気を醸し出していた。
この国の名は、「タエヴァス」。
かつて、天空人との戦争に人類最後の砦として存在し、打ち勝った栄誉ある大国だ。今もなお、その強さは脈々と受け継がれている。絶える未来などありはしない、と荘厳な立ち居振る舞いだ。
一度、天空人との大戦で滅びかけた国は、今では、国民と生き残った人々の多大なる努力で元と同じ国力を、いや、それ以上の領土と国力をを持っている。あの痛ましい戦の爪痕など、もうどこにも残っていないだろう。
唯一、国全体を包囲するように築かれた大きな城壁だけが、いつかまた敵が攻めて来ても平穏であれるようにと、教訓になっている。
そんな都市の中央で、一人の少年が元気に走り回っていた。紙袋から溢れるほどの林檎を抱え、相棒らしき小さな動物――テトリオ――を肩に乗せている。
彼の名は、ラニ。
冒険者を夢見る、平凡な一人の少年だ。
「さあ、キュウエン。今日のおやつは林檎だよ。」
「キュウ。」
キュウエンと呼ばれた小動物が、高く小さな声で一鳴きする。それは、歓喜の声であった。
と、その時。
『シィースエン ユグラオネ リェンフォン♪』
どこからか、鈴のように美しい声が少年の耳に届いてくる。
それは知っているようで、絶対に聞いたことは無い。誰かに歌われたようで、しかし風の音色に等しい。
いまだかつて、耳にしたことのない旋律に、少年は聞き惚れてしまう。
「なあ、キュウエン。この曲、知ってる?」
「キュウウ?」
声は、ずっと少年の中に響いている。止まることなど、知らぬか如く。
それは、魂の音色。
限られた人々しか耳にすることのない、幻の音色。
彼はまだ、自分が異端であることに気が付かない。
―――――――――――――――――――
これは、本来交わることのなかった世界の話。
天空に住む風を操る少女と、地上に住む不思議な力を持つ少年を、一つの魂の歌がつなぐ物語。
―――――――――――――――――――
冒頭の冒頭。
え?終わらない。
- Re: 魔術学校と天空の記憶 ( No.2 )
- 日時: 2021/12/16 11:35
- 名前: 幽霊林檎 (ID: DYIx383H)
「シエルー!」
「なにー?」
「洗濯もの、はやく干しちゃいなさい。」
「はーい。」
お母さんが、扉を開けて笑いかけてくる。私は、カリカリと削っていた彫刻をいったん後にして、その手伝いに走った。
お母さんは手に大きな洗濯カゴを持っていて、物干し竿の下にドスン!という音を立てて置く。
「いつも重そうだけど、お母さん大丈夫なの?」
「このくらい、どうってことないわ。」
お母さんの隣で、一緒に洗濯ものを干していく。真っ白なシーツが風に吹かれてバタバタと音を立てた。
ほかの家を見ると、そちらでもシーツが干されていて、赤い建物によく映えている。
「綺麗だなあ。」
「シエルは、いい子ね。」
お母さんのそんな声を聞きつつ、シーツの次は服。その次は……なんてやっているうちに、我が家の物干し場も、真っ白な布で覆われてしまった。
私は、この景色が好きだ。達成感と、お母さんとやれたという幸せの光景だから。
「また、私が乾かしておこうか?」
「そうねえ……お願いするわ。いつもありがとう、シエル。」
私は自らの力、「大空の使者」を使って、洗濯ものに風を送る。暖かい風にしておいたので、ものの十五分ほどで乾いた。
「お母さーん、乾いたよー。」
「畳んでもらえるかしら?」
「わかった!」
一枚一枚洗濯ものを回収し、左腕に抱えて籠に詰め込んでいく。満杯になったら一時家の中に持って行って服を畳み、引き出しにしまっていく。
その作業を何回か繰り返した後に、屋上で干されていた洗濯ものの全てが片付いた。
達成感を感じながら、私はお母さんに一言断って外へ出る。行く先は、いつものあの巨木の上だ。
鼻歌を歌いながら木の幹のとっかかりに手を掛け、足を掛ける。そうして少しずつ上へ登って行って、最終的に一番大きい枝分かれしているところまでやって来た。なかなかの標高だからか、頬に当たる風がとても涼しい。
「今日は何を歌おう。」
そんな、簡単な質問を声に出す。
脳内で手当たり次第に曲を引っ張り出す。どれにしようかと少し考え、結局いつものにした。
少し声を整え、
「あー、あー、」
と調整を行う。
今日もよく響けばいいなと思いながら、風の力を放ち、歌を紡ぎだした。
「リーシュエント フォンリャン ティエンコン♪」
小さい頃からお母さんが歌っていた旋律が、眼下に広がる愛おしいこの街の全てに届けられる。昔から、数ある中でこの歌が一番好きだった。
風に乗った私の歌声は、街中、いや、都市中に届けられる。あちらこちらで話す人々の話題が、いつの間にか私の歌声に変化していく。その一部始終を、こうして木の上で耳にするのが大好きだ。
この大きな浮遊都市の全てが、その時だけは私に注目する。世界の主役になったみたいで、ものすごく気持ちがいい。
決して目立ちたがり屋ではないと信じたいけど、こうして自分の行動を改めて見返すと、そう思われても仕方ないのかもしれない。
そのくらいには、私はこの場所から歌うときがとても幸せだった。
その時。
『シューリエ フィスネ ウォンレン♪』
今までお母さん以外の人が、その歌を歌っているところなんて聞いたことが無かった。
限られた人々しか発音できないと言われるルフトゥ語が用いられた、ティエンコンの伝統音楽「カエルム」。そのうちの一つである「アンガ」が、私が歌っていた曲だ。それに返答するように作られた対歌、「ウドゥ」。
それがたった今、どこかもわからぬ空の彼方から聞こえてきた。
夢?幻聴?
いや、まさか。
そんな押し問答を一人脳内で繰り返す。
あまりにも鮮明に聞こえたその歌が、幻聴だとはとても思えない。だがしかし、状況からしてそれが空耳であることに、間違いも無い。
意味不明な状況に私の頭がこんがらがりそうになっていると。
『シーリュエン ジャンロン ウィエ♪』
もう一度。
あの曲の歌詞が流れてきた。
間違いなんかじゃない、あれは絶対に本物だ。
本人を見たわけでもないのに、なぜか私の中には確信があった。それが絶対であると、根拠もない自信があった。
――――行こう、あの雲の先へ。
私はそう、彼方に見える大きな入道雲を見つめながら、堅く決意した。
―――――――――――――――――――
冒頭の冒頭、三分の二終了。
それにしたって長い。
- Re: 魔術学校と天空の記憶 ( No.3 )
- 日時: 2022/03/19 20:20
- 名前: 幽霊林檎 (ID: fpEl6qfM)
「ラエ ル ティエリカ♪」
黒髪をハーフアップにして、ヒスイのような瞳をきらめかせた少女か少年か分からぬ容姿の者が一人。シエルが奏でていたものとは異なる旋律を、あの浮遊都市の巨木の一端で口ずさんでいる。
その者が歌っている様はまるで、どこかの神のようで、この世のものとは思えない空気を纏っていた。道行く人々が、木の上で歌うその者を見て、その声を聞いて、うっとりとした表情を浮かべる。
「いつぶりだろうか、この歌を歌うのは。」
その者は、長い髪をなびかせて立ち上がる。
纏っている衣服は見るからに上等なものであり、滑らかな光沢と透き通るような涼やかさがあった。
縹色の衣を翻して、その者は木から飛び降りる。路上の人々が、「あっ」と声を上げた。
しかし、その体は地面に落下することなくふわりと浮き上がる。
竜に、乗っていた。
それを見た人はまるで幻かのように、驚いた表情で空を見上げる。
見上げられた本人は、フッと笑うと、竜の背に乗って瞬く間に姿をくらましてしまった。
大通りの人々は、しばらくその場にポカーンとして立ち尽くしていた。
―――――――――――――――
ひっさびさの更新だわ(笑)
のくせして短い
- Re: 魔術学校と天空の記憶 ( No.4 )
- 日時: 2022/03/22 16:41
- 名前: 幽霊林檎 (ID: fpEl6qfM)
「えっ?……きゃあああああああ!!!」
あれから何日かして、私==シエル==は、親の反対を押し切って旅に出ていた。
理由は単純、遠く彼方から響いてきた歌声を、探しに行くためだった。
もちろん、父親には反対された。けれど、思いも寄らぬ助け船によって私はこうして、どうにか旅に出ることが出来たのだった。
その助け船を出してくれたのは、まさかのお母さん。
私の揺らぎの無い瞳を見て、お母さんは何かに気がついたらしい。私に、一つの言葉をかけた。
『かつて、世界の天空には古の竜の都があった。そこでは、涼風のように透き通り、なめらかな光沢のある竜の歌声が響いていた。』
お母さんによると、それはうちの一家に伝わるおとぎ話の冒頭らしい。
何でお母さんがこの言葉を、私に言ったのかは分からない。けれど、耳のいい私は、その後にお母さんが呟いた、ほんのハツカネズミの声くらいの音量の一言を、聞き逃さなかった。
「親子ってやっぱり、似るものね。」
で、なんで私が今こんなことを思い出しているかというと。
――――絶賛、崖から落下中だからです。
え?大丈夫なのかって?
何もだいじょばないよおおおおおお!!!
浮遊都市って私の家があるところ以外にも沢山あるんだけど、都市から都市までって以外に遠いの。それで、各都市をつなぐ連絡船があるから、その停留所で時刻表をのぞき込んでた訳なんだけど……気がついたら、誰かに背中を押されて宙に投げ出されてた。
ああ、旅に出て早一日目、もう走馬燈が頭の中を駆け巡って……ん?駆け巡ってないわ。どういうこと?
気がつけば、私の視界を線のように駆け抜けて行っていた景色が、見事に静止している。
一体、何?
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
「えっ?」
突然頭上から降ってきた声に、私は戸惑う。
声のする方に首を向ければ、年配のおじいさんが連絡船の運転席に座ってこちらを見ていた。後ろでは、何人かの、椅子に座った乗客らしき人が驚いた目でこちらを見ている。そして、まさに船、といった見た目の連絡船の船首からは機械のアームが伸びていた。
どうやら私は、このアームに運良く捕まれて、命拾いをしたようだ。
ああ、冷やっとした。
本来は、「冷やっと」どころでは済まないのだけれど。
この浮遊都市から下の世界==地上==までは数百キロ離れている。いくら天空人として空になれている私も、体はただの人間と同じ……らしい。学校ではそう教えられたが、よくは知らなかった。
何にせよ、生身で、しかも大自然からすればちっぽけな私が、数百キロという距離から落下したら死ぬのは免れないだろう。即死確定だ。
でも、何でか知らないけど助かるような気はしていた。
昔から、私はもの凄く勘がいい。自分で言うのもどうかと思うけれど、本当にそうなんだから仕方ないわ。
だからきっと、助かるような気がしていたのはこの勘のせい。まあ、勘に頼りすぎているのはいざというときに困るから、出来るだけ自分で考えて判断するようにしているのだけど。勘を使わないとは言ってないわ。大体、使わないようにしても、なんとなくで分かってしまうものではあるし。
でも、落ちたのは誰かに背中を押されたから。私はじっと時刻表を見ていたとはいえど、よろけただけで落下するような位置には立っていなかったはず。
じゃあ、誰がそんなことを――――
しかし、私の思考はそこで遮られた。
先ほどの、私を助けてくれた連絡船のおじいさんによって。
「嬢ちゃん、ここで船を待っていたんじゃ無かったのかい?ワシはもう年だが、目だけはまだまだよくてね。さっき遠目からだが、停留所から足を踏み外して落ちたように見えたんじゃ。違うかい?」
「あ、はい。そうです。」
とりあえず、一旦突き落とされたことについては放っておこう。
今は多分、さっさと目的地に着くことが一番だ。そうすれば、さっきの私を突き飛ばした奴から離れられるかもしれないし。
そう考え、私は気持ちを切り替えておじいさんと会話をする。
「この船は隣町――、シャマイムへの連絡船だが、どうだ。乗って行くかい?」
シャマイムとは、地上にある最も大きな大陸、ユーラスト大陸の東南地域の影響が色濃く残る都市だ。ここの住民はとてもお祭り好きで、賑やか。月に一度は街をあげての大祭典が行われる。私も、お母さんに連れられて何度か行ったことがあった。
そして、私が時刻表と睨めっこしながら探していた名前でもある。
「……お願いします。」
「あいよ。20セルだ。」
「はい。」
おじいさんはアームを操作して、私を船の上に乗せる。ひとまず、宙ぶらりんの状態から解放された私は、ポケットから艶やかな光沢のある財布を取り出して、10セル硬貨を二枚、おじいさんに渡した。
「毎度あり。」
おじいさんが人好きのする笑顔で、硬貨を受け取る。
その後は、騒然としていた停留所を、おじいさんがよく通る声でどうにか静まらせ、いつもの平穏な環境に戻していた。
それを見た私は、乗客が全員船に乗り込んだ後、空いていた最も運転席に近い椅子に座り、そっとおじいさんに耳打ちした。
「ありがとうございます。」
「何、いいってことよ。」
―――――――――――――――
はい、更新完了。
腱鞘炎寸前で草。
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