複雑・ファジー小説

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影があるから光がある
日時: 2022/03/20 23:28
名前: 干からびた蛙 (ID: SsOklNqw)

この世には理がある。
太陽が照りつき、月が光り、花が咲き花が枯れ、生きとし生けるものが土となるように。
理に逆らうことは出来ない。
理を狂わせてはいけない。
それがこの世界の暗黙のルール。

しかしルールがあれば、それを破るものも現れる。

丹崎葵

この世界の反逆者。いや、救世主だろうか。
少なくとも彼女自身は、そう思っている。

朝、光り輝く空を背に、彼女が向かったのは駅。
傍から見れば普通の高校生だ。もっともそれは、片手に握られたナイフがなければの話だが。

通勤通学に利用されるこの駅は、いつもの賑やかさを保っていた。
人の波に揉まれながら、彼女は改札の前に立った。

後がつっかえ、文句の声が飛び交おうとしたそのとき、

「ごふっ」

「きゃああっ!」
「うわぁっ!!」
視線が葵に集中する中、葵は何事も無かったかのように電車に乗り込んだ。
一般的に「殺人鬼」と呼ばれることとなった葵は、ナイフを上着に仕舞い、
スマホを眺めた。

最近よく見るニュース。聞いたことのある名前が載っていた。
(聞いたことあるな。)
自身が前に刺した人物の名だとは思わず、ただ聞いたことのある、それだけだった。

葵にとって、「人を刺す」という行動は、日常生活だった。
それは、歯を磨いたり風呂に入ったり食事を摂ったりすることと、何ら変わりないのだ。
その日の「やるべき事」は終わった。
葵はストレス発散程度にしか思っていなかった。
ただの退屈しのぎ、ただのストレス発散、ただの日常茶飯事。
葵の退屈しのぎは、尽きることなく続いていった。

お使い帰りの少女や散歩中の老人…それこそ老若男女、所構わず刺して行った。
彼女は刺すこと自体に快感を得ているため、殺人を目的としているものではなかった。
その中にはもちろん助かる命も存在した。
ただ、数少ない事例に過ぎない。
なぜなら、彼女が刺す場所は必ず胸だからだ。それも定位置。
余程の運がなければ、まず助からないだろう。
先程のサラリーマンとて心臓を一突き。助かってはいない。

しかしそんなある日、彼女はミスをしてしまった。