複雑・ファジー小説

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日時: 2022/04/05 19:01
名前: t (ID: vokdlDRO)

僕が高校2年生だった頃、地球に隕石が衝突した。
NASAが「明日、隕石が地球に衝突する」と発表したが、遅すぎた。もっと発表が早ければ、こんなことにはならなかったかもしれない。
僕は、地球に隕石が明日衝突する、とテレビのニュースで知った時、頭が真っ白になった。5分ほど思考が停止した。徐々に意識を取り戻すと、「あの場所に逃げよう」とすぐに家を出た。
電車で3時間。東京から遠く離れた県。祖父の家がある場所に向かった。そこは田んぼや林に囲まれた自然が綺麗な郊外だ。昔、祖父とこの場所で過ごした思い出が、ニュースを見ていた時に、ふと蘇ったのだ。祖父はワインが好きで、家の近くにある林の側に貯蔵庫を設けていた。深さが10メートルほどある。もう祖父の家は空き家になっていたが、住んでいる者もいない。譲り受けていた鍵で貯蔵庫を開け、沢山あるワインを外に放り投げた。大きなスペースに僕は入り、中から扉を閉めた。
これで、安心だ。
ポケットからスマホを取り戻すと、日本はおろか、世界中がパニックになっていることが分かった。隕石は100メートル級のものが10個以上、地球に降り注ぐらしい。ミサイルや核でも迎撃は不可能だという。ニュースサイトを見ている限り、地球上にはどこにも、人間の逃げ場は無いらしい。
僕はそれでも、希望を持ち、貯蔵庫に隠れ続けた。

Re: like ( No.1 )
日時: 2022/04/06 13:08
名前: t (ID: vokdlDRO)

2
スマホの画面を見ながら、翌朝を迎えた。
一睡もできなかった。アドレナリンが今までの人生で一番出ている気がする。ニュースによると、あと1時間ほどで隕石が地球に衝突するらしい。
貯蔵庫の暗闇の中で、そういえば、友達や家族はどこへ逃げたのだろう、と考えた。パニックになり1人でここへ来てしまったが。ネットの日本人の書き込みを見ていると「家でその瞬間を迎えよう」や「いつも通り過ごそう。どうせ人間の運命は皆同じ」などの、諦めの書き込みがほとんどだった。当たり前だ。あの大きさと量の隕石が地球に降り注ぐわけだから。僕くらいだろう、必死で生き残ろうとしているのは。

その時は、突然やってきた。
今まで聞いたことのないようなものすごい大きな爆発音が鳴り響いた。貯蔵庫の頑丈な扉越しだが、その音は耳をつんざいた。そして、何故だか水の流れるような波の音が聞こえ始めた。

爆発音、波の音はそれから6時間くらい続いた。貯蔵庫には一滴の水さえ流れ込んでこなかった。流石ワイン貯蔵庫、と褒め称えたが、ネットが切断されスマホが使えなくなったので、いよいよそうなったかと覚悟した。次第に外の大きな音はしなくなり、静かになっていった。外に出てみようかと思ったが、まだ爆風とかあるかと思い、しばらく貯蔵庫の中にいることにした。

翌日。貯蔵庫の扉を開け、外に出てみた。
スニーカーを履いた足を大地に踏み入れる。ザク、ザクという音が、閑散とした空間に響きわたる。そして、目の前に広がっていたのは・・・。

Re: like ( No.2 )
日時: 2022/04/07 16:37
名前: t (ID: vokdlDRO)

3
祖父の住んでいた家、そして周りに広がっていた自然の景観は、もう存在していなかった。土や倒木の残骸等で荒れ果ててしまっている。2日前までは普通にあった郊外が、見る影も無くなってしまった。周りを見渡しても、360度、同じような光景が広がっている。僕は、その場に立ち尽くすしかなかった。
1時間ほど歩いてみた。祖父の家から最寄りの駅までの道のりだ。どこも汚泥に侵食され、歩道すら残されていない。すぐにスニーカーも土で汚れてしまった。ふと空を見上げると、太陽の光が辺りをどこまでも照らしていた。
おそらく、駅があった場所であろう所に着いた。何も残されていない。若干線路の切れ端のような鉄が泥から出ている。それを見て、僕は一気に絶望した。太陽の光をさっき確認したときは、希望の光みたいな感情と重なったが、今は、何も感じなくなっていた。そうだ、僕は生き残った。生き残ったけど・・・。
1人だけだ。



動物の気配がする森林に、1人で入って行く。しかし、動物など存在しない。植物は育ち、荒廃した大地に希望をもたらした。雨が降れば川のかさは増し、飲み水になる。自然のありがたみを、これでもかと感じる生活になった。
地球に隕石が衝突してから、1年。
本来ならば、僕は高校3年生になっているはずだった。隕石は学校や人類だけでなく、地位という概念すら奪った。今こうして林の中で木の実採集をしているなんて、1年前の僕は夢にも思っていなかった。当たり前だ。
上半身裸で、下はワイン貯蔵庫に隠れたときから履いているジーンズを身につけている。そして、土で原型の白色が分からないほど汚れたスニーカーを履いている。木の実を数個取ると、その場で食べ、林をそそくさと出る。
今日は曇りだ。昨日は晴れた。林に囲まれた土の上に座ると、そのまま寝そべった。あれから1年かー・・・。この1年、様々な方角に足を運び、「生き残った人」はいないか探し回ったが、1人として見つけることができなかった。
だが、僕は、諦めていなかった。

Re: like ( No.3 )
日時: 2022/04/09 15:13
名前: t (ID: KOGXbU2g)

4
火を起こすと、落ち葉に引火させ、集めた石器の上に置く。煙が空へ上昇していく。見上げると雲に覆われた青空が視界に入る。周りに建物が無いので、空の距離が近く感じる。林の近くにある小さい川に泳いでいる魚を取り、木の棒で刺し、火で焼く。塩などの調味料は一切無いので、味付けはできないが、食べると素材そのままでも美味しく食べられた。山菜なども食べ終えると、瞑想した。
これからどうするか。
この場を離れ、生存者を探しに行くべきか。長い旅になるだろう。ここには自然の恵みが運よく整っているが、旅先では食糧に困るかもしれない。
様々なことを考え、結論を出した。旅に出よう。
1人で生活することに不自由はなかったが、日に日に寂しさが勝るようになっている。だからこそ、生存者を探し、生きている喜びを分かち合いたい。そう思った。
西へ向かうことにした。


持ち物は無し。上半身は裸、下半身はジーンズ、汚れたスニーカー。まさに世紀末の風貌である。祖父の住んでいた郊外を出ると、本来なら国道があった場所は、元の姿形なく、木の残骸や建物の漂流物で荒んでいた。足を進めて行く。この足場がどこまでも続いている。商店街やビルなども当たり前に姿を消し、何も残されていない。わずかに植物が育ち、荒廃した地面に彩りをしている。1時間歩いただろうか。一切、景色は変わらない。
生存者がいる希望が、今の所見えない。
そして、その瞬間は、突然訪れた。
「こんにちは!」
声がした。


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