複雑・ファジー小説

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首なし執事とお嬢様、時々メイドさん。
日時: 2022/06/09 23:48
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: rMENFEPd)

お嬢さまは、青い薔薇が似合う。




 どこまでも広がる大地と、どこまでもいっても咲き乱れる青い薔薇しかない『彼の地』にて、やたらと大きい屋敷の中で暮らす、首のない執事とお嬢さま、そして顔のないメイド。彼らは日々、どんなことをしているのだろう―――。





カクヨムにて投稿していた作品の移植になります。ストックが切れるまでは3日に1度の更新になります。

ジャンル 異世界異形頭ファンタジー
投稿頻度 ストックが切れるまでは3日に1度


目次
第1話【4529/27/41】
>>1 >>


Re: 首なし執事とお嬢様、時々メイドさん。 ( No.1 )
日時: 2022/06/09 23:50
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: rMENFEPd)

青い薔薇が咲き乱れ、空は雲ひとつ無い。
大地は果てしなく広がり、ソレに呼応するようにまた、青い薔薇もどこまでも続く。
そんな場所にぽつんとひとつ、屋敷が建っていた。
青く美しいその風景を壊すように、やたらと大きく構えていた。
その大きさは普段目にしている建物の比ではない。それくらい大きくどんと構えていた。
 一体、こんな場所に建てられた屋敷で、誰が暮らしているのだろう―――。

 屋敷の中はその大きさ通り、かなり広々としていた。
大理石で出来た床、柔らかい光をくれるシャンデリア、長く続く螺旋階段。
外の風景に見合わず、やたらと豪華な造りになっているようだ。
 その屋敷を少し進んでみれば、やがて大きな庭へと出る。その庭はやはりというべきか、青い薔薇でうめつくされていた。というより、ソレ以外の花はこの場所には全く無いようだった。
 しかし、庭の真ん中だけポッカリと開いている場所が在る。そこだけきれいに、青い薔薇は避けているようであった。そしてその場所には、ちいさな円型のテーブルと人一人が座る椅子が設置されていた。円型のテーブルの上には、無数のお菓子と中身が注がれたティーカップとソーサー、一輪の青い薔薇が添えられていた。
 その椅子に座るは、右目に青い薔薇が咲き、顔にヒビがはいった目を閉じた女性。すぐそばには首のかわりに黒いモヤがある執事のような者と、顔をヴェールで隠した顔のないメイドがいる。メイドの手に肉はなく、骸がむき出しになっており、動かすたびに音が鳴る。
 カチャリ、とティーカップに陶器のように白い指がふれる。中に注がれた赤茶色の紅茶は、動きに呼応するように水面を揺らす。

「本日の紅茶は、お嬢さまのご希望通りアールグレイに致しました」

 首のない執事が椅子に座る女性に『声』をかける。声を発する器官はないはずで、どこから『声』を出しているのかはわからない。だがしっかりと、はっきりと『声』を発した。
 お嬢さま、と呼ばれたその女性は口を少し開くと

「――」

すぐに閉じた。喋ったのか喋らなかったのか、それとも単に声が小さいだけか。それは彼女の付き人であろう、その首なしの者と顔のないメイドしかわかるまい。彼女はティーカップにくちをつけ、くっと流し込む。

「――」
「それは良かった。本日のダージリンは、最良の品質のものをご用意いたしましたので」
「必死に探してやがりました。ダージリンなんて600年ぶりにリクエストされたんでストックがなかったんでございます。あの必死さ、みせてやりてえぐれえでございました」
「Q(クー)!言葉遣いを改めなさい」
「ローザお嬢さまが許してくれたんでごぜえます」
「そ、それは…」
「S(エス)チョレー」
「Q!」

Sと呼ばれた執事は、Qという名なのだろう顔無しのメイドに声を少しばかり荒らげる。
対して言葉遣いがなっていないQは、Sを指さして笑うような仕草を見せた。
 その2人のやりとりが面白かったのかそうでなかったのか、ローザお嬢さまとよばれた女性は、カタカタと震えてみせた。その音は人間が単に震えたから出る音ではなかった。例えるなら、ヒビの入った陶磁器が何かしらの揺れでヒビがこすれあっておこす、あの耳障りな音だった。

「お嬢さまも笑ってるでございますぷぷー」
「ど、どこに笑ってしまうような箇所があったのでしょうか…と、Q。あなたは少しおだまりなさい」
「わかりました少しでいーんでございますね」
「しばらくそのまま静かになさい」
「じゃあ喋らせてもらうぜでございます」
「Q!そういう意味ではない」
「少し黙ったからいいだろうがでございます。つーかお嬢さま紅茶飲み終わってるでございますとっとと注げでございます」
「いい加減になさいQ!」
「――」
「お嬢さまがくっそわろたとか言ってるでございます」
「何でも貴方の言葉遣いでお嬢さまのお言葉を変換しないでください」

 そんなやりとりをしつつ、Sはからになったティーカップにダージリンを注ぐ。その後ろでQがローザとともにSに何かしていたようだが、Sはあとで2人に説教をすることを決め、無心で茶会の続きの準備をした。





「――」
「本日『17回目』のお茶会、いかがでしたか?」
「――」
「お楽しみいただけたようで何よりでございます。片付けはQにやらせますので、お嬢さまはひとまずお部屋にお戻りください。18回目のお茶会の準備ができ次第、お声をかけさせていただきます。それまでごゆっくりお休みください」
「え、私ひとりでございますか聞いてねえでございます」
「この頃準備も片付けも私(わたくし)だけでやっているのです。少しは貴方もやりなさい」
「えー」
「さ、お嬢さま。お部屋にご案内いたします」

 紅茶も飲み干し、菓子もなくなったところでお茶会はお開きとなった。Qが不満そうに片付けを始めると、ローザはSから差し伸べられた手に捕まって椅子から立ち上がり、Sの後をついていく。Sの頭部は歩くたびにどこかへと揺れ、ローザはそれを右へ左へ顔で追いかける。
 数分ほど歩くと、ひときわ大きい扉の前でSは立ち止まり、ローザもならうように足を止める。さきにSが扉を開き、部屋の中へと入ってローザを促す。彼女もまた、促されたように部屋へと入る。
 部屋はひとりでくらすには過度に大きい部屋だった。壁に取り付けられた書棚にはどれだけ本をいれても余るくらいで、スカスカ具合が逆に気持ち悪いほど。クローゼットも在るには在ったが、部屋の大きさに比べればかなりこぢんまりとしている。そして女性の部屋ならば必ずと言っていいほど在る鏡がなかった。ベッドも部屋に見合うだけの大きさではなく、普通の家で見られるようなものをそのまますこしだけ大きくしたものである。どこまでもおかしい部屋だった。

「それではお嬢さま。少しの間、ごゆっくりとお休みくださいませ」

Sはそう言うと深々と頭を下げ、部屋をあとにした。
残されたローザは、部屋を去っていったSのくぐった扉をいつまでも見つめていた。


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