複雑・ファジー小説

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器用貧乏の異世界探訪録(仮題)
日時: 2024/06/27 02:45
名前: 鳴門海峡 (ID: 07aYTU12)

はじめまして、鳴門海峡と申します。
不定期更新の上、遅筆ですが、ゆくゆくは定期更新を目指していきたいと思っています。
お付き合いのほど、よろしくお願い致します。

リク依頼・相談掲示板にてキャラ募集行ってます。
よろしければ。


2022/09/29 第一話を差し替えました。

2024/06/27 差し替えました。

Re: 器用貧乏の異世界探訪録(仮題) ( No.1 )
日時: 2022/09/01 04:17
名前: 鳴門海峡 (ID: KdWdIJEr)

序幕

ざぶん、と水に落ちた音がする。目を開くと、たゆたう水面の向こうに光が見える。彼は、暗い水底に沈んでしまう前に、水面を目指し泳ぎ始めた。しかしどうしたことだろう。泳げども泳げども水面にたどり着かない。だんだんと息が続かなくなり、必死に水面に手を伸ばす。その水面もついに霞み、目を閉じた彼はまた、闇に呑まれるかに思われた。

刹那、水面を割り伸びてきた手が彼の手を掴み、彼の姿はその向こうに消えた。

Re: 器用貧乏の異世界探訪録(仮題) ( No.2 )
日時: 2024/09/27 01:09
名前: 鳴門海峡 (ID: 07aYTU12)

ぽた、ぽた、ぽた、と額に水が垂らされるのを、暗闇の中で感じた。
男───安藤夏樹はそっと目を開く。彼は慎重に起き上がる。そこは市民体育館ほどの広さの空間で、板張りの床にたくさんの簡素なベットが並び、その間を修道服らしき服の人々が忙しそうに歩きまわっていた。なんだここは。俺は……そうだ。社用車で仮眠を摂ろうと考えて……それからどうしたんだ? 安藤は寝起きで回らない頭で考える。しかし、その思考も、突如かけられた声に遮られる。
「あれ、やっとお目覚めッスか? ずいぶん寝坊助さんなんすね」
 安藤がぎょっと振り返ると、そこにはタライを抱えた少女が立っていた。歳は10代後半くらいだろうか。腰ほどまでの髪を二つ結びにしている。レオタードタイプの黒のインナーの上に、濃紺とオリエンタルブルーのハーフパーカーコートを重ね、下は鉄紺色のマイクロホットパンツを着こなしている。大きく開かれたインナーの胸元に覗く素肌が目に眩しい。興味津々な様子で安藤を見つめる彼女のまとう雰囲気は猫───しかしイエネコではなく、ヤマネコのそれ───のように安藤には感じられた。安藤は反射的に腰を浮かし、しかし、立ち上がることはなくベッドに座り直した。安藤は口を開く。
「……いきなりで状況が飲み込めてないんだけど、とりあえず。君は誰だ?」
 少女は目をぱちくりとさせた後、不満げに眉の片端を上げた。
「人に名前聞くときは自分から名乗った方がいいッスよ、おにーさん」
ごもっとも。安藤は心の中でひとりごち、
「それはそうだ、ごめん。えっと、改めて、俺は安藤夏樹あんどうなつき。君は?」
 少女は、ふん、と鼻を鳴らしてみせる。
「まあ、いいッス。あたしの名前は篝梓かがりあずさ、アンタの命の恩人ッスよ」
「命の恩人……?」
「おにーさん、川に浮いてたんすよ。あたしが通りかからなかったら今頃海の藻屑だったッスよ」
 安藤は「海の藻屑」という剣呑な言葉に、目をしばたたかせると、頭を下げる。
「そうだったのか……悪い、ありがとう。助かった」
「いいってことッスよ。一仕事終えて町に戻ろうとしてたとこだったし」
 なはは、と笑う篝。
「なるほど、仕事ね……仕事……」
 篝の言葉を聞いた刹那、安藤の背中を冷や汗が伝う。
「ごめん今何時!? 14時から商談なんだ!」
 安藤は立ち上がり篝の肩を掴む。その必死の形相に篝は身をすくめる。
「えっ、ちょっ、お、落ち着いてくださいッス」
「落ち着いてられねぇよ、今日の商談めちゃくちゃ大事なんだよ。急がねえと───」
 篝の表情に、安藤は我に返り彼女の肩から手を離すが、それでも焦ったように靴を引っ掛け、出口とみられる扉へ向かおうとする。しかし、それを篝が手を掴み、引き留める。
「な、なんだよ。離して、離せよ。急いでんだよ俺は」
「ま、待って! 先に言っとけばよかったッス! ここはアナタの知ってる世界じゃないんすよ!」
 は? と声を出した表情のまま、安藤の顔が固まる。
「……ともかく一回、あたしの話を聞いてくださいッス」

 **********************************************

 篝曰く、この世界は以前まで安藤が住んでいた世界とは異なる世界であり、魔法の栄えた世界なのだという。この世界では、別の世界からやって来た存在を漂流者と呼び、この世界での身分と身の安全を保証することを目的とした組織、『漂流者ギルド』での登録が必要なのだそうだ。
「と、いうわけなんすけど……ご理解いただけたッスか?」
 どこからか丸椅子を持ってきて、懇切丁寧な説明を終えた篝はふぅっと息を吐いて言った。安藤はしばらくの間、天を仰いで黙っていたが、眉間に寄せた皺をそのままにぼそっと答えた。
「俺って、こんなメルヘンな夢見るんだなって思ってる」
「ぜ、全然信じてない……」
 開いた口が塞がらない、という様子の篝に、安藤は苦笑いを見せる。
「正直、理解が追いつかねえよ。……そりゃ、学生時代、そういうのにも憧れたしさ、心なしかワクワクしてるよ。でも、それ以上になんで俺なんだ、って気分だな。……トラックに轢かれたわけでもなく、召喚陣の中で目覚めたわけでもない、仮眠から目覚めたら、そこは異世界……とはね。俺はなんだってこの世界に来ちまったんだ?」
「さあ……聞いた話、漂流者は皆、この世界に来る直前の記憶は曖昧だそうッスから」
 気まずい沈黙が流れる。しかし、にわかに安藤は腿を叩き、「よし」と掛け声と共に立ち上がる。
「とにかく……その、なんだっけヒョウリュウシャギルド、だったか。それの登録とやらをしようか」
 驚いた表情の篝に、安藤は肩をすくめてみせる。
「これが万が一夢だったとして、そのときは年甲斐もなく夢のある夢だったな、って話の種にならぁな。どのみちこんなとこでうだうだしててもしゃーねぇよ」
 自身に言い聞かせるように言う安藤。篝はそんな彼にニヤリとした笑いを浮かべ、
「じゃあ、『善は急げ』ッスね。受付まで案内するッス」
 と言う。安藤は薄く笑みを浮かべ答える。
「ああ、よろしく頼んだ」


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