複雑・ファジー小説

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夏菊
日時: 2022/08/04 23:23
名前: ぱんぷきん (ID: 7mknYjRW)

制服の紐リボンを締める時、息が詰まりそうになる。このまま力を込めて一思いに首を絞めたら。微かに震えた唇を押さえるように噛む癖のせいで、気付いたらマスクに血がついてるなんてしばしば。メンソールは痛いから、高い蜂蜜味の甘いリップをポケットに忍ばせて、鏡を見つめた。

いつも通りの私。
シワのひとつもないワイシャツに膝下10センチのスカート。空じゃなくて濁った湖みたいな水色で、お世辞にも可愛いなんて言えない。お母さんの勧めで進学したけど、校風に魅力なんて感じられないし、着たかった、とお母さんが目を輝かせていた制服も古臭くて好きじゃない。校舎は改修されたばかりで少しは綺麗だけど、正直どうでもいい。旧舎に思い入れなんて無いし。私にとっては監獄みたいなものだから。

地元の小さな公立中に進むはずだった。
幼馴染の由貴と絶対に吹奏楽部に入ろうと約束していた矢先、お母さんに連れられた都会の中高一貫校。お昼だったから中庭にはまばらに人がいたけど全員がスカートを履いていた。車から恐る恐る降りると、お母さんは心底嬉しそうな声で、「めいちゃんは来年、ここに通うのよ」と微笑んだ。
私、ここに通うの?
私は由貴と吹奏楽部に入ってコンクールに出て…
首を小さく振る。
「いいのよ、気にしないで。私立とはいえお母さんの夢だったの。めいちゃんは頭も良いし、星学の方が合うと思って」
「で、でも…」
お母さんの言葉を遮るようにゆっくりと口を開いた。上手く言葉が出てこない。
「家からはちょっと遠いけど、パパもこの機会に引っ越そうって。めいちゃんもそれなら安心でしょ?」
「わ、私由貴と約束したの…吹奏楽部に、は、入るって」
だんだん小さくなる声。今にも溢れそうな涙を必死に押し込める。
「…吹奏楽部?あら、めいちゃん吹奏楽部に入りたかったの?」
大きく首を縦に振る。
すると、想像とは違いお母さんは私の手を取って笑った。
「星学の吹奏楽部よね!毎年全国コンクールで金賞取ってる強豪校なんだから。めいちゃんは頑張り屋さんだから、すぐにパートもらえちゃうわね」
どんどん話が進んでペースに飲み込まれるこの感じ。言いたい事は沢山あるのに、喉の奥が熱くなって言葉にならない。俯くと地面に点々としみができた。
「…お母さんも急だったわ、でもめいちゃんのためなの。まあ今日は見学も兼ねてだからそんなに緊張しなくて良いのよ」
肩を軽くつかまれて、優しく言い聞かせるように私を見つめる。
見学も兼ねて…もうお母さんの中では入学することは決まっているらしい。
「一貫だけど、入試とかは無くてね。学校の成績が見られるくらいで…心配は無いわ」
わざと落ちるなんてことも出来ないみたいだ。しかも一貫なんて。高校まで私はこの校舎に囚われたまま?

校長室と思しき部屋の重いドアを開けると
背広のスーツに身を包み、白髪の混じった優しそうなおじいさんが、頭を下げてこちらを見た。
「星丘中」と記されたパンフレットを受け取り数ページめくる。並んだ文章なんて入ってくるはずもなく、緊張した空気感で伸びた背筋が痛い。そこから記憶が無い。ふわふわと現実味のない会話が耳の遠くから聞こえてきて、お母さんが時折大袈裟な相槌を打って、私に話題が振られれば、張り付いた笑顔で答えた。きっと変な応答だっただろうけど、私の話なんてどうでもいいんだろうな。
由貴が言ってた、私立に通う生徒はお客様だって。そんなことを頭のはしっこで思いながら、2人を見つめていた。




続編へ


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