複雑・ファジー小説
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- 戦記、黒鷲と白鷹
- 日時: 2022/08/05 14:34
- 名前: まるぼ (ID: 0bGerSqz)
「戦記、黒鷲と白鷹」
・舞台
欧州大陸をモデルにした大陸「フリーデン」
大陸北部にある国家「ランデ=エルド帝国」
時代背景は現実における1960年代
・「ランデ=エルド帝国」
起源は800年前に遡る立憲君主制国家。
フリーデン大陸や世界においては「列強国」の一国とされ、大陸においては戦争を重ねて領土を広げている。
民主的でない国家体制や度重なる戦争が原因で、歴史においては内戦の歴史を数多く残す。
直近の内戦の歴史として、120年前に起こった「1810年帝国議会内戦」があり、ボルド山岳連邦共和国やフランティア王国などの近隣の自由主義諸国の干渉もあり、帝国国内には帝国政府および皇帝の行政権が及ぶ「通常帝国領」と帝国議会議事堂や議員宿舎等の議会施設が存在し帝国政府から完全に独立した「議会自治領」が存在する。
1811年帝国憲法においては、その内戦の歴史から帝国政府および議会にはそれぞれ帝国軍と議会軍の常備が認められている。
政府の首班は議会の指名で帝室が任命する「議院内閣制」で帝国議会は「国民議院」のみの一院制。
・主人公
「アル=ヴォルドフェン連隊長(34)」
ランデ=エルド帝国陸軍近衛第1師団第6中央警備支援連隊の連隊長で階級は大佐。
帝国中央州の「国立第一陸軍幹部大学校」の出身で、陸軍エリート。
・主要人物
〇帝室
・「シン=グレーディン皇帝(62)」
ランデ=エルド帝国の第15代皇帝。帝室内における第一家の家長。
好戦的な考えを持ち、過去に内戦に干渉してきたフランティア王国への侵攻を目論んでいる。
政府とともに議会軽視が見られる、いわゆる「帝国派」。
・「エル=グレーディン皇太子(32)」
シン皇帝の息子で、第一帝位継承者。世間においては次代皇帝と認識されている。
父親と同じ好戦派。
・「ドラン=ボスドーレン大公(62)」
シン皇帝のいとこ、帝室内における第二家の家長で第二帝位継承者。
反戦的な考えを持ち、皇帝とは幾度も対立する。議会軽視を許さない、いわゆる「議会派」。
〇帝国政府
・「ジェーン=マチルダ内閣総理大臣(68)」
帝国政府第92代首相で議会における政権与党「帝国保守党」の総裁。
皇帝と親密な関係であり、帝室の権力を議会に及ぼすことにより政府有利を企む「帝国派」の男。
党内派閥においては帝国派議員により構成される「光栄会」に属している。
・「エル=アン国防大臣(59)」
帝国国防省の大臣を務める、ジェーン首相と同じ党内派閥に属しており、政治においては党内議会派、軍事においては議会軍との派閥争いに悩んでいる。
・「ホーリー=トルーマン帝室庶務官(31)」
帝室貴族の世話や帝室内の情報収集を任務とする帝室庶務官を務めている。
首相直々に任命されたが、帝国議会と党内の議会派の送り込んだ「議会派」として議会有利に向けて政治工作に取り組んでいる。
〇帝国議会
・「ヨシフ=バーレー議長(59)」
国民議院議長を務める、慣例上無所属の議長だが出身政党は帝国保守党。
エル国防大臣とは旧知の仲で、彼の尽力で議長に就任。議長にありながら党内帝国派の重鎮。
議長の職は議会軍の最高指揮官を兼ねる。
・「アレクセー=フォード第一副議長(44)」
国民議院第一副議長を務める、国民議院野党第一党「国民党」の議員。
議会の慣例上、第一副議長には野党第一党の議員が、第二副議長には与党の議員が就任する。
ホーリー帝室庶務官とは同じ大学を出身している、彼と同じく「議会派」。
・「ホッグス=セントルイス第二副議長(41)」
国民議院第二副議長を務める、帝国保守党議員。
帝国派の副議長として第一副議長とは水面下の政治闘争を展開している。
〇帝国陸軍
・「ジョン=ヴァー帝国陸軍総司令官(72)」
帝国陸軍総司令官を務める陸軍大将。軍部では最難関の「帝国軍事大学」出身。
過去の戦歴は40年前の「ボルド山脈国境紛争」で帝国陸軍の戦車大隊を率いて勝利に貢献した。
〇議会軍
・「ウィンフィールド=ナンシー議会軍指揮官(45)」
議会軍指揮官を務める女性議員。国民党所属で20代に選挙で初当選した。
帝国派と知られる議長とは不仲。
- Re: 戦記、黒鷲と白鷹 ( No.1 )
- 日時: 2022/08/06 00:04
- 名前: まるぼ (ID: 0bGerSqz)
第一話「議会と。」
1962年6月10日 ランデ=エルド帝国・帝都「エルディア」
第6中央警備支援連隊駐屯地の連隊長執務室のラジオからは国営の放送局による早朝の報道が流れていた。
多少の雑音交じりな音声には女性の声が聞こえる。
「…本日未明、フランティア王国および帝国間における国境紛争について帝国政府は勝利を宣言し、正当な請求領土であるアレン地方は我が帝国の陸軍の多大なる活躍により確保されました。」
「帝国政府のジェーン首相は卑俗な王国政府に対し、これ以上の侵略行為を行うのであれば長期化もいとわない、帝国時間の正午までに軍の撤退をしないなら本土に歩みを進めるという声明を発表し、王国政府による戦争の激化を非難しました。」
連隊長のアル大佐は一人デスクの席に腰掛け、朝のコーヒーを啜りながら報道を聞いていた。
デスクには本日の行動計画、装備調達の請求書類など紙の山。「またも紛争かね、歩兵科は苦労するねぇ…。」などと独り言ち、書類に視線を下した。
突如、執務室の扉が叩かれた。
「駐屯地通信課のドルトイ大尉であります!」
「ん、入り給え。」
深緑の軍服に黒いベルトをしているその男は、静かにその戸を開けてやや早歩きに入ってきた。
「どうしたのだね、そんなに急いで?」とアル大佐は尋ねる。
「0820頃、本連隊管区内、帝都地方政府庁舎前にて反戦団体による危険活動が起きたと帝都警視庁より報告がありました。警察力による鎮圧を試みていますが、その間の議会軍への警戒は緩まると思われます。警戒任務引継ぎは本連隊となるかと。」
「そうか。もうすぐ師団本部から指示が来るかね。」
「出動準備の指示が来ます。」
アル大佐は深く頷き、「わかった、監視に第1、第2警備中隊を出せ。第3警備中隊と第1支援中隊は帝都において規定の演習作戦を実施する。」と指示を下した。
「はッ!」
そう答えた後、ドルトイ大尉は退室した。
アル大佐はデスクの黒電話を手に取り、近衛第1師団本部へかけた。
「第6連隊のアル大佐です、現在帝都警視庁が特定団体の危険活動鎮圧を行っております。よってC号演習作戦を開始します。師団長へ。以上。」そして話は終わった。
同日 帝国議会 国民議院議事堂
白塗りの壁で作られた国民議院には900人の議員が登院する。中には本会議室をはじめ、多数の委員会室や議員会室に議会警備官の詰所も存在している。
曇り空の下、議事堂左前の駐車場には首相含む政府代表団が乗車していた黒塗りの車両が停められており、その近くには帝国陸軍の輸送トラックも停まっていた。
議事堂内の第一委員会室には、白髪に片眼鏡の老いた姿のジェーン総理大臣、彼よりは幾つか若いエル国防大臣などの閣僚と野党議員が向かい合うように座っている。
国民党の議員がマイクに向かった。
「ジェーン総理、この度の戦争は如何にして責任を取るおつもりですか。フランティア王国と同盟関係にあるボルト山岳連邦共和国に大陸北部海を越えて、世界経済に大きな影響力を持つアーメリア合衆国に加え、極東地方の主要国のヤマト皇国に至るまでの世界各国から批判を受けております。」
「それだけじゃ、ない。」と議員はつづけた。
「批判にとどまるどころか、各種貿易品の禁輸措置を受けており、国内の食糧資源等の価格高騰化や貧困層の拡大の負担の増加。そこまでしてマチルダ内閣はアレン地方…いや戦争がしたかったのですか。」
そうだ、おかしいじゃないか。責任をとれ!などの多くの野次と怒号が委員会室に飛び交った。
与党議員がそれに応酬し、委員会室は一時騒然とした。
そして委員長が鎮めると静かに首相が挙手をした。
「王国の不法占拠をしているわが帝国の領地を、わが帝国と国際社会における正当な手段を用いて取り返したまでであります。国民党の皆様はいささか、『売国奴』な無礼者が多い様ですなぁ…ヒッヒッヒッ…」
不気味な笑みを浮かべ、野党議員を挑発するジェーンにエル国防大臣は高々に笑い、国民党議員はまたも怒号を飛ばした。
「議会の皆様にはご理解いただけなくて結構…。わが帝国政府は必ずや国民の期待に応えて見せましょう…フフ…」
「総理、完全なる議会軽視の発言ですぞ。憲法に反する政府、常に議会を見張る警察、おや、今日は近衛師団もお見えですな?!」
議会派の議員らは一斉に窓の外を向いた。視線の先には常にこちらを見張る第6中央警備支援連隊の兵士がいる。
兵士は常にライフルを構えており、こちら側には議会軍の兵士が機関銃と装甲車で警戒している。
政府代表団の席に戻ったジェーンにエルはひそひそと話しかける。
「もうすぐですね、総理。時間稼ぎは十分でしょう。」
「まもなく正午かね、そうかねそうかね。若いころのあの帝国が…楽しみじゃわい…。」
議会軍の台頭は防ぎ、国民議院の反対も抑え込む目的を達成したジェーンは閣僚を引き連れ早々と委員会室を退室した。
その際も野党議員からの怒声、罵声は絶えなかった。
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