複雑・ファジー小説
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- 虹色の願い
- 日時: 2022/09/19 15:30
- 名前: ふくろう (ID: w3T/qwJz)
プロローグ
かつて、この世界には「虹色の石」と呼ばれるものがあった。それは七つあり、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の光をそれぞれ発している。
それらは、ある特殊な能力を秘めている。それは、人の願いを叶えてくれるというものだ。
ただし、ある難点がある。それは、願った瞬間に石が砕け散ってしまう事だ。そして、虹色の石は現存しない。
七つの石は、一体どんな願いを叶えたのだろうか。これは、願いにまつわる七つの物語。
- Re: 虹色の願い ( No.1 )
- 日時: 2022/09/21 22:01
- 名前: ふくろう (ID: w3T/qwJz)
赤の物語 第一話
私の名前は、沢田朱音。未来が無い、女子高生だった女だ。未来が無いと言ったが、別に将来を悲観した訳ではない。言葉通りの意味で、未来が無いのだ。
その原因は、私の持病にある。その持病というのは、1型糖尿病のことだ。自己免疫反応の異常により、細胞が破壊される病気らしい。あまり詳しいことは知らないが、きっと重篤なものなのだろう。
ただ、それはどうでもいいことだ。何故なら、確実に私は死ぬからだ。どうせ死ぬのだから、不安を感じる必要すら無い。それに根拠は無いが、直感がそう告げている。私の直感は、良く当たるのだ。きっと、今回もそうなのだろう。
また、その他にも持病を持っていた。それは、心因性失声と呼ばれるものだ。簡潔に言えば、声を出せない病気である。これも、幼少期から患っていたものだ。故に、執筆による会話しかできない。
高校二年生になってから、私は入院生活を強いられるようになった。病院というのは退屈な場所で、読書くらいしかすることが無い。後は、寝て時間を過ごすくらいだ。
ただ、そんな生活にも楽しみなことがあった。私は読書をしながら、その時が来るのをいつも待っている。
その日も、無事にその時は来てくれた。昼食を食べてから、一時間程経った頃だろうか。突如、室内に人が入ってくる気配を感じた。私は期待を胸に、その正体を確かめる。
入ってきたのは、看護師の荒川さんだった。期待は、当たっていたようだ。
私は荒川さんに微笑みを見せる。すると、荒川さんもそうしてくれた。無理の無い、自然な笑顔だった。
荒川さんは、若い看護師の女性だ。彼女は私を気にかけてくれて、良く話してくれる。私の孤独すら氷解してくれるような、暖かな優しさを持っている人だ。
荒川さんはにこりと微笑むと、こう尋ねた。
「ご機嫌いかが?」
それは、彼女が決まり文句のように発する言葉だ。私はメモ用紙に、こう書く。
「元気です」
すると、荒川さんは安心したような表情になった。それから、こう言った。
「そう……それは良かったわ。最近、元気が無いようだったから」
どうやら、荒川さんは気づいていたらしい。できれば、それを隠しておきたかった。何故なら、荒川さんには心配をかけたくないからだ。
私は笑顔を繕うと、丸い字でこう書いた。
「私は元気ですよ。だって、どうせ病気なんて治るんですし」
すると、荒川さんは明るい声色でこう返す。
「そうよ。治るわよ。だって、まだこんなに若いんだし」
荒川さんの言うことは、何の根拠にもなっていない。ただの願望でしかないし、それは本人も気づいているだろう。私はそれを踏まえて、勢い良くこう書いた。
「はい!」
その字を確かめると、荒川さんは穏やかな表情になる。それから、申し訳なさそうにこう言った。
「ごめんね。私、もう行かなくちゃならないの。また、明日ね」
今の荒川さんは、仕事をしている最中である。それが仕方ないことは、私にも分かっている。だが、それでも寂しくなってきた。何故なら、他に話し相手が他にいないからだ。
荒川さんは微笑を浮かべながら、手を振った。私も笑顔で手を振る。できるだけ、孤独を見せないように。
- Re: 虹色の願い ( No.2 )
- 日時: 2022/09/22 18:44
- 名前: ふくろう (ID: w3T/qwJz)
赤の物語 第二話
牧田誠、それが僕の名前だ。取り立てて特徴の無い、男子高校生とだけ覚えて欲しい。
この話は、分類するなら何になるのだろう。恋愛物語になるのだろうか。或いは、奇怪な物語になるのだろうか。それは、読み手の解釈に任せたい。
ともかく、僕には好きな女子がいた。その娘の名前は、沢田朱音である。
沢田は、同じ高校に通う同級生だった。彼女は、声を出せない病気を患っていたらしい。故に、いつも執筆で会話していたのを覚えている。
僕と沢田は、一年生から二年生の途中まで、クラスが同じだった。僕達の関係は、それ以上でも以下でもない。要するに、親しい関係になり得なかった訳だ。
親しくなれるチャンスなら、幾らでもあった。何せ、一年以上同じ教室にいたのだ。話しかけるタイミングなら、何度でもあったはずだ。
にも関わらずそれをできなかったのは、僕の臆病さが悪いのだろう。何とも思っていない人なら、どんな話だってできる。だが、好きな人が相手だと話は変わってくる。必要以上に緊張してしまい、何を話せば良いか分からなくなるのだ。そして、それが沢田の前でも起こったのである。
沢田に、精神的な意味で触れてみたい。そんな感情は、徐々に燻り続けた。その一方で、それが怖く感じていたのも事実だ。そんな相反する気持ちが、心の中で入り交じっていた。思えば、恋が僕を狂わせていたのだと思う。
そんな気持ちを吐き出せないまま、月日は過ぎ去っていった。そして、ある日にそれを後悔することになる。
それは、本当に突然のことだった。暖かな日差しが差し込む、教室。少しばかり騒がしい、クラスの皆。沢田がいないことを、寂しく思う僕。
そんな空間の中で、男性の担任はこう告げた。
「今日から沢田さんは、近くの病院に入院されるそうです。何でも、持病が悪化したのだとか。沢田さんが戻ってきた時は、暖かく迎えてあげましょう」
僕はその言葉の意味を、理解していたのだと思う。だが、理解していないことにしようとしていた。それ程、その事実を受け入れられなかったのだ。
だからだろうか、その日の内はさしてショックを受けなかった。そればかりか、明日になれば沢田と会えると思っていたぐらいだ。思えば、虚しい楽観でしか無いのだが。
本当に悲しみを感じたのは、その次の日だった。
僕は悶々とした思いを抱えながら、教室に入る。
「ねぇ、昨日のあの番組見たー?」
「今日、ゲーセンにでも行こうよー」
そんな会話が、次々に耳へ入る。普段通りの、賑やかな教室だ。なのに、何故これ程寂しいのだろう。教室を見回すと、すぐにその理由が分かった。
この教室に、沢田が座ってないからだ。沢田の席は、空席になっている。その様子が、ひどく寂しく感じる。1ピースだけ欠けた、ジグソーパズルのような感覚だ。それを感じると共に、僕は現実を認めた。もう、沢田はいないのだと。
それから、虚しい日々が続いた。まるで、全身から力が抜けていくようだった。それは、沢田のことを思う程強くなる。
栗色の髪。綺麗な横顔。誰の色にも染まらず、孤立を望む姿勢。何より、沢田には自分があった。それが羨ましく、憧れを抱いていたのだ。
もう一度、会いたい。会えない間、そんな気持ちが徐々に強くなっていった。それが爆発しそうになるのに、さして時間はかからなかった。
- Re: 虹色の願い ( No.3 )
- 日時: 2022/09/22 19:33
- 名前: ふくろう (ID: w3T/qwJz)
赤の物語 第三話
一人きりの病室に、窓からすきま風が吹き付けた。それにより、読んでいる本のページが捲られる。私はそれを元に戻すと、溜め息を吐く。
「はぁ……」
私が読んでいる本は、有名なSF小説だ。これは、元々は荒川さんのものだった。
「暇だろうから、貸してあげるね」
荒川さんが、そう言って貸してくれたのだ。確かに、入院生活は暇だ。普段読まない小説だとしても、娯楽を与えられるだけで嬉しい。それに、荒川さんの善意を受け入れない訳にはいかない。そう思い、借りたのである。
私はページを捲りながら、字を目で追っていく。今読んでいるのは、中盤を過ぎた辺りの箇所だ。残りのページ数は、100ページ程。私の読む速さを考えると、明日に読み終わるだろうか。
まだ読了しておらず全容は分からないが、宇宙の脅威を描いた小説らしい。SF小説でありながら、パニック小説の要素も含んだもののようだ。知名度があるだけあって、世間では名作扱いされているらしい。
だが、私にはその良さが分からない。その理由は、私が対象年齢では無いからだろう。難しい語彙が多くく、ストーリーも難解。どうも、取っ掛かりの無い印象を感じてしまうのだ。高級な食べ物だとしても、慣れていないと美味しく感じない時がある。それと、同様の理屈だ。
開いているページに栞を入れて、本を閉じる。それから、再び横になった。
「つまんないなぁ……もっと、読みやすい本を貸してくれたら良かったのに」
借りておきながら、我が儘なことを言ってみる。
それから、更に現状に対する不服を唱えた。
「学校に行きたいなぁ……」
私にとっては、読書より学校の方が楽しい。部活だってできたし、何より好きな人がいたからだ。
その好きな人というのは、親しかった訳ではない。クラスが多くだっただけで、話したことも殆ど無い。だが、私は密かに恋愛感情を抱いていた。
彼は社交的で、友達の多い人だった。楽しい冗談を言って、周囲を和ませるムードメーカーでもある。
内向的な私は、彼に憧れを感じていた。彼と会うだけで、学校が楽しく感じる程に。
そんな彼の名前は、牧田誠。
- Re: 虹色の願い ( No.4 )
- 日時: 2022/09/22 23:53
- 名前: ふくろう (ID: w3T/qwJz)
赤の物語 第四話
沢田が教室から居なくなってから、一週間が経った。その頃には、教室は殆ど元通りになっていた。
皆が屯して話しているのは、テレビやゲームの話題。その中に、沢田の話題は入っていない。
沢田は、この教室から消失したのだ。皆が、最初から居なかったことにしている。何なら、教師だってそうだ。普段通りの笑顔を振り撒きながら、授業をしている。沢田の話等、一切しない。気にする素振りも見せない。空席が一つできたことを除けば、なにも変わらない光景がそこにある。
僕にとっては、それが気持ち悪くて仕方なかった。どうして、皆はそんな態度を取れるのだろう。何故、笑うことができるのだろう。
確かに、沢田は地味な印象があった。あまり、親しい人はいなかったように見える。だが、それでも大切な仲間ではないのか。クラスメイトが居なくなったのだから、悲しむべきではないのか。
クラスに対する疑念は、徐々に強くなっていく。やがて、それは憤怒と化した。
それがきっかけなのか、僕はクラスメイトと話さなくなった。比較的に社交的だった僕は、徐々に孤立していった。だが、それでもいい。薄情なクラスメイト等、仲良くする必要は無いからだ。
それよりも、大切なことがある。それは、沢田の苦しみを少しでも和らげることだ。僕は沢田の病状について、詳細は知らない。だが、そんな僕にもできることはあるはずだ。それを確かめる為にも、僕は病院へと向かった。
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