複雑・ファジー小説

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君が死が為生きる
日時: 2022/11/24 21:44
名前: 美狐夜 (ID: OI3XxW7f)
プロフ: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13520

 プロローグ

 両親が離婚して母に引き継がれた後すぐ、交通事故で母は亡くなって行く宛てもなく、孤児院に連れてかれた。父は離婚の原因の浮気相手と結婚して子供ができて、その後はよくわからない。興味もないし知りたくもない。父はきっと私の事なんて覚えてない、母が死んだことも覚えてないだろう。私は今でも覚えている。父と母がまだ笑って愛し合っていた頃も、母が死んだことも。3人で仲良くお出かけなんてしたこと1度だってないことも。
 当時母は、離婚した後に私の妹がお腹の中にいることを知った。その子は父の血液が混じっていた。それでも母はその子の名前を産まれる前に幾つも考えて何度も私に相談していた。その子に罪は無いことと、今でも母は父が好きでいるのだろう。私はそう思った。母はたまに父の写真を見ては箱にしまって袋に覆っている。母なりにあんな酷い人も心の支えになっていたのだと思った。
 母はある日父と連絡がついたと私に言ってきた。父ともし会えるとしたら、あなたは会いたいと思う?と聞いてきた。もちろん私は会いたくない。でも、母はそうじゃなかった。だから、会ってみたいかも。と答えた。母はきっと、父がまだ私たちのことを心ばかり心配してくれていたのだと考えていた。でも、そんなに甘い人じゃなかった。メールに既読をつけるとすぐ返ったきたのは、子供が産まれて養わないといけなくなったから、月に20万振り込んでおいて欲しい。だった。母は絶望した。メールを読み上げることなく目に涙も浮かべず、すぐ横になった。私はその後にメールを確認した。
 次の日母は私に、私の妹について話してきた。また、同じような質問だった。あなたは妹が産まれるとしたら会いたいと思うか。私は母の顔がいくつにも歪んでいるように見えた。その先には父への憎しみと、そこから得た妹への嫌悪。そして、そんな感情を抱いてしまった自分にそうなった環境全て。私は会いたいと答えた。正直に答えた。母はそれきり私に話をしてくれなくなった。
 1週間後に母は病院の診察に言ってくるからと言って通帳と免許証と家の鍵と、サインされた孤児院の入会届を置いていった。私はまだ小学生だった。ただの忘れ物だと思って放っておいたのが間違いだった。母が出かけるのを止めるべきだった。母がその決心をつけるまでにもっと話をするべきだった。
 母は交通事故で亡くなった。頭を酷く打って誰かわからなくなっていた。でも、車のナンバーで特定されてしまった。妹も即死だった。車のエアバッグが出なくてハンドルにお腹をぶつけた衝撃で妹の体はぐちゃぐちゃになった。母が免許証まで置いていったのは、私を孤児院に入れやすくする為と、自分が死んだことを他の誰にも悟られないためなのだと、その後知った。母は車のハンドルを離す直前顔を何度も石にぶつけて血まみれにしていたらしい。防犯カメラに荒々しく運転する様子から解析されてしまった。
 通帳には折り紙が挟まっていた。2匹の鶴だった。私はその鶴を広げた。中には孤児院の先生に見せるはずだった事が書いてあった。お金が無く子供2人を養うことができません。この子を助けてください。無責任な母より。私が見るべきものではなかった。こんなの孤児院の先生だって読むか分からない。でも母が酷い精神状態の中で思いついた、私の為に死んだことを悟らせない策だった。母が置いていったスマホの履歴は全て消されていた。でも、初期化はされてなかった。母は機械音痴だったからだ。多分機会に詳しかったら初期化をしていたと思う。なぜなら、父のスマホには母のメールアドレスが入っていたからだ。ブロックすればいいのだが、そこまで考えがまわらなかったのだと思う。そして、本当に父からメールが一通きた。離婚したことを後悔している。別に美咲の事は好きだ。でも梨々花まで僕には養えない。わがままばっかでお金もかかるし勉強もできないから私立に行かせるしかないだろう。すまなかった美咲。
 私はスマホを水に濡らして孤児院に向かった。梨々花。嫌な名前だ。父が考えてつけた名前だ。意味は梨の花のような人を慰める愛情のある子。余計嫌だ。今の私に慰めなんていらない。
 欲しいのは、母と妹。
 要らないのは、私の命。

君が死が為生きる ( No.1 )
日時: 2022/11/24 21:45
名前: 美狐夜 (ID: OI3XxW7f)
プロフ: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13520

 育ての親

 孤児院は易々と引き取ってはくれなかった。びしょ濡れの紙に汚い私の文字で書かれた名前。そんなもの渡されて、おまけに通帳にはほんの一絞り。私という存在は職業として営んでいる孤児院にとって溝の鼠でしか無かった。私は頼み込んだ。何度も何度も頼み込んだ。行く宛てがないことを伝え。父と母が離婚したことも伝え。最後には母の死さえも利用し同情させ。それでも、悩む孤児院に私は生きる力を吸い取られていた。
 孤児院は私に、何かできることがあるか。と聞いてきた。
「私は、雑巾絞りや床の掃除、それに洗濯は毎日していました。」
 母が仕事で忙しくて、分担して家事をしていた時に得た術だった。孤児院はまた悩んだ。私の口から他を当たるという言葉が出るのを待っているように見えた。数分してそこの院長先生らしき人が駆けつけてきた。周りの人の反応からするに、やはり院長先生だった。事情を聞くと院長先生は私に目線を合わせてくれた。
「お腹は空いてる?」
 私は頷いた。院長先生は、中に入るように。と言った。立ち尽くす私を見て院長先生は、シチューが冷めてしまうよ。と言って私の手の泥を拭ってくれた。院長先生の綺麗な黄色のハンカチは泥色に変わってしまった。院長先生はそのハンカチを真っ白な白衣のポケットに躊躇なくしまった。
 中に入ると孤児院に、靴を脱ぐように。と言われた。私用の下駄箱が無かったから院長先生が、私の部屋に置きなさい。と言った。私は素足で院長先生に着いて行って靴を置いてから食堂に向かった。その日院長先生には手洗いと嗽を教えてもらった。そして、スプーンの使い方とお箸の正しい持ち方を見せてもらった。食器の洗い方としまい方。次にお風呂の入り方。
小学生にしては細すぎる私の体に院長先生は触れた。感じる明らかな低温度に院長先生は顔をしかめて私を抱きしめてくれた。院長先生は、年頃だ、お風呂はどうする?と聞いてきた。意味がわからなかった。院長先生は次に。
「相手に体を見られるのが恥ずかしく思う時期なんだよ。でもそうじゃない人もいるんだ。君はどうかな?」
 私はやっぱり意味がわからなかった。院長先生は頭を少しかいて次に、お風呂は1人ではいる?と聞いてきた。私は首を横に振った。院長先生は、少し待ってて。と言うと2分くらいしてから私のサイズに合いそうな服と自分の着替えを持ってきて、一緒にはいる?と聞いてきた。私は頷いた。院長先生は、私の体を洗ってくれた。院長先生の手は優しくて温かくて、私の体は固くて冷たかった。院長先生も頭と体を洗って流して、そして大きな湯船を開けた。青く光るお湯に見惚れていた。
「さあ、お入り。滑って転ばないようにね。」
 私は久しぶりに肩まで浸かるお湯を体験した。院長先生も入ると、お湯が思いきり溢れてしまった。私は思わず、もったいない。と言ってしまった。すぐに謝った。でも院長先生は笑った。そして院長先生は、そうだね、もったいないね。次はもう少し少なめに作ろう。と言った。
 院長先生はお風呂の中で私に、いくつかお話と質問を繰り返した。好きな食べ物はある?りんごです。好きな遊びは?お手玉です。お風呂は気持ちい?はい。先生と入って大丈夫だった?はい。僕は娘ができたみたいで嬉しいよ。これには答えられなかった。私も父がいるみたいで嬉しい、なんて硝子みたいな事言えなかった。院長先生は謝ってきた。悪いことを聞いたかもしれない、ごめんね。と言った。次に院長先生は、先生の事は怖いかい?と聞いた。私は悩んだ。でも直ぐに顔を上げて、怖くない。と答えた。院長先生は笑ってた。すごく嬉しそうに笑ってた。そして私のことを抱きしめてくれた。私は院長先生に抱きしめられるのがとても好きになった。温かさが全身に感じられて安心して嫌なことをその時は忘れられるような気がしたから。
 院長先生の顔は少し赤くなっていた。どうしたの?と聞きたかったが声が出なくて顔を指さした。院長先生は不思議そうに見つめて顔を触ると、あついっ、入りすぎたね。逆上せるといけないからもう上がろうか。と言った。私は上がるのが怖かった。湯船の壁が高いわけではない。それに頭もクラクラしてて、これ以上ここにいちゃ行けないのは分かっていた。迷惑になるから孤児院にも居られないことを分かっていた。そうしていると、院長先生はまた出会いの時みたいに私に目線を合わせた。
「また明日も入ろう」
 私は直ぐにお風呂から上がった。
 その夜、院長先生のベッドを2つにして寝ていた。院長先生は私が寝ている間に誰かと電話で話していた。私はその声で目が覚めてしまった。その上、気になって眠れなかった。それに安心もできなかった。院長先生は話していた。
「はい、こちらで預かりました。渡辺梨々花ちゃん。はい、そうです。大丈夫です。では。」
 院長先生は電話を切るとキッチンに向かった。5分くらいして戻ってきた。院長先生は私が起きていたことに気がついていたから、眠れないかい?ホットミルクを作ってきたよ。飲める時に飲みな。ゆっくり眠れる。そう言って横の置き場所に置いてくれた。私は沢山飲んだ。でも、眠れなくてつい、電話。と言ってしまった。院長先生はすぐに理解してくれた。
「警察の人に用があったんだ。」
 私は心臓が壊れそうになった。肺が酸素を受け付けなくて呼吸が荒くなる。院長先生はゆっくり背中をさすってくれた。私の呼吸は良くならなかった。院長先生は私をまた抱きしめた。
「大丈夫。無責任に手放しはしないよ。君の安全を伝えたんだ。これからも家族だからね。」
 私の呼吸は少しずつ治った。院長先生はすごく安心した顔をした。院長先生は、今日は同じベッドで寝ようか。と言ってくれた。私は頷いて先生に近づいた。院長先生は頭を撫でてくれた。そして、心配かけてごめんね。と言った。首を振る時間もなく眠りについてしまった。
 数週間して、私は孤児院にも慣れて、遂に孤児院の生徒に会うことになった。院長先生の傍から離れることはできなかった。全員で5人の生徒だった。院長先生は皆に、おはよう。よく眠れたかい。と言った。院長先生が毎朝少しの時間だけ部屋から出ていた理由がわかって少しほっとした。皆はそれぞれ答えた。眠れないのが3人いた。拓也と明人と八霄だった。2人は眠れていた。那海と朱里だった。院長先生は私を紹介した、この子は少し前からここにいた子だよ。名前は渡辺梨々花。とても素直な子だから、みんな仲良くして上げてね。と言った。私は院長先生となら少し話せるようになっていた、院長先生、素直じゃ、ない。と言った。すると拓也が、そういうの素直じゃん。と言った。みんなクスッと笑った。私が少し頬をふくらませると院長先生もクスッと笑った。
「大丈夫、素直でいい子だよ。みんなバカにしてる訳じゃない。梨々花ちゃんのおかげで仲間が増えたことを喜んでるんだ。」
 私も少しニコッと笑いたかった。
 1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、1年と時間が経って、私はすっかり孤児院に馴染んでいた。それでも院長先生がいないと眠れないのは変わらなかった。私が小学6年生になった5月6日。私はみんなと学校に向かっていた。拓也は急に立ち止まって、みんな知ってるか?今日は迷路の日なんだって。と言った。誰も知らなかった。すると拓也は、せっかくだから違う道で行こう。と言った。八霄は反対した。朱里も那海も明人も反対だった。私は、どっちでもいい。と言った。すると拓也はつまらなそうな顔をして、いいよもう。梨々花、2人だけで行こうぜ。と言った。私は拓也に手を引かれて田んぼ道に連れてかれた。皆は一足追いかけたが拓也の足の速さに追いつけないことをわかっているから、まっすぐ学校に向かった。
 私は少し怖かった。それ以上に、悪いことをしている罪悪感が苦しかった。拓也は、もう追いついてこないだろ。と言って止まった。私は息切れしていた。拓也は気にして水を飲ませてくれた。私は少し心配になった。拓也がどんどん前に進んでいくが、私はその先には学校がないことを知っていた。よく院長先生と散歩した道だからだ。私はその事を伝えた。それでも拓也は、いいんだよ。迷路なんだから。と言って前に進んだ。私は怖かったから知っている道を進んだ。
 拓也と別の道に進んだから、拓也は今迷子になってないか心配になった。拓也はわんぱくすぎるから、変なもの口に入れたり、変な道にまた進んで怪我したり、転んで歩けなくて泣いたりしてないか心配で俯いていた。そんな時だった。私は信号が赤になっている事に気がついていなかった。周りにいた人が叫んだ。私が道路に飛び出しているように見えたからだ。すると前から大きなトラックが走ってきた。周りにいた人はトラックに大声で伝える人もいれば目を閉じる人もいて。その場から逃げ出す人もいた。トラックの運転手は私に気がついくことはなかった。トラックは下が見えにくいからだ。やがて何もできなくなった私に対しトラックはもう衝突を免れないであろう距離まで近づいていた。
 生と死の瀬戸際に立って時間が止まった。私は、死ぬんだ。でも、いいんだ。あんなにいい生活をしていて忘れていた。私は母と妹を殺した。それに母の人生を狂わせた。父も私のせいで大好きな母と一緒にいられなくなった。私がいなければこんなことになってなかった。私がもっと勉強して私立しかないなんて思われなかったらもっと良い家族が生まれていた。妹も産まれていた。今頃母のおっぱいを飲んですくすく成長していた。死を受け入れる準備ができていたことを忘れていた。目をつぶって避けることなんて考えなかった。
 いきなりの事だった。茂みから勢いよく飛び出してきた何かは私を押し倒した。私はそのまま勢いよく田んぼに落ちて泥まみれになったが助かった。溝があって何があったのか見えなかった。私はゆっくり溝を上がって道路を見た。
 気がつくと私は黒い服を着ていた。院長先生は私を強く抱きしめて泣き崩れていた。他の生徒もその場で泣いていた。みんな黒い服を着ていた。院長先生は私に、少し2人きりで話そう。と言った。私は突然の事に頷くことしかできない。手を繋いで奥の部屋に入った。
 院長先生は私の顔をよく見た後、また泣き出した。
「拓也くんは里親が見つかって孤児院を出ていったんだ。皆別れが悲しくて泣いているんだよ。」
 私は違和感があった。どうして私だけそれを知らなかったのか。ただ、理由の分からない涙が流れるばかりだった。院長先生は続けた。
「どれだけ離れても、僕達は家族だ。里親が見つかることはいいことなんだよ。お祝いしてあげようね。」
 私は正直だから、正直に答えた。
「記憶が、無い。」
 さらに続けた。
「今は、何日ですか。」
 院長先生は答えてくれなかった。また強く抱きしめられた。その瞬間、院長先生の肩と顔の間から奥のデジタル時計が見えた。今日の日付は、5月7日。時刻は、丁度10時。
 その瞬間、私は理解した。拓也が死んだこと。私を庇ったから私のせい。私は院長先生に嘘をつかれたこと。私の過去を知ってるから。院長先生は私の気持ちが崩れるよりは嘘をついた方が良いと考えたのだと思った。院長先生が私を抱きしめる手を退けた。
「どうして嘘をつくんですか。」
 続けた。
「私はきっと、死神の子なんです。天災なんです。罪悪なんです。」
 さらに続けた。
「殺してください!今すぐ死にたい!死なないといけない!」
 私は私を憎み許せなかった。私はその時泣き叫んで地面に顔を叩きつけていた。院長先生は私のそんな姿を見て一呼吸置いた。次にまた私を抱きしめた。
「梨々花ちゃんはそんな者ではない!天使だよ。みんなに笑顔を沢山くれたよ。梨々花ちゃんが来てから楽しくなったってみんな言ってたよ。ごめんね、嘘をついて。梨々花ちゃんを思ってしたことだったけど、僕のエゴだった。僕は君の親失格だな。本当にごめん。」
 院長先生の言葉は耳に自縛した。それも酷く強くきつく厳しく。その事実に私の精神は酷くもろくなっていた。
 その後の記憶はまた失くなっていた。お葬式が終わり皆で火葬した後、骨をしまって持ち帰ったらしい。孤児院の生徒は親がいないから骨を埋める墓も作れない。だから、孤児院の中に保管するか酷い場合は見つからなかったりもする。埋めることはない。
 その後気持ちと理解を整理しても、やはり拓也は死んでいた。この孤児院は子供の気持ちを最優先に考えるため里親との面会を何回も繰り返し、その他滞在する全ての生徒にもその事を伝える制度が実施されている。だから、私が記憶を無くしてから目が覚めるまでの時間で解決する話じゃなかった。
 院長先生は私を慰めてくれたが、それでも私が災いである事は私の中変わることはなかった。
 私の父と母は離婚して母は交通事故で亡くなって、親がいない。院長先生は親失格になってしまった。
 私にはもう、育ての親もいない。

君が死が為生きる ( No.2 )
日時: 2022/11/25 18:57
名前: 美狐夜 (ID: OI3XxW7f)
プロフ: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13520

 反抗期

 向日葵みたいに明るかった孤児院は私が来た時よりも暗くなっていた。今までの笑顔に包まれていた雰囲気やいつもおっとりした顔の院長先生も、夢物語の登場人物みたいだった。私は自分のした事が頭から離れることは無かった。そして徐々に思い出させられる赤いトラックと潰れた拓也が酷く具体的になって夢に出てくる日々が続いた。全てが黒く淀んで、また母の死さえも今になって蘇っていた。私は毎日魘されていた。目が覚めるまでいつも、拓也は恨んでる。そんなことを叫んで目が覚める。それに、気がつくと夜だったこともある。私の過去の記憶が鮮明になればなるほど、今日のことを覚えていられなくなってしまった。まるで、記憶をしまう戸棚が小さくなったみたいに、覚えていられるものはショックな事ばかりで、どこを開けても黒く潰れた顔が浮かんでくるようになった。
 ある日院長先生は真夜中に私を起こした。私はまた魘されていた。院長先生はこの世のものを見る目をしていなかった。院長先生に、どうしてそんな顔を向けるの。と聞いた。院長先生は私から顔を逸らして謝罪した。謝罪は私の心をさらに不安にさせる材料にしかならなかった。私は、どうして。とまた聞いた。院長先生は黙り込んでしまった。部屋は暗かったが院長先生が額に大量の汗を流していたのが見えた。
 数分待っていたら院長先生はやっと口を開いてくれた。私は理由を聞くと背中に酷い寒気を感じて手に汗が止まらなくなってしまった。周りが見えなくなって目はあちこちに泳いで最後、そのまま後ろに倒れ込んでしまった。倒れる一瞬に見えた院長先生は慌てていなかった。こうなることを知っていたから言わなかったんだとわかった。また私は人に私のことで気を使わせてしまったのだと思い、もう1つ心に鍵をかけた。
 院長先生先生が私に告げた理由はこうだった。
「まだ意図がハッキリしてないから、一応話すけど梨々花ちゃんは大丈夫だから。いいね。梨々花ちゃんが寝ている間に、警察の方から連絡が来た。溶けすぎて読めなかったけど、梨々花ちゃんのお母さんは紙を飲み込んでいたって。それがやっと読めて、黒いマッキーで、悪魔の子って書いてあったらしい。その言葉の意味は分からないけどって。そしたら梨々花ちゃんが急に魘されて、いつもより酷かったから近くによったら寝言を言ってた。悪魔の子、消えろ悪魔の子。妹は悪魔の子って。」
 私が魘されていたのは私を許せないと決めつけていた拓也や家族ではなく、まだ顔も知らない産まれてすら来れなかった妹だった。母がどうしてそんな事をしたのか理解はできなかったが、母も悪魔の子という言葉を使っていたことがわかってゾッとした。私自身のことを私は悪魔の子と呼んでいたから。
 この話を聞いて私の中の臆病が決められなかった意思が1つ固まった。私は誰にも干渉されないで死ぬ。それが、私の大切な人が誰も死なない最善なんだ。私は1週間と数日後の院長先生の外出と孤児院の生徒の学校が被る日を狙って孤児院を出た。何日もして餓死すれば誰も私の事なんて覚えてない。身元も見つからないところで、もし見つかっても古いから鑑定もされない。そう思った。
 私は出発した。また行く宛てもないあの日に戻った。何も前に進んでない。全て捨てた。あの日みたいに孤児院への入会書を持ってないから、本当に行く宛てがない。細い足で、体力のない体で、弱い肺で15キロくらい歩いてから森に入っていった。今の私は死ぬことを前提としている。だから、あの日みたいに拓也を止めたりはしない。私は1人森の中で呟いた。
「拓也、ごめんなさい。私を連れて行って。拓也のいるところに。」
 森の中に光は射さない。まだ夕方なのに真っ赤な空は真っ黒な葉っぱと木々で秘密に被されていた。どこを歩いてるかも何も分からなくて手や足は寒くて震える。まだ5月だから暖かくはない。それでも孤独に対して恐怖なんて微塵も感じていなかった。寧ろ孤独である事にのみ安心できていた。院長先生や明人、八霄に那海、それに朱里。この先誰も私のせいで死ぬことは無い。それが私がもう死んでもいい理由になると思った。ただ恐怖は常に拓也と家族の怨念のみ。いつも私の耳元で囁く、早く死んじゃえ。それだけだった。
 そのまま歩いていたら足が急に止まって膝から枝枝の中に崩れるように倒れた。体も頭も眠くなっているのを感じ、もう夜なんだと察した。全身に微妙に刺さる枝のトゲも、足を這い上がる虫たちも気にはならない。いっその事、このまま土に帰れるなら本望だった。私は次目覚めないことを願って素直に寝た。
 見たこともない場所に私は立っていた。どこを見ても真っ青の草原で、白いワンピースを着ていた。私は心が軽くなって走りたくなって真っ直ぐ走った。兎にも角にも走った。必死に走った。風を斬る音が聞こえて、私の髪は勢いよく後ろに靡いて、前髪が目にかかることは無かった。ずっと走っても息切れはしなくて汗もかかない。疲れもしないし止まり方もわからなくなった。すると、目の前に綺麗な小川が見えてきた。私は小川を飛び越えようとした。今までつけていた助走をさらに早くして、その小川を飛び越えようとした。よく見たらその先には人が立っていた。それも懐かしい人が。私は手を振って大きな声で呼んだ。
「ママー!拓也ー!」
 母も拓也も私に気づいて手を振り返してくれた。母の隣には小さな子供が母と手を繋いで立っていた。その子の顔は見たことがなかった。私はその子にも手を振った。するとその子は私に向かってにっこり笑った。笑って、にっこり笑って、その笑顔はだんだん黒くなって、目は奥行きがなくなって、髪は白くなって、歯はボロボロになって。私に向かって降ってきたでは私よりも細くなって。小川を飛び越えて着地する寸前で、耳元に囁かれた。
「悪魔の子、死んじゃえ。」
 ひゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!
 私の叫び声が今まで白く青く美しかった景色を真っ黒に焦がして、パキパキと空が割れる音が聞こえた。するとその奥から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。何度も何度も呼ばれて、私は耳を塞いだ。それでも私は呼ばれ続けた。遂にはその声が実態化して、手になって、私の襟をグイッと掴んで後ろに引っ張った。私は後ろに引っ張られながら恐る恐る目を開けた。母と拓也は真っ赤に染って倒れていて、見たことがない子は寂しそうに私に向かって手を伸ばしていた。私も手を伸ばすけどどんどん引き離されて、気がつけば真っ暗になった。
 私を呼ぶ声は止まらなかった。梨々花ちゃん!梨々花ちゃん!聞こえる!梨々花ちゃん!私を呼ぶ声は聞き馴染みがあった。梨々花ちゃん!梨々花ちゃん!大丈夫!梨々花ちゃん!私を呼ぶ声はだんだん耳に強く聞こえるようになった。梨々花ちゃん!梨々花ちゃん!起きて!梨々花ちゃん!私を呼ぶ声は目の前にいる誰かだった。
「梨々花ちゃん!迎えに来たよ!梨々花ちゃん!やっと目を覚ました。よかった、ほんとに心配したんだぞ!僕も皆もずっと探してたんだ!夜になっても帰ってこないし散歩に出かけたなんて誰も聞いてないから、今みんな探してるところだ。さあ、帰ろう。家に。」
 私を呼ぶ声は院長先生だった。
 私は院長先生の必死な顔を見て全てを理解した。私は大事にされていた。私は悪魔の子だけど大事にされていた。私はみんなの周りにいるけど迷惑になっていた。私は1人になったら解決すると思ってたけど余計迷惑になっていた。そして、私は泣き出して院長先生に抱きついた。1番理解したこと、私はみんなのそばに居たかった。
 院長先生はそのまま私を持ち上げて口に挟んだ懐中電灯で目の前を照らしながら森を抜けた。青い車が中には院長先生と一緒に乗ってきた孤児院と八霄がいた。孤児院も八霄も私の泣き顔を見ると、同じように目に涙を浮かべて、孤児院は直ぐに携帯を取りだして誰かに電話をかけた。私はゆっくり車の後ろの席の孤児院の隣に乗せられて、院長先生は運転席に座った。八霄は、ずっと探してたんだよ!良かった見つかって!と言って暖かいペットボトルココアとクッキーをくれた。八霄は、私が焼いたの。みんなに食べて欲しくて、でも居なかったから。そう言った。いつもの静かな八霄とは大違いに、いつにも無く声が張っていた。でも直ぐに柔らかいいつもの無表情に戻って前を向いた。院長先生は、さあ、帰ろう。と言ってアクセルを踏んだ。孤児院は私の頭を撫でてくれた。ずっとずっと撫でてくれた。私は、孤児院、恥ずかしい。と言った。孤児院は、いいの。と言ってにっこり笑った。八霄は自分で作ったクッキーを食べていた。
 院長先生の運転はやっぱり安心する。ゆっくり揺れる車体が、まるで母に抱かれてゆらゆらと子守唄を歌ってもらった日を思い出すから眠くなる。あの日の母を思い出すとなんだか母に許されているような気分になる。私は孤児院にまだ撫でられていた。孤児院は私の髪がくしゃくしゃになっても撫で続けていたから、孤児院髪が。と言ったら、あら、ごめんね。と言い返されて、バッグから取り出した櫛で梳かしてくれた。孤児院は、相変わらず髪がはねるのね。と言ったら八霄がクスッと笑った。私は八霄に笑われたことを懐かしく思った。
 森から孤児院までの距離およそ半分位の時に、孤児院が、院長先生お疲れかしら。静かなのね。と言った。確かに院長先生はさっきから3人の会話に1度も介入してこない。私は院長先生の方を見た。院長先生はコクっと頷いてまた運転に集中した。孤児院は、梨々花ちゃんも眠かったら寝ていいのよ。と言った。私は寝たばっかりだから眠くなかった。すると、八霄が私の方を見て涙を流した。私は、どうしたの?と言ったら八霄は、院長先生が。と言った。私は心配になって八霄の頭を撫でてから院長先生の顔を覗いた。
 私はゾッとした。言葉が出なかった。孤児院が不思議そうに見つめてくる。八霄は私と同じ気持ちになっている。孤児院が気になって私に問うけど私は答えられるほど冷静ではいられなかった。孤児院は自分で見ようと覗き込んだ瞬間。車がスリップした。孤児院は状況を理解したのか大きな声で院長先生の名前を叫んだ。院長先生は寝ていたのだ。スリップの甲高い音と孤児院の声に起こされた。
 私が見た景色は限定されていた。スリップした車。現在時刻0時26分。私を庇って抱きつく孤児院。エアバッグと座席に挟まれる院長先生。そして、ぶつかった衝撃で潰された助手席。
 強い衝撃は車に乗っていた1名以外全員が感じた。体が少し浮く程の揺れは柔らかい座席もまるで鉛で、ぶつけた後頭部が酷く痛む。衝撃も揺れも音も涙も全部が止まって私は目を開けた。孤児院は、大丈夫?と聞いた。私は後頭部の痛みを告げなかった。孤児院は背中を少し打って怪我をしていたが事故のショックにまだ痛みを感じていなかったようで、平気そうだった。院長先生は言葉を発さなかった。院長先生は私の顔を一直線に見つめて固まった。私も孤児院も院長先生の顔以外見れなかった。見るのが怖かったのだ。その場にいた誰よりも早く私は恐れながらすぐ左を見た。硝子が飛び散ってボロボロになったエアバッグと座席。それよりも酷かったのは中に運悪く突き刺さった太い木の枝。月明かりが丁度よく赤色に照らしていた。3人が固まっていると、直ぐに警察が来て私たちを全員保護した。
 ママ、ごめんなさい。孤児院の新しい家族と一緒に、まだ生きたいと思いました。でも、死にたいと思いました。みんなに生きて欲しいと思いました。だから私は死んだ方がいいと思いました。ママは私に生きて欲しいって思ってたのに私は死にたいと思いました。孤児院の皆は私と一緒にいたいと思っていたのに私は死にたいと思いました。私は悪魔の子です。
 八霄を殺したのは、悪魔の子の反抗期です。

君が死が為生きる ( No.3 )
日時: 2022/11/26 16:08
名前: 美狐夜 (ID: OI3XxW7f)
プロフ: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

 幸せ

 八霄の死と拓也の死。母の死と妹の死。天秤にかけた時傾くことは無くとも、八霄の死は院長先生の精神を奥底まで抉った。院長先生だけではなく、孤児院の記憶にも鮮明に残ったのは、呆然と見つめる私でも、綺麗な月明かりでも無い、表情の持つ八霄の死体だった。院長先生は自分が居眠りしたことが原因で八霄は事故死したと自暴自棄に陥ってしまった。孤児院も目の前にいて私しか守りきれなかった事を深く後悔していた。明人も那海も朱里も、次々に友達が死んでいく事実を知らされて倒れ込んだり、生きる希望や楽しみを見失ってしまったように目に影が灯る。そして、私は本性悪魔の子として自信を見つめること以外不可能になっていた。
 私は誰も傷つけたくない、誰も殺されたくない、誰も幸せにいて欲しい。そんな甘いことを浮かべて家出をして結果が出た。離れても追いかけて死んでいく友達や私を助けた末絶望する家族にもはや何も感じなかった。あるのは生きるのも死ぬのも許されない現実への憎しみ。しかしそれもまた甘えだった。私は悪くないと言い聞かせないと精神を保てなかった。私の不注意が招いて結果であることに変わりは無い。私が前を向いて歩いていれば拓也は死ななかった。私が家出をしてみなに心配をかけなければ今頃八霄にクッキーのお礼を言ってる頃だった。私がしっかり勉強していれば父は母と離婚せずに済んだ。それら全ての私という原因を、私が生まれて来なければ良かったなどと戯言のせいにしていた。天秤にかけた時、後者が圧倒的に下がるように指で押さえつけている。
 八霄の死を受け止めきれない日々は何週間も続いた。6月になって午後の日が長くなっても、私たちの生活に光が射すことはなかった。その中、孤児院だけが私たちの健康を見てくれていた。孤児院は毎日私たち一人一人に声をかける。朝はおはようと6時に起こして平日は学校に行くかを聞く。お昼はご飯の支度ができたと10分も経って来なかったら持ってきてくれる。夜は一番落ち込むからと励ましの言葉をくれた。特に院長先生には毎晩付きっきりでお話を聞き、ほぼカウンセル状態だった。院長先生がそんな状態だから私の不眠は、約1週間単位で倒れ眠るまでの間寝息をたてることができなかった。
 私が4度目に倒れた時、私を看病してくれたのは孤児院ではなく那海だった。那海は久しぶりに風邪で寝込んでしまった孤児院の代わりに私を見てくれた。だから、目が覚めると私の横で、私のベッドに寄りかかって寝ていた。私は那海を見つめてただひたすら謝ることしかできなかった。きっと皆私を恨んでる。きっと皆私を憎んでる。きっと皆私を殺したいくらいおぞましく思っている。私はその場で涙を流した。私の気配を感じた那海が私に、どうして泣いてるの?と聞いた。私は何も答えられなかった。私のせいだからと言って、そうだよと返されるのが怖かった。私は目の前で私を心配する那海が怖かった。ビクビクと震える私の手に触れて、那海は私の頭をゆっくりと撫でてくれた。
「大丈夫大丈夫。梨々花は良い子だよ。怖い夢見た?八霄も梨々花が無事で安心して天国にいるよ、きっと。今頃拓也と本読んだりしてるかもね、ふふふっ。あの二人がいた時は賑やかだったね。私も笑わない方だったんだよ?信じられないでしょ。でもね、あの二人の喧嘩とか仲良しなとこ見てるとさ、笑顔になっちゃうんだよね。今はいないけどまだ私の記憶にはいるよ。ずっといる。梨々花の中にもいるでしょ?あの頃の、楽しかった日々の私たち。死んじゃってもそれは消えないんだよ。いい思い出も、嫌な思い出も、思い出は忘れるまで消えない。私は梨々花も院長先生も花子先生も悪いと思ってないよ。」
 私は許されてはいなかった。誰にも許されてはいなかった。ずっとそう思って震えていた。でも、那海は許していた。許す所か、その光を取り戻した瞳は過去に1度でも私を恨んだ瞳ではなかった。私は那海に抱きついて声を出して泣いた。その声は孤児院中に響いていた。院長先生もその声を聞いて部屋に駆けつけてきた。あぁ、あの日と同じだ。私のために院長先生は駆けつけてくれる。那海は笑って励ましてくれる。でも、あの日と違うのは、みんな同じ苦しみを共有してる。
 院長先生は私が泣く声を聞いて、このままではダメだ!と自分の頬を叩いた。続けて、八霄ちゃんのお葬式、あんなんじゃ可哀想だよね。と言って皆を呼び集めた。
「明日八霄ちゃんのお葬式を、もっかいしよう。みんなでちゃんと思い伝えて、お別れしよう。」
 明人と朱里の目にも少しずつ光が戻っていた。皆八霄と拓也が居なくなったのは寂しい。でも、同じ気持ちを共有してる。それは死んでも一緒。八霄も拓也も私たちと離れてきっと寂しがってる。なら、声を届けよう。思いを届けよう。そう心に決めた。ずっと慰めてくれていた孤児院は膝から床について泣いた。皆孤児院に、ありがとう。と思いを伝えた。
「私たちは家族。」
 その言葉は胸に刻まれた。
 次の日、皆で孤児院の広場に集まって、八霄と拓也の写真を立てて、前に並んだ。全員が写真を見た瞬間、今まで一緒に過ごした日々を思い出した。それでも、涙をこらえて真っ直ぐに見つめていた。孤児院から順番に思いを話した。
「君達がいた頃は楽しかった。思い出すと嘘でも玄関を開けてただいまって言ってくれないかなって思う。でも、今も見てくれてると信じてる。ありがとう。」
 明人が思いを話した。
「情けねぇな。拓也、一緒にいい大学言って、サッカーしようって言ったじゃん。八霄も、みんなで水族館行こうって言ったじゃん。まだ行ってないのに。でも、ちゃんと連れてくから。俺が親友代表して拓也の夢背負ってやる!俺たちが八霄の行きたかった水族館、お前の分も楽しんで!天国まで土産話持ってってやる!待ってろ!今まで、、ありがとう。」
 朱里が思いを話した。
「拓也くん。八霄ちゃん。大好きだったよ。拓也くんは、お兄ちゃんみたいで、八霄ちゃんは、お姉ちゃんみたいで。血は繋がってないけど、本当に家族みたいだったよ。これ、からも、一緒に、、遊び、たかったけど。ずっとずっと!忘れないから!大好きだから!またね!んああああああああ!」
 那海が思いを話した。
「2人とも私が焼いたクッキー食べてかなかったでしょ!ここ置いとくからね。みんな美味しいって、言ってくれたのに、2人の感想、まだ聞けてないじゃん、ばか。あーあ、あの喧嘩おもしろくって大好きだったのに、もう見れないなんて、ほんと残念。でも、天国でもしてるんだよね。知ってるよ。だって家族だもん、ずっと繋がってるから。わかるよ。だから、これからも私たちのこと、見守っててね。大人になったら、かっこいい姿、みんなで見せに来るんだから。。」
「…ありがとう。。」
 私も、なんとか声にして思いを話した。
「ふたり、ずっと、私の事、見ててくれた。知ってるの。拓也は、私を、助けてくれた。かっこよかった。八霄、私の事、いつも見てた。だから、車に八霄、乗ってるの見て。嬉しかったの。本当に、大好き。こんな、私の事、受け入れてくれたふたり、皆も、自慢の家族。ありが、、とう。」
 院長先生が最後、思いを話した。
「本当にお疲れ様。ずっと喧嘩ばっかだったから、心配してたよ。でも、寝る時は一緒だったね。安心してたよ。2人がこの孤児院に温かい空気を運んでくれてたのは確かだ。それを今も覚えてるよ。拓也くんがくれた手紙に、八霄ちゃんが話してくれた本のこと。全部僕の宝物だよ。今更ごめんなんて言わない。言っても何も変わらないから。でも前に進めることを言いたい。2人を安心させるためにも、だからね、ありがとう。大好きな僕の子供たち。」
 全員が思いを伝えた後、それぞれの涙を流した。そして、皆で一緒に花束を写真の前において手を合わせた。それぞれのストーリーがあって、それぞれの思いがあって、それぞれの伝え方があって、それぞれの悔しさや寂しさもある。でも、皆がもう一度改めて心で言った。
「ありがとう。」
 そして。
「大好き。」
 私たちの真っ暗な日々は、漸く日が射した。エンドロールにバッドの文字を浮かべないよう、それが2人の為に今できることだと信じて笑顔を向けた。私は初めて、裏も表もない真っ直ぐな笑顔ができた。あの日、拓也と八霄と明人と那海と朱里と私で学校の帰りに肩を組んだ日を、忘れないように。
 2人の死が私に教えてくれた。私が悪魔の子である事。でも、2人の死が私に与えてくれた。私が笑顔の子になる事。ママ、これが私の家族だよ。ママが私にくれた最高の家族だよ。ママが最後まで私に残してくれた、これが、幸せだよ。


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