複雑・ファジー小説

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軋む、歯車
日時: 2023/01/03 23:45
名前: まぼ (ID: dYnSNeny)

<作品紹介>

「…独立と従属、どちらが良いのか?」

「…お前に何がわかるのだ」

2100年、「アメリカ合衆国信託統治領日本」―いや、日本国は2087年に起きた米中戦争の甚大な被害を受け、政府機能を喪失した。我が国は歴史として二度目の占領を受けるのだった。
そんな混沌とした日本を生きる常本優ツネモトユウ明憲アキノリそして坂西幸正サカニシユキマサの3人のストーリー。
<目次>
>>1 0、「日本、アメリカの。」
>>2 1、「あの夏は。」

<自己紹介>

今回初めて投稿させていただきます、「まぼ」と申します!
私の趣味、好きな物を詰め込み、語っていくストーリーを作り上げたいと思い、この話の筆を進めていきたいと思います。
初めてなので所々、言葉がおかしいかもしれません、どうか温かい目でご覧ください!

Re: 軋む、歯車 ( No.1 )
日時: 2023/01/04 18:55
名前: まぼ (ID: dYnSNeny)

0、「日本、アメリカの。」

1945年、太平洋戦争に敗し、ポツダム宣言を受諾した大日本帝国はGHQ…アメリカの占領下に置かれた。51年には独立を取り戻し二度と戦争を繰り返さぬよう、時の政府は国民とともに荒廃した街々から立ち上がった。
今日の平和は仮初の姿に過ぎず、常に日本は戦争の危機と向き合いながらも平和の精神を享受していた。だが2087年7月7日…その姿は塵のごとく消え去ったのだった。

「じゃあ、行ってくるよ。」

夏の初め、騒がしい東京の一角にはとある家族が暮らしている。
父親である常本明憲は防衛省に勤める官僚だった。毎朝7時、混雑するからと玄関に立つ明憲は、妻の舞子、2歳の娘の優に微笑みそう告げた。
「行ってらっしゃい、あなた。」と舞子も返す。

近所の地下鉄駅には既に多くの人が並んでいる。学生服やスーツに揉まれながら、明憲は霞が関へ行く電車に乗り込んだ。もう夏なのだ、汗に滲むシャツを掴んで鳴らし、涼しもうとした。間もなくして車両は出発し、暗い地下のトンネルを進んでいく。
そうして次の駅へ差し掛かるところだった。
その時だ、車両に不快な音、いやサイレンが響く。元は分かった、ほぼ全ての乗客の携帯がそれを鳴らしているのだ。明憲は「なんだ」と多少驚き、乗客がざわめく中、自らのスマートフォンを開いた。

「緊急速報。ミサイル発射ミサイル発射…」

と言う文言が目に飛び込んでくる。心で独り「ミサイル発射?」と。焦りというよりも一時的にその意味が理解できないと脳が答える。だがその次には考えるどころでもないのだ。
ドーン、とは簡単に表現できたものではないが大きな音が頭上から響いて、そして電車の車両が上下か左右かに揺れる。地震ではない、何か大きな爆発が地上で起きたのだ。
明憲はハッとした、

「ミサイルが落ちた。この日本にミサイルが」

車両は緊急停止する。ブレーキで車輪と線路が鳴らす金切り音が耳をつんざく。
ミサイルの揺れよりも大きな揺れが起き、乗客は立っている者は倒れ、座っている者は隣に体を押し付けた。明憲は倒れこみ、隣の客の下敷きになった。直後、放送が流れる。

「お客様にご案内申し上げます。只今、大きな揺れを感知し、安全のため緊急停止しました。安全が確認されるまでしばらくお待ちください。」

「大丈夫か」「邪魔だ!」「すみません…」、車内の客がそれぞれ立ち上がり、互いに声を上げる。
明憲は落としてしまった鞄を持ち上げ、スーツの汚れを払う。
程なくして新たな放送が流れる。

「お客様にご案内申し上げます。政府から弾道ミサイル発射情報が発令されました。この電車は安全を確認するまで運行ができません。お客様におかれましては次の駅まで徒歩で移動頂きます。」

窓を覗くと外には複数名の作業員が集まっている。ヘルメットのライトが眩しい。
各車両のドアが開き、乗客は一人ずつ降車していく。「焦らず、押さずにお降りください。この電車は動きません!」と案内する声が静かなトンネルに響く。
明憲は降車し、辺りを見回し作業員の先導に着いていく。

…ふと思い出した。

「舞子…優…!」

暗いトンネルの奥に揺らぐ、二人の幻影は当然なのか偶然なのかとても儚く見えた。
…日本、アメリカの戦争ではない。中国との戦争として現代に戦火は降り注いでいた。

Re: 軋む、歯車 ( No.2 )
日時: 2023/01/04 18:59
名前: まぼ (ID: dYnSNeny)

1、「あの夏は。」

あれから13年という時間が流れ、日本の都市部にミサイルの雨が降り注いだ日と同じ7月7日の午前8時。セミの鳴き声があたかも傍にいるかのように聞こえてくる高校の校庭で黙祷のサイレンが響いた。
高校生の優は目を瞑り俯き、幼きあの頃に起きた惨劇、母の最期の姿と黒く濁った空気から現れた父の姿がまぶたの裏をぐるぐると廻っているのを感じていた。

「黙祷、終わり。」

教頭の声がスピーカーから流れた。生徒一同が顔を上げ、朝礼台に立つ校長の姿を見つめる。朝礼台の横には担任やその他の教員が並び、セミの声に交じりながら校長の講話が聞こえてくる。

「皆さん、今から13年前は…皆さんはまだ幼かったでしょうか。当時の日本にはミサイルが降り注ぎ、多くの人々が亡くなりました。この日、この時間に多くの命が失われました。特に昔の東京には、沢山の人が住んでいましたので、最も多く貴重な命が失われてしまい…、当時の傷は忘れてはならないのです。皆さんは次の日本を担う…」

このような言葉が九州の方言を交えながら、校庭に並ぶ生徒に向けて述べられた。
「そうなのかな…。酷かったのかな。」と優は頭の中で呟いた。

ここ長崎や、被害の少ない地方には都市部の国民が避難し、住み着いた。常本家の本家がある長崎県のとある高校に優は通い、学生生活を送り、一見平和な日常を送っていた。
そのまま朝礼の解散が告げられ、生徒は各々自分の教室へと戻っていく。戻る中で「覚えとらんわぁ。」「そんなことあったんね?」「うちも教科書でくらいしか知らんかった~」と呑気な会話も聞こえる。優も同じ教室で出来た友達と雑談しながら戻っていく。

7限までの授業を終え、終礼を終わらせ、学級活動が終わって下校をする。
優は通学で使ういつもの電車に乗り、使い込まれた英単語帳を開き自習をしながら降車駅まで過ごしていた。辺りには同じ高校の学生や友人集団が談笑している。一際勉強に熱心だった優の姿に気づく者はいない。
…英単語帳の次のページを開こうかとした時、降車駅に着く放送が流れた。

「まもなく~市布~市布~、降車の際は…」

自身の降車駅にたどり着いた。市布駅の辺りは山に囲まれ緑にあふれている。
小さなロータリーに出、優は自宅に向かって歩き出した。既に日は落ち、同級生の姿は降車駅についた時点で見つからない。昼間は突き刺すような日差しと暑さは消え去ってしまい、やかましかったセミの声も聞こえてこない。
一面薄暗く続く歩道を歩き、登り坂を少し上がった先に開けた土地がある。
真ん中に堂々と構える平屋が今の優の家だ。東京の家は三階建てに窮屈な庭があったが、ここは田舎で広がって余る土地には畑もあるぐらいだった。

「ただいま。」

そういい、引き戸の玄関に入ると、すぐ右にある台所からにこやかな顔で「おかえりぃ優~。ご苦労様だねぇ~」と訛りながら祖母が顔を出す。もう70を越えている。少し曲がった腰で小さな眼鏡をかけている祖母は優の元へ歩み寄り、廊下に上がった孫娘を労った。
教材の詰まっている重たいリュックを持ってくれ、「ありがとう、おばあちゃん」と優は微笑み返す。
奥からは夕飯の香りが漂っており、学業に疲れた体から空腹を知らせる腹の虫が鳴いていた。自室に入り、制服を脱ぎ着替え、明日の準備などを一通り終わらせると、和室のほうからご飯を食べようか、と優を呼ぶ声が聞こえた。
部屋にある少し大きなちゃぶ台には、何か気難しそうに新聞を読んでいる祖父の姿もあった。
白髪の隙間から頭皮が見え隠れしている祖父は一目優を見ると

「優ちゃん、お帰り。じゃ、食べようか。」

と新聞を置いた。
父の明憲はまだ帰っていないようだ。

「いただきます。」

優は目の前の肉じゃがに手をつけ、頬張りながらちゃぶ台の上にある母の遺影に目をやった。今朝の朝礼のことが思い出された。
そして祖父の方を向き、今日の校長の話を伝えた。

「おじいちゃん。今日は朝礼でさ、米中戦争のことを校長先生が話してたんだ。でもよくわからなくてさ…。」

「あぁ。優ちゃんはまだ2歳だったもんなぁ。そりゃあ知らんでもしゃあない、あれは酷かったもんやな。…昔の中国がな、ミサイルっちゅうもんを日本全体に降らしてきたんや。優ちゃんのお母さんもその時に死んでもうた。あの戦争はひどかったんや。」

「もう10年以上経ったんねぇ…。都市から多くの人が流れてきて…もう大変やったねぇ。日本もあっちゅう間に負けてしもて、アメリカに入れてもらって、お父さん。明憲と一緒に逃げてきた優の怯えていた顔を忘れられんねぇ~…。」

「後でお母さんのお墓に行こうねぇ。」と祖母が優に言った。
母の遺体は後に続いた容赦ない攻撃で探すに探せなかった。そして終戦後、米軍と自衛隊によって回収された遺体の中に、母・舞子の姿があり火葬されていった。墓は壊れてしまい、本来は東京にあるところ、長崎に作り常本家に遺骨を納めたのだった。

「うん、わかった。」

優は返し、出された夕食を食べ、空腹を満たしたのだった。わざわざ着替えるのも大変だろう、と祖父母も優も部屋着のままですぐ近くの墓場に向かった。時計の針は20時を回っており、空には星が浮かんでいる。
墓地は一軒家の入るくらいの土地にいくつかの家の墓場が建てられている。中央に「常本家之墓」とあり、ここに母の遺骨も納められている。月明りの照らす墓地に三人集まり、手を合わせひとみを閉じた。

「ここにお母さんがいるんだね。」

と祖母に尋ね、

「そうよ。ずっと優のことを見守ってくれているんよ~。」

と、優しく返してくれた。
少し墓の掃除をして、すぐに帰宅した。…未だ父の明憲は帰っていない。

「お父さんはまだ帰ってこないのかな。」

「今はまだ会社におるしな、まだ帰れんようやな…いつも遅くてなぁ。」

祖父はそう言って顎をポリポリ掻きながら、先ほどの和室へと戻っていった。
優もまた今日の授業の復習をするために自室へ戻り教科書を開いた。
勉強机の時計が21時をさす頃には風呂も入り、優は布団に潜って横になった。

「はぁ…。お父さん、今日も帰ってこないのかな。もう一週間会ってないな。」

優は明憲が一体何処で何をしているのか、また何の仕事をしているかさえ知らずにいた。
小さい頃、長崎に来た頃からずっとそうだった。父はいつもフラッと現れ、フラッといなくなっている。
たまに会って仕事を聞くと

「優にはまだ分からないかな」

と言い、これはいつものことだった。父は何もわからない、ある意味不思議な存在だった。優が母の姿や在りし日の生活を知らないのもこれ故だった。

優は「何もわからないや。明日は帰ってるかな。」と寝返り、意識が遠のいていった。

Re: 軋む、歯車 ( No.3 )
日時: 2023/01/04 19:04
名前: まぼ (ID: dYnSNeny)

2、「日常。」

毎朝6時半の目覚ましが携帯から聞こえる。
布団から顔を出し、目覚ましをとめると今朝のニュースが画面に表示された。
「朝鮮統一政府、中国からの難民受け入れ拒否」「米国、内戦への介入強化」…と題された記事が目に入る。良くわからないから横に指で流し、体を起こす。

「今日は…、今日は学校はお休みだな。」

2100年7月8日は木曜だが、この日は昨日の戦災を祈る日の代休だった。
優は寝間着のまま和室に出ると、ワイシャツ姿の祖父とエプロンの祖母が食事の用意をしていた。

「おはよう、優。」

祖母は声をかけ、ご飯をよそっている。テレビには携帯に映っていたニュースと同じ内容が放送されていた。
テロップには「在朝米軍、中国へのけん制強化」と表示されている。
優は朝食を済ませると、今日も米軍基地へ出勤する祖父を見送った。

「行ってらっしゃい、おじいちゃん。」

「おう、行ってくるわ。」

優も着替えと準備を済ましてしまうと、玄関に走っていき

「私も図書館に行ってくるね、おばあちゃん」と伝えた。

「今日も勉強ね?偉いねぇ優。」

行ってらっしゃい、と見送られた優は自転車にまたがり、地元の図書館へと走った。
帰りに登った坂を下ると上空には米軍の輸送ヘリとドローンが編隊を組み、飛行しているのが見える。そのローター音は騒がしく、現地の住民を悩ませていたものだった。
そして坂を下りると広がる田圃を左に曲がり真直ぐ走り出す。しばらく走っていると右にはいつも見かける交番があり、ちょうど信号となっていた。

「あれ?いつものパトカーじゃないや。」

交番に停車している警察車両は普段見かける白と黒の二色に「長崎自治警察」の字が書いてあるのだが、交番には同じ形状の車両に深い青と白で塗られ「J&A防衛保障」と書いてある。警察の車じゃない、ということだ。

「珍しいな、いつもの警察官のおじさんいないのかな。」

優はつぶやき、青になった信号を渡った。
やがて小さな図書館に辿り着いた。横に自転車を停め、館内に入ると近所の学生が数人見える。
今日も長机に座り、いつも読んでいる分厚い英米文学集を開き、『1984』を眺める。
同時に持参した英和辞典を開いて訳しながら読み進める。

「ゆっち、またそれ読んでるんだね。今じゃ珍しいよ~」

と、親しく声を掛けてくれる女友達がいる。「翻訳してくれるツールがあるのに?」と続けて優を不思議そうに語った。
この子は優と同じく長崎に避難してきた東京の出身、高校でも仲が良い。

「みっちゃん、おはよう。勉強にもなるんだよ?」

隣に座ったみっちゃんとあだ名で呼ばれている美香は、感心するような素振りを見せてから、自分の背負っている小さなリュックから数学のワークを取り出し、黙々と解き始めた。

「因数分解って難しいね…」

――机に向かって一時間ほどが経過して11時、「お腹、空いたね」と美香に言われ、気分転換にでもコンビニへ行こうかと二人で図書館を後にした。
近くのコンビニに行く道すがら、20台ほどの警察車両が列を成して近くの高速道路へ走っていくのが見えた。また入れ違うように先ほどの青と白のセダンが入ってくる。
美香がそれを見つめて歩いていると「私のお父さん、あの会社で働くんだってさ。」とポツリと美香は言う。

「みっちゃんのお父さんは警察官だったよね?」

「うん。でもアメリカさんが皆クビにしてってさ、残念そうに『俺は民間で働く』ってJA社の名前を言っていたんだ。」

赤色灯の光る列が入れ替わっていくようにこちらに入ってきた。「そうなんだね、大変だね。」と優は返し、歩き続けた。
少しして、地元のコンビニに着いた。空調が効いている店内が涼しく、厳しい暑さの外と違って快適だ。
店内の商品棚には「円」なんてものはなく「ドル」表記で物を売っている。優は飲み物とおにぎりを買い、美香としばらく涼んでから出ようかとしていた。
すると店外の小さな車道には米陸軍のトラックとハンヴィーが左から迫ってきているのが見えた。速度はかなり速そうだ。カーキ色の二台はそのまま緩いカーブを描いた車道に差し掛かる。反対からは乗用車が迫っていた。…先頭を走るハンヴィーはそのことに気づかない。
―――大きな衝撃音が聞こえた。店の先には乗用車と正面から衝突したハンヴィーがいる。

「…だ、大丈夫かな?凄い音がしたよね??」

美香と優はコンビニを出ると、正面から席まで拉げた乗用車のドアから、血にまみれた男が出てきた。頭から大量に出血している。
またハンヴィーからは車が頑丈だったのかそれほど怪我を負っていない米兵が降り、周囲にいる野次馬に対し立ち去るよう叫んだ。

「Get out of here!(ここから出ていけ!)」

後続のトラックからは10名ほどの男が降り、ひどく損傷した乗用車から怪我人を救助している。
中からは男の家族だろう、女とまだ乳幼児の子供が一人助け出された。

「も、もう行こうよゆっち。」

米兵に脅されて怯えた美香は優に図書館へ戻ろうと促し、その場から立ち去った。
買い物も済ませた二人は来た道を引き返す。
…そうしているとコンビニの方へ、JA社の車両がサイレンを鳴らして走っていった。


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