複雑・ファジー小説
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- また僕は輝く君に出会う
- 日時: 2023/08/28 15:45
- 名前: 青愛 (ID: kaDNG7L3)
〝ツインレイ〟それは魂の片割れをさす。
正確にいえば、〝前世においてもそのまた前前前世においても惹かれあっていた魂たち〟のことをいう。
人は輪廻転生をするからこそ、誰にでもそういった魂の片割れは存在している。
昔は恋人だったが、今は既婚者同士だという魂も存在するだろう。
昔は宿敵だったが、今では夫婦だという魂もあるだろう。
そのように、何らかの強烈な腐れ縁を持ちながら
結ばれにくいという性質をツインレイは持つらしい。
出会ってから結ばれるまでに、数々の障害があると言う。
年齢差の障害、既婚者がいる障害。
でも魂は覚えている、ずっと…その人を呼んでいる。
大抵は男性が直感的に女性の存在に気がつくという。
時には、異性同士ではないこともありえるという。
これは、魂が魂を呼びあった2人の物語。
- Re: また僕は輝く君に出会う ( No.1 )
- 日時: 2023/08/28 16:12
- 名前: 青愛 (ID: GbhM/jTP)
***
懐かしいのは、朱
***
〝大丈夫ですか、姫君〟
〝大丈夫、大丈夫よ。…ごめんなさい、本当に私は平気だから〟
そう言って、俺は女の人の背中をさすっていた。
その人は薄布に向かって咳き込み、何度か吐血をする。
〝けほ、こほっ…〟
その華奢な背中をさすってやることしかできない虚しさに、身も心も苛まれていた。
まだ元気だった頃は、歌うことや踊ることが好きだった姫君。
〝また、きっと踊れるようになりますから。それまでの辛抱です〟
〝本当にごめんなさい、こんなことになってしまって。貴方にうつってはいけないから離れて──────〟
〝何を仰りますか!〟
怒鳴る俺に、その人は驚いたような表情で一瞬肩を揺らしたが
また布に向かい咳き込み、薄布を朱に染めた。
美しかった器量は痩せ細り、元より華奢だった体躯は病魔に蝕まれどんどん小さくなってゆく。
(変わってやれたなら、どんなにいいことか)
奥で控える使用人が表を下げたまま、様子を見守る中で姫君の身体を抱きしめ 絶対にこの場を離れるものかと唇を噛み締める。
──────────間もなくして、俺の光であったあの人は遠くの世界に旅立ってしまった。
〝姫君…っ〟
白い手先を握り締め、俺は生前誰にも見せることのなかった涙を落とし、その痩せ細った輪郭に触れた。
〝置いていくのですか、この私を〟
そう、子供のように縋る背中は何ともみっともなく、虚しかった。
──────────そんな懐かしい夢をみた。
〝俺〟は起き上がり、揃えられた髪を片手で掻きあげる。
「…またこの夢か。」
時計を見れば、午前6時。
ハンガーに掛けられた高校用の黒い学ランを眺め、今日から新しく始まる日々に特にこれといった感情を持たないままでいた。
- Re: また僕は輝く君に出会う ( No.2 )
- 日時: 2023/08/28 16:48
- 名前: 青愛 (ID: GbhM/jTP)
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1
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モテないかモテるかでいえば、モテる方なのだろうと思う。
昔から、告白されることはままあった。
「付き合ってください…っ」
登校初日、いきなりの告白に驚く暇もないまま
その女子生徒に対して心が揺れ動かない俺は脇を見た。
「悪いけど、アンタのことよく知らないし」
俺がそういえば、その女子生徒は〝これから、少しづつでもいいから知って言って欲しい〟と話す。
「はあ…」
思わず生返事になる中で、彼女は〝お願いします…!一目惚れしたんです〟と再度頭を下げた。
彼女の視界を真っ直ぐに覗き込み、本気なのかどうかを測ろうとしたその時。
するとその途端、視界の端にチラついた光景。
何故か、ショートボブの彼女が鎧をまとい、剣を構えているその様子が浮かぶ。
まるで戦国武将のようなそれ。
「…なるほどな、男か。」
「え?」
「ああいや、何でも」
俺にはどうやら、相手の瞳を見れば〝相手の前世〟が何であるかを悟れる特殊能力のようなものがあるらしかった。
「とにかく、考えてみてください…!お返事はまだまだ、全然待つので」
やたらと推しの強い彼女の様子に、俺は根負けしたように〝分かった、考えとくから〟と伝える。
面白いことに、前世からの生き様は今世にも多少の影響を及ぼすことが分かっている。
つまり彼女は、昔から恋をすれば猛スピードでアタックをするタイプの人間であったということだ。
やがて、坂道で突然告白してきた彼女とも別れ。
そんな風にして、高校の入学式に向かうまでの時間を過ごした。
「付き合って、か。」
呟きながら、そんな口約束をすることの何が楽しいのかと何処か冷めた目線で先程の告白を受け流す。
──────────どうせ、相手はいつか自分の傍からいなくなるのに。
そんな心のぼやきが聞こえ、俺はそれを振り払う。
随分とうっと惜しい夢の記憶だ、これのせいで昔から生きずらかった。
男子高校生としての意識で生きたい俺の邪魔をする記憶。
ふとした時に取り付く。
両親も、昔の俺が歴史の年号にやたらと詳しかったり一人でなんでもこなしてきたことに驚いたらしく〝神童だ〟ともてはやし親バカにも頼られてきた。
大抵のことは、親の手を借りずにやってきた。
いわゆる器用貧乏、というやつだ。
家事の段取りを覚えるのに、手際よくありとあらゆることを幼い齢でこなす俺に両親は〝手のかからない子〟として何でも任せてきた。
これからもそうなのだろう。
学業にしても、歴史のことについては教科書を見ずとも懐かしさという直感で要点を探り当ててきた。
ちなみに両親は、互いに前世商売人をやっていた同士が惹かれあったためににぎやかな家庭に生まれた。
にも関わらず俺の情動は落ち着いており、一人スレてるとはよく言われたものだった。
そこにも、護衛兵として感情はなるべく外へ出さないようにしなければならなかったこととの関わりがあるのかは分からないが、にぎやかな両親と比べ、息子の起伏はあまりにも平坦だった。
- Re: また僕は輝く君に出会う ( No.3 )
- 日時: 2023/09/03 02:15
- 名前: 青愛 (ID: GbhM/jTP)
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2
***
「ねえ、利一。貴女の願いは何?」
そう言って、姫君は俺の方を振り返る。
「そうですね、貴女が幸せでいてくれることです」
俺がそう答えれば、彼女は不服そうに頬を膨らませた。
「もう、またそれなのね。他に願いはないの?」
「ありませんよ、それだけが俺の願いですから」
俺がそう言えば、彼女は華奢な身体をふふ、と揺らし
俺の頬に手を伸ばした。
「もう充分幸せよ、私は。」
そういう姫君に、俺は言う。
「ならば、もっと幸せになってください」
「懲りない人ね。」
元より、平民にすら分け隔てなく接する貴女の癖が出て、彼女は俺の頬をそのまま撫で回した。
「────────それなら利一郎、私の願いを聞いてちょうだい。」
姫様はあどけない仕草で、表情ばかりは遠くを見据えるようにして俺に告げた。
「ずっと、私の傍にいてくれるかしら。」
真っ直ぐに見つめられて、その視界があまりにも純粋で、人々を慈しむような眼差しで思わず目を逸らしたくなる。
「御意に、姫君」
俺は彼女に頭を下げれば、彼女はくったない笑顔を浮かべ、笑った。
────────そんな、懐かしい夢を見た。
朝、朝食を独りでに作る。
「あら、早いのね。」
すると母親が起きて、俺にそう告げた。
「今日は入学式だからな、早く行くに越したことはない。」
「アンタは誰に似たんだか、昔からそうよね。ルーズな親とは大違い」
母親が俺の手元を覗き込みながら、「母さんのもついでに作ってよ」と告げてきた。
「仕方ない、特別にな。」
パンを焼けば、母親は「やったあ」と笑った。
人懐っこい親だと思う。
俺にもその人懐っこさの半分でも受け継がれれば、愛想というものができたのだろうか。
「ほらよ。」
母親にできたツナサンドを渡せば、彼女は喜んだ。
そんな風にして朝の時間を過ごせば、もう行かなければならない時刻になった。
「なら、行ってくるから」
「はいよ、行ってらっしゃい」
そして、俺は家を出た。
街の景色を見れば、陽の光が丘を照らし澄んだ空気が青々と広がる。
入学式をするには、うってつけの季節だ。
──────────桜の木が咲く季節に、あの夢を必ず見るのだ。
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