複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

白の魔女と不死の騎士 ~メカと魔法で異世界地球化計画~
日時: 2024/06/26 03:18
名前: 長谷川豊法 (ID: ShMn62up)

西暦2320年の未来。主人公:ユタカは、資源の枯渇した地球の未来を救う『月の子供』の一員として『惑星地球化計画』の最中にあった。

そして、突然の事故により不滅の肉体と魂を持つ『不死の騎士』となってしまう。
『不死の騎士』として意識を失うほどの傷を負う時、自分は生き永らえ、大切な誰かが死ぬ。

地球化に適した惑星に待ち受けていたのは、ファンタジーの魔物蠢く『異世界の住人』であった。


【こんな方にオススメします!】
● 最初は弱いけど困難を乗り越えて逞しくなっていく成り上がり主人公を見たい方
● キャラクターの目的と意思がハッキリしているのが好きな方
● 戦闘はハラハラ、開拓はほのぼの、といった緩急のある展開が好きな方
● 地図を見るのが好きな方
● アイテムの説明文から独自の物語を妄想してしまう方、もしくはフロム脳

第一章〈月からの使者〉
>>1 >>2

Re: 白の魔女と不死の騎士 ~メカと魔法で異世界地球化計画~ ( No.1 )
日時: 2024/06/26 03:16
名前: 長谷川豊法 (ID: ShMn62up)

第一章〈月からの使者〉
不死の騎士の目覚め
「起きて……起きて……」



 どこか遠くの方から声が聞こえる。
 この声は聞いたことがある。よく知っている女の子の声だ。
 そう、声を聞けば、彼女の履いているパンツの柄までわかるほどに。

 目を見開くと、辺りには白い岩壁と砂ばかりが広がっている。

 四方は全て岩壁に囲まれているように見えるが、部屋の四隅の奥に行けば行くほど、暗い闇が広がっている。四方の壁は全て、一辺が十メートルほどもあり、天井は三メートルほどあるように見える。狭い空間ではないが、その広さが気持ちを落ち着かなくさせた。
 そこは『閉鎖空間』のようでもあり、また、『どこかの通路の一つ』とも言えるような空間であった。
 目が慣れてくれば、この部屋の四隅のどこかは通路が続いているのかもしれない。

 そして部屋の床には白い砂が敷き詰められており、その粉末で連想したものは「小麦粉」や「塩」。
 ”自然”によって作られた砂というよりかは、人工物のような『白さ』があった。”砂”と言うには混じり物を感じさせず、絵の具のように『白』過ぎた。

 今まで生きてきた中で一度も過ごしたことが無い空間。見慣れない空間が広がっていた。

 さらに、この空間の中央にある『青白い色の炎』が空間を照らしている。
 白い壁は青い光に照らされ、青い光を反射して輝くこともあるし、炎の輝きは『白く光る』こともあり、青と白の色を巡回して不安定な輝きを放った。
 その光は見る者の心を落ち着かせるような光であったが、同時に見る者の気持ちを沈ませ心細い気分にさせるものでもあった。


 『僕』の目の前には、壁にもたれかかるようにして座る白骨化した人体があった。そこにあるのは人体だけで、頭蓋骨ずがいこつにあたる頭がない。

 この異質な空間の中で、その白骨化した人体が異彩を放っている。
 その『白骨化した人体』が『遺体に見えない』のは、その人体も床に広がる砂と同じく、『汚れ』や『時間の経過』を感じさせないものだったからだ。
 白骨化した人体は、まるで今作られたばかりの『標本』のように、骨の隙間。そして関節の隅にはありそうな『劣化』や『汚れ』が見つからなかったのだ。
 ただし骨の体には破損した金属の断片、おそらく身を守っていたであろう、鎧を身に着けていた跡がある。その壊れた金属の破片には、時間を感じさせるものがあった。

 そして『白骨人体』は今、”首無し”である。

 その骨の左手には、鏡のように磨き上げられた「盾」が置かれていた。
 盾、それは『中世・ヨーロッパ』の時代、騎士が鎧と共に身に着けていたとされる、防具の「盾」のことである。
 上部と、下部は尖っており、剣盾けんたてと呼ばれる野球のホームベースも似た特徴的な形をしていた。
 辺りの白い壁や地面に広がる砂、青白く光る炎の輝き、それらを反射してキラキラと輝いていた。


 その鏡のような盾には、一つの頭蓋骨ずがいこつが映っていた。
 頭蓋骨の目玉が入っていた部分には、赤い光が灯っている。
 『赤い光』は瞳のようで、いま辺りを観察している僕を見ているかのようだ。


[もしかして、これが今の僕の姿?]


 声を発しようとすると、鏡に映る頭蓋骨も同時に動いた。
 しかし、声を出そうにも声が出ない。鏡に映る頭蓋骨の動きを頼りにするならば、どうやら体から唇やのど、舌などの”声帯”と呼ばれる一連の部位すべてが存在していないようである。
 あたりを観察する”僕”に、声が届く。


「起きて……起きて……あなた、今どこにいるの?」


 先ほどの声の主は、尚も僕に語りかけているようだ。
 返事をしようと念じると、頭のどこかで自分の声が響いた。


[ルナ、その声はルナだろ? 今……今どうなってるんだ?! 僕は今、自分がどこにいるのかわからないんだ!]


 この声ではない念。『念話』は、どうやら先ほどの声の主、ルナに届いたようだ。
 ルナ……名前は思い出せるものの、どのような顔をしていたかは何故かまだ、思い出すことができない。

 ”僕”は僕自身の発した声によって混乱に陥る。
 『自分の置かれた状況が未だ理解不能』である心の叫び、そこから発した言葉一つ一つは、僕自身がパニックに陥おちいっていることを自覚させた。


「!……あなた! 返事ができるってことは、無事なのね! ……よかった……」


 彼女は、僕の置かれた状況はいざ知らず、まずは応答したことに心底喜んでいるようだった。
 よかった…と口にした後、安堵のため息が漏れている。
 今日の彼女のパンツの柄は、たぶん水色と白のストライプだ。

 なぜ……こんなことを先に思い出すんだ?

 僕は彼女の慌てふためく想像上の表情と、パンツの柄を交互に思い返しながら、昔読んだ本に書いてあった1節を思い出していた。

 『人間の脳は、1日に40回も新しい刺激を感知する力がある』らしい。

 毎日同じ時間、同じ作業、ルーチンワークをこなしていると、1日に40回使えるそのセンサーは次第に衰え、新しい刺激を感知しにくくなる。
 子供の頃より大人の方が1日や1年を短く感じるのは、このセンサーが鈍るためだと言われている。
 その40回あるセンサーは、毎日を退屈に過ごす僕にはもう無くなってしまったのかと思っていた。


 ……でも、そうではなかった。

 ただ忘れていただけで、脳はその能力をいつでも解き放てるのだ。
 海外旅行など未知の土地や文化に触れると、1日の体感時間は長くなる。


 白い壁、青い炎、白骨化した誰かの体、出ない声、そしてパンツ。

 『40回あるセンサーをこの異常な環境に一度に解き放つ』と、正常な心を保てないのだ。

 誰がこの状況を冷静に把握できようか。
 僕はしばらくの間、パニックになった。それは、永遠に続くようにも思われた。

 こうして、僕は突然『不死の騎士』の人生を歩むことになったのだ。



 『不死の騎士』、それは不滅の肉体を持ち、死にたくても死ねない。呪いの体と魂を持つ者。
 不死の騎士が意識を断たれる時、呪われた本人は生き永らえ、『大切な誰かの命』が失われる。

Re: 白の魔女と不死の騎士 ~メカと魔法で異世界地球化計画~ ( No.2 )
日時: 2024/06/26 03:19
名前: 長谷川豊法 (ID: 9i/i21IK)

第一章〈月からの使者〉
失われた肉体
「XXX! XXX! しっかりして! XXX?!」

 ルナは、混乱した僕に必死に呼びかけを続ける。
 僕の精神が危険な状態だと感じたのか、先ほどの一瞬の安堵とは対照的に慌てた声を出している。
 僕の目の前には、鏡に映り、ケタケタと不気味に笑う頭蓋骨がある。

[骨!ガイコツ!……からだが!身体が動かない!]

 どんなに叫んでも、叫び声は上がらない。
 ただ、恐怖に包まれた「念話」だけがルナのもとに届いた。それは感覚でわかる。
 ルナ! お願いだ助けてくれ!

[痛い! ……からだ……が! 痛い……!]

 喉から下の「全身」が焼けるように熱く、四肢を100人もの得体のしれない何者かにぎゅうと掴まれ引き裂かれようとする痛みが襲う。
 後で知ることになるのだが、この時、僕の精神は急激に肉体を失ったことに対する「幻視痛ファントムペイン」に蝕まれていた。
 幻視痛とは、『存在しない肉体に走る苦痛』であり、『身体の一部を失った患者に生じることがある病気』のことだ。


「XXX! しっかりして! 大丈夫! あなたは今、安全な場所に居るわ!」

 ルナは先ほどから泣きそうな声で僕の名前を呼んでいるが、自分の名前が思い出せない。
 名前を呼んでいる部分が言葉として伝わってこない。
 いったい僕はどこの誰で、今何をしているのだ?

 様々な謎と恐怖、根拠の無い憶測が生まれ、僕の心はさらに複雑な混乱状態に陥ろうとしていた。ーその矢先。
 先程から僕の傍で静かに光り輝いていた青い炎が強く光ったかと思うと、これまた謎の音声を発した。

「……グヌエルカトラピオラ!! シャラアア!!」

 いったい何を言っているのかわからない。

 人類とは異なる文化圏にいる原始人のような、野太い男性の声がした。
 大人が子供を叱りつけるような声色だ。その声を聞いた直後、僕は意識を手放した。


◆◆◆◆◆


 ……長い時間が経過し、僕は再び目覚めた。

 四方は全て岩壁に囲まれているように見えるが、部屋の四隅の奥に行けば行くほど、暗い闇が広がっている。四方の壁は全て、一辺が十メートルほどもあり、天井は三メートルほどあるように見える。狭い空間ではないが、その広さが気持ちを落ち着かなくさせた。

 そこは『閉鎖空間』のようでもあり、また、『どこかの通路の一つ』とも言えるような空間であった。


 ……目に見えるのは同じ景色、白い壁、鏡に映った頭蓋骨。青い炎。


 ……目が慣れてくれば、この部屋の四隅のどこかは通路が続いているのかもしれない。
 ……何度見直してみても同じだ。


「あなた、意識が戻ったのね? ……先生?」


 再びルナの声がする。
 続いて、ルナは側に居る誰かに向かって身を返したのか、衣服や物が擦れる音が聞こえてくる。
 さらにその”誰か”に質問を投げかけ、いくつかアドバイスを受けているようだ。
 先生と呼んでいた。医学的な専門知識を持った者が一緒に居るのだろう。


「あなた……私の声が、聞こえるわね? ゆっくりと話しましょう。
 ……YESかNO、簡単な答えでもいいわ。怖がらなくていい。私は、あなたの味方よ?」


 不安に包まれた者にとって『味方』という言葉には不安を軽減する効果があった。
 特に今の僕にはとても効果があるように思えた。

 ルナの声はゆっくりと、そして優しい口調で語りかけてきた。
 優しい声音に僕は口元を緩める。緊張感がやや解けてきた。
 ルナは尚、言葉を続けた。

「ありがとう。あなたとこうして話すことができて嬉しいわ。
 私は……ルナ。思い出してくれたら嬉しいけど、あなたといつも一緒にいる戦友バディよ。」

 ルナの声は力強くハッキリとしており、凛とした女性を思わせた。
 『戦友』とは、戦場などの厳しい環境を乗り越えた仲間。
 ルナと僕は同じ戦場を駆け抜けた友であり、親友だった。
 ただ、どのような”戦場”を乗り越えたのかは、今はまだわからなかった。
 記憶に混濁が見られるようだ。ただ、何かのキーワードを聞くことで断片的に思い出していく。

「あなた……自分の名前は思い出せる?」

 僕は自分の名前を思い出そうと試みた。

[……ユタカ、そう、僕の名前はユタカだ。]

 自分の名前を思い出したことで、失われていた記憶の一部が甦るような、心地の良い感覚に包まれた。

「ユタカ。あなたは今、仮設の医務室で寝ている状態なのだけど、意識を取り戻したにしてはどうもおかしいみたいなの。あなたには今何が見ているのか、聞かせてもらえないかしら?」

 え? ”僕”の肉体は医務室で……寝ている状態。だって?
 鏡のように磨き上げられた盾、そこに映っている頭蓋骨。
 これは今の僕自身の姿ではないのか?

 僕は、頭蓋骨の瞳の奥に光る赤い灯を見つめながら、ルナとの会話を通じて、置かれた状況を少しずつ整理していった。


Page:1