複雑・ファジー小説

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友達依存
日時: 2024/10/14 23:41
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

 「幼い頃、私はとてもおしゃべりだったのですが、いつからか内気な人になっていました。自分のことを話すのが大嫌いで、かと言って、人の話を聞くのも好きではありませんでした。
 ですが、人と仲良くするのは得意で、クラスのみんなからはよく好かれていた方だと思います。いつも笑って、適当にやり過ごしていました。それは、多分わかってましたよね。
 ……でも、私といつも一緒にいてくれた人なんていなかったんですよ。いわゆる親友、みたいな?みんな言うんです。ずっと親友だよ、ずっと一緒だよって。でも、そんなの嘘なんです。そう言ってくれた友達も、時を重ねるにつれて、他の子と楽しそうにおしゃべりしてて、私はそれを見てるんです。
 中学生の時の話です。覚えてますか?真奈ちゃんの事。私の大親友だった子です。先生も仲良しだったから、覚えてますよね?」
 こうして彼女と話すのは何年ぶりなんだろう。
 前より明るくなっている髪は、気のせいかと思ったが、上げに上がり切ったまつ毛や、唇の赤いリップが物語っていた。彼女はもう大人なんだ、と。無邪気に笑って、ちょっとしたことですぐに悩んで泣きそうな顔でこちらに相談してきたあの少女とは到底一致しない。
「先生、聞いてますか?」
酒に酔った彼女は少し不機嫌そうな顔をしてこちらに向き直す。
「聞いてるよ。お前が大好きだったあの真奈の話だろ。」
「だ、大好きって…。間違ってないけどさあ…。」
少し照れくさそうに言う彼女に、未練たらたらなことが伺える。バレバレだ。
「で、何?話してよ。」
長くなりそうで少し面倒だが、昔の話もたまにはいいだろう。

Re: 友達依存 ( No.3 )
日時: 2024/10/26 21:32
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

真奈は、私の求めていたものだったんです。ずっとあんな友達がほしいって思ってた。誰かと仲良くなって、ずっと一緒にいて、でもいつも見捨てられて。そんな私の救いでした。だって真奈も私を求めてくれたから。
でも、真奈も他と同じだった。いや、私が悪いのかもしれない。私が気を使えるようなやつじゃないし、面白いやつでもないから、一緒にいる意味なんてないってまた思われたのかもしれません。

賑やかな教室に1人でいる自分。親友が他の子と親しげに話しているのを横目に、話しかけられないでいるこの自分。惨めだな。でも、真奈だって悪いんじゃないのか。だって今の真奈は、私と話している時より全然楽しそうに笑うから。
…私、なにも変わってないんだなぁ。嫌いだ。真奈も自分も。
放課後。いつもより少し勇気を出して真奈に話しかける。
「真奈、、、。」
「どうしたの。」
いつもより、少しそっけない気がした。
前よりも話す回数が減っていて少し悲しい、なんて言えたらどう思われたんだろうか。惨めな自分はそんなこと言えるはずなく、真奈とは前のように話せることはなくなった。

「私は、あの時の真奈が大好きだったんです。2人ではっちゃけて笑って、喧嘩したって5分後には仲良しに戻っていて。」
グラスに残った氷で遊びながら話す彼女は、もしかしたらこちらを見ないようにしているのかもしれない。
そういえば昔も彼女はそうだった。少し気まずい時とかつまらない時はいつも、シャーペンやら消しゴムやらプリントやらをいじりながら話したり聞いたりしていた。その癖はやめろと言ったはずだが、未だ直っていないようだ。
「先生、そういえば綾井くんって覚えてますか?」
「隆二か。あいつは元気で優しいやつだったよな。」
どうして彼女から隆二の名前が出るのだろうか。
「こないだ、綾井君から連絡がきたんです。」
「なんて?」
「えっと、それが、中学の頃好きだったって。」
「そうか。」
「驚かないんですか?」
「知っていたからな。」
「え!?なんで?」
隆二はよく、俺に相談してきたものだ。彼女と仲良くなるために必死に努力したが、なかなか勇気が出なくてよくいじけてた。
彼女はなぜ隆二の思いに気づかなかったのか。
答えはとても簡単で、彼女が人に興味がなかったからだろう。全く絶望的なやつだ。
「まあそれはいいんですけど、その後に迷惑かけてごめんって。」
迷惑?隆二は彼女にそこまで激しいアプローチなんてしてないはずだが、知らないところで動いていたんだろうか。
「何か嫌なことされたのか?」
そう言うと、彼女は食い気味で話し出す。
「それがなにも。まず、中学の時そんな話さなかったし。」
そのはずだ。
「だから、綾井君に私なにもされてないよって言ったら、だって真奈ちゃんがって…。」
真奈…?

Re: 友達依存 ( No.4 )
日時: 2024/11/02 00:54
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

 「お久しぶりです。中学の頃は、よく相談とか乗ってくれましたよね。ああ、佐々木さん元気かなぁ。いつもニコニコしてて可愛かったなあ。長谷川さんのことが大好きでしたよね、佐々木さん。で、長谷川さんも佐々木さんが大好きだった。あの2人はいつも一緒だったな。だから僕が入る隙なんてなくて、全然佐々木さんと仲良くできなくて、よく先生に泣きついてましたよね。ほんと、お恥ずかしいです…。ああ、僕ばっかり話してすみません。今日はなんで食事を誘ってくれたんですか?先生。」
隆二は昔となにも変わってなかった。愛想が良くて純粋で素直でわかりやすいやつ。彼女のことがまだ好きなことが伺える。彼女の話をするときはいつもこれ以上にないと言わんばかりの笑顔を浮かべる。
「こないだその佐々木と話してだな、隆二の連絡の話をされたんだよ。詳しく聞かせてくれないか?」
そういうと隆二は驚いた顔をした。
「あ、あの話ですか…。僕的に色々考えたことあるんで、それもこめてお話しさせていただきますね…。」
少し躊躇うように話す隆二は言葉を選んでいるようにみえた。

いつものように仕事から帰ると、とある連絡が来ていることに気がついた。そこには珍しく、長谷川真奈と書いてあった。
 ーこれ以上ひなに迷惑かけないで
ひな、というのは佐々木ひな。僕が中学の頃片思いしていた女の子だ。
しかしその一通に僕は何の心当たりもなく、長谷川さんに聞いてみた。そしたら、明らかに怒ったような口調のメールが返ってきた。
 ーとぼけんなおまえのせいでひなはこまってるちゅうがくのときからずっとずっとずっとあんたのせい
怒りに狂ったそのメールが怖くて、佐々木さんに嫌われるのも怖くて、思わず佐々木さんにメッセージを送った。
その後、長谷川さんにも何通か送ってみたが、未だに返信は来ない。

「ということなんですよ。僕も長谷川さんが何で怒っているのか、迷惑って何のことなのか、さっぱりわかりません。」
そういう隆二の目は不安と恐怖に満ちていた。

Re: 友達依存 ( No.5 )
日時: 2024/11/11 23:02
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

「ただ一つ、思うことがあって…。」
そう続ける隆二はなんだかバツの悪そうな顔をしていた。
「長谷川さんはきっと、佐々木さんが大好きなんじゃないでしょうか。友達としてというかもう、恋愛感情すら抱いたいたように感じます。」
その言葉に驚くものの、ある疑問が頭をよぎる。
「彼女は真奈のメールに何の心当たりもない。だから、彼女が隆二のことを真奈に相談したわけでもないだろ。ならなんで、真奈は隆二に対して急に怒ったんだ?」
少し戸惑ったような仕草をした後、隆二が言う。
「僕にも全くわかりません。本当に急に送られてきたので。その前に佐々木さんと話したりしたわけでもないので本当に心当たりがないですね。」
隆二がそう言った瞬間、
プルルルル…
と着信が響き渡った。
「ちょっと失礼。」
そう言って携帯を取り出すと、着信名には''佐々木ひな''と書いてあった。
珍しいな、彼女が電話をかけてくるのは。しかもこんな夜の暗い時間。
「もしもし?」
「せ、先生ですか!?た、助けてください…。」
彼女の言葉を聞いて血の気が引いた。
焦っているような、怯えているような、とにかく、わざと周りに聞こえないようにしている声。
「どうしたんだ!?」
「今、家に帰る途中なんですけど、なんか、後ろつけてくる人がいて…。怖いです…。」
ストーカー…?
「早足で歩くと向こうもペース上げてきて、曲がり角何回曲がっても後ろついてくるんです…。」
震える彼女の声に頭が真っ白になる。
「今どこにいるんだ?」
「今、T市の赤西ショッピングモールの近くの交差て…きゃあ!!」
彼女の悲鳴が聞こえたあと、ツーツーと電話が切れる音がした。

Re: 友達依存 ( No.6 )
日時: 2024/11/16 15:14
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

「す、ストーカー!?」
慌てる隆二をなだめながら、考え込む。
妙だ。隆二のメールの件といい、ストーカーの犯人と考えられるのが真奈しかいない。しかし真奈がストーカーでなければ疑った僕はきっと教師として失格だろう。そもそも真奈がそんなことをする動機は?
「先生。やっぱり、長谷川さんなのではないでしょうか…?」
どうやら隆二も同じことを思っていたようだ。
「俺が真奈に直接聞いてみるよ。もう夜遅いから、隆二は帰りなさい。お前まで同じような目に合ったらたまったもんじゃないよ。」
「でも…」
躊躇う隆二を無視して帰らせた。
さて、どうしたものか。真奈に直接聞くと言ったものの、真奈の連絡先も住所も僕が知るはずない。かといって、隆二に連絡させるのは危険だ。とりあえず隆二は一旦蚊帳の外にしておいたほうが良いだろう。
となれば、僕が真奈に聞く方法は真奈の実家を訪れることだろう。

見覚えのあるような、そんなことないような古民家。僕もよく覚えていたものだ。ここへ来るのはきっと家庭訪問ぶりだろう。
インターホンを鳴らすと高くて優しげな声が返事をする。
「長谷川ですー。あら、真奈ちゃんの中学の時のの担任の先生じゃないの〜!」
そちらもよく覚えていたものだ。
「どうもこんにちは。真奈さんはいらっしゃいますか?」
そういうと、少し曇らせた表情をして真奈の母親は言った。
「それが、真奈ちゃん3日も帰ってきてないの。どうしたのかしら。何かあったりしたら…。」
どうやら真奈は実家で暮らしているようだ。何日も家を開けて、一体何をしているのだろうか…。
「それに、ここ最近は少し変だったんですよ。ずっと部屋に篭ってなにをしてるのかさっぱりわからない状態で…。」
怪しい。心配そうに言う母の前でそんなことを思うのは悪い気がしたが、どうやら母も怪しんでいたようだ。
「真奈ちゃん、どうしちゃったのかしら。犯罪に手を染めてたりしたら私…。」
悲しげに瞳を揺らせる母に心がグッと痛くなった。真奈は、罪を犯したかもしれない。そんなこと言えるはずがなかった。

Re: 友達依存 ( No.7 )
日時: 2024/12/03 23:56
名前: 秋介 (ID: 5r6pEwjY)

真奈の実家へ行った後、警察へ向かった。考えれば、一番最初に行くべきところだったのかもしれない。警察には、とりあえず電話の出来事と真奈のメッセージの事を両方とも伝えておいた。もちろん話をしたらもっと早く言え、とこっぴどく叱られてしまった。隆二にも、警察に話したことは伝えておいた。

彼女と真奈は、とても仲が良かった。周りから見ても、他とは比べ物にならないほどに、異常なまでに仲が良かった。真奈は比較的に社交的なタイプで、クラスでもいつも中心にいた。対照に、彼女は内気で…というより、あまり人に興味を示さなかった。友達が欲しい、とか言う割に自分から人に話しかけることは絶対にしなかったし、話しかけられても話を膨らませるようなことはせず適当にはぐらかしていた。そんな2人が仲良くなるなんて、誰も思っていなかっただろう。
2人が仲良くなるうちに、真奈が彼女を変えた。彼女は前より明るくなって、楽しそうに話すようになった。そのおかげか、他のクラスメイトともうまくやっていけるようになった。本当に楽しくて充実した学校生活なんだろうと見ている側からもよくわかった。
しかし、時が経つにつれて2人は話さなくなっていった。喧嘩ではない、と彼女から聞いていた。なんとなく壁を感じて、それがだんだん厚くなっていく。友人間ではよくあることだった。


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