複雑・ファジー小説

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無職アラサーが記憶喪失のイケメンを拾ったんだが!?
日時: 2024/11/14 14:52
名前: もゆる創聖 (ID: ir9RITF3)

第一話

 夜も深まる頃、城下町では明かりが一つずつ消える。
しかし、炯々とひかる場所が一つあった。

「おい!酒をよこせ」
「あんちゃん、こっちもだ!」
ガラの悪い男たちが次々と酒を頼んでいく。
「はいはい」
面倒くさそうに酒を運んでいく店員の男が一人。
茶髪で短い髪をバンダナで束ね、器用にビールジョッキを6つ持ち、机に置く。
「帰れなくなるぐらいには飲まないでくださいよ」
顔を真っ先した酔っ払いたちに無駄だろうが忠告する。
が、大柄な男に肩を組まれる。
「お前も酒飲めよ。おじさんがおごるぜ」
「いえ…仕事中なので」
店員は酒臭さに顔をしかめ、緑色の眼をそらす。
酒を無理やり口に注ぎこまれそうになったとき
「レオ!もう遅いから上がっていいわよ!」
店の奥から声がかかる。
声の正体である酒場の女将は店員に向かって片目をつぶる。
レオと呼ばれた店員は
「ありがとうございます」
と頭を下げ、そそくさと店の裏方へ行く。
バンダナを解きエプロンをたたむ。
定位置に戻し、私服に着替え店内に戻る。
もう一度女将に頭を下げ、店を出ていった。
その後ろ姿を見ながら女将はつぶやく
「ほんと、元気になってよかったわ。」
「あんときゃほんとに死んじまうかと思ったぜ!」
ギャハハと笑う常連の男を一瞥し女将は
「もう店じまいよ。帰った帰った」
言いながら女将は店の出口を見つめていた。

この世界は俗にいう異世界というものである。
神、天使、精霊、神獣、エルフなど様々な生き物が住まう世界だ。
人は皆何らかの属性の能力を持っている。
火、水、木、金、土の五属性に関した魔法を使うことができる。
そしてこの場所はデミウルゲインという王国である。
そこの城下町に住む酒場の店員、レオはポケットからタバコを取り出し、口にくわえる。
すると不思議とタバコに火がついた。
レオは火属性の能力者である。
家は酒場から10分ほど歩いたボロ家である。
いつものように歩いていると視界の端で何かが動いた。
驚いてその方向を見る。
路地裏の奥、そこに何かがいる。
できれば面倒事には関わりたくない。
だが、好奇心に負け路地裏に入る。
奥へ奥へと進むと何か灰色の薄汚いものが目に入る。
近づいて恐る恐る触れると、ゴワゴワとした感覚。
髪の毛だ。
髪をかき顔を見る。
サファイアのような瞳と交わる。
「おいおい、まじかよ…」
レオは頭を抱えてしゃがみ込んだ。

Re: 無職アラサーが記憶喪失のイケメンを拾ったんだが!? ( No.1 )
日時: 2024/11/16 09:24
名前: もゆる創聖 (ID: ir9RITF3)

第二話
男、レオは頭を抱えていた。
目の前で少年がうずくまっていたからだ。
犬か猫なら保護してやろうと思ったのに、人を世話するほどの生活的余裕はレオにはない。
だが、助けを乞うような目を見たら引くに引けないではないか。
(あぁ、もうどうにでもなれ)
少年を抱えあげる。
思いのほか軽い。
するとひらりと紙が落ちた。
(なんだこれ)
紙を拾い、足早にその場を去った。

10人ほどが住む宿舎、そこにレオは住んでいた。
幸い、夜も遅いので辺りには誰もいなかった。
片手で家のドアを開け、辺りを確認して素早く家の中に入る。
足で放置したゴミを退け、そこに少年を降ろした。
体が冷たい。
小さく震えている。
沸かしておいたお風呂に入れることにした。
「寒いか?」
こくりと小さく頷く少年。
服といっても布を纏っているようなものだったが、それを脱がせ浴室に入る。
ひどく汚れた髪を入念に洗っていく。
水道代とシャンプー代がとんでもないことになるだろうが、そこには目をつぶり、出し惜しみせず使っていく。
体もしっかりと洗って、水で洗い流したら浴槽に浸からせた。
数分経ったら戻ってくると伝え、ゴミ屋敷と化した居間を掃除する。
掃除は得意な方ではない。
むしろ嫌いなタイプだ。
ゴミをある程度まとめ、手から火を放ち灰にする。
それを集め、ゴミ袋の口を縛ったところで少年を迎えに行く。
タオルで体をふき、居間に座らせる。
ドライヤーがわりに手のひらから熱気を出し乾かしていく。
見つけたときは汚れていたので気が付かなかったが、純白のふわふわとした髪。
肩までの長めのそれを手ぐしでほどいていく。
されるがままに揺れる背中を見ながら、とんでもないイケメンを拾ってしまったと我に返る。
子猫のような顔は言わずもがな、汚れ一つない髪、とどめの海の底のような青い瞳。
しかし、さっきから一言も喋らない。
恐る恐る話しかける。
「な、なあ。お前なんであんなところにいたんだ?」
「知らない」
即答かよ。
しかし、鈴を転がすような可愛らしい声。
この年でここまで完成された子をみると、自分がみすぼらしく感じる。
「名前は?」
「…分からない」
これは記憶喪失と言うやつか。
だが、手がかりはあるかもしれない。
さっき拾った紙だ。
それは封をしてある手紙だった。
少年にあけてもいいか聞き、封を破る。
そこには
【aldebaran】
と一言だけ書かれていた。
「アルデ…バラン?」
聞いたことのない字面に眉を寄せる。
「お前の名前か?」
振り返って少年をみると目をつぶっていた。
寝ているようだ。
ご飯を食べていないが、まぁ明日にしよう。
レオにも眠気が襲っていた。
「アルデバランか。じゃあお前の名前はアルデだな。」
白い頭を撫で、レオも目をつぶった。



Re: 無職アラサーが記憶喪失のイケメンを拾ったんだが!? ( No.2 )
日時: 2024/11/19 21:06
名前: もゆる創聖 (ID: ir9RITF3)

第三話
音が聞こえる。
何かが焼かれている音。
鼻腔を刺激する美味しそうな匂い。
ゆっくりと目を開ける。
「おっ、起きたか」
男のヒトの声。
「ほら…昨日飯食ってないだろ?食べるか?」
レオの問いに少年は頷く。
フライパンに乗った目玉焼きとベーコンを皿に移し少年に差し出す。
煙草をふかしながら、レオは言った。
「このまま名前ないのは不便だろ?昨日拾った手紙からとって『アルデ』って名前はどうだ?」
しゃがんで目を合わせる。
「…別にどうでもいい。名前とか分かんないし」
黙々と食べるアルデ。
大丈夫、相手は子供、子供だ。
レオはため息とともに煙を吐き出す。
「…お前、記憶喪失なんだろ。どこまで覚えてる?」
「どこまでって言われても…」
「そうか、じゃあこれはわかるか?」
突然、レオの右手が火に包まれた。
「わっ、」
アルデは後退った。
ふるふると首を振る。
「これを説明するには、この国のことを知ってもらわないとな」
右手を振って火を消しながら棚の奥から観光マップを取り出す。
「まず、この世界は『創造』『破壊』『調和』で成り立っている」
『創造』は文字通り物を作ること。
『破壊』は物を壊すこと。
『調和』は『創造』と『破壊』の働きを均等にする役割を担っている。
そして『創造』『破壊』『調和』を司る世界を三大帝界と呼ぶ。
ここは『創造』を司る世界『クレアティオ』。
クレアティオは天使族の住む世界である。
「おじさんは天使なの?」
アルデが聞く。
「おじ…俺まだ27なんだが。まぁ、そうだな。というかここの世界のやつは全員天使族だ」
へぇ、と頷くアルデを尻目にレオは説明を続ける。
そして、この世界の人間は生まれながら何らかの属性を持って生まれてくる。
火、水、木、金、土の5つである。
「って言われてるんだけど、本当はもう2つある。それが太陽属性と月属性だ。」
この2つの属性は希少属性であり、だいたいはこの街、デミウルゲインの騎士として保護という名目で確保されている。
「人手不足なんだよなぁ」
「おじさんは、なんでみんなが知らないことを知ってるの?」
「おじさんっていうのやめな!?俺にはレオ=グランデって名前がある。」
「…レオさんはなんで知ってるの?」
「いろいろあんだよ。大人の事情ってやつ」
ニタニタと笑うレオを睨むアルデ。
「おじさんは何の属性?」
「火属性だ。一番弱いからガス代が無料ってことしかメリットがない。後、ドライヤーもな」
アルデは自分の手のひらを見た。
「僕は何の属性かな…」
「城の近くの占いバァに聞けばわかるぜ。行くか?」
アルデは目を輝かせる。
「…行きたい」
力強く頷くアルデ。
「よし、決まりだ。服着替えて行くぞ。俺のお古でいいか?」
「えぇ…臭そう」
「おい!」

Re: 無職アラサーが記憶喪失のイケメンを拾ったんだが!? ( No.3 )
日時: 2024/11/19 21:04
名前: もゆる創聖 (ID: ir9RITF3)

第四話
占いバァのところまで馬車に乗って40分ほどかかる。
(いつぶりだ、城の近くに行くのは)
レオは苦笑する。
【あの出来事】があってからあそこには行かなかった。
あいつに向ける顔がなかったからだ。
そう思いながらレオは、少し向こうにいる馬車を引く老成に手を挙げ
「頼む」
と声をかけた。
アルデは物珍しさに目を輝かせている。
一応青いフードを深めに被らせる。
天使族ではないとなると面倒なことになるからだ。
面倒ごとに巻き込まれるのは嫌いだ。
アルデに気づかれないようにため息をついた。
馬車に乗り込むとアルデのフードを外す。
「占いバァって誰?」
「属性を見抜く能力を持ったヤツだ。皆信じてないが、実力は本物だ。」
ぼったくりが酷いが、と苦々しげにぼやくレオ。
興味があるのか無いのか分からないような顔でも、傍から見れば憂いを帯びた表情に見えるだろう。
何故こんなことになったのか、昨日の自分を殴りたくなる。
そうこうしているうちに目的の場所に着く。
ここまで運んでくれた老成に駄賃を渡し、占いバァの元へ行く。
そこには如何にも占い師という風体をした老人が寝転がっている。
「バァ、頼みがあるんだけど」
しゃがんで声を掛ける。
「レオか」
しゃがれた声。
アルデが不安そうな顔をする。
「この子の属性をみてほしい」
金貨が大量に入った袋を占いバァに渡す。
しかし
「嫌だね」
彼女はそっぽを向いた。
「僕はいいよ…」
アルデが首を振って一歩退いた。
そのとき、占いバァの目が見開いた。
「お前、名前は?」
彼女が問う。
「ア、アルデ…」
「小僧、そこに座りな」
いつの間にか現れた椅子にアルデを座らせる。
「属性を見分けるのは簡単だ」
占いバァは、懐から取り出した枯れ葉をアルデに持たせる。
すると枯れ葉が光りだし、根元から枯れ葉が青々しい葉に変わっていく。
アルデがレオ見上げると、彼はヘラヘラと笑っている。
「なるほどな。小僧、お前は水属性だ。それも治癒系統のな。」
占いバァが言う。
何のことかわからないアルデは、青い目をぱちくりさせる。
「ありがとう、バァ」
レオが頭を下げる。
占いバァは椅子を魔法で消し、再び寝転がった。
「水属性のやつは性格がいいやつが多い」
レオは歩きながら言う。
よかったな、とアルデの頭を撫でた。
「腹減ったな」
「…うん」
近くのジェラート屋による。
そのとき、女性の甲高い声が響き渡る。
凄まじい音を立て何かが走っている。
「このクソアマ!動くんじゃねぇ!」
黒い影が女性を抱えている。
男だ。
おそらく男女間のいざこざだろう。
黒い影は男の能力だろう。
「レオっ」
アルデがレオの袖を引く。
「大丈夫だアイツがが来る」
レオは恨めしげに言った。
すると、眩しいほどの光が城下町を包む。
あたりが見えるようになる。
人影が見える。
白いマントをかぶった騎士だ。
艶のある紺の髪に炯々と光る黄金の瞳。
これがアルデとデミウルゲイン聖騎士、『正義の天使王』
ノエル=ジ=ロイヤリティとの出会いであった。


Re: 無職アラサーが記憶喪失のイケメンを拾ったんだが!? ( No.4 )
日時: 2024/11/30 23:01
名前: もゆる創聖 (ID: ir9RITF3)

第五話
騎士の手袋をはめた手には先刻の男が握られていた。
「動くな」
騎士は鋭い声で暴れまわる男を制した。
真剣な顔がふと柔和になる。
「もう大丈夫ですよ。」
騎士の魔法で出した光の縄にくくりつけられた男は、あとから来た警備兵に連れられていった。
騎士の周りに人が集まる。
女性の黄色い歓声をよそにアルデは顔をしかめているレオに声を掛ける。
「知り合い?」
「ノーコメントで」
そんなやりとりをしていると騎士の双眸と目が合った。
人混みをかき分け騎士がこちらに来る。
純白のマントが翻るがえった。
サッとレオの後ろに隠れるアルデ。
「レオさん!」
アルデの手を握る騎士。
しかしレオは仏頂面で相対する。
「お久しぶりです。元気そうでよかった…」
「相っ変わらずだな。お前は」
レオは苦笑する。
「おや、その子は…」
騎士がレオの背に隠れているアルデを見る。
アルデはおずおずとレオにそこに立つ。
騎士はしゃがみ込みアルデと目線を合わせた。
「はじめまして。私、デミウルゲイン聖騎士を務めております。ノエル=ジ=ロイヤリティと申します。」
全てを見透かされているような黄金の瞳。
美しいのに恐ろしい。
「圧が強い」
レオがノエルのマントをつかんで引きはがす。
「人を観察するのが性分でして…」
「知ってるよ。お前は昔からそうだもんな」
言いながらレオは二人のイケメンを見比べる。
アルデが美少年ならば、ノエルは正統派のイケメンだ。
顔面の偏差値審査にはかなり厳しいと自負しているが、何故こうも顔をいいヤツが俺の周りに来る。
レオは梅干しを食べた時のような顔をする。
その珍妙な顔に懐かしさを感じながら、ノエルはふわりと浮かぶ。
「僕は任務があるので、行きます。またお会いしましょう。レオさん、少年!」
瞬く間に跡形もなく消え去ったノエル。
なんだったんだとアルデはノエルの飛んでいった方向を眺めた。
そんなアルデを知って知らずか
「アイツはデミウルゲイン騎士筆頭だ。要するにこの国で一番強い」
「そんなふうには見えなかったけど…」
「アイツは前に説明した太陽属性の持ち主だ。アイツが居る限り、この国は安泰だろうよ」
数歩踏み出したとき、はたとレオの歩みが止まる。
「どうしたの」
「ジェラート買ってねぇな。買うか?」
レオが聞くと同時にアルデの腹の虫が鳴る。
顔を真っ赤にするアルデの髪を撫でながら、ジェラート屋に向かう二人であった。


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