複雑・ファジー小説

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無職アラサーが記憶喪失のイケメンを拾ったんだが!?
日時: 2024/11/14 14:52
名前: もゆる創聖 (ID: ir9RITF3)

第一話

 夜も深まる頃、城下町では明かりが一つずつ消える。
しかし、炯々とひかる場所が一つあった。

「おい!酒をよこせ」
「あんちゃん、こっちもだ!」
ガラの悪い男たちが次々と酒を頼んでいく。
「はいはい」
面倒くさそうに酒を運んでいく店員の男が一人。
茶髪で短い髪をバンダナで束ね、器用にビールジョッキを6つ持ち、机に置く。
「帰れなくなるぐらいには飲まないでくださいよ」
顔を真っ先した酔っ払いたちに無駄だろうが忠告する。
が、大柄な男に肩を組まれる。
「お前も酒飲めよ。おじさんがおごるぜ」
「いえ…仕事中なので」
店員は酒臭さに顔をしかめ、緑色の眼をそらす。
酒を無理やり口に注ぎこまれそうになったとき
「レオ!もう遅いから上がっていいわよ!」
店の奥から声がかかる。
声の正体である酒場の女将は店員に向かって片目をつぶる。
レオと呼ばれた店員は
「ありがとうございます」
と頭を下げ、そそくさと店の裏方へ行く。
バンダナを解きエプロンをたたむ。
定位置に戻し、私服に着替え店内に戻る。
もう一度女将に頭を下げ、店を出ていった。
その後ろ姿を見ながら女将はつぶやく
「ほんと、元気になってよかったわ。」
「あんときゃほんとに死んじまうかと思ったぜ!」
ギャハハと笑う常連の男を一瞥し女将は
「もう店じまいよ。帰った帰った」
言いながら女将は店の出口を見つめていた。

この世界は俗にいう異世界というものである。
神、天使、精霊、神獣、エルフなど様々な生き物が住まう世界だ。
人は皆何らかの属性の能力を持っている。
火、水、木、金、土の五属性に関した魔法を使うことができる。
そしてこの場所はデミウルゲインという王国である。
そこの城下町に住む酒場の店員、レオはポケットからタバコを取り出し、口にくわえる。
すると不思議とタバコに火がついた。
レオは火属性の能力者である。
家は酒場から10分ほど歩いたボロ家である。
いつものように歩いていると視界の端で何かが動いた。
驚いてその方向を見る。
路地裏の奥、そこに何かがいる。
できれば面倒事には関わりたくない。
だが、好奇心に負け路地裏に入る。
奥へ奥へと進むと何か灰色の薄汚いものが目に入る。
近づいて恐る恐る触れると、ゴワゴワとした感覚。
髪の毛だ。
髪をかき顔を見る。
サファイアのような瞳と交わる。
「おいおい、まじかよ…」
レオは頭を抱えてしゃがみ込んだ。

Re: 無職アラサーが記憶喪失のイケメンを拾ったんだが!? ( No.6 )
日時: 2024/12/09 20:39
名前: もゆる創聖 (ID: ir9RITF3)

第七話
「1週間分の食料良し。衣服良し。後は行き先だな」
一人で何かをつぶやくレオを尻目にアルデは何のことかわからないまま荷台に乗っていた。
アルデは倉庫にヲリ麦を取りに行ったあの時、ものすごい剣幕のレオに連れられ家に帰らされていた。
レオに何があったのか聞こうにも忙しいそうで声をかけることができない。
それにしてもレオのあんな表情は見たことがなかった。
短い付き合いだが何となくレオのことが分かってきた。
女将のことも尊敬していた。
それなのに何の説明もなくレオは地図を睨んでいる。
無性に腹が立つ。
「レオ、何か言ってよ」
レオの肩を強く揺さぶる。
「わかった、わかったから揺らすのやめろ」
レオは降参したように両手を挙げた。
わかったと言いながらもアルデと目を合わせないレオに痺れを切らす。
「僕が悪いんだよね。しらばっくれても無駄だよ。兵隊さんのレオたちの会話聞こえてたから。何のことかさっぱりだけど僕が原因だってことぐらい分かるよ」
レオは渋々と言った様子で話しだした。
「お前はこの国、いやこの世界の人間じゃない。天使族は耳が長いからすぐわかった。お前は神族だとな」
神族は調和世界『コンウェニエンティア』に住むとされている。
元来、異なる世界の住人たちはお互いの世界を往来することはできない。
世界の均衡を壊す可能性があるからだ。
故に異分子は取り除かなければならない。
さらに世界同士はその世界での頂点の神や天使以外が情報を共有することが禁じられている。
アルデは創造世界クレアティオのことを知ってしまった。
コンウェニエンティアまでたどり着ければ大丈夫だろうが、この世界にいる限りアルデは命を狙われ続けることになる。
「上手く隠せたと思ったんだけどなぁ。アイツは予想外だった」
アイツとは、デミウルゲイン聖騎士であるノエルのことだ。
「お前の命を狙う命を出したのはノエルだよ。おそらくな」
アルデはレオがノエルを見て苦々しい顔をしていた理由がわかった。
「だから、俺はお前をコンウェニエンティアまで送り届ける」
「でも、それじゃレオが…」
「俺のことはいいんだ。で、問題はどこを通るかだ」
各世界は三角形の位置関係をしている。
クレアティオとコンウェニエンティアの仲は良好だが
クレアティオと破壊を司る世界『デーストルークティオ』とは仲が悪い。
「だからそこを突く」
アルデは地図をしまいながら言う。
「ただ、クレアティオ全域に王国デミウルゲインの支配が行き届いているかと言われればそうじゃない。とにかく、一刻も早くデミウルゲインを抜ける」
「じゃあ何処に行くの」
「西だ。西にあるアルカナと言う森に行く」
アルカナは神秘の森と呼ばれており、神聖なため誰も近づかない。
「いいの?そんな場所に行って」
「あそこに知り合いがいてな。そいつの力を借りる」
堅物だから上手くいくか分からないが、とつぶやく。
「…ありがとう。僕のためにここまでしてくれて」
「まぁな。子供守るのが大人の仕事だ」
消え入りそうな声で言ったアルデの頭をいつものようになでる。
この決断が世界を変えることになるとは知らずに。

Re: 無職アラサーが記憶喪失のイケメンを拾ったんだが!? ( No.7 )
日時: 2024/12/09 22:36
名前: もゆる創聖 (ID: ir9RITF3)

第二章『神秘の森』
第一話『崇高なる守り人』
デミウルゲインを抜けることにそう時間は掛からなかった。
アルデは荷台の底に隠れていたので、レオがどのようにしてデミウルゲインを抜けたのかはわからない。
荷台から降りる許可が出たのでアルデは外に身を乗り出した。
窮屈な荷台から解き放たれ、大きく息を吸う。
「フードは被っとけよ」
「わかってるよ」
しつこいレオを無視し前を見る。
どうやって荷台が動いているのか知りたかった。
「わぁっ」
「すげぇだろ」
レオがカラカラと笑う。
荷台を引いているのは炎で形作られた馬だったからだ。
聞くとレオが魔法で作ったのだそう。
「ほんとに火属性?太陽属性とかじゃなく?」
「このぐらいは朝飯前よ。っていうか、降りないのか?」
いくらデミウルゲインを抜けたからといって油断はできない。
アルデは不安だった。
その旨を伝えるとレオは頷き
「じゃあ、速度を上げよう。しっかり捕まってろよ」
レオの意思に従うように馬が音を立てて駆けていく。
そのまま一気に西へ進んだ。
昼食を食べ終えた頃、レオたちはアルカナの入り口に到着した。
「ここがアルカナ…奥が見えないよ」
「一度入ったらでられないって言われてるからな。初心者が来るところじゃない」
「こんな森の玄人にはなりたくないよ…」
「こんなってなんだ、こんなって」
まあ見てろとレオは一歩前へ進む。
大きく息を吸い込み森の奥深くにまで届くように叫ぶ。
「レオ=グランデである。先刻の借りを返したくば道を開けよ。伯爵公と面会がしたい」
すると森の木々がざわざわと音を立てた。
ゆらりゆらりと木々が移動しアーチ状になる。
道ができたのだ。
「よし、行くぞ」
レオは何事もなかったかのように手綱を引き馬を進めようとするが、アルデはそうはいかない。
「ちょっ、ちょっと。どうやったの」
「言ったろ。知り合いが居るって」
だからなんだというのか。
森を動かせる知り合いが居るのは異常だろう。
色々とツッコミたいこと諸々を飲み込む。
一言えば十帰って来るのがレオだ。
詮索を諦め、アルデはおとなしく荷台の側面をつかんだ。

大きく体が揺れ、アルデは眠りから覚醒する。
「ついたぞ」
レオが囁くように言う。
二人の眼前にそびえ立つのは、森にそぐわない石造りの大きな屋敷である。
そのとき
「レオよ。ワシの位を間違うのはお主ぐらいじゃ。いい加減覚えんか」
芯のある、力強い女性の声が響く。
「相変わらずうるさい声だな、お前は」
レオが心底面倒くさそうにボヤいた。
屋敷の扉がやかましく音を立てて開く。
「ワシの名は、『タムノフィス・サータリス・テトラテニア』公爵じゃ!伯爵と公爵の区別もつかん阿呆かお主は!」
出てきた人物は声の通り女性である。
緑色の髪に左右で色の違う瞳。
しかし、何より目を引くのは、彼女の肩に乗る二対の白蛇である。
右目は髪の色の同じであるが、左目は海の様な青だ。
その目に見つめられると惹き込まれるようだ。
「お主じゃな、噂の童は」
女性はアルデを推し量るように眺め
「よい器じゃ。我が屋敷に入るがよい。ワシのことは…そうじゃな、フィスと呼べ。其奴のようにな」
と頷いた。
其奴と呼ばれたレオとともにアルデは彼女の後をついて行った。
「童、名は」
フィスはアルデに聞く。
レオと同じ背丈の彼女の足はスラリと長く、それでいて歩くときに音を立てない。
「アルデバランです。あっ、でもこの名前は本名ではなくて…」
「なるほどな。レオ、お主も死にかけの蜘蛛を助ける慈悲はあるかよ」
言われたレオは大きく舌打ちする。
「あの…レオとフィスさんはどのようなご関係で…」
「ワシとレオか、腐れ縁よ。此奴も随分と丸くなったものだ」
フィスは蛇遣いの天使であり、500年生きているのだという。
そのため、何度か国の危機を救い、デミウルゲイン王国から公爵の地位を賜って居るのだという。
その強さを買われアルカナの守り人を務めている。
「さぁ童よ。このワシの崇高なる栄誉を称えるがよい。強さとは地位、地位とは栄誉じゃ。それをこの木偶の坊は何度も間違えておる。救えんやつじゃ」
ゴミをみるような目でレオを一瞥するフィスに苦笑いで返す。
「心配せずとも、ここに王国の兵たちは入って来れぬ。ワシは強いからのう」
しかし、守り人はフィスを含め四人いるそうで、残りの三人はどちらにつくかわからないのである。
顔を曇らせたアルデに
「安心せい。守り人の中ではワシが一番強い。ほれ、ここが童の部屋じゃ。レオは隣じゃ、それとも屋根裏が良いかのう」
「寒いわ、つーか風呂入りたんだけど」
「それが泊めてもらう人に対する態度か、追い出すぞ」
もっともなフィスにアルデが頷くと
「風呂は突き当たり右じゃ、アルデから入れ。ヘビ郎についてゆけ。レオはワシを手伝え」
フィスの肩から蛇の片割れがスルスルと降り立ちアルデを案内する。
「ありがとうございます」
アルデは汚れと疲れを洗い流すため、風呂場へと向かったのだった。

「あんまアルデにちょっかい出さないでもらえるか」
どすの利いた声を出すレオにフィスは
「良いであろう、減るものでも無かろうが。命を狙われておるのだろう。あの弱さではどうにもならん。鍛えねばならんな」
と返す。
「そのためにここへ来た。」
「お主は出来が良いくせして誰かに教えるのは下手くそだからな」
「それにアイツは水属性だ。だからお前が適任だと判断した」
するとフィスは嬉しそうに笑った。
「それは教え甲斐があるのう。それにお主も感じたであろう。童の凄まじい魔力を。あれはワシらとじは比べ物にならん」
「あれはコンフェニエンティアの神だ」
「それもただの神族ではない。…お主、守りぬけるかか」
ただの神族ではない。
その言葉の意味を理解したレオの顔から血の気が引く。
「同じ過ちは許されんぞ」
フィスの力強い瞳がレオを穿つ。
「…お前にまで心配される筋合いはない。必ず守り抜く」
レオも力強くはっきりと返した
「そう息巻くのは構わんが」
フィスの歩みが止まる。
フィスはは前を向いたまま言った。
「過去は消えんぞ」
オッドアイの目がギラリと歪む。
レオはこの目が苦手だった。
「だから償わねばならない」
震える体を抑え、そう言い切った。
思い出したくもないあの地獄の一日。
繰り返さないためにできることはただ一つだ。
「からかってすまんな。わかっておるなら良いのだ。ワシからすればお主も童じゃ、そう気に病むな。さてと、今宵はこの崇高なるワシが、手ずから料理を振る舞ってやろうではないか」
「そのために呼んだのかよ」
「当たり前じゃ」
会話が遠のいていく。
やがて二人は廊下の奥に消えていった。

〈おまけ〉
アルデ「いいお湯だなぁ。全身がほぐれてゆく感じがするよ」
ヘビ郎「この湯は肉体的、精神的疲労を完全に回復する効果があります。それに加えこの風呂に入ったものは体が3センチ浮くという魔法がかけられております。これはフィス様100年かけてが作り出した魔法です」
アルデ「うんうんそうだねぇ…えぇっ!?君話せるの!?っていうか声渋っ!魔法の効果しょうもなっ!駄目だツッコミどころが多すぎる…」
むしろ疲労が増えたアルデであった。 つづく…?




Re: 無職アラサーが記憶喪失のイケメンを拾ったんだが!? ( No.8 )
日時: 2024/12/22 22:10
名前: もゆる創聖 (ID: ir9RITF3)

第二話『修行と水属性』
木々の間に紫色の空が見える。
明け方、アルデは荒い息で足を動かしていた。
ロクに走ったことのない体で、朝から10キロを走らされてから1週間が経とうとしていた。
喉や腹の奥が痛い。
足に力が入らない。
やっとのことでフィスの館にたどり着いた。
「よくやった。1時間を切ったぞ」
フィスが拍手をしながらアルデを見下ろす。
気持ち悪さと頭痛で倒れこんでいるアルデにレオは水を渡す。
消え入るような声でお礼を言いアルデは水を飲み干す。
「なんでそんなに早いの…」
レオは10分と経たずに走りきっている。
それに以前はもっと速かったとのたまう始末だ。
もはや化け物である。
「飯、食えるか?」
「…食べる」
ふらふらと立ち上がり、食卓に着いた。
目の前には食パン1枚とサラダ、牛乳、モリミカンが並ぶ。
レオは食パンがもう1枚とオムレツが付いている。
フィスは山羊のケバブに齧り付いている。
…よくもまあ朝からこんなに食べれるものだ。
呆れながらアルデは牛乳を飲む。
フィスが口周りについた香辛料を拭き取りながら言う。
「今日から水属性の魔法の練習をするかな」
思わずアルデは咳き込んだ。
走るだけでも地獄なのに、魔法を使うとでもなるとどうなることやら。
青ざめたアルデにフィスは
「さっさと食え」
と言い去っていった。
何故朝から走らされるような目に遭っているのかというとフィスの提案からであった。
〈よいか。お主は弱い。はっきり言って雑魚だ。お前が命を狙われておるというのに、このままではレオの足手まといじゃのう〉
〈どうすれば良いのですか〉
この様な流れでフィスに修行を付けて貰うことになったのだ。
アルデはご飯を食べ終わった後、森の切り株に座らされた。
「お主が水属性であることはレオから聞いた。そして、ワシも水属性じゃ」
水属性は5大属性の中で火属性の次に強い。
つまり2番目に弱いのだ。
水を操る他には、氷を操る者もいる。
創造を操る能力者が多い属性である。
故に創造世界クレアティオにおいて最も多い属性が水属性である。
食べ物や武器を生成する者は商人になったりする。
水属性の中でも高等魔法と言われているのは治癒魔法である。
治癒魔法は努力ではどうにもできず才能がある者でないと使えないのだ。
「故に、今からお主の才能をみる」
フィスが空に右手を伸ばす。
人差し指に蝶が舞い降りた。
その蝶を左手で掴み右手で羽を引きちぎった。
「…っ!」
アルデが後ずさる。
緑色の体液がしとしととフィスの指から滴り落ちる。
「さあ、治せ」
アルデの手のひらに蝶を落とした。
治すとはどうすればいいのか。
魔法の使い方などわからない。
アルデの呼吸が荒くなる。
魔法、魔法、魔法…
レオはどうやって魔法を使っていた?
初めて魔法をを見たのは、レオが髪の毛を乾かしてくれたときだ。
あの時のレオの手のひらは温かかった。
レオのようにアルデは手のひらに力を込める。
体の芯が熱い。
その熱さが手のひらへ移動していく感覚が分かる。
手のひらが淡く光る。
蝶が藍色の光に包まれる。
光が消えたとき、蝶の羽は回復し、アルデの手のひらから飛んでいった。
「よくやった、童」
フィスが先刻の蝶を魔法で手繰り寄せ、肩に乗せた。
「…っ、何考えてるんですか!」
アルデがフィスの胸ぐらを掴む。
「僕が蝶を治せなかったらどうするつもりだったのですか!」
フィスは鼻で笑い、肩に乗せていた蝶を右手に移し、アルデの眼前に持ってくる。
すると、どろりと蝶が溶け、ただの透明な液体、水と化した。
声も無く驚くアルデを見て、フィスは笑みを深くする。
「この蝶はワシが生成したものじゃ」
「はい!?」
「フィスは水属性の魔法を極めたから、守り人に選ばれている。そりゃこのくらいのことはできる」
なぜか上裸でびしょぬれなレオが、体を拭きながら言う。
そういえばいつの間にかいなくなっていたレオ。
「何処に行っていたの?」
「もう一人の守り人のところだ」
レオあっけらかんと言う。
「アイツは守り人の中じゃ比較的取っ付きやすいからな。俺もお前に負けないようにって稽古をつけて貰いに行ってたのさ」
ニヒルに笑うレオを見て改めて思う。
レオに迷惑をかけないために、足手まといにならないように。
強くならなければ。
「レオ、この童、治癒魔法の才があったぞ」
アルデの後ろで嬉しそうなフィスの声が響く。
「そりゃよかったよ」
レオの嬉しそうな顔を見て、アルデも嬉しくなった。
しかしアルデにはまだやることがある。
体力をつけるための走り込みだ。
治癒魔法を実際に使うには今のままでは駄目だ。
「フィスさん。走ってきます」
「おう!気をつけてな」
手を振るフィスを背にアルデは駆け出した。

約2時間前、アルデよりも早く朝食を食べ終えたレオは、とある場所へ向かった。
森の南側に近づくにつれて辺りの気温が上がっていく。
周りの木々は熱さで枯れている。
レオは足に熱を発生させ走る速度を上げた。
本来ならば熱湯に浸かっているような熱さを、レオは自らの火で中和していく。
そのとき、空から矢を形どった炎が降りかかる。
体を反らしすれすれで攻撃を躱す。
「随分な挨拶じゃねぇか。師匠」
レオが森の奥を睨みつける。
炎に包まれた森の奥に薄暗い人影。
「随分と腕が鈍ったではありませんか、レオ」
人影が右手を振ると炎がみるみると鎮火していく。
相変わらずの魔法の腕にレオは舌を巻くのであった。




Re: 無職アラサーが記憶喪失のイケメンを拾ったんだが!? ( No.9 )
日時: 2024/12/29 22:53
名前: もゆる創聖 (ID: ir9RITF3)

第三話『南の守り人』
レオの若かりし頃、彼は同世代の子らと鑑みても、恵まれていた。
そして才能に頼りすぎ、精神的に未熟であった。
その妙に青い精神を補える程の魔法を操る技術。
天に選ばれたのは幸か不幸か。
客観的に見ても、彼は崇拝の対象であり妬みの対象でもあった。
それを平然とした様でのらりくらりと躱す彼は、皆からどう見えていたのだろうか。
気取って、過信して、図に乗っても誰も文句の垂れようがないほどの結果。
誰も止めてくれなかったと、全て自分が悪いというのに八つ当たりをした日々。
その最たる被害者である自らの師匠に会いにいくというのは気が進まなかった。
どのような顔をして会いに行くべきか。
アルデを拾ったのは償いのようなものだった。
自分を見つめる目がどうしようもなくアイツに似ていたから。
己の大切な物を守るには力がいる。
俺は、弱い。
だからこそどんな面を下げてでも、強くならなければならない。
影は徐々に人の形を成す。
女である。
「ワタクシに何を求めているのは理解しています。貴方はとことん奇怪な運命に巻き込まれやすいですね」
美しい黒の刺繍が彩られた深紅のドレス。
細い、白い指にはドレスと瓜二つの扇が添えられている。
扇が淡い桃色の唇に当たる。
レオは黙って地面に膝をつき這いつくばる。
「今の俺じゃ、あのときの二の舞だ。俺に、知恵を授けてくれ、頼む、フラム」
言葉の末尾が震える。
「ワタクシに頭を下げれるほどに成長したことは、褒めましょう」
アメジストの双眸はとろりと溶ける。
「わかりました。ワタクシに出来ることがあれば何でも」
フラム=カリエンテ。
4人の守り人の一角であり、性癖に難あれどそれに目を瞑れば最も常識人である。
天使と朱雀のハーフであり火属性の最高峰と言われている。
その繊細でありながら火属性らしい芯のある魔法に、惚れ込む者は多い。
ワインレッドの髪の艶めかしさ、人々を惹きつける紫色の瞳が生み出す芳醇な色香。
その様な本人の美貌もそれを加速させている。
レオ少年もそれにあてられた一人である。
だが、超のつくサディストであり目をつけられると少々面倒なことになる。
「そうですね、確か、守りたい対象に攻撃が当たる前に、相手方を殺める初動の速さが貴方の強みでしたね」
フラムの問いにレオは顎を引く。
「では、それに見合う火力を。火属性らしく行きましょ
う、と言いたいところなのですが…」
言い淀むフラムにレオは首を捻る。
いつもははっきりというクチの癖に、珍しい。
「デミウルゲインがとある囚人を解放した、と言うのは聞き及んでいますか?」
「とある囚人?知らねぇな」
「名はリリス=サルマーニュ。デミウルゲイン郊外の無差別殺人事件の犯人です」
「何でそんな凶悪犯が…まさか、」
「ええ、そのまさかですよ。狙いは貴方たち二人の始末」
「随分と舐められてんな。ぽっと出の囚人を送りつけるなんて」
レオは眉根を寄せる。
「いえ、耳にした噂ですが相当な強さであったと」
「それをアルデを守りながら退治しろってか」
「折角の復帰戦です。ほどよい強さの敵が丁度良いでしょう」
ハッと鼻で笑うレオ。
「オーケーだ。で今そいつは何処にいる?」
「森の東の方かと」
東、と聞いたレオは途端苦虫を噛み潰したような顔をする。
東の守り人とレオはとことん相性が悪いのだ。
「今は一旦帰る」
レオは背を向けた。
ええ、お気をつけてとフラムは頭を下げた。

〈おまけ〉
レオ「あー、あちぃ。服脱ぐか」
レオ「つーか近くに水ねーかな。お、あるじゃん」
水をかけるレオ
レオ「あ゙ぁ゙〜生き返る。あっやっべぇ服濡らしちまった」
レオ「魔法使うのは面倒だな。まっいっか」

これがレオが濡れていた理由である。拭け
                    つづく…

Re: 無職アラサーが記憶喪失のイケメンを拾ったんだが!? ( No.10 )
日時: 2025/01/05 22:02
名前: もゆる創聖 (ID: ir9RITF3)

第四話『急襲』
魔法を扱う戦闘をする上で最も大切なことは序列と相性を鑑みることだ。
序列は五大属性の火水木金土の順の強さのこと。
それとは別に相性というものがある。
例えば、火属性と金属性では序列では金属性の方が強いが、火そのものは金を溶かす。
しかし、水属性が相手では序列では水属性が高い上に、水は火を消す効力がある。
故に火属性にとって水属性は最も相性が悪いのだ。
このように序列と相性が複雑に絡まっているため戦闘時は、頭を働かさねばいけない。
そこまで考え、レオは東に向きかけた足を戻した。

少し前、レオはフラムと別れフィスの屋敷に戻った。
彼女にアルデが治癒魔法の素質があると言われ、今後の方針が決まった。
「とりあえずお前は自己治癒魔法磨け」
口を尖らすアルデを諭す。
「ヒーラーが使えなくなったらどうする。ついでに俺の負担も減る。一石二鳥だろうが」
「でも…」
ゴニョゴニョと文句を垂れるアルデを一瞥し、フィスに向かって言った。
「アルデを頼む。あいつのところへ連れて行ってくれ」
フィスもアルデと同じ様な顔をし
「それはお主が行きたくないだけだろうが」
「俺は別件がある」
チッと舌打ちしフィスは指を鳴らした。
するとアルデの肩に乗っかっていた白蛇が大きくなった。
「征くぞ童」
「えっ、何処に…」
「残念ながらワシは治癒魔法のことはわからん。というか教えるのは懲り懲りじゃ」
元凶を睨みつけながら乗れと白蛇を指差す。
アルデは素直に従った。
「では行ってくる無茶をするでないぞ」
レオにそう呼びかけフィスたちは森の奥へと消えていったのが、約数分前。

森の西へ向かうレオ。
西の守り人、アデュレリア=ホワイトオニキス似合うためだ。
神獣の血を引く天使族で気性は荒いが、芯が強い漢という印象だ。
何せ東の守り人であるシルヴァ=ウィリデスとはとことん相性が悪いためにアデュレリアに頼むしかないのだ。
目的は殺人犯の情報を得るため。
左右を警戒しながら森を突き進む。
更に深く進むと、鼻につくような匂いがした。
久しぶりに嗅いだ神経を詐害させるような匂いの正体に気づいたレオは、足を速めた。
(血の匂いじゃねぇか)
顔を顰めつつ走って行くと岩の上に何かが見えた。
「おい…」
レオは目を見開く。
血溜まりに沈んでいたのはアデュレリアその人だったからである。
白い髪は真っ赤に染まり、金色の瞳には光が宿っていない。
びくりと彼の体が動く。
来るなと切れ切れに言う。
しかし、見捨てるわけにはいかない。
レオは一歩踏み出した。
「に、げろ…」
アデュレリアは引きつった声を出した。
背後に殺気。
レオは必死に半身を捻る。
背中が熱い。
交わしきれなかった。
「あれぇ、避けたかぁ」
ボロ雑巾の様な体躯からは想像もつかない早業に、冷や汗を流すレオ。
日和ってはいないが、相手の実力を測れないほど墜ちたわけではない。
「お前が…」
レオは睨みつける。
真っ黒な髪に同じ色の布を纏っている。
手には血塗れのナイフを握りしめていた。
目だけが異様に赤い。
無差別快楽殺人犯リリス=サルマーニュ。
彼女は首を傾けて言った。
「お前だねぇ、レオ=グランデってやつは。偉い人がねぇ、お前とツレのガキを殺せばねぇ、俺を解放してくれるって言ったんだぁ」
レオはアデュレリアを背に隠し、火のカーテンで覆う。
「あまり動かないでくれ」
レオは後ろに声をかける。
「ボクも欲求を満たせてぇ、アハッ、サイコーだよねぇ」
レオは黙ったままだ。
リリスは白い指を差した。
「ソコに倒れているやつは強かったよぉ。でもボクはねぇ、負けそうになるほど強くなるんだぁ」
「うっせーなさっきから。下手にでてりゃ、シャバの空気を吸えたのがよっぽど嬉しいらしいな。もう少し吸いたいだろうと待ってやったのに。もういいか?」
「えぇえ?」
「死体になる覚悟はできたかって聞いてんだよ!」
先手必勝。
一気にレオは距離を詰める。
手のひらから火が噴き出した。
しかしリリスはヒラヒラと蝶のように躱す。
「いいねぇ、お前は」
恍惚の表情を浮かべるリリスをよそに、レオは頭を回す。
アデュレリアがいるこの場所では、レオの魔法を全力で扱うことはできない。
どう逃げる、どう撒く。
レオは苛立ちとともにリリスへ刺すような目を向けた。


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