複雑・ファジー小説

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ゴミ箱に捨てられた花束
日時: 2025/03/26 16:27
名前: 糸果 (ID: 7KmVXXOI)

ゴミ箱に捨てられた花束

一人目 浮世由紀
浮世由紀は、都内で働くキャリーウーマンだった。職場から少し離れた一人暮らしのアパート。収入は安定していたが、特に贅沢できるわけでもない、だが今の生活も充実していると感じていた。
「たまには会わない?」
友人から来た久々のメッセージ。友人はフリーイラストレーターをやっており、昨年末に作品がヒットしたことをきっかけに、「売れないイラストレーター」から、「有名イラストレーター」へとのし上がった実力者だ。
彼女と会うときはいつも決まっておしゃれなカフェにランダムでふらふらと立ち寄り、何時間か過ごして帰宅、、、という面白味の少ないデートプランのような過ごし方をする。
だが今日は二人でいざ注文、、というときに友人のスマホがいきなりなった。彼女が悪魔の着信音と呼んでいるそれはまさしくスタッフ兼編集者からのものだった。友人はものすごい勢いで謝りながらも、爆速で編集者のもとへと走っていったので、注文のドリンクは急遽テイクアウトとなり、後で連絡をするといわれ、私はそのままアクセサリーを見るため、とりあえず駅に向かった。ドリンクの空きカップをごみ箱に捨てようとしたとき、、
目を疑った。捨ててあったのは、花束だった。
「生ごみ」と表記されたアルミ製の口の小さなゴミ箱には、大層立派な花束が見える形で捨ててあった。花束の色とりどりの花が飛び出していた、と表記するのが正しいのか、とにかく何かドラマ性を感じてしまう光景だったのだ。
周りを通り過ぎる人々はそれを見るたびに驚いた表情になり、ざわついたり、立ち止まったり、写真を撮ったりしていた。
なぜかびしょびしょに濡れたその花は、おそらく先程まで降っていた雨のせいだろうか。浮世はとりあえず非常識な行為とはわかりつつも写真をその場で撮り、電車に乗った。
電車に乗っている間も、アクセサリーを拝見している時も、あの光景がなぜか異様に目から離れず、捨てられるまでの背景を考えてしまっていた。

浮世由紀の空想
花とは大学のサークルで出会った。最初はただの元気が良い女性と思って見ていたが、色々な場面に直面するときに見せる、真剣な顔や緊張した顔、おおきく笑うときの顔、悲しいことがあって、泣いてしまうときの顔、、まるで色とりどりの花のように見える彼女にいつしか恋愛的な感情を持っていた。
「私、自分の名前にもあるけど、お花が大好きなの。昔おばあちゃんが卒業祝いで花束をくれたことがあって、もうすっかり前に枯れてしまったけれど、その美しさと温かさがいまだに頭から離れないのよね。」
大学卒業と同時に、自分は花に告白することを決意していた。家が近く、よく一緒に帰るとき、帰り道にある花屋に立ち止まっては、決まって彼女は目を輝かせながらその花の花言葉などを嬉々と教えてくれたものだ。
大学の卒業式後、一足先に花屋へ向かい、花が好きだと言っていた花を花束にしてもらった。下校道、花が帰ってくるところに、この花をもって告白をしよう、、体が飛び跳ねてしまいそうなほど緊張していた。だが、なかなか経っても花は来なかった。
何かあったのかと思い、下校道を引き返すと、そこには花と、、由利の姿があった。
由利とは、同じサークルの男友達だ。自分の恋心を正直に打ち明けたのは彼だけだった。それほどに信用していた。
「あ!」
花は私の姿を見つけ、大きな声で呼ぶ。
「由利と付き合ったんだよ、」
それは私の心に重くのしかかり、今にも心臓をつぶしてしまいそうなほどのものだった。
由利が告白して素直にOKをだした花。
もちろん、花は自分のものではない。失敗する可能性も十分見据えていた。
だけど、、、これは、違う。
情けなさでその場を走って離れた。怒りより寂しさと喪失感が勝っていた。
どこか遠くに行ってしまいたい。その足でそのまま、なぜか駅へと走った。
途中で雨が降ってきてしまった。涙を代弁してくれているようだった。
駅に着いたびしょびしょの自分は、人から見たら異様に見えるだろう。だがもうどうでもよかった。
ふと目についたゴミ箱に、花束を乱暴に投げ捨てた。
びしょびしょな花束は自分に似ていた。


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