複雑・ファジー小説

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ゴミ箱に捨てられた花束 2
日時: 2025/03/27 16:19
名前: 糸果 (ID: 7KmVXXOI)

ゴミ箱に捨てられた花束

二人目 曽根勝実
友人とのカフェタイム中にいきなり編集者から電話がかかってきて、イラストのサイズがどうとか、文句を言われ、挙句の果てには「今すぐ来い!!」と怒鳴られた曽根勝実は、非常に憤慨していた。フリーのイラストレーターだった彼女は友人からも応援してもらい、昨年末には本の挿絵として出したイラストが大ヒットして、有名イラストレーターとして名が出るほどになっていた。だが彼女はそれを奇跡としか思っていなかった。
休日に遊ぶ友人とのカフェの一服は楽しいものだった。だからこそ、それをぶち壊された気分とはなかった。
結局編集者の元へ行ってやらされたことはイラストのサイズ調節と、それを確認しなかったお説教だった。昔から少しふわふわした性格だった曽根は、よくしっかり者の母親に叱られることが多々あったが、近頃は編集者を母親に重ねてしまうほどだった。
最近は新しい仕事を任せられている。塾のテキストの表紙の絵だ。その塾は昔地元の近くにあり、実際に自分も通っていたため、なんだか愛着が湧いて一生懸命取り組むつもりだった。国語、数学、社会、、、と順調に書き進めていたが、印刷したときにサイズが違ったことをこっぴどく叱られてしまったのが説教の原因だった。
「まだテスト用だからいいのに、、、、」
これが曽根の本心ではあった。
すっかりくたびれて編集社から家に帰るため、駅へ着き、ホームに向かう途中、彼女は驚くべきものを見た。ゴミ箱に花束が丸々捨ててあったのだ。驚いていたところで、電車の到着を知らせる音が鳴ったのに気づき、曽根はホームへと走った。
電車に揺られている途中、あの花束に染み付いたドラマとその背景について、深く考えていた。そして思いついた、その美しい空想を、曽根は一枚のイラストに収めた。

曽根勝実の空想
仁の彼女、すみれは、付き合って一年がたったところで、持病の進行が発覚し、すぐに寝たきりの生活になった。仕事に忙しい仁は仕事の合間を縫って休日にすみれの病室へといつも顔を見せに行っていた。最初の三か月間はまだ会話ができる、意識もはっきりした状態だったが、そこから病状は悪化し、今は話すらできない、植物人間のような状態になってしまっていた。仁は心がおれそうだったが、そんな時思い出すのは彼女の笑顔だった。豪快でない、凛とした笑顔は、まさにゆれる菫そのものだった。
すみれが入院して一年がたったところで、寝たきりで起きない彼女と、付き合って二年目を祝うために、病室へと顔を見せた。
「すみれ、付き合って二年目だよ、、早く、、、目を覚ましてね、、、」
話している時も、涙をこらえることはできなかった。
二年目のお祝いは、まるで自分一人で祝ったかのような、寂しいものだった。
それから一か月がたって、すみれは息を引き取った。
静かに、静かに。
ちょうど病室の花を入れ替えている時だった。
すみれの家族はすぐに駆け付け、互いに大粒の涙を流しあっていた。
仁は一度家に帰るように言われたので、駅へ向かった。
何も考えられないまま。頭の中には何もなかった。
本当の悲しみに直面した時、人は何かを考える事さえできないことを、その時はじめてわかった。
ふと、手元を見る。
交換しようとしていた花束を握ったままだった。ところどころにある紫の花はアクセントの菫。
毎回この花を入れる事だけは忘れなかった。
途端、すみれの笑顔と、数々の思い出を思い出し、その場で号泣してしまった。
周りの視線は痛かったが、もはや止めることはできなかった。
駅がホームについたとき、もうこんな花はいらない、そう思い、花束の菫の部分だけ抜き取り、ポッケに大事に入れてから、残りの花の花束を、ホームのゴミ箱に投げ捨てた。


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