複雑・ファジー小説

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MELDI ep.1 "magical girl"
日時: 2025/07/25 15:05
名前: 高くて低い (ID: Wvf/fBqz)
参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=14162

魔法少女。
魔法を使って、敵と戦う少女のこと。
そんなの、空想上の存在だと思ってた。

ちょっと前までは、ね。


「はーっ!今日も面白い!やっぱ李由りゆってば天才じゃないの?!」
静かな教室に、大きな声が響く。
声の主はうるさいで有名な私の親友、宮莉みやりだ。
「もう…褒めすぎだよ宮莉。恥ずかしくなっちゃう…」
私が顔を赤くして頭をかくと、宮莉は私が書いた小説を返しながら言った。
「もうマジ天才。私が見たどこぞの有名著者より上手いと思う!100年に一度のレベルの文才だよ。これは。」
「そこまでかな?」
「そこまでだよ!流石優等生!」
「あはは…」
私達がそう言ってると、教室の扉を引いて先生がやってきた。
「李由さん。少し良いですか?」
「はい。大丈夫です。じゃ、宮莉、またね。」
私は宮莉からノートをもらって引き出しにしまうと、宮莉に手を振り、教室を後にした。
2
「李由さん、今回の国語の時間で提出された作文ですが…文章の構成や内容、諸々含めて完璧です!良ければ、今回もコンクールに参加しませんか?」
「あはは、私なんかの文で良いなら…」
「なんか、ではないですよ。貴方はこの学校でも中々見ない優等生ですからね。」
「そんな先生、言い過ぎですよ…」
ありきたりな、テンプレート通りの会話。
こんな会話も、何回繰り返したかわからない。
「ふふ、それなら今回も出しちゃいましょうかね。」
「ええ。その方が良いですよ。ところで、前のコンテストの順位なのですが…」

「うん、バイバイ!また明日!」
「バイバーイ!またねー!」
宮莉と別れの挨拶を交わし、私たちはそれぞれ離れた。
帰路につきながら、考える。
今回のコンテストも結果は上々だった。
だが、一番かと言うとそうでもない。
一番…それは、最優秀賞。
今回も特別賞だったが、最優秀賞ではない、ということは、私の作文達の良さが相手に伝わらない、と言うことなのだ。
だとしたら、もっとありきたりな良さに寄せなければ。そのためにも、今回の最優秀賞や優秀賞を受賞した作文を調べなければならない。
もっと、認められるために…
「ありきたりな良さ、ねぇ…」

「お母さん、ただいま。」
「おかえり、李由。学校はどうだった?」
母の問いに私は笑顔で答える。
「とっても、楽しかったよ。」
「そう、それは良かったわね。そういえば、前の作文コンテストの結果、どうだった?」
「そう言いながら、もう公設サイトで結果見たでしょ?」
「それでも娘の口から聞きたいものよ。ねぇ、教えて頂戴。」
「ふふ…今回はまた特別賞だったよ。」
「そう…じゃあ、また最優秀賞は逃したのね。」
…また、って言ってる。きっと、
「…うん。ごめん。」
「いいえ、謝ることじゃないのよ。特別な人しか貴方の作文の良さを認められない、ってことだからね。それはそれで誇らしいわ。」
「でも、やっぱり最優秀賞が必要なんだよね。それがないと…」
「また次から頑張れば良いのよ、無理なんてしないで、でも頑張ってね。学者になる為に。」
「…うん!」
私は母と短いやりとりを交わした後、自室に戻った。
自室に入り、扉を閉めてから、私は学習机のイスに座った。
学習机の上にあるパソコンを立ち上げる。
パスワードを入力すると、アプリの一覧が表示された。
私は"メモ"にカーソルを合わせ、マウスをダブルクリックした。
そこには、私が今まで考えて書いた物語の一覧が現れていた。
私は、"新規メモの追加"を押し、次々とタイピングをして物語を作った。
私は、学者になりたいわけじゃない。本当は、小説家になりたい。
でも、学者にならなければいけない。
そうじゃないと…
「お父さんみたいに、なれないから。」
いつか帰ってくるお父さんに胸を張る為に、
お母さんが暗い顔をすることが無くなる様に、
私は、学者にならなければならないのだ。

夕食と課題を終わらせて、私は今、ベットの中にいた。
眠くは無い。しかしこうしていないとなんだか落ち着かないのだ。
意味もなく窓の外を見つめていると、突然キラリと何かが光った。
「…えっ?」
私は目を疑い、窓を開けた。
私の部屋にはベランダたるものが無い。しかし窓の外には少しのテーブルらしきところと転落防止の柵がある。
そのテーブルの上にある果肉植物の鉢植えの横に…鳥がいる。
「え、ええ…何…え?何…?」
私は混乱して言葉が出なかった。
その鳥は白と茶色の毛に覆われたもこもこな鳥だが…お腹のスペードの模様といい、尻尾といい、やけに人間らしい目つきといい、とても鳥とは思えない。
「何って、何が?」
「あ、と、鳥が喋って…!?」
「そこらの鳥と一緒にするな。俺は鳥の中でも選ばれし鳥なのだからな」
「…??」
首を傾げている私に、その鳥もどきはもふもふな右翼を差し出した。
「…えっと?」
「掴まれってことだよ。ほら、とっとと握れ。」
ああそうか、人として表すなら今この鳥もどきは手を差し出していることになるのか。
私は少々躊躇いつつもその手を握った。
すると…
「…わっ!?」
「暴れるなよ、あと叫ぶな。」
可愛い見た目に反した静かな声を最後に、私は謎の光に包まれた。

誰かに呼ばれた様な感覚がして、ゆっくり目を開けた。
目を開けると…そこには何もなかった。
白、白、見渡す限りの白。
壁や床の区別もつかない世界に私は戸惑いながら、握っている手の先にいる筈の鳥を見つめた。
…違う、鳥じゃない。
「…えっ!?」
「流石にビビりすぎだろ。俺でもそこまで怯えないぞ。」
私が手を握っていた鳥は、いつのまにか若々しい青髪の青年に変化していた。
「だ、誰っ!?」
「ああ、そう警戒するな。さっきの鳥だ。まあ落ち着け。とりあえずはそこから一歩も動くな。」
「え…なんで?」
「いいか、今から説明するからよーく聞け。」
「…分かった。」
私が渋々頷くと、青年は私を指さして言った。
「お前は魔法少女に選ばれた。」
「…はぁ?」
その一言に、は?以外の言葉が思いつかない。
「魔法少女って…テレビとかで見る、プリキュアみたいな?」
「少し違うが、大筋は合ってる。」
「私…あんなフリフリの服着て戦うの?」
「まあ…そうだな。でもな、別に断ってもらっても良いんだ。」
「と言うと?」
「魔法少女になるのは強制じゃない。それにお前らが戦うのはプリキュアで見る的の幾万倍も恐ろしい敵達ださらな。」
「…どんな敵なんです?」
「それに関してはやってみろとしか言えない。見たらわかる。」
「ええ…」
「魔法少女は基本的に11歳から18歳までが契約期間だ。お前で考えると、今年含め3年は働いてもらう。お前が望めば仕事は変わるが、契約期間を延ばせる。」
「3年…」
「だが途中で辞めることは許されない。魔法少女になるからには契約期間きっかり働いてもらう。以上だ。質問は?」
「…えっと、じゃあ…敵とかに負けたらどうなるんですか?」
青年はニマァと君の悪い笑みを浮かべ、言った。
「よく聞いてくれたな。教えてやろう。敵に負けたら、お前は結果的に廃人になる。」
「死にはしないんですか?」
「ああ。だが任務で戦わなければならない敵は必ずその場でどうにかしなければならない。つまり自分の精神を捧げてでもそいつを倒さなければならないんだ。」
「精神?」
「ああ。お前が傷ついたり病んでる状態で敵に負けたらお前はもっと嫌な思いを背負うことになる。そこから精神状態を戻せたらまた戦えるが、少なくとも精神状態を戻せたやつは200年間続いてる俺らの業界でも指折り数えて少ないな。」
「…つまり、ほぼ敗北イコール死、ということですね。」
「そういうことだ。で、どうだ?魔法少女、なってみるか?」
「…最後に一つだけいいですか?」
「なんだ?」
「なぜ、私が魔法少女なんですか?なぜ、他の学生じゃなくて私なんですか?」
「それは答えられん。契約したら教えてやる。」
「敵の事とかは…」
「それも答えられないなぁ。」
「…」
魔法少女。
私は小さい頃、魔法少女に憧れていた。
違う。誰かを救うことに憧れていた。
私が魔法少女になることで、誰かを救えるなら…
そう考えると、とてもワクワクしたし、誇らしかった。
その夢が、今叶えられそうなのだ。
でも、正直魔法少女になることが怖くもある。
私は魔法少女になるべきなのか、他の事はどうすればいいのか。
「深く考える必要は無いさ。お前が思ってるより、お前の周りに魔法少女がたくさんいる。廃人になる心配なんて無いさ。」
「…返事はここで言わなきゃダメなんですか?」
「ああ。ここで決めろ。」
…深く考える必要は、無い。
きっと今からお母さんの言うことに従ったままだったら…人を直接的には、救えない。
私は人を救いたい。
言葉で、音楽で、戦闘で、頭脳で。
それで幸せそうな顔をして、私にありがとうと言ってくれる人を見れるなら、それでいい。
なら、魔法少女になっても…悪くは無いだろう。
心の中で言い訳ともとれる言葉を並べながら、私は青年に言った。
「…なります。」
青年は君の悪い笑顔から無表情に戻り、「それでいいんだよ」、と言った。
それは私に言うと言うよりかは、自分に言い聞かせている様だった。
「それじゃあ、自分のことを考えろ。」
「自分のこと?」
「親についての思い、友達についての思い、自分についての思い、将来についての思い、期待についての思い…その全てを踏まえて、足をこちら側に踏み出せ。」
青年はそう言うと、一歩後ろに下がり、また手を差し出した。
親について、友達について、自分について、将来について…
私は頭の中で複雑に絡まり合う糸の様な"それ"を思いながら、一歩を踏み出し、青年の手を掴んだ。
すると、私の足から光が溢れ出し、この世界を包んだ。
「目を閉じろ」
私は言われた通りにゆっくりと目を瞑った。
「…契約完了だ。よし、目を開けていいぞ。」
青年の声を聞き、私は目を開けた。
すると…
「…あ…」
本、だった。
ベージュの淡い色の世界の様々なところに、本が浮いている。
薄い本もあれば、厚い本もある。
しかし、私の踏んでいるところにある本とは違い、どの本も閉じられていて、題名がなかった。
「これは…」
「お前の精神世界だ。お前はよっぽど本が好きなんだな。その思いがお前の精神世界に表れている。」
「…私の、思いが?」
「ああ。その思いが、希望こそが武器となり、敵と戦うためのものになるのだ。」
「…そういえば、敵って、どんなものなんです?契約したら教えてくれるんですよね?」
「ああ。まあ教えてやる。お前が戦う敵はな、人の"闇"だ。」
「えっ」
「心の拠り所もない、未来に希望も持てない様なやつは、知らずのうちに闇を吐き出すんだよ。その闇が自然と周りの人間も、自身をも不幸にしていくんだ。だからその闇を消さなければならないのがお前の仕事だ。分かったな?」
「…はい。だったら、なんで私なんですか?」
「なんでだと思う?」
「分からないです。私みたいな闇を抱えている人が魔法少女になるべきじゃないんですか?」
「逆だよ。闇を持っている人間じゃないと魔法少女になれない。」
「うーん…」
「闇を持っている人間は自然と闇について理解できるんだ。だからお前みたいな人間じゃないと無理なんだ。」
「そうですか…」
「わーったな。今日はもう遅いから仕事はないが、明日の朝は早起きしろ。朝会の後に時間を見つけてじゃんじゃん闇を消しにいくからな。」
「はい。」
「今日はもう寝ろ。あとはこれを持っとけ。」
そう言って青年が何かを渡した。
私はそれを受け取ると、まじまじと見つめた。
鍵、だろうか。
拳二つほどの小さな長さの鍵山の上に、円盤がある。
円盤は青色のリボンに包まれていて、宝石の様なものが留め具になっている。
「その宝石…聖石クリスタルはお前の力を引き出してくれるものだ。失くすなよ。後の事はその場面になったら伝えてやる。もう寝ろ。じゃあな。」
青年はそれだけ言うと、私たちが足場にしている本の外側に歩いていった。
「あの!」
私の声が聞こえると青年は立ち止まる。
「あなたは…一体?」
「お前の使い魔だ。セルヴと呼べ。これからよろしくな、瀬伽せとぎ由香ゆか様?」
「なんで名前を?」
「さあな。あ、そうだ。帰り方と行き方だが、聖石を見つめろ。そしたら自然と現実世界に戻ってる筈だ。俺はずっとここにいるから何かあったら呼べ。じゃあな。」
セルヴはそう言うと、浮いて遠くへ行ってしまった。
私は彼がクリスタルと呼んでいたものを見つめる。
帰ろう。家に。


character
瀬伽せとぎ由香ゆか
本作の主人公。非の打ち所がない優等生。将来は学者。物語を描くことが好き。

甘昰あまぜ宮莉みやり
由香の親友。よく由香の自作小説を読んでは由香をべた褒めしている。うるさい。

セルヴ
由香の鳥型の使い魔。青年。冷たい物言いが特徴。笑っている顔が怖いのでずっと無表情。でもたまに笑う。