複雑・ファジー小説

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帝都上空一万二千メートル  (1)
日時: 2025/08/26 10:51
名前: 一般人なのかもー (ID: pjYTU1g0)

 この物語はフィクションであり、実名の人、団体とは関係がありません。登場する機体の一部は本当にありますが、実戦参加していません。ご了承願います。 





昼の様に明るい夜の東京を羽田、成田へ向かう飛行機が今日も行く。あの日の事を忘れた大空は今日も美しかった。あの日・・・・一九四五年三月十日、あの日の夜間、俺は仲間と共にこの大空にいた。

 ドゥゥゥン・・・・・・
爆音で単発のエンジン音を響かせ俺達は飛んでいた。
「上も下も分からん。計器が頼りだな。壊れんなよ壊れんなよ・・・・・。」
そう単座機のため誰も返してくれぬ独り言を呟きながら蛍光色に光った目が回りそうなほどある計器を眺めた。現在高度五千メートル、速度は時速四百㎞というところ。五機で矢の字の編隊を組み飛行中だ。(ただ暗すぎて見えないが。)編隊長の俺は中央に鎮座している。因みに現在位置は房総半島沖南東十㎞、遊覧飛行ではない。緊急発進だ。今、敵の爆撃部隊が帝都東京を爆撃せんと大編隊でやってきている。
 そろそろ接敵だろうか。俺は無線のスイッチを上げて点けた。
 『編隊長機より編隊全機へ、接敵の予想される空域へ入った。全機高度を一万二千メートルまで上げよ。酸素マスクをつけろ、高空では酸素が薄いからの酸欠に気を付けろよ!!』
 『編隊三番機より編隊長機へ、』
 『何だ、坂井。』
 『危険な時は援護お願いしますね。』
 『分かっとる。』
 酸素マスクを着け、狭い搭乗席の中で中央にある棒状の物・・・操縦桿を一気に上げた。すると機首が大きく上を向き、機が上昇を始めた。正面にある蜘蛛の巣状の電影照準器が微かに振動している。計器は高度一万二千メートルを示した。正面下方には・・・見えた。月明かりを一瞬反射した大量の爆撃機編隊。B29だ!!その数は常軌を逸している。だがこっちが上にいる、襲撃するには絶好の場所だ。
 『編隊長より編隊全機へ、先頭の敵機に攻撃を行う!!かかれ!!』
 全機が一斉に編隊を崩し、急降下を始め、機体の主翼と尾翼の間をすり抜けるように落ちていく。急降下のせいで座席に縛り付けられるような苦しみに耐えつつ、その瞬間に照準器に捉えた爆撃機に向けて機銃をここぞとばかりに斉射を浴びせた。

 俺の乗る戦闘機は、四式戦闘機疾風の改良型であり試作型キ 八四型丙。武装には12,7mm機関銃二門の他に主武装の30mm機関砲を載せている。12,7mm機銃は戦闘機相手には別に良いのだが、重装甲、重武装の爆撃機を撃墜するのは困難であり(主翼付け根を狙えば案外どうにかなるのだが)、それも爆撃機の載せている防護機銃は迎撃機にとって大敵であり、狙われぬ為にはすぐに落とすしかないのだ。そこで主武装の大火力な30mm機関砲である。コイツを食らえば一斉射で大体落ちるのだ。

 夜間に発射した曳光弾が流星の光の様に交差した。その一瞬の間にB29の主翼に火が点き、そのまま誘爆したのか花火の様な、しかし不気味な光を放って爆発した。それが戦闘のゴングの様に空域に響いたのだ。乱戦の様相で敵も味方も攻撃を開始した。その時から他部隊から入ってくる無線も騒がしくなる。
 『防護機銃の砲火が激しいです!!』
 『クソ、被弾!!炎上している、脱出するぞ!!・・・・・・キャノピーが開かない!!!不味い、操縦席に火が入った!!!ぐぁぁぁ・・・・ピーーーーー・・・(無線切れ)』
 『敵機大破炎上!!やった!!』
俺達も下から一斉射してやる。乱戦の状況を利用して襲撃をかけてやるのだ。
 『隊長機から編隊全機へ、下から一撃加える!!全機本機についてこい!!目標は編隊後方六番目の爆撃機!!』
『了解!!』
上昇をかけたその時だった。
 『隊長機へ、こちら三番機、追われてます!!P-51が張り付いてます!!機数二機!!救援求む!!』
編隊長として助けるのが正解か、アイツを見捨てて本来の任務を全うすべきか。だが、一機でもB29を撃墜せねば帝都は焼け落ちるだろう。そこにいる人々も。それを止めれなくても被害を減らす為にここに来たのだ。
 『隊長、掩護の指示を!!』
 『掩護求む!!』
 「クソ・・・・熟考してる暇はねぇのに・・・・!!」
 『隊長機へ、掩護求む!!』
 『隊長機より二、四、五番機へ、B29一本槍で再度突入を図れ!!本機は三番機の援護へ向かう!!健闘を祈る。』
 俺は視界を左右へ振り坂井機を探した。・・・・見えた!!やや上、高度八千メートル、曳光弾を撃たれまくっている二式戦闘機、坂井機だ。あいつら、坂井機に夢中になってやがる。緩上昇をかけつつ機銃弾の閃光を頼りに照準に入れた。だがやや敵機との距離がある。目測では八百メートルか。12,7mmで牽制しつつ合わせるぞ。敵の背後を捉えた!!無意識に操縦桿の上についている射撃ボタンを押した。射撃音と共に機体が大きく振動し、機首の閃光の様な発砲炎で目が眩む。12,7mm弾の発砲炎に気が付いたようだがもう遅い。コイツは普通の12,7mm弾じゃない。炸薬入りのマ弾だ。食らえ!!

 そいつは急に意識を無くしたように落ちていった。どうやらパイロットを撃ち抜いたらしい。
 『三番機より編隊長機へ、救援感謝します!!』
 『編隊長機より三番機へ、まだもう一機いるぞ、気を付けろ!!』
 『編隊長機へ、後ろ!!後ろ!!』
 「へ?!」
 後ろを首を振って急いで見ると流星群の様にこちらに向かってくる敵の12,7mm曳光弾。死んだかも知らん。この時、人生で初めて祈った。


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