複雑・ファジー小説

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帝都上空一万二千メートル  (2)
日時: 2025/09/30 23:13
名前: 一般人なのかもー (ID: pjYTU1g0)

 神になどには自ら祈ったことは一度も無かった。親父は信心深い人だった。毎日朝早くから仏壇に手を合わせ、家業の農業を山の中が霞に覆われる時間から働き、烏が夕日に向かって鳴くその時まで田畑を耕し、近所の人が困れば助けに来るような人であった。親父はよく俺に言い聞かせていた。「頑張れば報われる」と。「神様はいつも見てくれている」と。だが、神は無慈悲だった。予備役で軍隊に入っていた親父は、シベリア遠征へ行った。親父の乗る出征の為の列車をお見送りの為に駅のホームに俺は、長く帰って来ぬ親父を思って嗚咽を漏らして泣いた。それを見た親父は最後に頭をガシガシと撫でて「お前がしっかりやるんだぞ、帰って来るまで畑を頼んだ。俺も、神様もお前を見ているぞ。しっかりな」と言い残して列車に乗っていった。優しく手を振って。
 シベリアへ行った親父は心残りだが、時間は無情にも過ぎていった。桜が村を色付かせるころ、白骨となった親父が帰ってきた。この時、俺は察した。神など存在しないのだと。

 一斉射食った。幸い12,7mmだったのが幸いだった。零戦とは違い、防弾板が充実している本機は火を吹かなかったのだ。だが、目の前に風防が割れたらしくアクリルガラスが機内に散乱した。空戦続行。一斉射を浴びせて俺の射線にわざわざ出てきてくれた。もらった。ここぞとばかりに12,7mmマ弾を浴びせた。
 落ちた。昇降舵を吹っ飛ばしたらしく、真っ逆さまに東京湾に落ちていく。ハッとして高度計を一瞬見た。高度6,243m。格闘戦で高度を落としちまった。上を見ると未だ悠々と飛ぶB29多数。爆撃進路に乗ったらしい。クソ、時間が無い。そんな時だった。
『3番機より隊長機へ!!先頭の機体を狙います!!こっちは大口径弾が底を尽きました!!自分が防護火器の囮になります!!』
 それは・・・確かに合理的だが・・・・。それは・・。
『オイ、待て!!』
『俺の家族がこの下にいるんです!!もう往きます!!さようなら!!』
『オイ待て!!』
 地上からの高射砲射撃が空に響いた。大空が無作為に大きく揺れる。それは、地上の悲劇が迫っていることを意味していた。
「坂井、生きろよ。」
機体下部のエタノール噴射機を使用し、俺は急上昇をかけた。黒い、怪物の様なB29に向かって。一瞬、坂井機と思われる小型機のシルエットが雲に月明かりに魅せられて映った。B29に突っ込みながら機銃を浴びせる様子が。そして、無残にも大量の防護機銃が寄って集って撃ちまくった。その隙をつくかのように俺は急接近する。先頭のB29が電影照準機の中に入った。機体と同体と化した自分の指は発射ボタンを無意識に押していた。
 燃料か酸素ボンベに引火したらしい。吹き飛ぶように爆発した。それと共に燃えゆく坂井機も落ちていく。
「坂井、サヨナラ。」
その時、アクリルガラスの破片がが自分の腕に、足に、胴体に突き刺さっているのをにじむ血と痛みから知った。
 その日、帝都は落日の日となった。10万人以上の人々が焼死し、何十万と言う人々が家を失った。燃料不足になりかけるまで追撃したが、その後戦果なし。そのまま帰投したが、そこから見える程帝都は燃えていた。その火は帝国の敗北をむざむざと俺達に見せつけたのであった。帝都は灰となり、死んだ者も灰となる。
               その痕跡など今はそこにあらず。
               今はただ、巨大都市が広がるのみ。






























帝都上空一万二千メートル[終]


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