二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: ぱらぷっ!【ボカロイメ小説・リク超絶受付】 ( No.5 )
- 日時: 2011/10/02 17:42
- 名前: マッカナポスト ◆dDspYdvRLU (ID: Thm8JZxN)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v=5wO_NVCVjZA&feature=related
幸せな家庭。
理想の姿なんて、
第三者に決められるものじゃないよね。
僕たちの愛は、周りからすれば奇妙なものかも知れないけど。
それでも、それが僕らの愛の形ならばそれはそれでアリだろう。
「ただいま」
眩しい夕日を背に、疲れた表情で玄関に足を踏み入れる僕。
作り笑いを浮かべながらも、結構身体的にはきついもので、笑顔を作るだけでも精一杯の有様だ。
でも。
「おかえり」の言葉は無い。
確かに、妻は其処に居るのに。
玄関の扉を開けると、妻は包丁が突き刺さったままの状態でうつ伏せに倒れていた。
でも、
哀しくないし、
涙も流さない。
寧ろ吹き出すようなシュールな光景が、其処にある。
「もう、また掃除するの大変なんだから、加減を考えてね……」
そう僕が妻に(呆れ交じりで)笑いかけると、妻はふふふ、と八重歯を覗かせ、可愛らしい笑みを見せた。
「今日は傑作なのよ、ケチャップ丸ごと使っちゃったんだから!」
【家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています】
「近所の人が見つけたら警察に通報されちゃうよ……」
「そうかも」
「そうかもって……ほら、掃除するから早く立って」
血塗れの妻と玄関で他愛も無い会話をする絵面は実にシュールなものだが、確実に妻はこの為に少なくとも半日を使っている。
ある日は頭に矢が刺さった状態で壁に凭れ掛かっていたし、
またある日は軍服姿で銃を抱えて仰向けに倒れていたし、
そのまたある日はマンボウの着ぐるみで死んでたし(あの時は本気で扉閉めようかと思った)。
まったく、毎日一体この為にどういう仕込みをしてるんだか。
日に日にエスカレートしていく妻の死に様を、僕はとりあえず笑って満足させるしかなかった。
まぁ、妻が調子に乗らないようにどうやってリアクションをするべきか解らないというのもあったけど。
その後の後片付けも結構大変だったり。
床の血糊だって雑巾で拭くのに時間かかるし、次の日の為にケチャップ買いに行かされたり__一体今年だけで幾らケチャップに費やしたんだろう__愚痴を言ってしまえば山のようにある。
あと、矢が刺さったまま晩御飯を作るのはやめて欲しいです。
食欲無くなるって。
ちょっとした事で有頂天になったり、
ダイイングメッセージに今日のおかず書いてくれたり、
けなげに毎日不規則な時間帯に帰ってくる僕を待って死んだふりを続けてくれてたり。
そんな素直になれない妻が可愛いんだけどね。
___結婚前は時間の余裕もあったから色んな所に連れて行ってあげられてた。
徹夜で車走らせて海に連れて行ってあげたりもできた。
でも結婚した今は、上司と部下と疲れながらも楽しい職場生活を送っている僕。家庭のためとはいえ、一日中僕を待ってくれている妻の事を、考えていなかった。
妻と二人で過ごす時間が無くなってしまったのに、僕は『忙しい』という言い訳を付けて、気付かない振りをしていたのかもしれない。
素直になれなくて、早く帰って欲しいのに言えなくて。
あの頃の二人に少しでも戻りたいから。
あんな死んだふりを毎日けなげに続けているのか、
それは僕にも解らない。
『ごめんね』も『大好き』も言えない僕も、素直じゃないんだろうな。
都会の喧騒に巻き込まれ、混雑した電車の中でふと妻の事を思い出す。
「今日はどんな姿で死んでるんだろうな……」
言葉だけ聴けば不気味な不審者のような台詞を、僕は心の中で呟く。
そして。
__今日も楽しみだな。
我が家へと続く一本道を、僕は夕日を背に軽やかにスキップする。
そしていつものように扉を開けると______