二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: イナイレ〜memory〜 53.聞いて 更新 ( No.852 )
日時: 2012/06/14 17:30
名前: 音愛羽 (ID: bJXJ0uEo)

*54.僕の過去、始まり Ⅰ*






ねぇ、準備は良い?
長くなるけど…聞いてほしいんだ。
僕の小さいころの話。


まだ僕が5歳の…幼稚園年長さんのころだ。




僕は小さいころからサッカーが好きだった。
とても。
お姉ちゃんはとてもおとなしくて、でもとっても優しくて。
いつも僕のことを気にかけてくれていたすごくいいお姉ちゃんだった。
たった2歳しか変わらないのにお姉ちゃんはすごく大人だった。
僕も5歳にしては少し大人だった気がする。
そう思う理由はもう少しあとで。

いつも幼稚園が終わると僕は決まった公園へ行ってサッカーをしていた。
友達と、あるいは一人で。
毎日欠かさず通ってた。
雨の日は家でずっと雨がやまないかなーなんて考えてたし。
とにかくものすごくサッカーが好きだった。

いつからか公園のベンチに同じように毎日来る男が現れた。
いつも中の服は違っても、上に羽織っているコートは同じだった。
そして同じベンチに座って僕を見ていた。
その視線に気づいていながらも僕は警戒せずサッカーをつづけていた。

知ってた。
男が見ていたのは僕だってこと。
知ってた。
毎日来ていたこと。
わかってた。
怪しい男だってことくらい。
わかってた。
公園には来ない方がいいってことくらい。



わかってたのに。





ある日男は突然近づいて声をかけてきた。



『サッカー、好きなのか』



と…。
低くて太い声だった。
その時近づいてきて初めて気づいた。
男はとても、背が高かった。
手も大きくごつごつしている。
その角ばった指が、手が、僕の肩に触れた。
びくん、と僕の肩は揺れた。
ふれた手は冷たく冷え切っていた。
とても…とてもじゃないが、生きている人間のものとは思えないくらいだった。
幼い僕にはとても怖いことだった。恐ろしいことだった。
震えが止まらなかったが、それでも僕は



『うん、好き…』



などと答えていた。
おびえた目で僕は、男の冷たい目を見つめた。



『そうか…私のサッカーチームに入らないか?うまい子はたくさんいる、どうだ?』



男の太い声が僕の心にのしかかる。重くて…怖かった。
心の中で、冷静な自分はこの男について行ってはいけないといい、もう一人は怖い怖いとただ単に叫んでいた。
体の震えは止まるどころか、足まで震え…もしかしたら男が触れている肩も震えていたのかもしれない。



それでも僕は言った。



『イヤだ』



と…。
男は僕の肩においていた手に力を入れる。
少し痛いくらいに。



『お前はサッカーがうまい。もっとうまくしてやる。来い!!』



さっきより強く、さらに太くした声が耳に飛び込んでどしん、と心に乗っかってくる。



『いや、いやぁっ!おじさんなんかと誰が行くもんか!』



幼い僕の甲高い声が公園中に響く。
だがあいにくその日はだれ一人いない。
しかもその公園は周りに家も、建物もなく、ただの平地であったため誰も気づかない。

男の手に込められた力は増す。
角ばった指が肩に食い込んだ。



『物わかりの悪い餓鬼だな!さっさと来いって言ってんだよ!サッカー上手くなんだぞ!』



きつく、荒く、大きな太い声が僕の心を押しつぶそうとする。



『上手くならなくていいもん!おじさん、痛い!放して!!』



必死にもがく。
男の手の力が一瞬抜けた。
と、同時にするり、と股の間をくぐり抜けぼくは一目散に逃げた。
決して振り返らず、声を出さず。
でも僕の耳にははっきりと男の太い声が焼き付いていた。
最後に言った、言葉も。











〝お前のせいで、お前が拒んだせいで大切な人を亡くしても知らんぞ〟











家はすぐそこまで見えていた。