二次創作小説(映像)※倉庫ログ

小説NO.2-第4話‐ ( No.102 )
日時: 2011/10/27 21:20
名前: 伊莉寿 (ID: r4kEfg7B)

——空港——

「久し振りだな、この景色…」
「君の意見に賛成だ。」

 少年、南雲晴矢の意見にもう1人の少年、涼野風介が相槌を打つ。2人共私服で大きな荷物を持っていて、更に2人きりな事でも目立っていた。周辺の声に気付いたのか、涼野が辺りを見渡した。

「彼女は何処だ?」
「ん?さっきまでそこら辺に…」

 南雲が大きく息を吸い込む。涼野がサッと耳を塞ぐと、大きな声が空港に響いた。


「しーれなーーー!!!!!!」




『ん?今、大きい声が…』
「……えと、南雲さんだと思います…」
『じゃあ、詩麗奈解決しておいてね。問題無くちゃんとこっちに来るんだよ?』

 はい、と短く返事をして電話を切った。彼女は電話を終えたことに安堵したが、先程の大声を思い出し気分は沈む。今戻ったら辺りの人に変な目で見られそうだ、と。

「…別に構わないけれ…」
「詩麗奈、勝手に居なくなったら焦る。」
「声かれそうだぜ。」
「…南雲さん、私は大声を出してなんて言ってません。涼野さん、私電話して来るって言ったはずです。」

 背中の辺りの温かさに妙な落ち着きを感じながら、詩麗奈は完全な回答をした。すっ、と肩に回されていた腕がほどかれる。彼女が振り向くと、予想通り南雲と涼野が立っていた。
 この2人はやけにスキンシップが多い。その事をいい加減指摘しようと詩麗奈が口を開くと、空港内のアナウンスが聞こえる。

「韓国行き○○○便に…」

「お、これだな。」
「さて行くか。」

 2人に置いて行かれそうになり、慌てて彼女は追い掛ける。そして、お日さま園を訪ねてからの日々を思い出していた。

 詩麗奈の親戚———亜風炉照美から涼野風介と南雲晴矢をスカウトしたいという電話がかかって来たあの日の内に、韓国行きが決定した。最初の内は渋っていた涼野は南雲を呼び、そこで口論になりそうな雰囲気を察知した(照美が自称神を強調するから)詩麗奈が子機を半ば強引に強奪すると、家出の話が出た。彼女の母親は心配していて、さすがに良心が痛んだ彼女に照美が提案したのは〈旅行による気分転換〉だった。

『その2人を連れて韓国に遊びに来ない?』
『韓国に…ですか。』
『サッカーの大きい大会も見られるよ☆』
『…サッカーは良いんですけど…。』
『どちらにせよ気分変えないと家にも帰り辛いでしょ?』

 最後の言葉に、不本意にハイ、と返事をしていた彼女。

『じゃあ2人説得してね。』

 それには無言で返事を返し、電話を切り2人を振り返った。南雲が驚いて彼女を見つめ、ずいずいと迫る彼女に合わせて後ずさる。そして彼女は思い切り頭を下げ、更に南雲は目を見開く。

『今回は照さんのお願いを聞いてくれませんか!』
『『照さん…?』』

 2人が顔を見合わせる。それと同時に根本的な疑問が浮かんだ。何故彼女がかけた電話がアフロディに繋がったのか。そして今浮かんだ新たな疑問…照さんとは誰なのか。

『花園詩麗奈、君は…』
『私はっ…』

 頭を上げて彼女が帽子を取り、結われていた髪がほどけて風に揺れる。流れる金髪に2人が目を奪われた。

『私は、亜風炉照美…アフロディと呼ばれる者の母方の親戚です。…涼野さん、南雲さん、どうか韓国に行ってくれませんか!!』




(…あんなに真剣に頼まれちゃ、な…)

 離陸体勢に入る飛行機。南雲が視線を窓の外から右隣に移すと涼野が、その奥には詩麗奈が居る。そして思う。…何故、彼女の説得に折れたのかと。
 世界大会のアジア予選、その言葉を電話越しに聞いた時は胸が高鳴った。ただアフロディの態度に苛立たなかったと言えば嘘になる。もう少しで声を荒げそうになった所で彼女が止めに入り、そして静かに電話を切って歩み寄って来た。不安に揺れていた瞳を鮮明に覚えている。

(…にしても。)

 右隣の涼野。最初に折れたのは彼だった。詩麗奈の必死の願いに南雲は戸惑っていたのに、涼野はあっさりとOKしたのだ。そして君も行くだろう、とにわかに黒いオーラを交えながら言われた時には反抗するつもりでいたが、詩麗奈に重ねて頼まれ…濁しながらOKした。

 そして、そんな彼女のポジションは杏曰く“妹キャラ”らしい。

「間もなく、飛行機が離陸いたします…」


この時、3人は新たな一歩を踏み出していた。