二次創作小説(映像)※倉庫ログ

小説NO.2-第5話- ( No.141 )
日時: 2011/11/05 17:34
名前: 伊莉寿 (ID: r4kEfg7B)

着陸態勢に入った機体の揺れは、大きい。
そろそろ窓の外に韓国の町が映ると、近くの席で観光客が話している。

…それにしても、涼野は良く寝る奴だ。

「っん…」
「涼野さん、起きませんね。」

眉をひそめる様子を見る限り、悪い夢でも見てるんだろうけど…起きねー…。
起こした方がいいのか?悪い夢を見てるんだったら起こしたい、が以前無理矢理起こした時の寝起きは最悪だった。起こしたくない…珍しく大暴れだったから対処法が分からなくてめちゃくちゃになった。瞳子姉さんが治めたんだっけ、いやー救世主に見えたぜ、あの時ばかりは。

その時、ガタンッ、とひと際大きく機体が揺れた。隣で寝ていた涼野の体が詩麗奈の方に傾く。途端にフリーズする詩麗奈。
…ん?

「ーっ!」
「うわっ!」

涼野の体を支える、あっぶね…危うく頭が激突する所だった。

「あ…」
「危ないだろ、急に押すなって!」

詩麗奈が涼野の体を俺の方に思い切り押したんだ。急に、な。

「ご、めんなさい…」
「…」

右手を見ると小刻みに震えていた。
何があったのか分からないが、取りあえず飛行機は韓国に着いた様だ。詩麗奈は謝ったから良しとしよう。ああ…結局涼野は起きて無いな、寝起きが悪くありませんように…!

「涼野ッ!」
「・・・・・・・ん?」



彼女に惹かれたのはどうしてなのか。

美しさ?強さ?…もしかすると、私と似ている部分があったからなのだろうか。

同じだ、あの部分は……。


孤独に近い、雰囲気。







『涼野ッ!』

その声と、腕に伝わる感覚で南雲だと分かった。

気付けば眠っていたらしい。目をこすると、怒られた犬の様にしゅん、としている詩麗奈の姿が後ろに見える。周りが随分騒がしいのは、もう飛行機が目的地の到着したからの様だ。…という事は、もうここは韓国なのか。

「もう(「韓国に着いたのか、よし早く降りるぞ。」
(珍しく涼野が寝起きなのにボケて無い!!!!)

ん、チューリップが驚いて突っ立っている様だが…そうか、置いて行かれたいのか。
さっさと歩いて行き空港の建物の中へ入った。広々とした空間に南雲の声が聞こえる。騒音製造機か、あいつは。

「…背後霊が居る気持ちになるのだが。」
「え、あ…すいません。」

さっきからテンションが低い上に何も喋らない詩麗奈。取りあえず何か話してもらわないと本当に背後霊的存在のままだ。
気分が悪い。寝起きだという事もあるのだろうが…。

「南雲に何か言われたのか?」
「いえ、そんな事は…無いです。」

頭を優しく叩くと、何か考え込むような表情をして何も言わなかった。お、南雲がようやく追い付いたな。
と、誰かが近付いて……。

何だ、少し驚いてしまった。


「ようこそ、韓国へ…歓迎するよ。」




ドロドロした感情が流れ込んで、それは1つの形を作る。
…私はこの時が1番嫌い。じわじわと心に沁み込んで、言葉にして捨て去っていく、無責任な力。

「大丈夫?やっちゃったんでしょ、詩麗奈。」
「…あれは回避し様がありませんでした。」

ホテルの部屋に来て何の用かと思えば、直球で尋ねて来る照さん。
苦笑する親戚は、私のことを理解したうえで味方になってくれる唯一の存在。心強い存在だって思ってはいても、過保護と言うか何と言うか…。今日も、本当は空港の外にあるカフェで待ち合わせだったのにわざわざホテルのロビーまで迎えに来て。涼野さんも南雲さんのビックリしてました。

「コドクニチカイ、フンイキ。」
「!」

言ってみたら蘇る悲しみ。
瞳を閉じれば、苦しさ、悲しさから離れる事が出来る…でも、何があっても閉じてはいけない、とおばあちゃんは言った。闇から目と耳を塞いだら、光の道まで、足音まで分からなくなってしまう、と。その言葉を理解しても…やっぱり塞ぎたくなってしまう。

「詩麗奈…。」
「大丈夫、もっと気を付けますから…」

絶対に、絶対にもうこの力を使わない様に…。

「詩麗奈は孤独?」
「かもしれないですね。」
「違うよ。」

ううん、孤独。
私にはきっと、照さん以外の味方が居ないもの…。

「…僕のチームと一緒にいたら、きっと分かる。」


『あの子は悪魔よ!!』
『近づかないで?!』


「…分からない、私には…」


あの日々は嫌い。
また思い出さないといけない。この右手に誰かの右手が触れただけで…ただそれだけで。だから絶対に触れたくないのに。…まさか飛行機が揺れた時に涼野さんに触れてしまうなんて。伝わってしまった、夢。
孤独?涼野さんも孤独?そんな事、ある筈が無いじゃないですか。

「…あんなに、温かいのに…!」
「詩麗奈…」
「嫌だ、もう…何も考えたくない…!!!!」

照さんは静かに部屋を出て行った。
2人部屋は1人で居るのには広すぎて、取り残された様な空虚な気持になれそうで。
…こんなに沈むのは久しぶり。最後に触れたのは…誰だったかな。
照さんの心遣いに感謝しながら、私はベッドに潜り込む。

明日、韓国代表のチームと合流予定。