二次創作小説(映像)※倉庫ログ

小説NO.1-第2話‐ ( No.23 )
日時: 2012/08/15 14:19
名前: 伊莉寿 (ID: r4kEfg7B)

 保健室に寝かせたは良いものの、そこから先は風花の目が覚めるのを待つしかなかった。急に屋上で倒れた風花だけど、何も倒れる要素なんて無かった気がする。…だからこそ、余計に心配だった。
 円堂と俺と風花、3人で平和に食べた弁当は懐かしい味。梨を分けてくれたのも保育園に通っていた時みたいで、変わらないんだな、って少し嬉しかった。あの頃の風花もいるんだ、って…。

「…ィチ、ロータく……」
「風花?!」

 かすれた声が聞こえて顔を覗き込むと、ゆっくり目を開ける風花がいた。良かった、と心で言ったつもりだったのに気付けば声に出ていた。すごく安心している自分がいた。
 彼女は何度か驚いた様にまばたきを繰り返してから、状況をある程度理解したらしい、大丈夫だよ、と俺が握りしめる手に少し力を入れた。……あー、軽く涙出て来た。その涙を袖で拭いていると、保健の先生が戻ってくる。風花が目を覚ましたのを見て心底安心していた。

「……良かった、戻って来てくれて…」
「先生、大袈裟ですよ^^;」
「本当に…」

涙をふく先生は、まるで風花が戻って来ないと思っていたかのように感動していた。何でそこまで…。

そして俺は知る由もなかった。


「『…ごめんネ、センセ』…」


風花が先生を見てこう言っていたなんて…。





「風花、良かったな!!!」
「心配掛けてごめんね、もう大丈夫だから!」

 円堂に向かってVサインを繰り出す風花に、クラスの生徒は一安心した。6時間目に入る前の休憩時間に、彼女はクラスに戻った。放課後病院に行く予定だが、恐らく問題は無いだろう。そう想わせるほど、すっかり回復していた。風丸は次の英語に備えて教科書類を出していたが「イチロータ君、」と呼びかける声に顔を上げる。

「あの、放課後家まで送ってくれない?先生に誰か付き添いと一緒に行けって言われたから、お願いしたいな、って…///」

女子数人が周りで応援している様に風丸は見えたが、とりあえず即答だった。「良いよ」と返すと女子軍から歓声が上がった。

(「キャー」ってやめてくれないか…?!)
「ごめんね、ペース速くするから…」
「え、ああ大丈夫ダッシュで部活出るから!」

女子の歓声に冷え切ったのか、すっかりいつも通りの表情で風花は言った。周囲の女子に何か言われそうな所で先生が入って来る。出席簿で頭を叩かれた事のある女子は急いで席に戻っていた。姫雷は授業出て大丈夫か、と確認を取られ、元気な返事を返す風花がいる。

「『…まだ学校に居たんだ。』」
「?」
「あっ、何でも無いよ^^;」

通路を挟んで隣の席だからか、風丸に呟きが聞こえる事は極稀にある。ただ、声がどこか冷めきっている今のテンションで呟きが聞こえたのは初めてだった。何でも無い、とジェスチャーも交えて言う彼女が…焦って見えたのは、風丸だけだろうか。

(……。)

 何かあったのは、確か。
 何でも無いと言うのが嘘なのも、確か。




 他愛もない会話。でも弾んだ会話だったから、雷風堂まであっという間だった。風花がペコリ、と頭を下げてありがとう、と礼を言った。そこまでされる程の事じゃないと思う風丸は、何だか照れくさくなって慌てて背を向ける。走って部活に行かないと、と無理矢理口実を作ってその場を立ち去りたかった。…なんだか恥ずかしい。

「あっ、イチロータ君!」
「!」

 忘れてた、と言う感じで風花が店の入り口から叫ぶように呼びとめた。——風丸は、一瞬彼女の背後に闇色の蝶を見た気がした。

「あの、えと……部活終わったら、雷風堂寄らない? 部活帰りだったらお腹すいてるだろうから何かサービスす…」

風丸が近寄って、ぽん、と彼女の頭に手を乗せる。

「!///」
「今日は遅くなるって監督言ってたから。屋上で倒れた身だぞ?早めに寝た方が良い。」
「!! ………うん。」
「また今度な。」

最後の言葉に、彼女は頷かなかった。俯いて頭を撫でられて、大人しくしていた。じゃあな、と立ち去る風丸を笑顔で「頑張ってね〜!」と見送る事は出来るのに。でも出来なかった。今度なんて約束、したくなかった。————だから寂しげな笑顔で見送る。

「…ばいばい。」






「…『賭けはあたしの勝ち、ね。』」



———————また、いつか———————





「今朝は風花さん来ないですね。」

 音無がきょろきょろ辺りを見渡して言った。秋が風丸に心当たりがあるかと尋ねても、彼にだって分からない。そもそも来ないのが正しい形なのだが、陸上部の練習が無いのに彼女がいないと言うのは、少し不安になる事だった。

「昨日屋上で倒れたって聞いたけど…」
「でもあの後はすっかりいつも通りだった。」
「俺も風丸と同じ意見だ。……だからきっと大丈夫だ!」

秋が不安そうにすると、円堂が大丈夫だ、と言って安心させた。多少強引ではあるけど、練習中に気になってしまう部員がいたら怪我してしまうかもしれないし、実際彼自身そう思っていた。強く、強く…。

「練習始めようぜ!」





 まさか、だった。

「姫雷さんが体調不良のため、本日欠席です。」
「「!!!!」」

 先生がそう告げた瞬間、警報が風丸の中で鳴り響いた。すぐに彼女の家に向かいたい衝動に駆られる。こんな事になるなら昨日の放課後行ってやればよかった、と後悔も少しした。

「…る! 風丸!!」
「! え…ああ、円堂か。」
「…次教室移動だぜ。」

こんなにも、考えてしまうのに…。




 ベッドのシーツを握り締めた。
 薄暗い部屋のベッドだった。風花の部屋だ。布団を被って横になる少女は眠れない…。でも眠る気すらないのかもしれない。ただ、学校を休む口実が欲しくてこうしているだけだから。欠席することが目的。そして親がいなくなる事が目的。
 なのに、こうしているとどうしても別の事を考えてしまう。例えば…自分の事とか。

「…チロータ君、イチロータ君っ…」

 悔し涙を流しても、変わらない事実。そうだとしても。

『……せめて、願いを叶えてあげる。ずっとあなた達は一緒…』


((こうすると、決めたのだから。))