二次創作小説(映像)※倉庫ログ

雨音様リク☆木漏れ日の様な。Ⅲ ( No.316 )
日時: 2011/12/16 19:23
名前: 伊莉寿 (ID: r4kEfg7B)

      私の宝物。

いっぱいあって、どれも思い入れがあって、全部全部とっても大切。

家の中で家族全員で撮った写真、離れた友達に貰った手紙、初めて見つけた四葉のクローバーの押し花…。
そういう物は失くしたくなくて、箱にしまってしまう。

けれど、ずっと身に付けていたいと思えた物が、1つだけ…。





『瑠璃花。』




——————————————あれは、17歳の冬でした。




*木漏れ日の様な。Ⅲ——+Un obstacle de l'hiver、冬のハードル+——*



「鬼道有人の嫁だな。」

 男がそう言った瞬間、目の前に居た瑠璃花の表情が険しくなった。何もついていない左手を強く握りしめる。背中の壁の冷たさで、ほてりを冷ましたかった。自らへの怒りから来る熱で、顔が熱い。
辺りを見渡しても何も無い。カフェの後ろの道、誰もいない、何も無い通路。狭くて暗い、怪しい男と2人の空間。

 瑠璃花が黙っていると、男が笑みを浮かべた。

「目的が分かってるなら、大人しくついて来てもらおうか。」
「…えして下さい。」
「あ゛?」
「返して下さいっ!!」

強く訴える目で相手を見据え、瑠璃花が言った。———狭い空間にこだました高い声が、消える。

「これか?」

男の右手でつまむように持たれた小さな物に、彼女は目を見開く。それは指輪だった。
そもそも瑠璃花がこんな所に男と2人でいるのは、洗面所で左手につけていた指輪が無い事に気付いたからだ。そして体は勝手に動いて、ハッと我に返ると薄暗く狭い路地に来ていた。
その指輪を物珍しそうに見る男に見覚えは無く、だからこそ瑠璃花には大体の目的は分かっている。
それでも、何より指輪を取り返したいと思っていた。

「かえ…(「それならさっさと車に乗れ…」
「!!」

背筋を、何か冷たいものが走った。




「こっ、これヤバイですよ…」

サッカー部員の速水と浜野は、偶然にもその現場を見てしまった。
3年の三国達が行くと言っていたから、サッカー用品を見に行ったついでに興味本位でカフェに向かって見つけてしまった。女子高生にしか見えない瑠璃花が、男と、そして今さっき出て来た大勢の柄の悪そうな男に囲まれている。遠目だから何を話しているのかなどは良く聞こえないが、危ない状況なのは分かった。

「…速水、今来た道ダッシュで引き返して。」

ひそひそと、浜野が話す。その言葉に驚いて声をあげそうになった速水の口を、右手で塞いだ。

「さっき来る途中に、円堂監督と鬼道コーチが服の店に居たの見つけた、だから…」

浜野の言葉を遮ったのは、木刀で瑠璃花の顔のすぐ近くの壁を叩いた、大きな音。
その瞬間、ばびゅん、という効果音が出そうなほどの速さで、速水はその場から居なくなった。流石、と言葉を漏らしながら浜野は音を立てない様に携帯電話を取り出し、ボタンを押した。




「瑠璃花は『恋』を知らない代わりに、本当に真っ直ぐなんだ。」

紙袋を右手に持って、鬼道が言った。

「俺をなんだと思ってるのか分からない。自分のしたいと思ったことを正直に言ったって良いのに、考え込むんだ。」
「でも、鬼道は気付いたんだろ?」

ああ、と短く答えて、顔をあげた。冷たい冬の風が、鬼道の頬を撫でていく。

「…もう5年も経ってるんだぜ?」
「ハッキリ言おう。今まで生きた自分を褒め称えたい位だ。」

その言葉に軽く笑いながらも、円堂は隣に居る『友』をみつめた。円堂自身、鬼道を凄いと思っている。

6年前の事だ。

瑠璃花がコトアールに行きたいと、否コトアールの復興事業を手伝いたいと鬼道に告げたのは。フェニックス島の件もあるが、それ以外にもアフリカ大陸の環境の悪さを想っての事だろう。
ただ、鬼道としてはタイミングが悪かった。鬼道が18になった数日後で、彼としては…。


『…さようならっ!!』







「…良く考えるとさ、鬼道と瑠璃花って婚約止まりなんだな。」

旅立つ前夜に、鬼道は瑠璃花に指輪を渡した。そして、帰って来た時の結婚を2人で約束した。
春奈達は鬼道の指輪の存在を知り、勘違いしていただけだ。

「海外で活動をする前に結婚をしてしまうと、鬼道家と瑠璃花の方で色々やる事が出来てしまい、結局、瑠璃花はしたい事が出来なくなる。」
「でも今日『嫁』って宣げ…」
「今日付けで籍を入れた。」
「!!???」

硬直する円堂、を置いて鬼道はスタスタと歩く。ハッと我に返った円堂は鬼道に追いついて、ポン、と肩に手を置いた。

「…鬼道、お前やっぱスゲ・・・って、じゃあ瑠璃花が帰って来ること知ってたのか?!」
「否、知らされていなかった。だからさっき、お前がトイレに行っている間に俺の代理に婚姻届を提出するよう連絡して、今さっき俺と瑠璃花は結婚したことになる。」
「え。」

また置いて行かれそうになる円堂の腕をひいて歩き続けた。

「でも練習の時は嘘…」
「1時間位気にするな。」
「…」

無言。は、直ぐに破られた。
鬼道が顔をしかめて立ち止まると、円堂がその視線の先に速水を捕える。額を汗が伝い、見るからに走って来たのだと分かった。円堂がどうしたんだ、と声をかけるより先に速水が混乱した様子で口を開く。

「瑠璃花さんがっ、男…に、」
「!速水、場所を教えろ!!」
「あ、はいぃぃ!!!」

走るのは疲れた、と顔に書かれているのを円堂は読みとったが、鬼道は読みとれなかったらしい。真剣な表情に速水は何も言えず、また走りだした。恐らく、真剣というより恐ろしい顔をしていたのだろう。

「男…?」

残された円堂は、そのワードに違和感を感じた。指輪を付けている瑠璃花が、簡単に男関係の問題を作りはしない。
そう考えれば、嫌な回答だが円堂でも答えを導き出せた。と、同時に速水が走って来た事も、鬼道があれだけ真剣な声で直ぐに走り出したことにも納得がいく。


「妻子、か…。まあ鬼道が行けば多分大丈夫、だろうな…」



「っ、これって…」

浜野の頬を、冷や汗が伝う。がくがくと足が震えて、体を支えるのさえ難しい。

「早く乗れ!!」



黒い車が視界に入った。
囲まれた瑠璃花は、武器ボールとかを見つける事が出来ず下唇を噛んでいる。





「ゆ、誘拐…?!」




*to be continued...*
お、終わらなかったぁぁ!!!!!!←