二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 小説NO.4 カゲロウデイズ*episode1* ( No.372 )
- 日時: 2012/01/09 12:59
- 名前: 伊莉寿 (ID: r4kEfg7B)
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永遠に、時は流れてゆくもの………
川みたいだな、と思う。水は海へ流れ、海から雲が生まれて雨となり、森へ注いでまた川となる。
…でも、少し違うのかな。
そこに時は流れて、歴史もある。
私と君は、流れる時間を繰り返して、ただ彷徨う…。
* カ ゲ ロ ウ デ イ ズ *
+ episode1、8月15日の悪夢 +
『…今日は、各地で真夏日を記録するでしょう。熱中症に気をつけてお過ごしください。以上で、お昼の天気を終りにします。』
天気キャスターの声。俺は携帯を閉じて、近くにあった自動販売機でスポーツ飲料を2本買った。冷えていて、もった右手が少し冷たくなるのを感じる。気分が良かった。…少し、熱中症を気にしたのだ。
買ったスポーツ飲料を右手に持って、目の前の稲妻総合病院に入る。今日特別に外出許可を出された知り合いを迎えに行く為だ。彼女は俺の影響でサッカーに興味を持ったらしく、家でサッカーについて色々な資料(ビデオ等)を見たいと希望があったのだ。
サッカーの世界大会の予選を戦っている中でも、それ位の余裕はある。
看護士「豪炎寺君、こんにちは!」
病院に入ると、偶然馴染みのある看護師の方が通った。夕香の事でも世話になった方だ。
豪「こんにちは。」
看護士「良かったわね、月宮さんの外出許可!」
はい、と返事をする。知り合いの月宮は病気がちで、病院の外には出られない14歳の女子。それが何故か、外出許可が出されて…。
急に何で?
考えながら階段を上り始めると、俺の名前が小さく踊り場でこだました。顔を上げると、正しくその知り合いがいた。
一瞬口ごもり、それから小さく息を吸って「こんにちは」、と。
「修也君、わざわざごめんなさい。今日すごく暑いのに…」
たどたどしく、本当に申し訳なさそうに言う月宮を見て、思わず笑みがこぼれた。エイリア学園の時の事、話した筈なのだが。
「暑さには慣れてるさ。」
「そう言えば、沖縄に居たんでしたっけ。」
思い出したらしい彼女。
行くか、と月宮の黒い瞳を見て言うと、彼女は小さく微笑んで頷いた。
*
腕時計は12時半を回った頃。
リハビリをしたとは言え、炎天下の中歩き続けるのは酷だろう。そう思って、途中にある公園のベンチに腰を下ろした。病院前の自動販売機で買ったスポーツ飲料を渡すと、月宮は一度に3分の1を飲んだ。余程喉が渇いていたのだろう。その後はすっかり元気を取り戻して、今は野良猫とじゃれついている。黒い、毛並みの綺麗な猫だ。
日本では縁起が悪いといわれるが、西洋では正反対、逆に良い事が起こるとされている。
「可愛いっ…!!」
「人懐こいな、この猫…」
「うん、私の言う事が通じてるみたい…。」
初めて触れる猫に興奮して、ひざの上に乗せて撫で始めた。心地よさそうにしている。
…猫、か。
「暑そうだな。」
「そうでもない、かな。くすぐったいけど……」
でも、と言う声は沈んでいる。
不思議に思って隣に座る彼女を振り返ると、俯いて瞳には悲しみを宿していた…様に思える。分から無くなってしまった。俺の視線に気付いて、すぐ笑顔を作ったから。嘘だとばれても良い、そんな笑顔を。
「…まあ、夏は嫌いかな。」
「?暑いからか?」
「えっ、それもあるけど…」
じゃあニット帽取れよ、と突っ込みたくなるが。
あの帽子は彼女の死んだ母親の手作りらしく、形見だと言い張って大事な検査と特別な時以外は取らないらしい。そうだ、月宮と今みたいに仲良くなったのは、どこかで自分と似ていると思っているからかもしれない。————母親を失くした者同士。
誰かが死ぬ悲しさを、身をもって知っている者同士。
「きっと、死んでも好きになれない。」
右手で愛おしそうに猫の頭を撫でている彼女は、拗ねるようにそう言ったのだった。
と、今まで大人しかった猫の耳がピクピク、と動く。頭を上げ、4本の足を使ってするすると月宮の肩へ移動した。あまりに突然の出来事で、俺も月宮も何も出来ない。すると、猫が驚きの行動に出た。慌てた様な声を出す彼女のニット帽を口にくわえ、俺達から逃走したのである。
待って、と血相を変えて月宮が立ち上がるも、立ち眩みだろうか、ふらついてベンチに座り込んだ。
「取り返して来るから、月宮は無理しないで座ってろ。」
「良い、私の帽子だし、自分で取って来る…」
「!つ、月宮っ!!?」
彼女が駆け出した。
慌てて追いかけるも、大して急がなくて良かったのだと視界から悟る。猫は遠くへ行っていなくて、公園を出たらすぐにある横断歩道の上で帽子をくわえていた。月宮も今公園を出たから、直ぐに間に合う。ホッとして足を止めた。帽子を取り返したら、やはりタクシーを呼ぼう。月宮が外の空気を吸って行きたいと言っていたから歩きにしたが、病み上がりの彼女に炎天下の中これ以上歩かせるのは酷だ。
「ニャァオン…」
ふと、違和感を感じた。
猫の鳴き声。
何故?この状況、知っている…?
猫を追いかけて、月宮が横断歩道へ飛び出した。
瞬間、視界に入って来る大型トラック。運転手は、うとうとしている。
「!!!月宮っ!!!!!!」
横断歩道の信号機が、赤く光った。
耳をつんざく急ブレーキの音。
とっさに駆けだしてしまった故に赤く染まる視界。
血の匂いが鼻腔を占拠して、足の力が抜けた。
動かない月宮。
「っあ…」
嘘だ、月宮が動かないなんて。さっきまで猫を抱えて嬉しそうにしていたのに、隣に居たのに、それが、こんなにも一瞬で。
誰かの悲鳴が遠い。
耳でうるさい程のコーラスを響かせていた、セミの鳴き声でさえ。
そんな中、導かれる様にして立ち上がった。顔を上げると、夏の湿った空気が、ぼんやりとした輪郭を結ぶ。ぼやけていて、生命力が無い、結界を張っている様な、…月宮?そんなはずはない。なら、真夏が見せる陽炎か?
『…ウソだと思う?』
ゆっくりと口が動いた。その問いに、嘘だと答えた俺の顔はひきつっていたのだろう。
『残念でした、これは嘘じゃないんだよ?』
見下したような笑顔。
突きつけられたんだ、俺は。月宮の『死』が現実なのだと。
瞬間、耳に再び聞こえるセミのコーラス。
いつもよりうるさく、そしてこだまするように響いていた。
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眩む蒼い空色の世界、
陽炎の嘲り(アザケリ)笑った表情だけが、俺を見ていた。
* to be continued... *