二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: [イナズマ]参照2500越え!?[小説集] ( No.448 )
- 日時: 2012/02/10 15:11
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
壊れた〝音〟。
耳に聞こえる、高い悲鳴。
耳に聞こえる、近くの家の風鈴の音色。
陽炎は、青い木々を背に嗤っている。夢じゃない、これは現実、と。
現実?そんなはず、無い…なぜ、月宮が?認めたくない、だからこそだった。俺は背後の鉄柱に視線を向ける。歩道に突き刺さる鈍い色の大きな鉄柱、その下にいる彼女。服には、その鉄柱が作った大きな血のシミ。月宮の指は、血の海の中でわずかに動く。
「ッ…!!!」
右手で口を押さえ、不快感を殺そうとした。
突きつけられた〝現実〟に、足がすくむ。そして、霞みだす視界。月宮の顔が、ぼやけた。サイレンの音が鳴り響く、それは別の世界での出来事の様にしか思えなかった。体が重くなって、ほんの薄い膜の向こうに見える月宮に手をのばして、届かなくて、声も発せられない。
眩む。眩しい。光の中で、月宮と引き離される。
「月…宮ッ!!」
その声が届いたのかは分からない。ただ、意識が途切れる直前に見えた彼女の顔は、笑っているように見えた。
*
気付いた。この世界は繰り返しているのではないか、と。また目を覚まして見えた、8月14日の日付で確信した。
何度も、俺は病院に向かった。何度も、月宮が死なないようにした。けれど、何度も彼女が死ぬ様子を見た。
タクシーに乗れば、乗用車の事故に巻き込まれる。
歩道橋を使えば、足を踏み外して転落死。
横断歩道を歩けば、通り魔に刺殺されて。
電車のホームにいれば、背中を押されて。
何度も、何度も、何度も、彼女が死なない未来を見るまで…。この日が繰り返される事を願い、そして今度こそと。だが毎回、その思いは打ち砕かれる。どの道を選んでも、月宮が死ぬ未来に変わりはないのか?どうしたら、2人のいる明日は来る。月宮、お前だって同じ日の繰り返しだと気付いているはずだ。引き裂かれるような痛みは、もうお互いに嫌だろう?
嗤った陽炎の表情を最後に途切れる〝夢〟の様な〝現実〟。8月14日を何十年も繰り返した結果、俺はとうとう簡単な答えを見つけた。
これで、この夏を終りに出来るかもしれない。
月宮が死ぬ事で成り立っているのなら、それを阻止出来れば………。
*
今回、修也君は特に出来事を避けようとしていないみたいだった。となると、猫が私の帽子をくわえて交差点に飛び出す…。早く終われば良いのに、全部。もやもやしてスッキリしない気持ちも、もうじき来るかもしれない死に怯える自分も、全て断ち切りたい。出来るなら、どうなったって構わないと思った。
猫の鳴き声で、現実に引き戻される。私の帽子をくわえた猫、を追いかけて道路へ飛び出す。信号機は点滅して、私が横断歩道に足を踏み入れた瞬間に赤に変わって。やってきた大型トラックは、私を轢く————はず、だったのに。
「っ!」
視界には、映ってほしくない後ろ姿。名前を呼ぶ、その時間さえなかった。バッ、と強引に、けれど転ばないように私を後ろに押しのけて、修也君は、トラックの前に飛び出す。いやだ、何回見ても頭は真っ白に、視界は真っ赤に染まる…。心が壊れそうな衝撃を受けて、涙を流して少しでも和らげようと努力して。
トラックが修也君を轢いて、ブレーキの音を甲高く上げる。
修也君は笑った。きっと陽炎が見えたんだ…。やめて、何に対してなのかは知らない、ただこの人生を否定したくなった。
何で私をかばうの、何で…私をかばっても何にもならないのに。
「…もう一度、」
やり直す。
陽炎が唇を噛んだ。何、今の表情?
けれど考える間もなく、光に包まれた。何度も繰り返してきたから慣れっこ。目を閉じて、意識を手放す。
今度こそ、私が望む世界に。
*
「修也くっ…!!??!」
たたらを踏む。バランスを取ったものの、あまりの衝撃と目の前の光景に、体が震えた。大型トラックが、また彼を轢く。それは彼、豪炎寺修也が月宮をかばったからだ。彼女が驚いているのは、彼が轢かれたからだ。早すぎる、と頭の中で咄嗟に思う。まだ繰り返して1週間しか経っていない。何十年も月宮が死んで、それから豪炎寺が彼女をかばう。今まではそうだった。確かに何度も繰り返すごとに、彼がかばう行動に出る間の期間は短くなってきていた。ただ、まだ1週間だ。
ブレーキの甲高い音と、通行人の悲鳴。笑う豪炎寺。——それは何度も経験してきた事。
「何でっ…」
もう1回、と呟く。声が震えて、涙がにじんだ。
ぼやける視界と陽炎の気配。顔を上げると、自分そっくりの陽炎が見下している。また繰り返すの、という陽炎の言葉に、目を見開いた。そんな言葉を陽炎が言ったのは、初めてだった。しばらく陽炎を見ていると、俯いて指を鳴らした。瞬間、光に包まれる。
・
・
目を覚ませば、もう何度も見た病室にいた。
* to be continued... *