二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Sweet kiss is a chocolate tast ( No.454 )
日時: 2012/02/13 03:10
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)

※最初は甘くないです。中盤は吹雪君怖いかもです、そして後半無理に甘くした感あるかも…;
※駄文&深夜テンションにより急展開

****

「吹雪君、あのっ、これ作ったの…」

 冷たい朝の出来事。登校中の吹雪は、足をとめた。ミシ、と固まった雪が音を立てる。彼を呼び止めたのは同級生の女子だった。手にはラッピングされた何か。もうそんな季節か、と吹雪は心の中で呟く。

「…ありがとう。(ニコッ」
「あっ、じゃあそれだけ…だからっ///」

赤い顔を隠すように走って逃げだす女子。気をつけてね、と吹雪は後ろから声を張り上げた。と、その時、貰った箱を鞄にしまう彼の隣に少女が現れた。彼は少女に気付き、おはようとさっき同級生に向けた笑顔とは違う笑顔を向ける。

「おはようございます、士郎君‥皆さん、早いですね。」
「?ああ、チョコの事?」

2月14日、バレンタイン。
好きな男の子に女の子が勇気を出してチョコレートを渡し告白する日、といわれている。
吹雪は今来た幼馴染の少女、雪原小雪の顔を見て、問いかけた。

「こゆちゃんは今年もサッカー部の皆に?」
「!はい、まとろちゃん達と…ってダメです、サプライズですから…」

皆さんには内緒です、と小さく小雪は付け足す。サッカー部マネージャーを務める彼女は、去年のバレンタインにサッカー部員へチョコを配った。吹雪には別で義理チョコを渡していたが、それは幼いころから続けていた事。付き合っているとか、そういう物ではない。昨晩、吹雪は小雪の家を訪れた時の事を思い出す。旅館をしている彼女の家では、裏口から家の中へ入るのが小学校に上がる前からの約束だった。数日前に風邪をひき、大事を取って休んでいた小雪へ宿題のプリントを渡すためだったが、その時対応した彼女からは甘いチョコの香りがした。寒かったため用事を済ませるだけで終わってしまい、その香りについて何も話せなかったが…。吹雪はちらりと小雪の顔を見た。桃色のマフラーをして、吐く息は白い。視線は高い壁となっている道の脇の雪へ向けられていた。
 特に会話も無いまま白恋中へ到着。吹雪は同級生の男子を見つけ、声をかけた。と、男子は吹雪を快い目では見ずそそくさと校舎内へ入っていく。あはは、と苦笑した吹雪、そしてそれを合図にするように女子たちが彼のもとへ駆け寄った。
吹雪はそのルックスと性格、サッカーの上手さから校内の女子の人気を独り占めしている。彼さえいなければ、と思う男子は多い。白恋中の女子の殆どは吹雪以外の男子など眼中にないのだ。バレンタインの1日だけ見ていても、その事実が良く分かると思う。
 小雪は瞬く間に吹雪と引き離された。積極的な女子の壁に阻まれ、吹雪の姿さえ見えなくなってしまう。一瞬呆然としていたが、鞄を持って校舎へ歩き出した。これは毎年の事。謙虚な小雪は、バレンタインの日に吹雪と一緒に校舎へ入った事が無い。少し寂しさを感じながらも、人気のない校舎へ足を踏み入れた。

「小雪ちゃーんっ!」
「!おはようございます、」

げた箱で上履きを出していると、元気な声が小雪を呼んだ。振り返ると、サッカー部員の真都路珠香マトロジュカ荒谷紺子アラヤコンコが笑顔で立っていた。2人とも小雪の同級生。ロシア帽をかぶったのが珠香で、藁帽子をかぶっているのが紺子だ。仲が良く、今年は一緒に部活で配る義理チョコを作ることにした。小雪は昨晩レシピに問題が無いか確認し、結果を報告しようと口を開く。…が、紺子の方が早かった。

「大丈夫だった?」
「はい、ただクッキーにチョコで文字を書くのは大変でした。」
「じゃあ…いっその事、チョコは全面に塗っちゃう?」
「ただ焼き時間にも問題が…」

こうして3人で話している様子をみると、いかにも女子中学生だった。そして女子の絶対障壁の中にいる吹雪は、疑う余地なくモテる男子だった。



「後は焼くだけだ〜」

 解放感に満ちた紺子の声。珠香も背伸びをする。放課後に家庭科室を借りクッキーを作った小雪達は問題なく焼く過程までたどり着いた。後はオーブンに頼る。あと20分くらいで焼き上がるだろう、と小雪は考えた。そして睡眠不足のためボー、ッとした頭で考え事をする。吹雪の事。女子から毎回膨大な量のチョコを貰う、学校1の人気者であり妬みを買う人物を。










『ありがとな、小雪!』


「!」

驚いて跳ね起きる。居眠りをしてしまったらしい。
家庭科室の机の上に、白い紙が置いてあった。珠香達の置手紙。起こすのは悪いから、先に行ってるね、という内容。寝ぼけた頭で内容を理解し、顔を上げ時計を見る。居眠りと言っても、せいぜい30分くらいだった。まだ間に合う、と自分に言い聞かせて手提げ袋を掴む。保冷バックに入れたチョコレートを引っ張り出すと、コピーしたレシピを見ながら仕上げを始めた————昨晩、クッキーの後に仕込んだ、作りかけのチョコレートの。

「…これでっ、完成…」

洗い物は珠香達が殆ど済ませてくれていたため、時間はかからなそうだ。とりあえずラッピングを済ませようと、完成したそれを平等に2等分してラッピングし、時計を振り向く。練習が終わるか終らないか、という時間だ。片付けを手早く済ませ、階段を下りる。が、途中の踊り場にある窓から外を見ると、もうサッカー部の姿は無かった。ゆっくりと息を吐いて呼吸を落ち着かせ、手すりを握りしめて目を閉じる。

「…アツヤ君、」


「こゆちゃん?」

弾かれた様に顔を上げる。と、白い髪の彼が立っていた。

「どうしたの?もう帰らないと、暗くなっちゃうよ?」

小雪の口から出かかっていた言葉の続きは、白い息にしかならなかった。



「珍しいね、寄り道だなんて。」

 僕の言葉に対する返事は、頷きだけ。どうしたんだろう、踊り場で見つけた時から、こゆちゃんの様子がおかしい。いや、もしかしたら朝から変だったかもしれない。大人しいとは違う…本当に、元気が無い感じだった。それに、いつもまっすぐ帰るこゆちゃんが寄り道というのも引っかかる。しかもこのまま歩くと…。

「…こゆちゃん、ここって、」
「————今日、でした。」

積もった雪を巻き上げた冷たい風が、僕とこゆちゃんの頬を刺した。

「私が合宿先で士郎君とアツヤ君にチョコをあげた日……その翌日、悲劇が起きたんです。」

涙が、大雪原の降り積もった雪の上に落ちる。
忘れない、あの日。僕の一家とこゆちゃんが雪崩事故に巻き込まれた日。サッカークラブの合宿の最終日で、練習試合をしたその前の日に僕とアツヤはこゆちゃんからトリュフチョコを貰った。バレンタインだったから。コーチの奥さんと一緒に作ったのだと綺麗な笑顔を見せながら、渡してくれた。

『ありがとな、小雪!』
『おりょうりじょうずだね、こゆちゃん。』

アツヤと僕はお礼を言った。その日の内に僕は食べてしまったけど、アツヤは明日食べると荷物の中に大事にしまっていた。結果、翌日の雪崩事故があってアツヤの荷物は雪に埋もれ、チョコは行方不明になってしまった…。後にコーチの奥さんと話す機会があって話を聞くと、レシピを教えただけで作業の殆んどをこゆちゃん自身がやったのだという。レシピは簡単なものだったらしいけど、コーチの奥さんは味見をしていなくて気が気でなかったらしい。
あんな事故があったからか、こゆちゃんは雪崩事故の翌日からトリュフを作らなかった。バレンタインに貰うのは、マドレーヌだったりフィナンシェだったり、チョコレート味の物で。

………あ、れ?

大雪原の中央にある朽ちた木。その下に向かうこゆちゃんの後ろ姿に、違和感を覚える。
真都路ちゃん達と作ったのは、クッキーだった。チョコペンシルやチョコチップでデコレーションされた、プレーンクッキー。
じゃあ、昨日の夜僕が嗅いだ、あの甘い香りは…?

「…アツヤ君、ごめんなさい。」

懐かしかった、あの甘いチョコレートの香りは…誰にプレゼントするものなの?

チクリと胸を刺すような痛み。そこから生まれた、悲しみ。
何年たっても彼女の中の1番は、大事な男の子は、僕の弟のアツヤなの?周りの皆と一緒で、君もアツヤしか必要としないの?

冷たい風が舞いあげた白い雪の中に、甘いチョコレートの香りが漂う。墓参りの様に両手を顔の前で合わせるこゆちゃんは、かつてアツヤが大事にして食べ損ねた物——今日作ったらしいトリュフを木の根もとに置いていた。アツヤのために作っていて、今日の練習に出られなかったんだ…。そう思うと、僕はもうアツヤに勝てない気がした。

「…山親父に、食べられちゃうよ?」

この近くに巣を持つ山親父クマは何でも食べる。もちろん、人間は食べない。大人しい性格だから。

「それでも、良いんです。…思いと香りが届け、ば…」




「士郎君?」


戸惑った声。予想していた、こゆちゃんの幼い声。…僕が普段しない事をしたから。
反応が返ってきたから、僕はもっと強く抱きしめた。服は冷たいけど、きっとすぐに暖かくなる。だから、そのうち暖かいだけになるよ。
しゃがんで、鞄に手を伸ばした状態で固まるこゆちゃん。後ろから覆い被さる様にして抱きしめる僕。アツヤが見たらどう思うかな。

「…士郎く、あ、のっ…」
「……て。」
「?」
「僕だけ、見て…!!」

絞り出した本音。言っちゃいけないなんて事は良く分かってた、だから今まで言わなかったのに。悪魔の暴走は、とても抑えられない。

「アツヤなんか忘れてっ…!!」
「それはっ…!!」

こゆちゃんらしからぬ大きな声。ハッとして彼女の目を見た。熱が冷めて悪魔が消える。

「それは…出来ません。命の恩人ですから。」
「ごめんね、今の事は忘れて。」

全部全部分かってる、理解してる。だから、だから僕は素直に…。

「?こゆちゃん、これは…」
「士郎君の分です。久し振りに作ったので上手に出来ているかは分かりませんが…」
「…僕、に?」
「はい。今日は、振り切ってしまおうと思って。」

渡された白い雪の結晶の柄の包装紙に桃色のリボンでラッピングされた小さな箱。

「昨日、トリュフを作ろうとしていた訳では無いのに…昔のレシピを見つけたら、手が勝手に動いてたんです。私はあの日に戻りたいんじゃないかと思って…もう戻れないのに、苦しいだけなのに、その温かさは悲しいだけなのに、あの日で止まった時計を飾り続ける私の心はもう満たされないのにっ…!!」

泣きじゃくるこゆちゃんの言葉を聞いていると、僕まで苦しくなる。
雪崩で落ちてきた雪の中、こゆちゃんはアツヤの手から伝わる温かさで一命を取り留めた。けれどアツヤは助からなかった。その事がどれだけショックだったか。あの時辛かったのは僕だけじゃない。なのに、僕は…。
 差し出された箱に入っていたトリュフ。1つ食べると、甘いチョコレートの香りが広がった。昨日の夜、アツヤと僕に作っていた、孤独の部屋から抜け出すツール。

「おいしいよ。」

顔を上げたこゆちゃんの目には、まだ涙が光っていた。

「…私、最近士郎君ばかり見てしまうんです、」
「!?それは…アツヤがいるからじゃないかな?」
「…そうなんですか…?何で、アツヤ君を見てしまうんでしょうか?」

…自覚なし、と。
アツヤの事が好きだったんだよ、とは教えてあげない。だって僕は好きだから、こゆちゃんの事。

「僕、こゆちゃんのこと大好きだよ…」
「っ!?」

目を見開いて驚くこゆちゃんに、鈍感だから通じないのかと解釈した。気持ちを確かめるスベは1つしかない。
…うん。



「…!?///」

短いリップ音の後、見る見るうちに赤くなるこゆちゃんの顔。驚きに満ちた表情。

「しっ、士郎…くっ!???///」
「こっちの意味の好きなんだけど…」

どうなるんだろう、考えなしでやってしまった。
恥ずかしそうに俯いていたこゆちゃんが顔を上げた。覚悟を決めた様な、表情で。

……僕の初恋の行方は、この少女が握っている。



*Sweet kiss is a chocolate taste.*
               (初めてのキスはチョコレート味)