二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 強く想っていたのに、{鬼道side} ( No.466 )
- 日時: 2012/02/17 07:35
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
その日は、勉強会だった。定期テストへ向けていつも開かれているその会場はローテーションしており、今回は俺の家でやることになった。そして都合が良いと誰もが思った。年下だが底知れぬ知識を持つ流星姉弟が居たからだ。
2人は社会で使うかもしれないと資料を集めていて、俺はそれを無くなさいためにと俺の部屋へ置くことを提案した。俺も自分で丁度勉強会の資料を集めていたから、都合がいいと思ったのだ。…あんな提案しなければ、と後々後悔することになるとは、想定できるはずもなく……。
*
「!鬼道さんも、資料を取りに?」
部屋に入ると、分厚くなったファイルをあさる瑠璃花の姿があった。西の空が夕日に紅く染まる、夜の始まりの事。
ああ、と頷くと必要な資料を見つけた瑠璃花が、安堵の表情を見せる。焦っているのだろう、落ち着きが無かった。泊りがけの勉強会と言っても、夕食を間に挟むと勉強の面で効率が悪い。あと20分くらいで夕食になる。俺も少し焦ってはいたが、彼女は見た目にも危なっかしかった。
と、その時何かが入り口近くの本棚から落ちた。最近整理したが不十分だったのだろうか、僅かな振動でも落ちてしまうとは。腰をかがめて拾うと、そこには細かい文字がひしめいていた。それは瑠璃花と魁渡を施設から引き取った際に作られた文書。少し眺めているだけで、不思議な感覚に襲われる。義理の家族である事を実感させられ、ならば普段俺は2人の事をどう思っているのか、と。家族?仲の良い友人?どれも当てはまらない気がしてならない。
「…?」
視線を感じて振り向くと、瑠璃花が紙を覗き込んでいた。俺が真剣に見ていたから気になったのだろう。
「何だか不思議ですね。」
内容を理解して、彼女が言う。
「いつも近くにいると、当たり前で…当たり前が、その価値も尊さもぼやけさせて…」
「…そうだな。」
「だから私は、魁渡も鬼道さんも大事、かけがえのない人…そう思って、毎日過ごすようにしています。そうすると、毎日が充実してくるような気がするんです!」
幼さの残る、いつもとは少し違う笑顔があった。
彼女の言葉は少し照れくさいような、味わったことのない不思議な感覚を俺に教えてくれた。ストレートで偽られていない、それは確かに彼女の本心だ。
「…あ、時間、が」
「!」
空気が一瞬にして変わったような気がした。しまった、夕食まであと少ししか時間が残されていない。彼女は慌てて部屋を出ようとして、足元へ注意が向かなかったようだ。俺も、もう回避する事が出来ないタイミングになって気付いた。
先ほど落ちていた文書以外にも、もう1枚紙が落ちていた事に。
「っ!?」
足を滑らせても、いつもの彼女なら体勢を立て直せただろう。
ただ今回は、あまりにも不運な状況が重なりすぎていた。
急いでいた事。両手がふさがっていた事。周りに手すりなどつかまるものが無かった事。
ゴン、と鈍い音が部屋中に響く。どうにか体勢を立て直そうとしたのだろう、しかし上手くいかず後頭部を強打していた。バサバサ、と紙が舞う。彼女はドアの前でしゃがみこんでいた。駆け寄るも、動かずその場でじっとしている。
「…瑠璃花!?」
もしかして、気絶しているのか…?
顔を覗き込むと、わずかにまぶたが動いた。眉間に少ししわがより、ゆっくりと目が開かれる。瑠璃色の瞳が、俺をとらえた。
無事だったことに安堵して、腕を引き体を起こすのを手伝おうとした、瞬間、瑠璃花の瞳が不安げに揺れる。思わず顔をしかめると、直後発せられた言葉に動作が止まった。
「…誰、なんですか?」
怯えさえ映るその瞳に、俺の思考回路は考えることを拒絶した。
*
「あの、誰なんですか?」
何、が起きているのだろう。目の前にいる13歳の少女は俺の義理の妹で、ついさっきまで会話をしていたはずだった。偶然落ちていた紙に足を滑らせて後頭部を強打、その衝撃で……。何もかも忘れた、と?頭の回転が良くてマイナスの感情を抱いたのは初めてだった。否定したい、それが出来ないのは瑠璃色の瞳が真実だと訴えているせいだろう。
「るり、か…?」
冗談だと言ってほしい。だから彼女の名前を呼んだんだ、
だが瑠璃花だって頭の回転は良い。
「っ!!!」
全てを悟った彼女は、部屋を飛び出してどこかへ走り去ってしまった。
「…るり、か、」
大きな衝撃が、今になって襲いかかる。
『魁渡も鬼道さんも大事、かけがえのない人…。』
ついさっき、彼女はそういった。それも本当だったはず、だった。
「想っていた…」
それでも、彼女は。
—————————心の穴を埋めるには、どうしたら良い?
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こうなったら終わりまで書くしか無くなったような気が。